第15話:レッツDIY、ゲホウ返し様のご神体♪
「白石村長! 黒井さん! 遊休農機のスクラップ置き場から、頑丈そうな軽トラのドライブシャフトと発電機ぶっこ抜いてきました!」
「こっちも頼まれてた足場用の単管パイプとクランプ、あと耐圧ベアリング揃いましたぜ!」
汗をぬぐいながら廃材を運び込んできたのは、青年団の田所と川中だった。
午前の全村民説明会を経て、すっかり「新村長・白石」と「辣腕アドバイザー・黒井」に心酔した現場の若手たちである。
「素晴らしい調達スピードです、田所さん、川中さん。仕様通りの剛性と寸法ですね」
黒井が手帳を片手に満足そうに頷く。
「へへっ、黒井さんに褒められると張り合いが出るなぁ!」
黒井は作業用手袋をキュッとはめ直すと、村境に立てられた『これより先、夜間立ち入るべからず』と朱色で書かれた古びた境界杭を指差す。
「さあ、ここからが正念場ですよ」
黒井を憧れの現場監督を見るようなキラキラした瞳で見つめる若者たちから距離を取り、白石は頭を抱えていた。
「……なに、つまり、その……首をへし折る怨念の力で、タービンでも回そうと……?」
「ご明察。題して『ゲホウ返しバイオマス代替・常温クリーンエネルギー発電実証実験』です。夜間に無駄首を折らせるのではなく、有効なシャフトを折らせ――いえ、効率的な運動エネルギーに変換するのです」
「怖っ! もう発想が怪異より怖いですよ!」
白石がドン引きしてますます後ずさるが、黒井は至極冷静に手帳のページをトントンと叩いた。
「ひとまず状況を整理しましょう。現在時刻は午後四時過ぎ。いま私たちの首がねじ切れていないということは、ゲホウ返し様が『夜間に首をねじ切る』という運用ルールがまだ保たれている証拠です」
「運用ルールて……」
「一方、前村長が言っていた呪いの暴走。これは防衛プロトコルの効果範囲が無差別に拡大することを意味するものと思われます。従来は『よそ者の排除』『村外への脱走阻止』という明確なキル条件が定義されていたものが、システム破綻により無効化され、今夜にも村民全員へ無差別に首ねじ切りが乱れ撃ちされるリスクが極めて高い」
「詰んでるじゃん! やっぱり大惨事じゃん!!」
「ところが、先ほど前村長宅の桐箱に封じられていた古い資料を監査したところ、百五十年前の記録に重要なインシデント対応ログが残されていました。当時、同様の暴走事態を現場で収拾したのは――『忌み名の子』と呼ばれた一族の娘であったことが判明したのです」
黒井は白石を真っ直ぐに見据えた。
「聞き覚えがありますよね。そう、白石。あなたのことです」
「わ、私……!?」
白石は自分の胸元を指差し、目を白黒させた。
「伝承によれば、忌み名の子はゲホウ返し様がどれほど狂乱・暴走していようとも、一切の迎撃フラグが立たず、ノーダメージでご神体の直前まで接近することができたと記されています」
「ご神体……?」
話を聞いていた川中が、あごに手を当てて口を挟んだ。
「ゲホウ返し様のご神体? ああ、それなら土蔵の裏手にある小さな丸石のことだな。注連縄が巻いてあるやつだろ?」
「それだ!」
白石はすがるように身を乗り出した。
「それに忌み名の子として生き血を捧げるの!? 祈りで十分!? それとも命!? どうしたら暴走が止まるんですか!?」
だが、黒井は静かに首を横に振った。
「ここで、大変残念なお知らせがあります。そのどれも間に合いません。なぜなら――ご神体はすでに長い歴史のなかで逸失しているからです」
「……は?」
「村民の皆様がゲホウ返し様のご神体と信じて奉じているその丸石は、実は先々代村長の時代、本物を紛失した事実を隠蔽するために河原から拾ってきた『捏造された偽りのご神体』であることが、帳簿の裏書より判明いたしました」
「ふっざけ……!!」
白石の顔が怒りで引きつる。
「大事な神様のご神体を紛失して河原の石で隠蔽!? ずさん!! 歴代の村執行部、どこまでずさんなの!?」
「ええ、重大なコンプライアンス違反ですね。本尊という依り代を失っているからこそ、行き場を失った怨念のエネルギーが臨界点に達しているわけです」
黒井は工具箱をガチャンと足元に置き、持ち寄られた鉄パイプとドライブシャフトを堂々と指し示した。
「ゆえに、いまここに――ゲホウ返し様の暴走を受け止め、物理的な仕事へと逃がす新たな依り代、すなわち『新躯体』を構築します。それが――」
「それがどうして『怪異・首ねじ切り式発電機』をDIYすることになるんですかぁぁぁっ!?」
夕暮れの八咫村に、白石の渾身の絶叫が木霊した。
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