9.リーダー
訓練場を後にした3人は関所へと向かう途中、
がっしりとした体格の男子と鉢合わせる。
だが彼はこちらの姿を見るや否や方向転換し、
元来た道を引き返すではないか。
この不可解な行動に梓と葉加瀬は無反応だったが、
中村はその大きな背中を引き止めるのであった。
「おいおい佐原、どうしたんだよ?
もしかして訓練場に行きたいのか?
今なら誰もいないから独り占めできるぜ!
……あ、俺たち今からダンジョン行くんだけどさ、
どうせならお前も一緒に来ないか?
現地で魔物相手に実戦訓練ってのもいいだろう
なあ、葉加瀬!
こいつも連れてっていいかな!?」
とまあ、どうも中村は1人で先走る性格のようで、
佐原と呼ばれた男子はオロオロと困惑しながら
梓や葉加瀬に助けを求める視線を送るのだった。
「ハアァ……
あのですね、中村君
彼は勝手に話を進められて困ってますよ
そのガツガツした性格が原因で
鷲尾さんから振られたんですかねえ?」
「なっ、ちょっ、その話題禁止!!
身に覚えがないから答えらんない!!」
すると佐原はとても残念そうな顔になり、
中村に憐れみの視線を向けながらボソリと呟いた。
「な、中村君
女の子に振られたの……?
それは気の毒に……」
「身に覚えがない玉砕なのに同情された……!!
くそっ、恨むぞ別世界の俺!!」
そして、流されるままに彼も同行することになった。
冒険者クラス1-B所属、佐原太陽。
輝かしい名前とたくましい体つきの持ち主なのだが、
その性格は非常に内気で人見知りである。
一言で表すなら『陰キャ』。
無駄口を叩かないので、梓や葉加瀬にとっては
一緒に過ごして疲れないタイプの相手だ。
なんにせよ、必要なメンバーは揃った。
冒険開始予定時刻はとっくに過ぎてしまったが、
新たな仲間との出会いという大きな収穫があったので
今回のプラン変更は成功だったと言えよう。
関所を抜けてダンジョン前までやってきたのだが、
いつもの監視員が見当たらない。
どうやらおじさんは日曜日が休みのようだ。
その場で少し待ってみるが、代わりの監視員は
監視小屋の中から窓越しにこちらをチラ見するだけで
重い腰を上げる気は一切無さそうだ。
どうやら彼はスマホのゲームに忙しいようで、
一体何を監視しているのだろうと疑問符が浮かぶ。
「……行きましょうか、鷲尾さん」
「はい、それでは入場します」
いざ出発。
そして、ダンジョンに入場するなり
リーダーが不可解な指示を出したのである。
「さて、皆さんはもう帰っていいですよ
入場に協力してくれた3人には、
あとでジュースを奢ります」
「うぇぇ、鷲尾ぉ!?」
「ぼ、僕はなんのために!?」
まあ当然の反応ではあるが、
所詮彼らはビジネスライクな関係、
監視員を安心させるための入場チケットなのだ。
梓1人で進行した方が安全という大義名分もあり、
不要なメンバーはここで切っておくのが吉である。
「ハアァ……
この展開は少し読めてましたよ
的中してほしくなかったんですけどね
まあ、予防線は張ってあります
関所では僕がまとめて手続きしたんですが、
今回の冒険活動は2つのパーティーによる
共同作業という扱いにしておきました
内訳は鷲尾さん1人のパーティーと、
残り3人が僕のパーティーという割り振りです
なので、僕と鷲尾さんは対等な立場であり、
お互いの活動を邪魔してはなりません
鷲尾さんに僕の仲間を帰す権限はありませんよ」
「そうですか、わかりました
では、リーダー同士で取り決めが必要ですね」
「そういうことです
とりあえず道中で魔物を発見したら、
まずは中村君に戦わせてみようと思ってます
それについて異論はありますか?」
「いいえ、ありません」
こうして4人は探索を開始するのだった。
数分が経過しても、まだ戦闘は無い。
この機会に葉加瀬は疑問を解消しようとした。
「そういえば鷲尾さん
見たところ銃タイプの遠隔武器を持ってますが、
市販の装備品ではありませんね?
もしかして自作ですか?」
「はい、市販の装備品ではありません
この音波銃は父が製作してくれました」
「なんと、音波を発射する銃ですか!
それは面白いですねえ!
