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進め!魔法学園3  作者: 木こる
新星
5/33

5.おあいこ

友達1号を調査に向かわせてから8時間が経過し、

もう日付が変わりそうな頃合いだ。

監視員は少しだけダンジョンの中へと足を踏み入れ、

1人でパズルに興じる少女の姿を見て安心する。


「まだ戻ってこないみたいだね、友達1号は……

 途中で電池が切れちゃったのかな?」


「その可能性は低いです

 友達1号は最大で約72時間稼働します

 送り出した時のバッテリーは100%でした」


「じゃあ、道に迷ったのかなあ?」


「その可能性は低いです

 友達1号は常に自分の座標を把握しています」


「途中で転んじゃったとか……」


「友達1号は転倒しても自力で起き上がれます」


「急な段差とか狭い通路とかに引っ掛かった

 魔物から攻撃を受けて破壊された

 同じフロアで活動してる他の人間に持ち去られた

 ……さあ、どれ!?」


「答えを選ぶことはできません

 どれも可能性があります

 私は友達1号の帰りを信じて待つしかないのです」


「そう……

 でも、もう夜遅いんだしさ、

 そろそろ引き上げたらどうだい?

 回収するのは後日でもいいじゃないか

 他の冒険者に呼び掛けておくよ

 珍しいロボットを見ても持ち去らないようにね」


「それはとても助かります

 では、回収は後日に行います

 本日の冒険活動を終了します」


そう言うと梓は速やかに荷物をまとめ、

さっさとダンジョンから立ち去った。

監視員はその小さな背中を追いかけながら、

心の中で深い溜め息を吐くのであった。


(やっと帰れる……)




翌日、ダンジョン前に来たのは梓……ではなく、

今日初めて挑戦するであろう男子たちだ。

おそらく冒険者クラスの生徒だろう。

技術者クラスの理系男子とは雰囲気が違う。


彼らに友達1号の件を伝えるため、

監視員は少年グループに近づいて声を掛けた。


「ダンジョン内で四足歩行のロボットを見かけても、

 悪戯したり持ち去ったりしてはいけないよ

 それは地形の調査を行なってるんだ

 もしも動きを止めているのを見かけたら、

 発見した場所だけ教えてもらえるかな?

 デリケートな機械だから、君たちは触らないでね」


「はいはーい、了解でーす」


伝えるべきことは伝えた。

実際デリケートな機械なのかどうかは不明だが、

工学知識の無い連中には触らせない方がいいだろう。

誰が作ったのかという情報を伏せておいたのは、

学園の所有物だと勘違いしてもらいたいからである。


冒険者クラスの生徒は、技術者クラスの生徒に対して

オタク集団のレッテルを張って見下す傾向がある。

まあ実際そうなのだが、その不毛なマウントにより

生徒間で軋轢が生じているのが現実だ。

そのため当学園ではいじめ問題が頻発している。

もし友達1号が技術者クラスの生徒が作った物だと

知られれば、この少年たちは何をするかわからない。


女の子が悲しむ姿は見たくない。

それと女の子から感謝されたい。


監視員のおじさんは女の子の味方なのだ。



少年たちが入場してから数分後に梓がやってきた。

ちゃんと入場チケットの2人を引き連れている。

正直なところ、入口付近でじっとしているぶんには

監視の目が行き届く範囲なので梓1人でも通してよい。

だが「他の2人は不要」なんて言えるはずもなく、

どうせその2人は速攻で帰ることが予想されるので、

監視員は何も言わずに三人娘を見送るのであった。




そして、本日の冒険活動が開始された。


「じゃ、お疲れ〜」

「頑張ってね〜」


「はい、お疲れ様でした

 風間さんにはあとでジュースを奢ります

 はい、私は頑張ります

 不動さんにもあとでジュースを奢ります」


薄情な仲間たちは速攻で帰ろうとした。

だが、梓がリュックサックから取り出した物を見て、

ほんの少しだけ興味が湧いたので足を止める。


「それってジグソーパズル?」

「へえ、鷲尾さんも遊んだりするんだ」


「はい、ジグソーパズルです

 はい、私も遊びます

 昨日はこれで遊びながら友達1号の帰りを待ちました

 今日もこれで遊びながら友達1号の帰りを待ちます」


「ふーん、でもそのパズル……

 絵が描いてないよ?」

「あ、ホントだ

 自分で絵を描いて遊ぶ物なんじゃない?」


「はい、このパズルには絵が描かれていません

 いいえ、自分で絵を描いて遊ぶ物ではありません」


「……?」

「……?」


梓に代わって説明しよう。


それは最高難度のジグソーパズルと名高い、

“ミルクパズル”という代物である!

一切絵が描かれていないため、

ピースの形を頼りに揃えるしかないのが特徴だ!

完成させるには強い忍耐力が必要になるぞ!

さあ、みんなもやってみよう!



10分後。


「ぬぁぁぁあああ!!

 無理!! もう無理!!」

「これは遊びの道具じゃない!!

 拷問器具としか思えない!!

