4.初めての友達
1人でダンジョン前までやってきた新入生がいるので、
監視員は己の使命を果たそうと彼女に声を掛けた。
「やあ、鷲尾さん
わかってると思うけど、ここは通せないよ
昨日のように経験者の同伴があれば別だけどね
もしくは友達とパーティーを組むか……
これ毎回言わないといけないのかな……」
「毎回言う必要はありません
私はルールを理解しています
私は友達を作りました」
「おっ、そうなの?
よかったね、おめでとう!」
「ありがとうございます
それでは失礼します」
監視員に感謝を伝えた梓はスタスタと歩き出し、
何食わぬ顔でダンジョンへ入場しようとした。
「ちょ、待て待て待てーい!!
全っ然ルール理解してないでしょ!?
新入生を1人で行かせるわけにはいかないの!!
しかも君、技術者クラスなんだよね!?
冒険者クラスの生徒ならまだしも、
戦闘訓練受けてない子には危険すぎる!!」
「私はルールを理解しています
そして技術者クラスの生徒で間違いありません
あなたは怒っています
不愉快にさせてしまい、大変申し訳ございません
なぜ怒っているのですか?
私はルールを守っています
私は友達を作りました
私は友達とパーティーを組んでいます」
「その友達を連れてきなさい!!」
「ここにいます」
そう言うと梓はリュックサックを地面に置き、
中から四足歩行のロボットを取り出したのだ。
友達1号である。
「ああぁ……
ああ、そういうことね!
『友達を作りました』って、そういう意味ね!」
「納得していただけたようで何よりです」
「してない、してないよ! 納得!
あのね、違うんだ……そうじゃないんだ
この場合の『友達』は主に同級生を指していて、
その、つまり、人間の友達って意味なんだよ……」
「人間の友達でないといけないのですね?
私は人間の友達を作るのが苦手なので、
また経験者を連れてくるしかありませんね」
「ああ、えっと……
べつに実際に誰かと友情を育む必要は無いよ
ビジネスライクな関係……利害の一致でいいんだ
自分もダンジョンに行きたいって同級生なら、
探せばすぐに見つかるんじゃないかなあ
ちなみに『同級生』についてだけど、
この場合は『同学年』のことを言っているよ」
「利害の一致ですか
自分もダンジョンに行きたいという人間と
手を結べばよいのですね?
それならなんとかなりそうです」
「うん、理解してくれたようで何よりだよ
まあ上級生を連れてくるのでも全然構わないけど、
なるべく同じ境遇の者同士で足並みを揃えた方が
チームワークの強化に繋がるらしいんだ
……あ、君が連れてくる人数は2人にしておこうか
最低でも3人のパーティーを結成したら、
ここを通ってもいいことにするよ
何か根拠のある数字ってわけじゃないけど、
2人だけじゃなんとなく不安だからさ……」
「はい、わかりました
私は3人以上のパーティーを結成します」
目標の定まった梓はクルリと方向転換し、
校舎のある方角へと消えてゆく。
彼女が見えなくなると、監視員は溜め息を吐いた。
(なんて疲れる子だ……)
梓が向かったのは技術者クラス1-A。
まずは自身の所属している教室から攻める作戦だ。
同じ境遇の者が最も多く、勧誘に期待できる。
25名中21名は一般入試の合格者であり、
1-Bの生徒たちから見下されている。
実際、中学時代の成績が悪い者ばかりなのだ。
会場に来ただけで運良く合格した先着21名が、
実力で特別入試を突破した29名の成績優秀者から
馬鹿にされるのはある意味仕方がない。
梓も先着21名の1人であり、国語の成績は酷かった。
漢字を書き間違えたりはしないが、
登場人物の心情を読み取る問題は苦手なのだ。
「風間さんはダンジョンに行きたいですか?」
「え?
あ、うん
少し興味ある……かな」
「では行きましょう」
1人目で勧誘成功。
幸先の良いスタートである。
「え、え?
ちょっと待って鷲尾さん!
今から!?
いや、その、自分、装備とか持ってないし、
そもそも自分が魔物と戦うとか考えてなくて!」
「私は風間さんに装備品を貸すことができます
電磁加速グローブと電磁加速シューズ、
どちらを貸せばよろしいですか?
魔物を殺すのは私の役割なので、
風間さんが戦う必要はありません
私はただパーティー人数を揃えたいだけなのです」
「人数合わせなんだ……
いや、でも急に言われてもねぇ
実は自分、この学園を受験した理由は
さっさと受験勉強から解放されたかっただけで、
冒険者とか技術者に憧れてるわけじゃないんだ
ほら、8月に入試があったでしょ?
あんまり自信があったわけじゃないけど、
まさか会場にいただけで合格するなんてね……」
「……?
風間さんは何を言いたいのですか?
私は電磁加速グローブと電磁加速シューズ、
どちらを貸せばよろしいですかと質問したのです
私は言葉の裏を読むのが苦手なので、
曖昧な回答をされると困ってしまいます
不器用ですみません」
「ええぇ、どうしよう
なんて答えれば……
ああ……えっと、今日はパス!」
「わかりました
では、明日また声を掛けます」
翌朝、風間雛菊は教室まで来て早々に
同級生の不動茜から声を掛けられた。
男女の割合が22:3のこの教室では
貴重な女子仲間なので、ありがたい。
彼女にはそのうち話しかけようとは思っていたが、
風間雛菊の身長は平均値を遥かに超えて191cmあり、
実に女の子らしい不動茜に自分から声を掛けるのは
少々気が引けていた。
ただでさえ彼女はアイドル顔負けの可愛さなのだ。
自分のような女子離れしたデカブツ女が近づくのは
迷惑行為なのでは、と悩んでいたのである。
そんな時に向こうから声を掛けてくれたのだ。
これをきっかけに仲良くなろう。
そう思っていたのだが……
「おはよう風間さん!
