44 荒涼山脈
「予定変更だ」
戻ってきて開口一番、そう言った俺にパレア達三人は顔を見合わせた。
「いきなりどうしたの?」
「ムナールに行く前に荒涼山脈に行ってくる」
「あそこって嵐竜ジズがいるところでしょ? 人間が一人もいないところじゃない」
「そうだ、ジズを見に行く」
「正気!?」
「正気だ、なんとしてでも七竜を直接見たい」
「はぁ、バズのことだから何か考えがあるんだろうけれど」
「今回は危険だから、三人は屋敷に戻っていてもいいよ」
「あたしは一緒に行きます!」
リアが真っ先に言った。顔には強い意思が感じられる。
パレアはじっと考えてから、真剣な表情で口を開く。
「あなたがついて来っていうのならどこだって行くわ。でも……私はバズの役に立てているの?」
「いてくれると助かるよ」
「本当に? 私は何をすればいいの?」
「野営や食事も一人で準備するより分担した方がずっと楽だし、荷物だって一人で持つのは大変だ」
「それくらいならできるけど……」
「それくらいなんかじゃないよ、俺一人じゃできないことだから。それに」
「何?」
「真竜を見て、どう思ったのか、俺以外の考えも聞きたいんだ」
「分かった、私がいてバズは助かるのね? だったら私も行く」
「ありがとう」
ナヴィはいつもの表情のままだ。
「来るなと言われればご命令に従いますが、そうでないのなら私はバロウズ様の側にいることに何の不満もありません」
「……ありがとう、助かるよ」
ナヴィも魔法は使えない。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
荒涼山脈は人間も亜竜も、ジルバードのようなアウトサイダーも住んでいない。獣以外、誰も寄り付かない、禁忌の土地だ。
「馬に乗って5日か」
地図を見ながら行程を確認する。危険な森を避け、回り込みながら進むとそんなものだろう。
ただこれまでの感覚からすると、おそらく4日で着くと思う。この世界の地図は遠方の縮尺が合っていないのだ。
「バズさん、ご飯できたよ」
リアが声をかけてきた。いつのまにか美味しそうな匂いが辺りに漂っている。
「チキンスープか」
「うん、さっきナヴィが獲ってきたの」
「ナヴィが」
「弓を扱うの、すごく上手いんだよ」
「そうなのか、俺にはそういうところ見せてくれないな」
話を聞く限り、ナヴィは冒険者としても優秀だ。俺の前では自分の能力を見せびらかさないように気を使っているように感じる。
「全く、困ったもんだ」
いまだにナヴィと打ち解けている気はしない。
「それじゃ、飯にしよう」
俺がそう言うと、リアは嬉しそうにうなずいた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
荒涼山脈の動物は大人しい。
向こうから襲ってくる動物は滅多にいなかった。
滅多にこない人間を警戒して、向こうの方から姿を消すくらいだ。
俺たちは無事に、ジズがいるとされる山頂へと進めた。
だが、そこには何もいない。
「ふむ」
荒涼山脈の山頂には、さらに小さな丘がある。
おそらくここは火山だ。かつての噴火によってあの丘が作られたのだろう。
丘は草で覆われており、しばらくは噴火した様子はない。
「周囲を調べてみるか」
何かがあるはずだ。ここのジズがいるというのは、様々な文献にも記されている。
数時間後、俺達は洞窟を見つけた。
洞窟の入り口は蔦に覆われた、だが金属の扉によって封じられていた。
「明らかに人工物だな」
来てよかった。
ここには俺の知らない何かがある。




