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73 ナヴィ、裏切り者達の恋歌 後編 終

 魔術師は倒した。


(パレアは?)


 私はパレアの方を振り返る。

 アルメは戦竜教団であることを隠そうともせず、『爪』をだしてパレアと切り結んでいた。

 師父ザ・ジャムシードは慎重な戦術を重視していたと思うが、アルメは彼の師父に比べて激しい戦い方をするようだ。

 アルメは腕から伸びた『爪』を上下左右に激しく振り回してパレアを圧倒していた。

 隙は多いが、それを大量のフェイントで隠している。

 迂闊に踏み込めば剣を叩き落とされ、爪で引き裂かれるだろう。


「パレア……!」


 防戦一方のパレアに殺し屋がもう一人近づいてくる。

 まずい!


 私は引き返そうとするが……踏み出した足に力が入らず膝をついてしまった。


「あっ……」


 身体の限界を超えた力を無理やりひねり出した代償か、痛みを麻痺させる技術によって身体が壊れていたことに気が付かなかったためか……。

 その隙を殺し屋が見逃すはずがなく、大ぶりの投げナイフが私に向けて投げつけられた。

 避けられない、せめて急所を外さないと……。


 キィィン!


 甲高い金属音がしてナイフが空中で弾かれた。


「な、何ィ!?」


 殺し屋が驚いた声を上げる。

 次のナイフを取り出そうとするが、


「サイレンス・ディスタンス・バレット」


 次の瞬間には殺し屋は両肩から血を流して倒れていた。


 パレアに近づいていた殺し屋が剣を振り上げた。

 アルメは勝利を確信したのかニヤリと笑った。

 だがその剣は、あろうことかアルメの肩口に切り落とされていた。


「は……?」


 わけがわからないというようにアルメは放心した。

 パレアの剣がアルメのアゴを強打し、アルメはぐらりと後方に倒れた。


「ち、ちがう、お前はテッドじゃないな……」


 倒れたアルメは殺し屋の顔を睨みつけながら言った。

 殺し屋は剣を返し、平で撃つように両手で構える。


「その剣術は隊長……」

「そうだ」


 ガンと音がして、頭を強打されたアルメは意識を失った。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「相談してよ、馬鹿!」


 パレアの回復魔法を受けながら私はまた怒られていた。

 ご主人様も近くにいて、怒られている私の様子を見て笑っている。


「今回はナヴィが全面的に悪い、怒られろ怒られろ」

「すみません……あの、どういうことなんですか?」


 私の周りにはダニエルさん部下達がいた。

 殺し屋たちはみな縄で縛られている。


「バズを見くびらないでよ、母さまとダニーを見殺しにするわけないじゃない」


 パレアが言った。


「ということは」

「まぁダニーは最初から気づいていたみたいだけどね、もともとこの先で待ち伏せして捕らえて内々で処理するつもりだったそうよ」

「いやあ驚いたよ、バロウズ君が魔法で援助を申し出てくれたおかげでこうして潜入して不意打ちすることもできたのもそうだが、まさかナヴィさんが一人で迎え撃つとは」


 パレアを救った暗殺者が言った。

 私が不安げな表情をしているのを見て、ご主人様が思い出したかのように魔法を唱えた。


「ダニエルさん!」


 変装の魔法が消え、殺し屋がダニエルさんの姿に戻った。

 そういうことだったのか。


「俺も驚きましたよ、ダニエルさんと打ち合わせ終わって、ナヴィにそのこと伝えに行ったらもういないし」

「わ、私、他に方法が思いつかなくて……それでなんとかしようと」

「そう思うようになったのは嬉しいが、次は俺達を信用することだな」

「信用?」

「言ったろ、好きに動いていい、後始末はやるって。だから何かしたかったら俺に遠慮無く伝えてくれればいいんだ。ナヴィが悩んで決めたことなら、俺はバックアップを惜しまないよ」

「…………」


 ようやく私もご主人様の心を読むことができた気がした。


 殺し屋達はジョン殿下が処理するそうだ。

 この一件は公にならず、ネイピア家は弱みを王家に握られた形で終わることになる。

 ミランダさんも二度目の没落の苦境に遭わずに済んだのだ。


「でも」


 パレアがボツりといった。


「私はネイピア家が没落しても良かったな」

「え?」

「復讐心からとかじゃないのよ、ただ」

「裏切りを償うのに、今からでも遅くはない?」


 私がそう言うと、パレアは頷いた。


「ダニーのこときっと母さまも」

「……私は」


 ダニエルさんが言い訳するように声を上げるが。


「うん遅くはない、私もそう思います」

「…………」


 ダニエルさんは剣を収めて夜空を見上げていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 翌日、私たちはアクロポリスを出た。


「“6人”か」


 衛兵は私達の数を数えて言う。

 昨日会った殺し屋と、どこか気品のある商人風の女性に見える幻惑のかかった二人が私達に同行していた。


「そこの2人は結構な歳だが、旅は大丈夫なのか?」


 衛兵が心配そうに言う。


「旅立つのにまだ遅くはない、そのようですよ」

「そうか、旅の幸運を祈るよ」


 ダドリー・ネイピアは暗殺未遂事件のもみ消しに忙しい。

 妾が一人消えたこと何て対応している暇はない。


「さて、雇用主を裏切ってしまったわけだが」

「裏切るのはこれが初めてじゃないでしょ?」

「今度は君も一緒だ」


 私達はしばらく進み、二人と別れた。


「ナヴィさん、ありがとう」


 別れ際、私の手を取り二人はそう言った。


「いい笑顔ね、うん今までで一番」


 二人を見送る私の顔を見て、リアがそう言う。

 頬に手を当てると、なるほど、私は笑っていた。

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