74 爺ちゃんへの報告
俺は久しぶりに爺ちゃんの元へ帰ってきた。
「ムナールはどうじゃった?」
「色々分かったよ、メモにまとめてきたから読んでみて」
俺は爺ちゃん昨晩書いたメモを渡す。
「ほうほう」
衝撃的な内容のはずなのだが、爺ちゃんの表情は変わらない。
「知ってた?」
「大体のことはな」
「流石だね」
「バズがここまでたどり着くのにはあと2年はかかると思っていたが、優秀な弟子を持つ師匠はつまらんのう」
「本当にそう思っている?」
「いんや、予想を超えてくれるのは非常に楽しい」
俺達は笑った。
「それで、今は何を考えておる?」
「アクロポリスでの出来事かな」
「ほう、そっちか」
「ダニエルさんは種族的にはゾンビーだ、人間への服従心が本能としてある。にも関わらずダニーさんは魔導師であるダドリー・ネイピアを裏切った」
「もう一人の人間であるミランダに従ったからというのはどうじゃ?」
「ミランダさんはダニエルさんに何の命令も下していない。そうでしょう?」
「その通り」
「つまりゾンビーの本能とは支配的なものではない。彼らを縛るのは集団心理だ」
彼ら一人なら魔導師に対していくらでも反抗する。
周りに同じように服従する者達がいることで、彼らは圧政や奴隷の扱いに甘んじているのだ。
「低い身分を甘んじている彼らだけれど、本質的には人間と変わらない。人間の数が少ない今だと、彼らはゾンビー同士の集団心理で従属するけれど、ここに扇動する人間が混じれば不満は簡単に爆発する」
「確かに、ワシもその意見を支持しよう」
そこをつかれれば……数の上では劣る人間は滅ぶ。
「次に戦竜教団」
「まさかナヴァがそうだとはのう」
「最初であった頃、ナヴァは異質だった」
「ふむ」
「目立たないように不足のない奴隷を演じつつ、意図的に周囲から距離を取ろうとしていた。奴隷であることを受け入れているリアのように認めているわけじゃない」
「別の目的があるからじゃな」
「ああ、あくまでアーリマンと戦竜教団に従っているだけで、目的のために奴隷を演じているわけだ。それが従順で真面目で忠誠心の無い奴隷という性格を構成していたんだな」
「ほう」
「だけど同時に、俺から近づこうとするとナヴィは自分を信用するなというポーズを取っていた。これは人間的な良心によるものだ。善意には善意を返したくなる。そういう感情」
「つまりアーリマンの堕慧児は人間的な思考をするというわけじゃな」
「ああ、元々真竜が製作された頃、未来にどのよう知的生命体が誕生するかは予想できなかったはずだ。そのためアーリマンには、学習型アルゴリズムが組み込まれている。それがアーリマンの堕慧児の本当の役割」
「人間を撹乱するためのものではなく、人間を知るためのモノと考えておるのじゃな」
「ナヴィやミリアの行動を見ての考察だよ。そして人間を知ることで、戦竜教団という組織が産まれた。アーリマンからすれば堕慧児達はできるかぎり人間に混じり、多様な生き方をして学習データを報告して欲しいはず。それを、奴隷として潜り込むという固定化した流れを作る戦竜教団は、アーリマンが求めているものと矛盾している」
「確かに」
「……戦竜教団がいつ発生したのか、なんのために動いているのか。それを知ることができれば、真竜対策は大きく前進するはずなんだ」
「それで何を考えておるんじゃ?」
「爺ちゃん、次の旅には爺ちゃんも一緒に来て手伝って欲しい」
「ええよ」
「あっさりだね」
「可愛い弟子の頼みじゃからのう、教団の拠点を調べてみよう」
「ありがとう、俺も屋敷で調べたいことがあるから」
「父親と対決かな?」
「……ああ、生まれて初めての親子喧嘩かもね」
いつも冷たい目をしていた父さん。
彼の持っている知識が、今のこの世界には必要なのだ。




