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進め!魔法学園3  作者: 木こる
新星
10/33

10.パーティー

監視員のおじさんは思わぬ光景を目撃した。

鷲尾梓の仲間が増えているのだ。

それも男子が3人。そのうち2人は剣と槍を持ち、

おそらく冒険者クラスの生徒なのだろう。


(え、何があったんだ……?

 今日か? 昨日か?

 どんなイベントが起きたんだろう?

 根掘り葉掘り聞いてみたいけど、

 そこまでしたら気持ち悪がられるよなあ……)

「やあ、鷲尾さん

 随分と仲間が増えたみたいだね

 おじさんは安心だよ」


「はい、私に仲間が増えました

 安心していただけたようで何よりです」


「それじゃあみんな気をつけてね

 いってらっしゃい」


「はい、いってきます」


それだけ言葉を交わし、監視員は梓を見送った。




ダンジョン入場後、まず口を開いたのは梓

……ではなく、ガチガチに緊張していた佐原だった。


「あ、あのっ!!

 ぼぼ、僕は、茜ちゃんのファンです!!

 小悪魔カルテット時代からのファンです!!

 並行世界では、全部のライブに行きました!!

 この世界の茜ちゃんはアイドルじゃないけど、

 それでも僕は茜ちゃんのファンです!!

 これからも茜ちゃんのファンであり続けます!!」


いきなり冒険活動とは無関係なカミングアウト。

茜に向かって深々とお辞儀したままの佐原。

どう反応すればよいのかわからない一同。

これはどうしたものか。


並行世界の記憶とは実に厄介なものである。

たとえ現行世界とは全く別の生き方をしていようが、

本人にとって、それは本物の記憶なのだ。

そして多くの人間がその記憶を保持しており、

佐原のような筋金入りのガチファンは

他にも大勢存在するのだと容易に想像がつく。


この状況に対し、茜は……


「いつも応援してくれてありがとうございました!」


飛び切りの営業スマイルを佐原に向け、

感謝の言葉を過去形で述べたのだ。

ファン対策はバッチリである。


「あぁぁあぁ、もう……感無量だよ…………っ!!」


佐原はその大きな拳を固く握り締め、

全身をブルブルと震わせて涙を流している。

憧れの人物と直接会話を交わすことができたのだ。

佐原が嬉しそうで何よりである。


「え、何?

 この子アイドルだったの?

 俺の世界にこんな子いたっけなあ……

 テレビとかで全然観たことないんだけど」


飛び切りの営業スマイルがピクピクとひきつる。

茜は芸能界という特殊な環境が嫌いなだけであり、

アイドル業自体は天職と思えるほど好きであった。

大勢の人間からチヤホヤされて承認欲求が満たされ、

もっと頑張ろうという気持ちになれるからだ。


それをこの男、中村は……

茜がアイドルだった事実を不思議そうに受け取り、

しかも『こんな子』呼ばわりしてきたのだ。

この世界の茜は確かにアイドルではないのだが、

それでもプライドが傷付かずにはいられない。


「……って、んんん?

 何その『俺の世界』って言い方?

 もしかして並行世界とかってやつは

 1個だけじゃないってこと?」


「おや、そこに気づいちゃいましたか

 ええはい、並行世界は1つだけではありませんよ

 まず僕たちが生活しているこの“名倉世界”、

 大多数の人間が共通の記憶を持つ“第1世界”、

 それ以外は“その他の世界”という認識でして、

 現在判明しているだけでも5つの並行世界が

 名倉事変によって統合されました

 不動さんは高確率で第1世界の出身者なんですが、

 こちらの中村君はその他の世界から来た人間です

 きっとその世界の不動さんもアイドルではなく、

 他の生き方をしていたのでしょうね」


「ふむぅ、それならアタシを知らなくても当然か……

 あの、ところでずっと気になってたんだけどさあ

 名倉って誰やねん!!

 ……ってツッコミ入れたかったのよね」


「あれ、知らないんですか?

 世界一有名な人なのに……まあいいでしょう

 名倉友紀(なぐらとものり)

