71 ナヴィ、裏切り者達の恋歌 後編2
「どういうつもりだザ・ハーク」
短く刈り込んだ髪に筋肉質の青年。
アルメ・ザ・ジャムシードは不機嫌そうに私を睨みつけた。
「お前が今回の聖務に参加するとは聞いていない。我らのつながりが露見する可能性のある会合は避けるべきではないか」
聖務とアルメは言った。
つまりすでに何か役割を命じられているということか。
「私は領主のところに潜んでいるの、何をするのか分かれば情報提供できると思って」
「必要ない、師父は私にザ・シークと協力しろとは仰られなかった。つまりは我らはともに行動するべきではないと我らの父アーリマンはお考えなのだ。事実、聖務の下準備は終わっている」
「でも……」
「度を過ぎた心配性は害悪だぞザ・ハーク。私はダドリー卿の扇動に成功した。今夜ダドリー卿の私兵が政敵キブスン・ハスラーをを襲う手筈になっている。同時にダドリー卿の計画を密告する者も用意した。これでネイピア家もハスラー家も消える」
「!?」
「分かったな、ザ・シークにできることは何もない。大人しく自らの聖務につくがいい」
「なぜ、ダドリー卿とギブンス卿を……彼らの思想は戦竜教団と関係ないのでは」
「何? アーリマンのご意思を疑うのか」
「違うわ、でも私は情報源としてダドリー卿に近づこうとしていたの。それは卿の思想的に問題にならないと思ったからで……」
口からするするとでまかせが出る。
こういう技術は戦竜教団で教わった。
「…………」
するどい目でアルメは私を睨んだ。
「イブ家?」
私はぼつりとつぶやいた。
他の政策では対立することのを多いネイピア家とハスラー家だが、対ムナールとの外交問題では穏健派で、交易の強化を求めていた。
それぞれが交易路を持っていることが原因だろうが、反サンダーランド派の筆頭であるイブ家にとっては面白くないことだ。
状況から整理すれば、トパーズが襲われた時戦竜教団をヒース領に導いたのはミリアのはずだ。
戦竜教団はイブ家と同盟関係にある。
これは間違いない。
「そうだ、我らはイブ家の者共を利用している。彼らのために便宜を図ってやるのが善いとアーリマンはお考えなのだ」
以前なら疑いもしなかっただろう。
だが私にはそこにアーリマンの意思が無いことが容易に想像できる。
人間の発展を防ぐための戦竜教団が、特定の家が発展するための駒になる。
その矛盾にすら教団員は気がつけないのだ。
私もそうだったように。
「分かったら離れていろ、少し話しすぎた」
「ごめんなさい、余計な事だったようで」
「気をつけるがいいザ・シーク。そのようなことでは我らの父アーリマンの失望を招く」
これが私達にとっての最大の恐怖だった。
アーリマンによって作られた私達の存在意義を否定されること。
だけと今の私には、その言葉がとても虚しいものに聞こえ、何の恐怖も感じなかったのだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
私は迷わずご主人様に報告する。
「なるほどな」
ご主人様はじっと考えこむ。
「難しいな、今はまだ戦竜教団相手に目立ちたくないというのが本音だ」
「そんな!」
思わず私は声を出した。
ご主人様の考えていることは分かる。
これから戦竜教団の動きを止めようと言う時に、わざわざこちらから自分たちの存在を知らせることは悪手に違いない。
だけど、
「ネイピア家が没落したらミランダさんは」
「……そうだな」
二度目の没落。
だけどなぜミランダさんがそのような目に合わないといけないのか。
「少し考えさせてくれ、ジョンおじさんとも相談してみる」
「あまり時間は……」
「分かってるさ、分かってる」
ご主人様は困ったように手を振った。
私はご主人様に対してとても失礼な言葉を投げている。
アルメと話していた時は自分をコントロールできていたのに。
「私も何か良い方法が無いか考えてみます」
「ああ頼むよ」
気が付くと私はそう言っていた。




