(4)ヒーローの日常-1
僕が『ヒーロー』になって、というか、なったという事実そのものが誰とも共有できない秘密だというようなことを書いた。しかし厳密に言えばそれは嘘で、ただ一人、あるいは一匹、その秘密を知っているのがいた。ウーティスとかいう、あの毛玉だ。
ウーティスとの『ヒーロー』生活がどんなものだったか、どんなものにしようとしたか、それはだいたい僕の予想通りに始まり、予想通りに(悪い方向に)推移し、最悪の形で終わることになった。後の話はまだ先になるだろうから、どうやって始めたのかを話すことにしよう。
あの最初の犬の化け物と戦って、だいたいのことは分かった。一番の問題だと僕が思ったのは服のことで、『変身』するとお約束とばかりに破け飛んでしまうくせに、元の姿に戻る時にはお約束とは違って元通りにはなってくれないのだから。
最初の戦いではたまたま体操服を持っていたから良かったけれど(もし持っていなかったら、その後の何もかも違っていたはずだ)、それから僕は必ず、着替えを入れたプールバッグを持って出かけるようにした。
初めてそうした日に戻ってみよう。それは、ウーティスと出会ってから、つまりは最初の戦いから、三日ほどした日だった。
学校に行っている間、ウーティスにはおとなしくしてもらいたかったけれど、そういうことについては全く聞き分けのないやつだったので、結局出歩かせるしかなかった。部屋に閉じ込めておいたら、窓をたたき割るくらいのことは平然としてしまいそうだということに、僕は出会ってすぐに思い知らされた。
初めて会ったあの日の夜、僕はまんじりともせずにいつまでも眠れなかったけれど、それは僕が陥るハメになった状況よりも、もっと直接的な、つまり、開けっ放しで眠らされた窓を何度か出入りするあいつのことが原因になっていた。それはその先ずっとそうだった。もちろん、僕がこれから話すというか書くことになる日、その前の夜も。
ウーティスはそのいかにも動物然とした見た目からは想像もできないほど利口で(しゃべるというだけで、思い知るには十分だろう)、あらゆることに対する順応ぶりは、図々しく思えるほどだった。
平然としゃべり、僕の生活のリズムをあっさりと把握し、僕がとっくに抜け出ることなんて到底できない事態に引きずり込まれている、いや、自分が引きずり込んでいるということには唖然とさせられるほどに自覚的だった。だから、朝には決まって目覚めた僕に対して
――おはよう、シズカ。
と耳元でささやき(そいつがそういうことに気を遣って振る舞うというのは、むしろ不愉快に感じられた)、なかなか慣れることができない僕を尻目に、決まってその小さな口をめいっぱい開いて一つあくびをして、こう言うのだった。
――朝ご飯、お願い。何でもいいからさ。
僕はこのふざけた要求に、この日は、夜のうちに部屋に置いて確保しておいた菓子の袋を何も言わずに指差して答えた。そして階段を降り、一人で朝食を済ませるというところまでは、ウーティスと出会う前の通りの朝を過ごした。
しかし部屋に戻ってからは、そういつも通りとはいかない。できるだけいつも通り、たとえばゲームをやろうとしても、ごそごそやっているウーティスの様子が気になって仕方がなかった。
ウーティスがやっかいな同居人だったというのは間違いなかったのだけれど、そいつ自身がそのことを自覚までしているというのは予想外ではあった。
ウーティスが僕の生活に闖入してきたところで、お定まりのドッタンバッタンは起こらなかった。それは幸運かもしれなかったし、僕にとっては都合のいいことではあった。
菓子の袋をあさるのもどうやら慎重に、あまり(あまり!)音を立てないようにしているらしかったし、僕に話しかけるのは、隣の部屋で寝ている両親のことを気にして、ささやくようにするのだった。




