(5)最初の戦い-2
僕はその一部始終を見た。木々の間、その隙間の向こうの方の闇の中、白い光が突然現れ、ゆっくりと大きくなっていき、しかしたいして大きくならないうちに、何度かまたたき、そしてまたゆっくりと小さくなり、やがて消えていくのを。
僕は大急ぎでガードレールを乗り越えて、山の方に向かった。目に焼き付けたその光の場所を目指し、ランドセルや体操着の入った袋は放り捨てて。
そしてその場所にたどり着いたときには、息を切らしてぜいぜい言っていた。自分でもなぜか分からないほどに、それだけ急いで駆けつけなければならないものが、そこにあるようだった。
――失敗か……やっぱり……
そしてその声が聞こえた。ぼそぼそとしていたけれど、はっきりと聞こえた。変な声だった。透き通っているようで、それでいて妙に鼻にかかったような、甲高い声だった。
声の聞こえた方向を見ると、僕の膝の高さくらいの大きさの毛玉があった。薄暗い中では色はよく分からなかったけれど、その後明るい光の中で見た姿を先取りしてしまえば、それは灰色の毛玉で、後ろから見た姿は、ウサギが二本足でしゃがんでいるようだった。尻尾は三日月のような形で、大きな耳が伏せられているのが分かった。
その毛玉を見て、血の気が引いたのをはっきりと感じた。それの何がそうさせたのかは分からない。あるいは、その後の僕の運命を感じ取っていたからなのかもしれない。
毛玉はその耳をぴょこんと一度動かした後、ゆっくりと僕の方を振り向いた。その顔は、少なくともウサギには似ていなくて、猫の顔をベースに目をずっと大きくしたようなものだった。額には、不似合いな円錐状の角が生えている。
愛らしいと(たぶん)言えただろうけれど、その顔は何か不自然で、ぞっとさせるものがあるような気がした。
――誰だい?君は……
その毛玉がしゃべった。さっき聞こえたのと同じ声で、その丸い大きな目で僕をじっと見つめながら。
二、三度、毛玉はぱちくりとまばたきをした。その大きな目に、僕自身の姿が映っているのが見えた。血を凍らせて立ちすくむ僕が。
――何を見たのかって、聞いた方がいいかな?
――いや……何をって……
――仕方ないな、全く……君にするしかないか。君の名前は?
毛玉は、笑いながら(動物が笑うものだろうか)僕にそう言った。僕は何度か息を飲み込んでから、ゆっくりと、
――と、友利、静……
と名乗った。
――ふうん……じゃあ、シズカって呼べばいいんだね!
――い、いや、呼ぶって、いったい……
――君にするって……
そこまで言いかけると毛玉はぴょんと飛び跳ね、僕の足下にくっついた。そして、僕の右の方に顔を向けて、毛を逆立て始めた。
緊張しきった体で、どうにか毛玉の視線が向いている方を見た。
そこには、僕が見上げなければならないほどの大きさの、どうやら犬らしいものが四つ足で立っていた。そんな犬がいるわけがなく、冷静に見ればその大きすぎる牙や全身真っ白の毛の色や、赤く輝く(それ自体で輝いていた)目やら、犬らしさなんてかけらも見つからない姿をしていた。そして喉を鳴らし、足下の葉やら草やらを踏みながら、ゆっくりと僕と毛玉の方に近づいてくる。
――な、な、なに、あれ……
ゆっくりと一歩ずつ、がさりがさりと足音を立てながら後ずさりする僕の足下で、毛玉が吐き捨てるようにつぶやいた。
――もう来やがった。
――な、なんて?
――なんでもないさ。それより、あれは敵なんだ。君と、僕のね。
毛玉がそう言い終わらないうちに、その巨大な犬らしきものは、一度吠え声を上げて、地面を蹴り、僕に向かって飛びかかってきた。
――うわぁっ!
上げる必要のない声を上げて(そうせずにはいられなかった)転げ回り、僕は一目散に山の中を逃げ出した。