 1年以上行方不明だったんですが、

 去年の8月1日に無事発見された人です

 その発見当時の状況が奇妙でしてね、

 彼は教室で平然と授業を受けていたそうです

 そして本人に行方不明に関する記憶は無く、

 それどころか並行世界の記憶もありません

 以上の経緯から、今僕たちがいる世界は

 『名倉友紀が行方不明にならなかった世界』

 という仮説が立てられたことにより、

 “名倉世界”と呼ばれるようになりました」


「あ〜、それで名倉事変とか

 名倉ショックとか言われてんだ」


「本人が一番ショックを受けているでしょうね」




講義が終わり、一行は探索を開始する。

本日のリーダーは梓と葉加瀬が務め、

女組と男組の顔合わせが主な活動目的であった。

構図的に合コンを匂わせるが、そうではない。

今後、梓を中心としたパーティーで活動する際、

味方の性格を知っておかないと不利になるからだ。


ここに集まった者たちは、

梓に魅せられた者たちである。

よほどの事情でもない限りは

この輪から抜けようとは思わないだろう。

長い付き合いになりそうな奴らなのだ、

紹介するなら早めにした方がよい。


「……というわけで、まずは僕からいきましょう

 技術者クラス1-Aの葉加瀬文明、非戦闘員です

 将来は魔道工学者になるつもりなので、

 冒険者を目指してるわけじゃあないです

 仮免の有効期限は今年度末までなので、

 僕がダンジョンで活動できるのは1年間だけです

 まあ、皆さんとは短い付き合いになるでしょう」


早速、短い付き合いを宣言する葉加瀬。

微妙な空気になる前に中村が名乗り出る。


「冒険者クラス1-B、中村誠だ!

 バリバリ冒険者目指してるからよろしくぅ!

 魔法剣士っぽい戦い方をしてみたいけど、

 まだ魔法は使えないし、今はただの剣士だな!」


自己紹介を続けてもよい空気が維持された。

男子、男子と来たので次も男子かと思いきや……


「技術1-Aの不動茜、みんな大好き茜ちゃんだよ!

 アタシもバリバリ冒険者目指してまっす!

 ファンのみんな! 応援よろしくね〜!」


「頑張れ茜ちゃあぁぁん!!!」

「佐原、お前教室でもそれくらい声出せよ」

「なんだろ、見てるこっちが恥ずかしくなる」

「完全にキャラを作ってますねえ」


続いてヒナと佐原が「先どうぞ」と視線を送り合い、

ジャンケンの結果、佐原が負けた。


「ぼっ、僕は佐原太陽……です

 あ、冒険者クラス1-B……中村君と同じの……

 ええと、あの、一応僕も冒険者を目指してて……

 ああ、でも前線でガンガン戦う感じじゃなくて、

 サポート系の適性を活かして、後衛として前衛を

 陰ながら支えられたらいいなって……」


「え、そんなガッシリした体格なのに?

 アンタはどう見てもタンク向きでしょうが

 ファンなら命懸けでアタシを守ってみなさいよ」


「あ、じゃあ、やってみようかな……タンク」


「チョロいぞ佐原!」

「チョロい……」

「チョロいですねえ」


ヒナは梓に「先どうぞ」と視線を送ってみるが、

言葉にしないのだから伝わるはずがない。

なので、諦めて自分の紹介をさっさと済ませた。


「技術1-Bの風間雛菊です、よろしくお願いします」


「カーーーット!!

 ヒナ、もっと自分を前に出して!!

 TAKE2 !!」


「ええぇ、そんなこと言われてもなぁ

 自分、みんなみたいに将来とか考えてないし、

 流れに身を任せてるだけというか……」


「はい、『自分』いただきましたー!!

 OKでーす!!」


「なんなの……」


そして最後は梓の番。

葉加瀬から自己紹介するよう言われたので、

とりあえずそうしてみたといった感じだ。


「中央魔法学園技術者クラス1-A所属、鷲尾梓です」


以上。


「うん、知ってた」

「これぞわっしーって感じよね」

「まあ鷲尾さんですからねえ」

「ぼ、僕もあんな感じでよかったんだ……」


梓だから仕方ない。

そんな空気が流れる中、あるフレーズが飛び出す。


「しっかし、なんかアレだよな!

 鷲尾の喋り方ってロボットみたいだよな!」


一瞬、まずい発言をしたかのような空気になるが、

先日の一件があったおかげで梓をロボット扱いしても

OKということを思い出す。

その件を知らない佐原はオロオロしているが、

まあ、あとで彼にも情報共有すればよい。


「私は有機物なのでロボットではありません」


(えっ)(あれ?)(否定した……?)


「あっははは!!

 そういうところがまさに!!」


1人楽しそうな中村。

無表情なので何を考えているのかわからない梓。

梓の反応に首を傾げる技術者クラス1-Aの3名。

1人オロオロする佐原。


これから先が思いやられる。






道中でレッドスライムと遭遇し、今回は中村が挑戦。

火の玉の速度がションベンと同じであると見抜き、

着弾前に回避することに成功。

失敗を糧にする男という見立ては当たっていたのだ。

あとは剣で斬り裂いて戦闘終了。無傷の勝利である。


続いて佐原がスライムと戦闘を行なったが、

慎重に盾を構えながら敵に接近して槍で突くという

地味な絵面を、茜は露骨に退屈そうに眺めていた。

しかし、「冒険者には慎重さが求められる」と

葉加瀬から諭されて少し反省するのだった。


そして本日3回目のお相手は……


「おや、これは珍しいですね

 国内ではまだ6件しか目撃されてない新種ですよ」


新種と聞いて、パーティーの士気が上がる。

主に茜と中村だけだが、まあいいだろう。

その新種の魔物は空中をプカプカ漂うクラゲであり、

まるで毒キノコを思わせる禍々しい色合いと、

刺々しい触手が手強い相手だと思わせるのであった。


「名前は“デスクラゲ”

