このゲームで一番危険なダンジョン2
『かかってきな!』
せめて1匹くらいは道連れにしようと構えていたら、男性の声が響き渡った。
黒つや虫に『怒りマーク(※1)』が付き、声のしたほうへ集まっていく。
『オラァ!』
鎧を着た男性が、大きな盾を前方に突き出す。
群がってきた黒つや虫に対し、盾を使って耐え忍ぶ。
『リザレクション!』
もう一人いたヒーラーらしき男性が、りょーちゃんを復活させる。
『ヒール!』
続けてヒールをかけると、一気にHPが全快した。
すごい。
ボクとは回復力が全然違う。
「にーちゃん、範囲撃てるか?」
「助かる」
復活したりょーちゃんがダッシュで駆け寄り、範囲で黒つや虫を蹴散らす。
「ほう、いい火力してるな」
余裕の表情でつぶやくナイト(?)の人。
あれだけの数を抱えていたのに、ほとんどHPが減っていなかった。
『ブレス、マナヒ、DC』
ヒーラーの人が、次々と支援魔法をかけてくれる。
スキルアイコンを確認すると、それぞれのレベルが10になっていた。
「んじゃ、がんばりな」
「ありがとうございます!」
去っていく背中にお礼を言う。
片手を上げて応える姿が、とても様になっていた。
「かっこいい人たちだったね」
「ああ」
ボクたちが苦戦している相手を、ものともしていなかった。
去り方までかっこいい。
「鎧と盾があると、あそこまで硬くなれるものなの?」
「+9の盾持ってたな」
「ステータス見たの?」
「外見でわかる。+5からうっすら光り出して、+7で光が強くなり、+9で光の色が変わって、+10でオーラが出る(※2)」
「そうなんだ」
言われてみれば、印象的な盾だったかも。
「全身鍛えると、ピッカピカになるの?」
「光るのは武器と盾だけ。βテストでは全身光っていたが『まぶしくて何も見えない』と苦情が殺到して取り止めになった」
「あー、そっか」
常に発光している人がいたら、本人も周りの人も困っちゃうかも。
「あと、HG(※3)の硬直無効は、盾で受けないと発動しない」
「プレイヤースキルも必要なんだね」
飛び回る黒つや虫をすべて受け止めていたし、相当な熟練者なんだろう。
「有名な城持ちギルドのメンバー。SLvから見て100リセット(※4)は確実」
「なるほど」
お城を所有しているなら、対人戦の上位グループになる。
強いのも納得。
装備やプレイヤースキルも、高水準に違いない。
「支援がもったいないから狩るぞ」
「うん」
黒つや虫を倒しにいく。
いつかは、あんな風になれたらいいな。
チュウチュウ。
「?」
通路を走っていると、黄色いネズミが後ろからついてきた。
これもモンスターの一種かな?
バリバリバリ……。
ネズミの目の前に、青白い球体が出現する。
「りょーちゃん!」
不穏な空気を感じ、放たれる『何か』を避ける。
『黄ふさ獣から30のダメージを受けました!』
「!?」
曲がった!?
不規則な動きをする閃光が、避けた先をかすめていく。
バリバリバリ……。
再び詠唱を始める。
ダメージが大きいし、連続で受けたら危険。
詠唱を止めたいけど、間に合うかどうか……。
ズシャ!
衝撃波が飛んできて、詠唱を止める。
ビュン!
弓で追撃を入れて、のけぞり時間を稼ぐ。
りょーちゃんが距離を詰めていき、さくっと仕留める。
「今のって、魔法?」
「雷魔法のライトニング。ジグザグに進むから、しっかり避けないと食らう」
「うん、当たっちゃった」
自分にヒールをかける。
さっきの人とは違い、全快できない。
ヒールのレベルも早く上げたい。
カサカサ……。
休んでいる時間はなさそうだ。
りょーちゃんが自由にスキルを使えるよう、ターゲット管理をしっかりしていこう。
3匹ほどが、りょーちゃんのほうへ行く。
地形などを使い、うまくかわしていた。
4匹目からきつくなるようなので、べしべし叩いてこっちに引き寄せる。
前から叩こうとすると避けられるけど、後ろから叩けば簡単に当たる。
「あ、そうだ」
弓に持ち替えて、スロウショットを放ってみる。
ぷすり。
当たった。
密集しているので、3匹くらいに効果が発生する。
近づきすぎて反撃を受けちゃったけど、逃げ切れる程度まで遅くなった。
距離を調整して運んでいく。
ズババババ!
