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淑女教育

「あ、カール様が呼んでいたのですが……もっと休憩が必要ですよね? お嬢様にはもっと休憩をしてもらったほうが……」

「もう大丈夫です」


 心配そうにこちらを見てくるプーリーさんに答える。


「本当に大丈夫ですか? ストレスとかすんごいたまってませんか?」

「たくさん食べてたくさん寝ているから大丈夫です」

「え? たくさん食べ……?」

「ボクにとってはたくさんです」


 まだ筋肉が少ないからご飯の量も少ないだけ。

 これから筋肉が増えてもりもり食べられるようになるはず。


「それならまぁご案内します。お疲れの様子であれば私が抱き上げて」

「大丈夫です」


 プーリーさんのあとをついていく。

 お屋敷の道順も早く覚えたい。

 トイレくらい1人で行けるようにならないと大変なことになってしまう。


「プーリー、ちょうどよかった」


 前方からカールさんがやってきた。

 すぐ後ろに女性の姿も。


「こちらは作法を教えてくださるエイカ・ホゼイン伯爵夫人です」

「初めまして。今日からベルダン公爵令嬢の専属教師となりましたエイカ・ホゼインと申します」

「ボクは夏海……じゃなくて、フローレイズ……? です」


 まだフローレイズさんの代わりとして慣れていない。

 本名を名乗らないように注意しないと。


「……なるほど、これは教えがいがありそうですね」


 メガネをくいっと上げながらボクを見るエイカ先生。

 きっちりと結った髪と、細身で装飾の少ないシンプルなドレス。

 どことなく千合女学園の先生に雰囲気が似ている。


「今すぐに授業を始めましょう」

「こちらにお部屋をご用意しております」


 これまた広い部屋に案内してもらいエイカ先生と2人きりになる。


「今は皇国歴何年ですか?」

「皇国歴……?」

「現在の皇帝陛下のお名前は?」

「えっと……ビルボディ皇帝陛下です」

「正式名称で」

「……ごめんなさい。わかりません」

「3大公爵家の名前は?」

「ベルダン家と……あとはわかりません」

「……」


 頭を抱えるエイカ先生。


「グレントニー学園入学までに最低限の知識だけは身につけていただきます。本当に本当の最低限だけでも」

「あの、エイカ先生」

「質問するときに『あの』とか『えっと』は必要ありません」

「わかりました。入学式はいつになるのでしょうか?」

「3日後です」

「えっ?」

「3日後です」


 思っていたより猶予がなかった。

 3日後となると、実際に勉強できるのは今日と明日の2日間だけ。

 その短い期間で全部覚えられるか不安になる。

 

「本来であれば皇太子殿下の婚約者としてふさわしい淑女となるための教育をみっちりと詰め込むところですが、今は貴族としての……いえ、皇国人として生きるための知識を覚えましょう」

「よろしくお願いします」


 エイカ先生の授業が始まった。

 まずは歴史の勉強から。

 皇国の成り立ちと、現在に至るまでの血統の流れ。

 周辺の国々との戦争や外交、主要な貴族の力関係など。

 特に皇族の方々の名前は『何があろうとも絶対に間違わないように』と念を押された。

 ボクがミスをしたら公爵家にも迷惑が及んでしまうので失礼のないようにしたい。

 エイカ先生の受難スタート。

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