どんな仕組みなのか教えてください!」
「すみませんが、それはできません
私は銃器の仕組みには興味が無いので、
中がどうなっているのか知らないのです
私が下手にいじれば壊れるかもしれないので、
仕組みを知るには父に尋ねるしかありません」
「僕が分解しちゃあだめですかね?」
「だめです」
「それなら、お父さんの連絡先を教えてください
僕が直接仕様を聞き出してみます」
「あとで父に連絡先を教えてもいいか確認します」
「ええ、よろしくお願いしますよ
ところで話は変わりますが、
本日の冒険活動の目的を聞いてませんでした
ただの見学ではありませんね
音波銃を試し撃ちするためでしょうか?」
「いいえ、試し撃ちは済ませてあります
本日の冒険活動の目的は地形の調査です
先日、地形調査用のロボットを送り込みましたが、
結果は失敗に終わりました
なので自分の足で地形の調査を行い、
精度の高い地図を作成しようとしています」
「え、なんだ 今日が初めてじゃあないんですね
しかもあなたもロボットをお持ちのようで……
地形の調査なら僕のロボットにも可能ですよ
さっき見せた6本足のやつです
それを送り込めばあなたの負担を減らせますが」
「忠告します
私の友達1号は粘着テープで脚を縛られました
悪意ある人間に見つかったら同じ目に遭います」
「幼稚な悪戯をする奴がいたもんですねえ
でもまあ、僕の“キャリオン”なら平気でしょう
動物や魔物を判別する機能を搭載してまして、
僕や僕が認めた人間以外を外敵と見做して
逃げたり隠れたりすることが可能です
緊急時には時速50kmの急加速を行えるので、
常人が追いつくのはまず不可能です」
「それを聞いて安心しました
では、キャリオンを調査に向かわせてください
葉加瀬君にはもう1本ジュースを奢ります」
「いえ、ジュースは結構です
それより音波銃の威力を見物させてくださいよ
それが僕への報酬ということにします」
「はい、契約成立ですね」
しばらくして、ようやく魔物を発見。
相手は最弱の魔物扱いされているスライムだ。
過去に4件だけ酸性の液体を吐き出すという
危険性の高い個体が観測された前例があるものの、
基本的にベトベトした臭い液体を吐き出すだけなので
攻撃力ゼロの無害な存在として知られている。
梓は発砲しない。
葉加瀬との取り決めがあるからだ。
その葉加瀬は落ち着いて様子を見ている。
佐原はビクビクと怯えている。
そして、中村は……
「経験値1……もらったぜ!!」
と、学園から借りたホークブレードを肩に担ぎ、
スライム目掛けて勢いよく駆け出した。
直後、ブチュッという汚い音と共に
スライムがヘドロ色の液体を噴射し、
回避の遅れた中村はズボンを汚す結果となった。
「うおっ……うおぉぉあああ!?!?
汚ったねええええ!!!
なんじゃこりゃあああ!?!?
超臭っせええええ!!!」
無知で無謀な特攻野郎への洗礼である。
その粘着質の液体は中村の股間をべっとりと濡らし、
なんだか盛大にお漏らしをしたような模様を形作る。
これは恥ずかしい。
「中村君、安心してください
その個体はもう何もできません
生涯で1発だけしか液体を噴射しませんからね
通称ションベン……いえ、
女子がいる前ではやめておきましょう」
「もう全部言っちゃってるよ!!
手遅れだよ!!
あ〜〜〜、クッソ!!
知ってるなら先に教えてくれよ〜〜〜!!」
「先走ると痛い目に遭うという経験ができたでしょう
これで危機管理のレベルが上がったはずです
あなたは二度とスライムには特攻しません」
「葉加瀬!!
さてはお前、超スパルタだな!?」
中村は下半身の不快感に悩まされながらも、
初めての魔物を斬り裂いて戦闘に勝利した。
お次の相手はレッドスライム。
葉加瀬は早く音波銃の性能を確かめたい欲望を抑え、
ブルブルと全身を震わせる佐原に出撃を命じた。
「や、やっぱり僕はいいよ!
さっきのと色が違う!
なんだか危険な予感がする……!」
「佐原君、正解です
あれはレッドスライムという新種でしてね
無害な液体ではなく、火の玉を吐いてきます
まあ威力はマッチの炎程度なので、
直撃してもほんのちょっと火傷を負うだけですよ」
「やっ、火傷なんて嫌だよ!!
僕には無理だ!!」
「佐原君、あなたが借りたホークシールドですが、
火の玉を無効化するには充分な防御力があります
それにスライムもレッドスライムも思考は同じで、
素早く近づいてくる相手にしか攻撃しません
慎重な性格のあなたなら無傷で勝てる相手です」
「盾を突き出しながら、ゆっくりと……
そうすれば……安全……」
「ええ、佐原君ならできます」
「ぼ、僕ならできる
僕ならできる……!」
佐原は自身の頬をパチンと叩いて鼓舞し、
リーダーに言われた通り盾を構えながら
ゆっくりと標的へ向かっていった。
中村はその背中を見守りながら、
先程の戦いについて文句を垂れるのだった。
「おいおい、葉加瀬〜
俺の時と全然態度が違うじゃんか
俺にもあれくらい優しくしてくれよ〜」
「何を甘いことを……
中村君と佐原君では全く性格が異なりますからね
あなたは失敗を糧に成長できるタイプで、
佐原君は成功体験を必要とするタイプなんです
まあ僕の偏見ではありますが、
大体合ってることでしょう
なので、中村君にはこれからもビシビシいきますよ
僕がリーダーを務める場合は覚悟してくださいね」
「ひぃ〜、厳しい〜!」
と口では言っているが、中村は笑っている。
なにも本心から嫌がっているわけではないのだ。
他人の感情を読み取るのが苦手な梓でも、
それくらいは理解できる。
この世界でも中村は中村なのだ。
その事実が梓には嬉しかった。
それから3分ほどして、
佐原がレッドスライムの撃破に成功した。
「や、やった……!