アタシがグローブ使うけど、いいよね?」
「へ? グローブ?
一体なんの話……ハッ!」
昨日の会話が頭をよぎる。
ナントカグローブとナントカシューズの件だ。
あのロボットのような喋り方の同級生は、
不動茜にもダンジョン行きのお誘いをしたのだろう。
見る限り、彼女は乗り気だ。
これはOKしてしまったということだ。
「うふふ、放課後が楽しみだね!
1-A女子トリオでダンジョンにレッツゴー!」
もう逃げられない。
放課後、1-A女子トリオはダンジョン前まで来た。
冒険者クラスにも1-Aは存在するのだが、
この場合は技術者クラス1-Aを指している。
監視員はどこか不服そうな顔をしながらも、
この完全なる初心者3名を通さざるを得ない。
わざわざ『同学年』というヒントを与えたのだが、
このパーティーに冒険者クラスの生徒はいない。
鷲尾梓には伝わらなかったのだ。
せめて魔法能力者が1人でもいれば安心できるのだが、
その儚い願いが届くことはなかったのである。
「ビジネスライクな関係の人間を2名連れてきました
これでパーティー人数が3人となったので、
私はダンジョンに入場することができます」
「うん、そうだね
不安だからおじさんも同行させてもらうよ」
それは監視員の仕事ではない。
持ち場を離れることになるので、職務放棄である。
あとで監視員を監視する監視員から叱られるだろうが
そんなの知ったこっちゃない。
心配だからついていく。それだけだ。
監視員のおじさんは完全なる一般人だが、男なのだ。
ちょっとだけヒーロー願望があり、
ちょっとだけハーレム願望を兼ね備えている。
いざとなったら『ここは俺に任せて先に行け!』
をやって、カッコいいところを見せたいのである。
三人娘とおじさんはダンジョンに入場後、
すぐに立ち止まった。
特に何か異状があったわけではないが、
リーダーが歩みを止めたのでそれに合わせただけだ。
初めて入場する者たちは懐中電灯で辺りを照らし、
冒険の始まりに胸をときめかせていた。
「へえ、中はこんな感じなんだ」
「洞窟みたいだね!
宝箱とかあったりして!」
「残念だけど、宝箱は置いてないよ」
梓はその会話には加わらず、リュックサックの中から
四足歩行のロボットを取り出してスイッチを入れる。
すると友達1号はカシャカシャと音を立てながら、
光なき通路の奥へと消えていった。
「鷲尾さん、今のは……?」
「友達1号です
地形の調査に向かわせました
それが本日の冒険活動の目的です」
「へえ、地形の調査」
「アタシたちも早く行こうよ!」
「どこへ行くのですか?」
「えっ?」「えっ?」「ああぁ……」
本日の目的は地形の調査である。
友達1号は地形調査用のロボットである。
友達1号は発進済みである。
本日の活動は既に行われているのである。
「私たちは友達1号の帰りを待てばよいのです
この場を離れる必要はありません
むしろ、この場を離れてはなりません
でないと友達1号の回収が困難になります」
「つまり……待機!」
「せっかくダンジョンまで来たのに!?」
「その、友達1号はいつ頃戻ってくるのかな?」
「はい、待機します
はい、このためにダンジョンまで来たのです
友達1号がいつ戻ってくるのかは不明です
何事も無ければ約6時間後と予測しています」
「まさかの6時間待機……!!」
「はい、6時間待機です」
「こんなの全然冒険じゃない!!」
「いいえ、正式な冒険活動です」
「おじさんは安心したから帰らせてもらうよ」
「はい、ありがとうございました
あとでジュースを奢ります」
「え、ジュース?
いやいや、気持ちだけ受け取っておくよ
おじさんは興味本位でついてきただけだしね」
「そうですか、わかりました
では、ジュースを奢りません」
「あ、それなら自分も帰っていい?」
「ちょ、風間さん!」
「はい、風間さんも帰っていいですよ
あとでジュースを奢ります」
一瞬、妙な空気になる。
部外者の監視員が本来の仕事に戻るのはいいとして、
パーティーメンバーが抜けるのはどうなんだ?と。
だが、この機械的な判断をするリーダーのことだ。
『入場するには3人以上の人間が必要』という条件は
既にクリアしているので、仲間は用済みなのだ。
風間雛菊と不動茜は、もう帰ってもいいのである。
「じゃ、お疲れ〜」
「いやいや、ここで風間さんが帰ったら
アタシと鷲尾さんの2人きりになっちゃうでしょ?
この暗い洞窟で鷲尾さんと6時間待機……
そんなのとても耐えられない」
「不動さんも帰ればいいんだよ
あんまり危険な場所じゃなさそうだし、
鷲尾さん1人でも大丈夫でしょ
出口はすぐそこなんだし、
もしもの時は簡単に逃げられるよ」
「あっ、そうか」
風間雛菊は眉をしかめた。
この不動茜という女からはポンコツ臭がする。
顔面偏差値はものすごく高いが、頭は悪そうだ。
もしかしたら自分より下かもしれない。
全教科赤点を取ったことがある自分よりも、だ。
技術者クラス1-Aにはろくな女がいない。
そう痛感しながら学園に帰還する2人だった。
生徒情報
氏名:風間雛菊 <カザマヒナギク>
所属:中央魔法学園技術者クラス1-A
役割:未登録
武装①:電磁加速シューズ
武装②:中央魔法学園女子制服
魔法:未登録
宿星:スピカ




