ヤツが来た
「早速ですが、フローレイズお嬢様として必要な知識や作法などをすべて覚えていただきます」
カールさんが手を差し出してくる。
「その前に一度ログアウトしてもよろしいでしょうか?」
「ログアウトとは……?」
「現実世界の状況確認をしておきたいので」
昨日からずっとログインしっぱなしの状況が続いている。
さすがに自分の体のことが心配になってきた。
空腹や体調の確認はもちろん、学校にも行かないといけないし。
「そうですね……気持ちを落ち着ける時間も必要でしょうからいったん休憩にしましょう。その間に我々のほうで準備を進めておきます」
「ありがとうございます」
応接室から出て自室まで戻る。
ログアウト自体はどこでもできるけど、落ち着いた場所でやったほうが安心できる。
ベッドに腰かけた状態でシステムメニューを開き『ログアウト』を選択する。
ブッブー!
『このシステムは現在使用できません』
エラーメッセージが出てきた。
なんだろう?
今までこんなメッセージは一度も見たことがない。
通信エラーでも起きているのかな?
もう一度試してみる。
ブッブー!
やっぱりダメだった。
ログアウトできない。
VR規制法が制定されてからはいつでも自由にログアウトできるシステムじゃないとゲーム販売の許可が下りなかったはず。
お風呂やご飯などの五感もあきらかに基準を超えていたし、いろいろと問題が発生しているのかも。
こういった場合はGMさんに連絡するのが一番かな?
まずはナビ子さん(※1)にお願いしてみよう。
「ナビ子さん?」
「はいはーい! どういったご用件でしょうか? もみますか? なめますか? いれますか? いつでもどこでも準備万端です!」
すぐに現れた。
よかった。
ナビ子さんはいつも通りだった。
「ログアウトできなくなっているのですが何かエラー情報などはありませんか?」
「あぐ……がっ……」
「ナビ子さん?」
ぶるぶると震え出す。
「体の……維持が……で、できな……」
すーっとナビ子さんの体が消えていく。
ナビ子さんの身にも何か不都合が起きているようだ。
「ナビ子さん!」
「……見……え……」
完全に消えてしまった。
どうしよう。
ナビ子さんでもダメとなるとGMさんと連絡を取るのは無理かもしれない。
『……ますか……』
「?」
ナビ子さんの声が聞こえてきた。
完全に消えてしまったわけじゃないのかな?
その姿を探してみるけど……どこにもいない。
『聞こえますか……?』
「ナビ子さんですか?」
『そうです、SENRI様の脳内に直接語りかけています』
「そんなことができたのでしょうか?」
『できちゃいました。理由はよくわかりませんがこの場所では実体化するのは難しいようです』
やっぱりいつもと違うようだ。
ゲームシステムそのものが入れ替わっているのかもしれない。
実家のような安心感。
※1、ナビ子:みんな大好きアイドル妖精。
ゲームの中でわからないことがあったらなんでも教えてくれるナビゲート役。身長は30センチほどでピンクのポニーテールとキラキラ輝く羽をした可憐な見た目をしている。性別は設定されていない。最新のAIが搭載されており暇な時の話し相手としても優秀。朝のオカズの悩みから夜のオカズの悩みまでなんでも笑顔で答えてくれる。初登場は第2話・チュートリアル1




