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進め!魔法学園3  作者: 木こる
新星
6/33

6.現場実習

技術者クラス1-Aの生徒たちは、

鷹宮テクノロジーで開発される製品に必要な

部品を製造している工場へとやってきた。

技術者を育てるためのクラスなのだから、

このような現場実習が行われるのは当然である。


先着21名の面々は中学時代の成績が悪かったものの

大体は『理系だけは得意』な男子で構成されており、

物作りが好きな彼らはこのイベントを楽しんでいた。


が、女子3名のうち2名は『理系も文系も苦手』という

ポンコツぶりなので、全く楽しめていなかった。

しかもどうやら給料は出ないとのことで、

これでモチベーションが上がろうはずもない。

残りの1名だけは、黙々と単純作業をこなしながらも

どこか張り切っているような、なんだかいつもより

活き活きしているような印象を受ける。



バリ取り。

切削や穿孔などの金属加工の工程において生じた

金属カスを、人力で取り除く作業である。

人力といっても筋力に頼るものではない。

金ヤスリなどの専用工具を使用して、速やかに、

そして正確に、大量の部品から忌々しい金属カスを

取り除き続けるという、根気の要る作業なのだ。

エアブローで吹き飛ばされた金属カスが目に当たると

失明する危険性があるので、必ずゴーグルをしよう!



1-A女子トリオはこの雑用を任されていた。

3分の2は工学知識もやる気も無い女子なのだから、

下っ端の仕事を割り振られるのは仕方がない。

工学知識もやる気もある梓には、とばっちりである。

それでも活き活きしているようには見えるが……。


「ヒナはどんな男がタイプ?

 このクラスに気になる男子とかいる?」


「えっ、唐突な恋バナ!?

 いないよ、そんなのっ!!」


『ヒナ』とは、風間雛菊のことである。

先日のぶっちゃけトークがきっかけとなり、

風間雛菊と不動茜は親睦を深めていた。

もう苗字プラスさん付けで呼び合うのはやめたのだ。


ちなみに不動茜は『不動さん』と呼ばれると

『不動産』を連想させるので、なんとなく嫌だった。

なので、下の名前で呼ばれることを望んだ。


「茜は恋愛経験豊富なんだろうけど、

 自分はスポ根漬けの人生だったからねぇ

 誰が誰を好きとか考えてる余裕は無かったし、

 男子からは『デカブツ』だの『モアイ』だの、

 無駄に高い身長のせいで女扱いされたことないよ」


茜は笑いを堪えている。

唐突なモアイ発言がクリティカルヒットしたのだ。


「ちょっ、その反応……!

 迂闊だった……!」


「いや、ごめん……ふふっ

 アタシはヒナが思ってるほど……うぇへへ

 恋愛経験豊富……ふっひゃひゃひゃ!!」


「ダムが決壊した……!!」


とまあ、私語全開でダラダラと作業する存在は

真面目に作業している者からすれば邪魔である。

だが、この場にいる男子たちはこれを許していた。

彼女たちの好きな男性のタイプには関心があるのだ。


特に不動茜。

彼女はアイドル顔負けの美少女……というか実際、

並行世界ではアイドル業で活躍していたのだ。

その記憶は大多数の者が保持しており、

純情な男子たちが心を奪われるのも無理はない。


風間雛菊もまあまあ美人の顔立ちをしているが、

自分より背の高い女子に劣等感を抱く者ばかりなので

恋愛対象として見ている男子はごく少数である。


「こら、そこぉ!!

 私語は許すが、ボリューム下げろ!!

 真面目にやってる奴らの迷惑だろうが!!

 仕事舐めてんのかコラァ!!」


工場長にキュートなアイドルフェイスは通用しない。

ここには取り扱いを間違えてはならない工業用機械が

いくつも存在するのだ。

下手をしたら指を失ったりもする。そんな環境だ。

実習に来た若者たちには緊張感を持ってもらいたい。

本当は私語厳禁を徹底してやりたいところだが、

そこまですると作業能率が下がりかねない。

緊張感とリラックス。

その両立こそが製造現場には重要である。




休憩時間に入り、私語を注意された女子2名は

工場長の悪口で盛り上がるというムーブをかます。

髪型、体型、架空の悪事、なんでもいい。

とにかく粗を探して共通の敵をボロクソ言いまくる。

そうして女の友情は深まってゆく。


まったく褒められたもんじゃないが、

彼女たちは10代半ばの少女なのだ。

自分が無敵だと思い込んでしまう時期にある。

大人を舐めてしまうのも仕方がない。

いつか自分が舐められる側に回るとも知らずに。


「よっ、嬢ちゃんたち!

 さっきはみんなが見てる前で怒鳴って悪かったな」


と、話題の中心人物がやってきたので、

2人はピタリと悪口をやめて工場長にお辞儀する。


「いや〜、嬢ちゃんたちの恋バナに

 男連中が興味津々で聞き耳立ててたもんでなぁ

 このままじゃ事故が起きるかもと思って、

 ついガツンと言っちまったんだ

 ここに怖い大人がいるぞって示しておかないと、

 すぐに場の空気が緩くなっちまうからな

 男連中は表面上だけでも真面目に作業してたし、

 あの時は明らかにだらけてる嬢ちゃんたちを

 怒鳴るしかなかったんだ わかるよな?」


「ああ、はい すみませんでした……」

「これからは真面目にやります……」


「はっはっはっ!

 大丈夫、大丈夫!

 急ぎで欲しい部品はもう1人の嬢ちゃんの担当だ!

 君らには重要度の低い部品を任せてあるから、

 適当に手ぇ抜きながらやってくれて構わないぜ!

