(2)日常の裏側で-4
僕はぞっとして、そして次に、自分がどんな格好をしていたのかを思い返してみた。間抜けにもほどがあると思え、そして、あの怪物と同じ力を持ってしまったのかと思い、震えが起きた。ウーティスはそんな僕に全くかまわず、しゃべり続けた。
――僕はロートスを集めることができて、それを使って、『門』を開くことができる。それに、君のように、選ばれた人に力を与えることも。
そういう人は、そういう運命にあるんだ。ポリフェムスという悪魔を封じるヒーローになる、ね。そのために、力を形にするのも僕のできること……って言うか、使命とか役割って言った方がいいかな。
君が名乗った、アンティノスというのは、そのヒーローとしての名前なのさ。本来なら、ポリフェムスを倒すのがそのヒーローの役目ってわけなんだけど、『門』を開けるためにロートスを集めなきゃいけないし、あんな化け物が出てきてしまったからね。ロートスを集めるためにあれをぶっ倒すのも、君の役目になりそうだよ。
――あの格好は?
――さあ。前からあんな形だっただけのことだけど。
――前、って、僕よりも前に、その……君の言う、選ばれた人がいたってこと?
――そうだよ。それがどうかした?
――どうかするに決まってるだろ!
――どうして?
――どうしてって……
ウーティスは、本当に、僕の態度の意味が分からないという様子で、目をぱちくりとさせた。
――あれの何が不満なんだい? 痛みも消してくれるし、まだ気づいてないのかもしれないけど空だって飛べるんだよ。それに、あの必殺技だって! 君を、ヒーローにしてくれる力なんだ。何か問題がある?
――いや、そうじゃなくて、その……その、僕の『前』の人は、どうなったんだよ。その人も、ロートスとかいう、力に選ばれたんでしょ?
――それはそうなんだけど、こっちの世界の人のことはよく分からないからね。ロートスの方が、その人を嫌っちゃったみたいで。変身できなくなっちゃってね。まあ、気まぐれってやつだと思うけれどね。
何を言っても無駄だと、僕は思った。ウーティスの中にある考えは(それが言葉の通りであるかどうかも分からないにせよ)あまりにも確固としていて、僕の言葉では変えようがないに違いなかったからだ。
――その人が、あの……服っていうか、格好にしたわけ?
――たぶんね。
――どうにかできないの?
――どうにかって?
――もっと、こう……形とかさ。
――無理だろうね。もう、こっちの世界で決まった形に定着してしまったから。
こんな風にして、僕の負わされた戦いに、意味が与えられていった。
ポリフェムスという『悪者』、ロートスとかいう『力』、化け物、役目……改めて一つ一つ数えてみると、その馬鹿らしさには唖然とする以外にない。しかしそれが、まざまざと見せつけられた現実の全てを説明していたのだから、僕は信じて、真に受けることにしたのだった。
ただし一つだけ注文をつけ、『変身』した後の格好だけはどうにかしてくれと頼み込んだ結果、股を隠すパレオと顔を隠すマスクが追加された。この要求というか抵抗もまた、あまりにも馬鹿馬鹿しい話だ。しかし僕にとっては切実な交換条件だった。
その程度で黙らせられる程度には、僕にとっても、『ヒーロー』になることは、気分を悪くさせるようなことではなかったのかもしれない。それだけ、その頃の僕は(今もだろうけれど)馬鹿だったのだろう。
つまり僕の役割は三つ。
アンティノスとかいう名前のもとに、ロートスとかいうものを集めること、その力を持った化け物を倒すこと、ポリフェムスとかいう悪者を捕まえること。
どれも、あまりにも気が重い仕事ではあったけれど、それが『ヒーロー』としての役割なら、立ち向かわなければならないに違いなかった。そう思うくらいにも、僕は馬鹿で、幼稚だったわけだ。
同時に、自分が抱え込んでしまった困難が、全く他の誰とも共有などできるはずがない秘密なのだと、僕は思った。