 頭がおかしくなっちゃうよ!!」


「いいえ、遊びの道具です

 これは拷問器具ではありません

 頭がおかしくはなりませんので安心してください」


そう淡々と言われても説得力が無い。

ビジネスライクな関係扱いされている2人は、

梓のことを既に頭がおかしい女だと思っているのだ。

それを口に出すのはさすがに失礼だが……


「鷲尾さんは既に頭がおかしい!!」

「ちょ、不動さん!!」


ブレーキの利かない正直者がここに1人。


「その可能性は高いです」


「えっ」「えっ」


ここにも似たようなのが1人。


「医師の診断を受けたことがないので推測ですが、

 おそらく私は発達障害なのでしょう

 それを大多数の人間は『頭がおかしい人』と

 認識しているのが実情です

 なので、多数派の人間に属するであろう不動さんが

 私を『頭がおかしい人』扱いするのは当然です」


「あ、ちょっ、その……」


「謝る必要はありませんよ

 私は不愉快にはなっていません

 私も不動さんは頭がおかしい人だと思っています

 それを口に出すのは失礼なので黙っていましたが、

 これでおあいこなのです」


「んっ……

 ちょっと今なんつったぁ!?

 アタシの頭はおかしくない!!」


「いいえ、少数派の私からすれば

 多数派の人間は全て頭がおかしい人に思えます

 物事の捉え方が違うのだから当然のことです

 不動さん、忠告しておきます

 私にあなたと敵対する意思はありません

 できれば友好関係、もしくは無関係を望んでいます

 私はおあいこで手を打ちたいと思っています

 なので、その拳を引っ込めていただけませんか?

 もしあなたが私への攻撃を開始した場合、

 私はあなたを撃たなければなりません

 私の攻撃はあなたの攻撃よりも早く標的に届きます

 威力を調整するので死にはしませんが、

 あなたは確実に痛い思いをします

 私は人間を傷付けたくはありません

 これは魔物を殺すための武器なのです

 どうか選択を間違えないでください」


銃口を向けられながらそう言われたため、

不動茜は拳を引っ込めるしかなかった。




その後しばらく風間雛菊と不動茜は撤収せず、

ミルクパズルを楽しむリーダーの姿を見学していた。

一切表情を変えずに黙々とピースを揃えているので

本当に楽しいのか?と思わずにはいられない。

それと同時に、集中力や忍耐力の高さに驚かされる。


「ねえ不動さん、もう帰らない?

 あんなことがあった後だし気まずいでしょ?」


「ん?

 べつに気まずくないよ?

 おあいこで決着したからね

 つまり、アタシは負けてない!

 これ重要!

 それより鷲尾さんってすごくない?

 ものすんごい正直!

 アタシ、正直な人が好きなんだよね〜

 でもって嘘つきは大嫌い!」


(それが普通だと思うけど……)


「実はアタシさあ、

 別の世界ではアイドルやってたんだよね〜」


「いきなりなんの話!?」


「ほら、名倉ショックとかゆうやつ!

 別の世界同士が合体しちゃったアレよアレ!」


「いや、それはわかるけど……

 なんでこのタイミングで切り出したのかと

 ……まあいいや、話の続きをどうぞ」


「うんうん、続けちゃうよ

 で、芸能界は嘘つきだらけでねぇ

 それで嘘つきが嫌いなわけよ」


「ああ、急に話が切り替わったわけじゃなかったんだ

 自分が変に反応してしまったばかりに……」


「風間さんは何してたー?」


「ん、自分はそんなに変わらないよ

 強いて言えば、中学の部活が違うくらいかな

 向こうの世界ではバレー部に入ってて、

 こっちの世界ではバスケ部ってだけの違いだよ」


「あはは、背高いもんね〜

 どっちの世界でも活躍したでしょ?」


「それはまあ、うん……

 でも背高いのコンプレックスなんだよね

 両親の遺伝子がなまじ優秀なばかりに……」


「両親何してる人ー?」


「バスケ選手とバレー選手」


「サラブレッドじゃん!!

 ……って、あれ?

 風間さんって技術者とか目指してないんだよね?

 それなのに受験勉強してた……?

 部活で活躍してたんだし、現役選手の娘なら

 スポーツ推薦でどっか入れたんじゃないの?」


「それはそうなんだけど、

 実はバスケもバレーも好きじゃないんだよね

 だから推薦蹴ってまで受験勉強に励んで

 スポーツとは無縁の高校を目指してたんだけど、

 自分頭悪いから心折れかけてね……

 そんな時、運良くこの学園に受かったもんだから

 もうここでいいや〜って流れでここにいます」


「なるほど、そうゆう流れだったんだ〜

 アタシはめっちゃ冒険者目指してる!

 甲斐晃の大ファン!

 既婚者なのが残念だけど、めっちゃタイプ!」


「すごくシンプルな理由でわかりやすい」


とまあ、お喋りに花を咲かせる女子2人と

1人で黙々とパズルに取り組む梓の姿を見て、

監視員のおじさんは内心ホッとした。

ストーカー行為ではない。

入場後、速攻で帰ってくると思っていた2人が

なかなか帰ってこないので心配になったのだ。


(あの子も輪に加えてやれば……いや、

 主語の抜けた会話とか苦手だろうなあ)


理解が深まるおじさんであった。

生徒情報


氏名:不動茜 <フドウアカネ>

所属:中央魔法学園技術者クラス1-A

役割:未登録


武装①:電磁加速グローブ

武装②:中央魔法学園女子制服


魔法:未登録


宿星:ベテルギウス

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