42 死者転生
剣と魔法のファンタジー。魔法とモンスターと冒険者のいる世界。
俺の住む場所はそのはずだった。
俺をこの世界に呼んだ存在は、俺に何をしろというのだろうか。
それとも、そんな存在はいないのだろうか。
王城の地下。
分厚い扉をジョンが開ける。
ジョンの魔法によって作られた光がふよふよと周りを照らしている。
機械式の鍵と魔法の鍵がそれぞれ3つ、計6つの鍵で封鎖された扉。
周りの壁も魔法で厳重に強化されており、転移魔法対策の結界も施されている。
「これから君にこれを見せるのはサンダーランドだけじゃない、この世界の秘密の一つだ」
ジョンの顔が笑顔で歪んだ。
「どう考えるかは君の自由だよバズ」
「もったいぶるね」
「それだけ重要なもの何だよ」
はじめて、ジョンの顔が恐ろしいと思った。
地下奥深く。おそらくは魔法で掘ったであろう穴を進む。
これだけの土木工事ができる技術はこの世界に無いはずだから。
「ここが最後の扉だよ」
ジョンが立ち止まってそう言った。
「最後?」
「君がこれまで見てきた世界と、真実を隔てる最後の扉さ」
俺は肩をすくめた。
「そう言われても、見てみないことにはなんとも言えないよ」
「そうだね、心の準備はいいかい」
「何があるかも知らされていないのに心の準備も何もないね」
「はは……それもそうだ」
ジョンは扉に触れた。
俺は無意識的に右のホルスターに手が伸びる。
手のひらに汗をかいているのが分かった。
「開くよ」
ジョンは扉を押した。
最後の扉と言う割には鍵はかかっていない。そのまま扉は抵抗も無くスライドしていった。
扉の先には大きな装置が鎮座していた。
「なんだこれは」
そう、「なんだこれは」と言う他無い。
装置本体は5メートルはある巨大な金属の箱で、無数の触手のようなケーブルが箱のいたるところから伸び箱の前においてある2メートルほどの装置に接続されている。
12本の3メートルほどある巨大な試験官がぐるりと装置の周りを囲み、中には無色透明の液体が満ちていた。
ファンタジーというよりSFか?
しかし、装置からは魔法の気配を感じる。
「これいつの時代のもの?」
「さすがバズ、我々が作ったものじゃないとすぐに見ぬいたか」
「根幹は同じなんだろうけど、俺たちの魔法よりずっと洗練されたものを感じる」
そうだ、洗練されている。
この装置は高度な魔法の産物だ。
「これは神話の時代、亜竜によって作られた遺産さ」
「亜竜?」
「亜竜は本来の言語を失っている。今の亜竜の言語は、人間の部族の言葉を簡略化したものなんだ」
「そうなんだ。それはつまり亜竜という種族は」
「竜はかつてこの世界を支配していた、人間という種はまだ石と棒しか知らなかった時代だよ。今の亜竜はその文明的に退化した生き残りだ」
初耳だ。
「信じられないかい?」
「自分で証拠を見たわけじゃないからね。教えられただけでハイそうですかと納得はできないよ」
「それもそうだ、まあ亜竜のことは置いておこう。この装置は私達が作ったものじゃないということを理解していれば十分だ」
「それで、これは何をするための装置なの?」
「死者転生だよ」
どきりとした。俺も転生してきた人間だ。
だけどそれからジョンが話し始めた内容は、俺のケースとは関係のないものだった。
「真竜の脅威により、人間はいつも脅かされていた。技術にすぐれた旧王国が真竜によって滅ぼされて以来、魔法という個人の技に依存していた人間は、その個人が倒れると一気に技術が衰退するという恐怖に怯えながら暮らしていた。天候を予測し、植物に活力を与えるのも魔導師の仕事だ。獣の居場所を占うのも、殺人の罪の真相を暴くのもすべて魔法が活用される」
「そうだね、新流の魔法は技術の平均化のためにあるんでしょ?」
俺が使う古流が廃れたのは、魔導師の平均を上げるのに新流の方が適していたことも大きな要因だろう。
「うん、だけどそれでも不十分だ。人間の人口は徐々に少なくなっていった。どの国も滅亡を待つしか無かった。それを救ったのが旧王国が隠していたこの装置だ。5つあった装置はそれぞれの王が自分の国へと持ち帰った。王権とはこの装置を所持していることを指すんだ」
「大きく出たね」
「魔導師を保護するためにどうすればいいか。竜は知的生命体を狙う。魔導師は知的生命体だ。狙われるのは避けられない。だからこの装置を使った。この地で死んだ人間を複製するこの装置を」
「複製?」
ジョンはケーブルにつながれた高さ2メートルの装置の上部に手を伸ばした。
ウィィィィィンと装置が唸りだす。
「何を……」
試験管の一つが泡立ち白く濁りだした。
「これから君は驚くと思う。もしかすると僕に嫌悪の感情を感じるかもしれない。それはそれで構わない。君は自由に考え行動する権利と力がある」
ジョンは俺を見ないまま話を続けた。
「この世界には二種類の人間がいることに気がついていることだろう。魔法が使える人間と全く使えない人間。両者を分けるのは何か。戦士と魔導師、同じ人間なのに何が違うのか。聡明なバズのことだからきっと疑問に感じていただろう。その答えがこの装置だ」
心臓が高鳴った。ゆっくりと頭の中でピースがつながっていく。
「真竜から魔導師を守るにはどうすればいいか? 竜に勝てない以上、それは知的生命体を増やすしか無かった。魔導師がいないから生活水準が低下して人口が減っているのに、それじゃ本末転倒だ。だから、人間は“生け贄の羊”を必要とした。この装置を持っていた過去の亜竜たちは不死ではなかったのか、無限に蘇られるならなぜ滅んだのか。それはこの装置は死者蘇生を行うことはできないからだ。蘇るのは本人とは異なる存在なんだ。姿形は死んだ瞬間の年齢のまま健康体に戻ったものだ。記憶も完全に取り戻すことができるが、それは次の欠陥の存在により曖昧にして転生するように調整してある。記憶が残っていると自分が偽物だと気がついてしまうからね」
「その欠陥って、もしかして」
「そうだバズ」
そして……試験管の中に現れたのは……。
「リア……」
俺が出会ったリアより多分3歳分ほど幼い、だが間違いなくそれは俺のリアだった。
ジョンが振り向いて言う。
「転生した人間は魔法が使えなくなるんだ」