 何をしてくるのかわからない魔物です」


「いかにもヤバそうな名前だな……

 おい葉加瀬、どんな攻撃を仕掛けてくるんだ?」


「わかりません」


「おいおい、また俺を嵌めようってのか?

 今日は勘弁してくれよ〜!

 せっかくさっきの戦いでいいとこ見せたのに、

 女子の前で恥ずかしい目に遭うのはやだよ〜!」


「いえ、本当にわからないんですよ

 というのも、何時間待っても攻撃してこないんです

 HPをチマチマ削りながら観察しても成果無しで、

 今のところ判明してるのは『何もしない』だけが

 唯一の行動パターンらしいです

 しかし魔物である以上、人類に対する何かしらの

 敵性行動パターンがあってもおかしくありません

 ちなみに、ああ見えて毒は持ってないそうです」


「つまり、『何かしてくるかもしれない相手』なのか

 何がしたいのかわからん奴だな……」


中村が悩んでいると、もう1人のアタッカー気質が

挙手してリーダーに物申したのだ。


「はいは〜い!

 アタシにやらせて!

 なんにも攻撃してこない奴ならいいでしょ!?

 いい加減、このグローブ使わせてよ〜!」


「わかりました

 茜が電磁加速グローブを使用することを認めます」


「……え?」


なんと、あっさり承諾。

てっきりまた断られるものと思っていたが、

どういうわけか戦闘を許可してくれたのだ。

さっきの中村とのやり取りといい、

今日の梓は何か変だ。


まあ、いつも変だが。


「安全のため、出力制限を掛けています

 これは経験者から聞いた話ですが、

 彼は最高出力で思い切り魔物を殴り飛ばした際に

 鎖骨にヒビが入る怪我を負ったそうです

 拳での戦い方を磨き上げてきた経験豊富な上級者が

 そのような有様なので、茜さんが使用した場合、

 もっと過酷な代償を支払う結果になるでしょう

 なので、現在発揮できる出力は最低レベルです

 茜さんはそれでも構いませんか?」


なんだか恐ろしい話を聞いてしまったが、

茜の答えは1つだった。


「ぐぬぬ……YES !!」




何はともあれ、不動茜のデビュー戦だ。

茜は電磁加速グローブの説明書に目を通し、

とりあえずスイッチのON/OFFだけ覚えた。


「スイッチオン!!」


ゲスト設定による茜の音声入力。

この状態で他の誰かが「スイッチオフ」と言えば、

電磁加速グローブの機能が停止する仕様だ。

これも安全のためである。


ジーーーというモーターの回転音に続き、

パチパチッと静電気が発生する。

なんとも物足りない演出ではあるが、

茜自身は両の拳に力がみなぎるのを感じていた。


「茜ちゃん……いっけえええええ!!!」


ファンからの応援もあり、俄然やる気が湧いてくる。

30……いや、50%ほどだろうか?

確かに攻撃力が上がったという実感があるのだ。

最低レベルの出力でこれなら、

最高レベルを解禁したらどうなることやら……


(おっと、いかんいかん

 せっかく梓が使用許可出してくれたんだし、

 余計なことして台無しにしちゃあだめよね)


茜は軽く深呼吸をして精神を整え、

デスクラゲ目掛けて全力で拳を振り抜いた。



「フルパワーーーーッ!!!」(※最低出力です)



パァン!と、風船が割れたような破裂音。

実際、デスクラゲの体は破裂したのである。

それは茜の打撃が当たった瞬間ではなく、

吹き飛ばされて壁に衝突した際に破裂したのだ。



「フウゥゥゥ!!!

 きんもちいいーーーっ!!!」



「やったね茜ちゃん!!

 見事なストレートだったよ!!」


茜と佐原がハイタッチ!

佐原は手首を押さえながら地面にうずくまる!

電磁加速グローブはまだ稼働中だ!


「スイッチオフ」


梓の音声入力により機能停止。

この後、茜が厳重注意を受けたのは言うまでもない。

生徒情報


氏名:不動茜 <フドウアカネ>

所属:中央魔法学園技術者クラス1-A

役割:未登録


武装①:電磁加速グローブ

武装②:中央魔法学園女子制服


魔法:未登録


宿星:ベテルギウス

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