僕にも倒せた……!」
「ほら、できたでしょう?」
「やったな佐原!
経験値2、GETだぜ!」
なんと眩しい光景だろうか。
中村の前向きな性格が成せる業なのかもしれないが、
やはりまとめ役である葉加瀬の功績だろう。
彼は今日初めてあの2人と知り合ったというのに、
まるで旧知の仲であるかのように輪に馴染んでいる。
上手く言い表すことはできないが、
自分のやり方とはまるで違う。
あれこそが本来あるべきリーダーの姿なのだろう。
彼を見習わねば、と反省する梓であった。
それから10分ほど進むと次なる敵を発見。
いよいよ音波銃の見せ所……なのだが、
葉加瀬は戦闘を回避するべきだと提案した。
それもそのはず、相手はコボルトが5匹なのだ。
こちらは4人。明らかに数で負けている。
加えて葉加瀬は自身を戦力外だと理解しており、
実質3人で挑むには時期尚早と判断したのである。
「私はあの5匹をまとめて殺すことができます
葉加瀬君はそれを見たかったのではないですか?」
「そりゃあ僕だって見たいですけどね
いくらあなたが『できる』と断言したところで、
その言葉を信ずるに値するデータがありません
相手がスライムやレッドスライムならまだしも、
いきなりコボルト5匹で試す気にはなりません
今のパーティー構成では、奇襲に失敗した際の
リスクがかなり高いと見てます
あなたはどうやって5匹まとめて倒すんですか?」
「音波銃は攻撃範囲を拡張することができます
第1層の魔物ならば、モノリス以外は一撃です」
「その攻撃で今まで何匹の魔物を倒しましたか?」
「0匹です
ですが、理論的には一撃で殺せるはずです」
「あなたは銃の構造を理解してないのでしょう?
なぜ仕様を理解してもいないのに、
倒せるはずだと断言できるんですかねえ?
根拠を示してもらわないと信用できませんよ」
「説明書にそう書いてあるからです
音波銃の構造には興味ありませんが、
仕様なら理解しています」
「なっ……!
あるんですか? 説明書……
ああ、それならお父さんに連絡しなくていいですよ
それを僕に読ませてくれれば済む話なんで」
「葉加瀬君に説明書を読ませてもいいか、
父に確認しなければなりません」
「やっぱり連絡してください
それで、上手くやる自信はあるんですね?」
「はい、私はコボルトを5匹まとめて殺せます」
「そうですか……
少し待ってくださいね、作戦タイムです」
「はい、待ちます」
葉加瀬は仲間に指示を出した。
「鷲尾さんは不測の事態に陥った場合、
その場で固まってしまう可能性が高いです
もしそうなった場合、中村君に囮役を任せます
ひたすら防御に専念しながら敵を引きつけ、
僕たちが逃げ切ったらあなたも逃げてください
佐原君は中村君に盾を貸してあげてください
そして、鷲尾さんを運ぶ役目を任せます
この中で一番パワーがあるのはあなたです」
「うっし、俺はやるぜ!」
「ぼ、僕も頑張るよ!」
作戦タイム終了。
男3人の準備が整ったので、梓は行動を開始する。
と言っても、シャチの胸ビレと背ビレを少しいじって
トリガーを引くだけの簡単な作業だが。
梓の攻撃!
ピシュッ!という甲高い発砲音が鳴り、
コボルト2匹を同時にヘッドショット!
抜群の貫通力だ!
「ああ、逆でした
私はリバース設定でないと操作を誤るのです」
梓は背ビレを奥側に傾けてから再度発砲!
すると、コボルト3匹の首が同時に吹き飛んだ!
魔物の群れをやっつけた!
「……」
「……」
「……」
男3人はその場で固まっている!
生徒情報
氏名:佐原太陽 <サハラタイヨウ>
所属:中央魔法学園冒険者クラス1-B
役割:未登録
武装①:ホークスピア
武装②:ホークシールド
武装③:中央魔法学園男子制服
魔法:アナライズ(解析)
宿星:マタル




