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72 ナヴィ、裏切り者達の恋歌 後編3

 その日の夜。

 アルメ・ザ・ジャムシードとネイピア家が雇った殺し屋達が夜道を音もなく進んでいた。


 他に方法を思いつかなかった。

 勝手なことをしているとは分かっている。

 でも私は……。


「誰だ」


 アルメが声を上げた。

 殺し屋達もぬるりとした殺気を発する。

 彼らの目の前には覆面を被り、両手を鉄鋲を打ち込まれたグローブ、セスタスで武装した私が立っている。


「……面倒だ、始末しろ」


 アルメはわずかに頬を歪め、殺し屋達に指示を出した。

 殺し屋達はすっと曲刀を抜いた。

 相手は十三人、うち一人は魔導師。

 師父なら、この差は逃げて自分の有利に状況に誘い込めと言うだろう。

 戦竜教団は誰かを守るような戦いはしないのだからそれでいい。

 私は拳を固めた。


(すみませんご主人様、私はやはり裏切り者です)


 結局、何も思いつかないまま私はここに立っている。

 力で止めるのはダメだとご主人様に言われたことを無視して。


 二人の殺し屋が飛びかかってきた。


(鋭い!)


 ただのゴロツキじゃない、その踏み込みは荒事になれた戦士のものだ。

 一人目の攻撃を片足を下げて外し、二人目の刃を脛当てで受ける。

 ビリビリとした衝撃が足に走るが、痛みを無視して踏み込み拳を顔面にめり込ませた。

 一人を倒し、もう一人に拳を向けようとしたときにはすでに射程圏外にまで引き下がっていた。


(手強い……)


 絶望的な感情が湧き上がる。


 だけどミランダさんにこれ以上不条理が振りかかるのが許せなかった。


 相手の腕を掴み、捻り上げながら投げ飛ばす。

 倒れた男に拳をいれて、五人目。

 私は脇腹に突き立てられた剣を抜いて捨てた。


(ふぅ……)


 『爪』を使わない体術だけの戦い方では限界が近い。

 足が震え、身体が倒れてしまえと主張する。

 だけど倒れるわけには行かなかった。

 私が倒れたらご主人様もミランダさんもパレアもダニエルさんも皆を裏切ることになるのだから。


 ビョウと風を切って矢が飛び、一人の殺し屋の足を貫いた。


「なっ!?」


 全神経を私との戦いに集中していた殺し屋にとって、それは意外な一撃だったようだ。

 伏兵がいるならもっと早く出しているはず。

 合理的に考える殺し屋達にとって、それはあまりに不可解な一撃だったろう。動きを止めた殺し屋に私は迷わず攻撃を加えた。

 二の矢も飛来するが、それは弾かれた。

 弓の技量はそう特別なものじゃない。


「出てこい卑怯者め」


 アルメが言って物陰に近づく。


「殺し屋が卑怯者とはお笑い種ね」


 出てきたのは赤い髪をした少女。

 手には練習用の刃を潰した剣を持ち、見慣れた弓を持っていた。


「忘れ物よ」


 そう言って少女は笑う。

 何やっているんだあの人、バレないようにしている私の苦労を何だと思っているんだ。


(だけど助かった!)


 私は赤髪の剣士、パレアの元に駆け寄った。


 一人で戦うのと二人で戦うのとでは違う。

 私が弓を持ち、パレアが剣を持つ。

 パレアに襲いかかる相手は私の弓がそれを防ぎ、私に近づこうとする相手はパレアの剣がそれを防いだ。


「ちっ」


 リーダー格の魔導師とアルメが動いた。

 魔導師はキラキラと煌く結晶体、ミサイルバリアで射撃攻撃を防いでいる。

 となると接近戦だが……。


「飛べ」


 魔導師はテレポートで間合いを取る。

 その距離は220メートルほど。


(どうする?)


 魔導師絶対有利の間合い、魔導師ではない私にこの差を覆すのは難しい。

 パレアは魔導師だが、まだ実力は発展途上。

 同じ魔法という世界で戦うのならば、テレポートを使えるほど熟達した魔導師である相手に勝つのは難しいだろう。

 だから、ここは。


「私が魔導師の相手をします」

「え?」

「あなたはあっちの男を、爪に気をつけて」

「分かった」


 私はまっすぐ魔導師に向けてかけ出した。


「愚かな」


 魔導師のアイスストームが私の目の前で炸裂した。

 氷塊が私の身体を傷つけるが、足を止めること無く走る。


「玉砕覚悟か、無駄なことだ」


 二発目のアイスストーム。

 皮膚が破け、流れ出る血が凍りつく。

 歯を食いしばって走る。


「ちっ」


 三発目。

 氷塊が左肩に当たり、左手の感覚が消えた。

 視界が一瞬暗くなる。

 そこに誰かの顔が見えた気がした。

 私はまだ倒れていない。


「愚か者め、どのみち俺には届かん」


 男の動きは計算されている。

 220メートルなら、魔法は4回使っても攻撃が届く前に逃げられる。

 だから4回めでテレポートを使えば魔導師が有利。

 これまで150メートル間合いを詰めた、今、私と魔導師との距離は70メートル。

 あと一歩届かない……そのはずだ。


 私は踏み出す足に力を込める。

 溜めていた力を一瞬で爆発させるイメージ。これが戦竜教団の魔導師殺し。


「なに!?」


 魔導師は目を見開いた。

 戦竜教団が教える奥義『縮地』は、その大層な名前に反して地味なものだ。

 それは僅かな間、人の1.5倍に近い速さで走る瞬発力を身につけるというもの。


「……ッ!!」


 だがこれは間合いが絶対的だと考える魔導師にとって致命の技。

 テレポートを発動しようとした魔導師の鳩尾に、大きく突き出された私の拳が深くめり込んだ。


「あ、が……」


 肋骨が砕け、衝撃が内臓を貫く。

 魔導師の意識を奪うのに十分な一撃だった。

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