43 滅びの未来
家畜と奴隷の差はどこにあるのか。
虫を叩き潰す人が飢えに苦しむライオンに憐憫の感情を抱くのはなぜか。
「ゾンビー、彼らのことはそう呼ばせてもらおう」
ジョンがボタンを押すと作りかけただったリアの身体が液体の中に溶けて、消えていった。
「リア……!」
「今のゾンビーは君の知るリアではないよ」
「だけどあれはリアだった」
「ゾンビーと人間は、解剖学的には全くの同一種族だ。どんなに詳細に調べても、そこに物理的な相違はない」
「……リアは死んでいるのか。そうか、あの名簿、奴隷として攫われた人を記録するなんてことができたのは、元々死んだ人間を名簿化する仕組みを作っていたからか」
「そうだ、リアンは7年前、真竜の襲撃で死亡している。村は全滅、ただの一人も生き残りはいない」
「なんでこんなことを」
「魔導師以外の知的生命体を増やすことで真竜の狙いを逸らすためだよ。もちろん、単純な労働者としても期待されている。魔法は使えないから要職にはつけないだろうけどね」
「……奴隷達の大半が魔法を使えない理由はそこか」
「ゾンビー達には無意識的に人間に対して反抗心を持ちにくいように設定してある、あまり設定値を高くしすぎると人間らしさを失うから、あくまで無意識的な程度だけれどね。殴られたら怒るし、理不尽には剣を持って反抗する。でも、間違っても魔導師の国をひっくり返すことがないようになっているのさ」
「契約による奴隷境遇ならば、反抗しないか」
「この装置はこの世界で国を維持するために必要なものなんだよ」
これが、ジョンの言う真実か。
「この装置で蘇った人の子供はどうなるの?」
「ゾンビー同士なら変わらず魔法は使えない、人間との子供ならば魔法の才能が乏しくなるが魔法が使える人間として生まれるね」
「…………」
これがファンタジー世界か。
貴族の次男以降が外に出るのも純血の魔導師は長男が受け継ぎ、残りは魔導師の血を広めるため。
冒険者ギルドとランクの存在は、優秀な冒険者=魔導師の血が濃くなった在野の人間を吸い上げるため。
蘇った人間は魔法も使えず住む場所のないため奴隷として流通する。
「でもこれじゃ、そのうちこの国は滅ぶよ」
俺はつぶやいた。
「どういうことだい?」
「ジョンおじさんも気がついていないの?」
「確かに万全な方法とはいえないが、真竜の脅威に対抗するにはこれしかない」
「確かに蘇生した人間を住民にすれば現状を維持することはできるかもしれない、でもそれじゃ未来がない」
死者を蘇らせ、いつまでも同じ人間が国を作る。
それでは進歩が無い。
「この世界には変革が必要だよ、でないと滅ぶ」
「そうか、バズにはそう見えるか」
ジョンの顔にははいつも浮かべている微笑は無く、真剣な表情で頷いていた。