(1)後始末
九月も半ばを過ぎた夜の川の水は冷たかった。素っ裸で飛び込んだのだから、なおさらのことだったのかもしれない。
飛び込んだと言っても、その勢いはゆっくりとして、落ち葉のようだったと思う。でなければ、死んでいてもおかしくなかっただろう。
闇夜の川をどうにか泳いだ。泳ぎには自信があったけれど、流れのある川を、ほとんど真っ暗な中、裸で泳ぐというのは三重に未経験で、違和感と体に入った余計な力の残響が不快だった。
やっとの思いで岸辺にたどり着き、素っ裸のままという間抜けにもほどがある姿で、僕は放り捨てた荷物を、頼りない街灯の明かりの下で探し回った。
――やったね、シズカ。
毛玉、いや、ウーティスと僕に名乗った生き物(人間でもないのに自分で名乗るなんて!)が、僕に言った。
その額の角はほの明るく輝いていて、僕にとってはちょうどいい目印になっていた。その顔に落ちる影も、くっきりと濃くしてもいたけれど。
――ここだよ、ここ。
短い腕を振って、僕が探し求めていたものの場所を示している。僕は何も言わず、ウーティスには一瞥もくれてやらずに、そそくさとその荷物、プールバッグを拾い上げ、大急ぎで中から服、というか着替え一式を引っ張り出した。
下着の替えも持ってきていたけど、川に落ちるという予定外のことが起きてしまったから、体を拭くために使うことにした。
とにかく、普通に服を着ているという状態にならなければならなかった。家を飛び出したときにはそうだったからだ。
――今日は、脱いでおく暇がなかったね。
――君が早く見つけなかったからだろ。
――こんなところまで来なければ良かったじゃないか。
――あんな目立つところで、戦えるわけないだろ!
――細かいこと、気にしすぎなんじゃないの。
ウーティスが、大きく口を広げて、一つあくびをしたのが見えた。
――それにしても……今日は、危なかったね。
――いつものことだろ?
ぶっきらぼうに答えながら、僕は手早く着替えを済ませた。まだ体には水が、足の裏には土や草が取りきれていないままだったけれど、とにかく早くこの場を離れたかった。
誰にも見られたくなかったし、早く帰らなければ、事態が悪い方向にばかり向かっていくに違いなかったからだ。もう同じようなことを何度も経験していたのだから間違いない。
とにかくそうやって日常を取り戻して、日常の中にできてしまったほつれを、取り繕わなければならなかった。
――ねえ待ちなって!ロートスを回収していかなきゃ!
――好きにやりなよ。追いついてこれるだろ?
――分かったよ、仕方ないな……
僕はウーティスをその場に残し、駆け出した。
ロートスという言葉、ウーティスが発したいつまでも耳慣れない、不快な耳触りを残す言葉が、耳の奥で響いていた。
全てはそれのためだった。それのせいで、僕はこうして、生活の何もかもを危ういバランスの上に置かなければならなくなっていたのだった。