 ただし、俺に怒鳴られない程度にな!」


(あの子、単純作業得意だもんなあ……)

(これが適材適所ってやつね……)


「ほれ、こいつは怒鳴っちまったお詫びだ

 ジュース買うなりなんなりと好きに使ってくれ

 他の奴らには内緒だぞ?」


と、500円玉を手渡してから工場長は去った。


「工場長……ええ人や」

「仕事のできる男って素敵」


チョロい女たちである。




本日の現場実習が終了して帰り支度をしていると、

“男子と女子の初会話”というイベントが発生した。


入学初日に起きてもおかしくなさそうなものだが、

このクラスの男子はシャイな性格の者が多く、

女子は女子で話しかける必要性がなかったため

イベントの発生時期が遅れていたのだ。


「やあ、鷲尾さん

 実に見事な働きぶりでしたね

 黙々と作業に取り組む姿勢は素晴らしいです

 それになんと言ってもあの規則正しい精密な動き!

 まるでロボットです!

 僕は感動しちゃいましたよ!」


「私は褒められると嬉しくなります」


葉加瀬文明(はかせふみあき)は同年の平均的な女子よりも背が低く、

貧相な体躯をしているので周りから舐められていた。

相当視力が悪いのか分厚い瓶底眼鏡を掛けており、

いつもノートPCを持ち歩いている様子から

付けられたあだ名は『博士』。

どちらにせよ苗字がハカセなので発音は同じだが、

本人はそのあだ名を気に入っているようだ。


先着21名の1人でありながら学業成績に大変優れ、

歴代受験者の中で唯一の全教科満点という

最高得点を記録した秀才キャラである。

その秀才から賛辞を受けたのだ。

これは誇らしい。


……と思うのは梓だけだった。


「ちょっと葉加瀬君!!

 いくらなんでも酷い!!」


「ロボットなんて言っちゃだめでしょ!!

 そりゃ、アタシもそう思ってるけどさあ!!」


サボり女子2名による余計な援護射撃である。


「はあ? 酷い?

 何を言ってるんですかねこの人たちは……

 僕は鷲尾さんを褒めたんですよ

 彼女も喜んでるじゃないですか

 部外者は口を挟まないでくれますか?」


「ぶ、部外者!?」

「関係無い人って意味だよ!!」

「それは知ってる!!」

「ロボットが褒め言葉なわけないでしょ!?」


「いいえ、褒め言葉です

 少なくとも僕がそう言われたら喜びますよ」


「葉加瀬君はそうなんだろうけど、

 わっしーもそうだとは限らないでしょ!?」

「そうそう、勝手に喜んでることにしないでよね!!

 わっしーだって感情のある人間なんだよ!?」


「うるさい人たちだなあ……

 じゃあ、本人に確認してみてください

 ロボットと呼ばれてどう感じるのかを」


「わっしー、どっち!?」

「どうなのわっしー!?」


「…………」


無回答。


「ほらぁ、エラー起こした!!」

「嬉しくないって証拠だね!!」


「……あなたたちは相当頭が悪いんですね

 そんな聞き方で彼女に伝わるはずないでしょう

 まず主語が抜けてるんですよ、主語が」


「うわ、すんごいストレートに馬鹿にされた!!」

「ところでシュゴって何!?」

「それは知らない!!」

「どう聞けば伝わるってのよ!?」


葉加瀬はハアァと溜め息を吐き、

梓に向かって簡単な質問をした。


「鷲尾さん

 あなたはロボットと呼ばれたら、

 どんな気持ちになりますか?」


「嬉しくなります」


「えっ……?」

「あれ……?」


「鷲尾さん、もう1つ質問させてください

 あなたは『わっしー』が誰だか知ってますか?」


「いいえ、知りません」


「んんん……!?」

「通じてなかった!?」


通じるわけがない。

本人にそう呼んでもいいか確認を取っていないのだ。

何度も繰り返せば梓も自分のあだ名だと認識するが、

『わっしー』と呼ばれたのは今日が初めてである。


「いや、普通わかるよね?」

「苗字が鷲尾なんだからねえ?」


「『普通』の基準なんて人それぞれですよ

 鷲尾さんは不確定な情報には振り回されないんです

 1対1での会話中なら気づけたかもしれませんが、

 今この場には30人以上の人間がいるので、

 他の誰かを呼んだ可能性を捨て切れないのでしょう

 それが彼女にとっての『普通』なんです

 まあ、僕の憶測ではありますがね」


「そういえば、物事の捉え方が違うって

 本人が言ってたっけ……」

「ねえ、ひょっとしてアタシたちさあ……

 口を出さない方がよかった?」


「ええ、まったくその通りです

 せっかく会話が弾んでいたのに台無しですよ」


(弾んでた……かな?)

(一方的に喋ってたような……)


「とりあえずバスに移動しましょうか

 あなたたちへの説教はそれからです」


「え、説教されんの!?」

「もう既に凹んでるんだけど!!」


こうして余計な口出しをした部外者2名は、

帰りのバスで葉加瀬から説教を受けるのであった。


そして葉加瀬は他の男子から疎まれるようになった。


理由は単純、嫉妬である。

このクラスに所属するシャイな男子たちは

女子とまともに会話したことがない者ばかりであり、

30分以上も女子と喋り続けられる葉加瀬の存在が

とても眩しく見えてしまったのだ。


しかも、彼が喋っている相手はあの不動茜なのだ。

風間雛菊とも喋っているが、やはり不動茜だ。

彼女と面と向かって30分以上も会話するだなんて、

羨ましすぎてどうにかなってしまったのである。

生徒情報


氏名:葉加瀬文明 <ハカセフミアキ>

所属:中央魔法学園技術者クラス1-A

役割:未登録


武装:中央魔法学園男子制服


魔法:未登録


宿星:アルコル

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