範囲攻撃を当てても、油断はできない。
飛び散った黒つや虫を追いかけて、念入りに叩いていく。
「……よし」
ド根性が発動していないことを確認してから、ポーションを飲む。
初心者用ポーションはまだ余っているし、そもそもヒールの回復量が足りない。
MPは他のスキルに回したほうがいい。
カサカサ……。
少しずつ動き方もわかってきたし、この調子でどんどんいこう。
集めて倒して、集めて倒してを繰り返す。
途中でさっきの人の支援が切れてしまったので、ボクの支援をかける。
りょーちゃんの火力が減少。
やっぱり、スキルレベルでかなり差がある。
MP回復速度も遅くなったかも?
チュウチュウ。
「!」
黄ふさ獣が近くにやってくる。
黒つや虫にも囲まれているので、これ以上は手が回らない。
魔法を撃たないでくれると助かるけど……。
バリバリバリ……。
願いむなしく、すぐに魔法の詠唱に入る。
遠距離攻撃なので、どちらを狙っているのかわかりづらい。
こっちにきてくれたら、1発くらいは耐えられるけど……。
ビシュゥゥゥ!
放たれた雷撃が、りょーちゃんに当たる。
安定の一撃。
カサカサ……。
バリバリバリ……。
残ったモンスターが、一斉にこちらへ向かってくる。
復活薬を投げたけど、ちょっとタイミングが遅れてしまった。
間に合わないかも……。
『フリージング!』
野太い男性の声が飛んできた。
ひんやりとした感覚。
その直後。
黒つや虫たちの体に、氷の粒が発生する。
ほんの数秒のうちに、全体が氷で覆われてしまった。
「ヒラ子ちゃん、倒しちゃってー」
「あ、はい!」
復活したりょーちゃんと一緒に、氷漬けになった敵を倒していく。
反撃すらないので、ボクでも簡単に倒せた。
「ありがとうございます」
「助かった」
「いいってことよ」
あごヒゲの生えたおじさんが、杖を担いでやってくる。
前線でも戦えそうなくらい、立派な体格だ。
「兄ちゃん。デートに誘うなら、しっかりエスコートしないとダメだぜ?」
「善処する」
「がんばれよ、男の子」
10人ほどのパーティーだったようで、ぞろぞろと奥へ進んでいく。
ついでに、ヒーラーの人から支援をもらう。
「大人数パーティーが多いんだね」
ペアやトリオで狩っている人も多いけど、10人以上のパーティーともよくすれ違う。
もっと奥に行くと、何かあるのかな?
「最下層にいるボスが人気エンチャ落とす。市場に出れば数百Mクラス」
「す、すごい値段だね」
所持金が100G前後をうろうろしてる身としては、雲の上の話。
「鯖内に現存してるかどうかすら不明だが」
「競争率が高そうだね」
「24時間体制で張り付いてるギルドが何組もある」
「姿を見ることすらできなそう」
なるほど。
強そうな人が、たくさん通っていくわけだ。
ボクたちには関係のない世界なので、ここで地道に稼ごう。
投稿したつもりが投稿ボタン押せてなかったようです
※1、怒りマーク:お前だけは許さない!
このマークが付いていると、他のプレイヤーには見向きもせず、挑発したプレイヤーだけに向かって突撃していく。
現実世界で説明すると、
『ごめーん、Lv99のセーブデータ消しちゃった』→もう1回遊びたかったから大丈夫だよ
『ごめーん、大事にしてたシャ○専用ザ○のツノ折っちゃった』→カラーリングを緑で塗り直せば大丈夫だよ
『ごめーん、冷蔵庫にあるプリン食べちゃった』→きさまには地獄すらなまぬるい!!
となる現象。
※2、装備強化値:光ってかっこいい。
たくさん強化するほどピカピカする。
おまけで装備が強化される効果もある。
ベータテストの頃はまぶしいくらいピッカピカに光っていたので、廃人が町中を練り歩くさまは、まるでエレ○トリカルパ○ードのようだったとか。
※3、ハイパーガード:攻撃を受けた時にのけぞりを無効化できる盾職必須スキル。
このスキルがないとノックバックでどこかに運ばれていってしまうので、味方がいる場所とは関係ない部屋の端っことかでボコられ続けることになる。
スキルを使用しつつちゃんと盾で受けないと意味がない。
尻を叩かれても『バッチコーイ!』となるが、きん○まを叩かれると『あぁん』となるのと同じ。
※4、100リセット:レベル100以上で毎回レベルリセットする人々。
月200時間程度のエンジョイ勢でも達成できるので、そこまで厳しくはない。
ベータテストの頃はレベルと一緒に装備もリセットされるバグがあったので、初期服を捨ててしまった人は全裸で町をさまようことになった。




