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進め!魔法学園3  作者: 木こる
新星
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3.脅威の新人

昨日、梓は監視員と別れた直後に電話を掛けていた。


「もしもし、私は鷲尾梓という者です

 あなたは大上隼斗さんですか?」


『ああ、そうだけど……鷲尾?

 もしかして発明おじさんのご家族の方かな?

 それなら俺の連絡先を知っていてもおかしくない』


「はい、私は発明おじさんの娘です

 今から中央魔法学園まで来ていただけますか?」


『今から!?

 え、いや、待ってくれ』


「はい、待ちます

 到着したら連絡をお願いします」


通話終了。


その直後、電話が掛かってきたので

梓は即座に応答する。


「もう到着したのですか?

 正門と駐輪場、どちらに向かえばいいですか?」


『違う、そうじゃない!!

 今の「待ってくれ」はそういう意味じゃない!!

 よく知らない相手からいきなり無茶振りされて、

 どう答えようか考える時間が欲しかったんだ!!』


「はあ、そういう意味でしたか

 私は言葉の裏を読むのが苦手です

 そのせいで不愉快にさせてしまい、

 大変申し訳ございませんでした」


『いや、不愉快というより、

 ただ困惑しているだけだ……』


「あなたは怒鳴りました

 それは不愉快であることを表明したのでは?」


『え、怒鳴った?

 ああ、うん たしかに大声は出したな

 言葉を強調するとそうなることもある

 誤解させて悪かった

 今後、君と会話する時は注意するよ』


「では、不愉快にはならなかったんですね?」


『ああ、不愉快にはならなかった

 ……それで、なぜ中央魔法学園なんだ?

 しかも今からって……しかも俺って……』


「私は中央魔法学園の生徒でして、

 中央魔法学園ダンジョンに入場したいのですが、

 1人でダンジョンに入場しようとしたところ

 ダンジョンの入口で監視していた監視員さんから

 『1人で行かせるわけにはいかないよ

  友達とパーティーを組むか、

  先輩に同伴してもらいなさい』

 と言われまして、友達のいない私は

 友達とパーティーを組むことはできないので、

 先輩に同伴してもらうしかありません

 なので、大上先輩に同伴の依頼をしました

 私が『今から』と言ったのは、できるだけ早く

 私の目的を達成したかったからです

 私が大上先輩に同伴の依頼をした理由は、

 私が情報を握っている相手ならば

 勧誘の成功率が高いと判断したからです」


『ああ、君は……

 正確に伝えようとしているのはわかるけど、

 何度も同じ言葉が重複する言い回しのせいで

 かえって理解しづらくなっているんだ

 思い出しながら喋っているせいだろうな

 とりあえず、今日は諦めてくれないか?

 俺にも予定があるんだ』


「はい、今日は諦めます」


通話終了。



隼斗は電話を掛け直そうか迷ったが、やめておいた。

どうせまた明日も向こうから掛かってくるのだ。

(この件を引き延ばしてはいけない……)

そう判断した隼斗は翌日、名古屋へと向かった。




そして現在。

SSRの先輩を護衛に付けた梓は、

初めてのダンジョンで早速魔物と遭遇する。


レッドスライム。

世界統合以降に生まれた新種の魔物であり、

通常のスライムとは違い、殺傷能力を持っている。

生涯で1発限りではあるが、火の玉を吐き出すのだ。

まあ、マッチの炎程度の大きさで威力も低いのだが、

汚れた液体を飛ばしてくるだけの通常版と比べれば

遥かに危険な相手であることは間違いない。


その個体の中央にパシュン!と風穴が空く。

梓の音波銃が火を吹いたのだ。


「目的を達成したので帰還します」


「えっ、これで終わりか!?

 たったこれだけのために俺は呼び出されたのか!?

 まあ、さっさと帰れるのはありがたいけども……

 あ、今の大声は怒鳴ったわけじゃないぞ

 言うなれば、困惑の叫びだ

 不愉快にはなっていないから安心してくれ」


「私は『この武器が魔物に対して有効か否か』

 という確認を行いたかっただけですので、

 その目的を達成した今、留まる理由がありません

 大上先輩を呼び出したのはこのためです

 ありがとうございました

 不愉快にはならなかったようで安心です」


梓の意見は間違っていない。

入学2日目の新人がこの場にいること自体おかしい。

隼斗が新人だった頃ならまだしも、世界統合後の

新種の魔物が現れるようになった現在の環境では、

未熟な仮免冒険者が長居するべきではない。

それはわかっている。わかっているのだが……


「今倒したのは随分と柔らかい魔物だ

 ちょっとつついただけで簡単に倒せる相手なんだ

 そんなサンプル1匹だけで判断していいのか?

 ここへ来る前に調べておいたんだが、

 このフロアには物理防御力が高いモノリスという

 新種の魔物が出現するそうだ

 攻撃手段は近接時の体当たりのみで危険度は低い

 そいつに君の銃が通用するか試したらどうだ?」


「言われてみればたしかに、

 硬い相手の方が確認作業に向いてますね

 私は目的ばかりに気を取られて、

 そこまでの考えに至りませんでした

 では、モノリスを探します」


パシュン、と梓は何も無い空間に向かって発砲した。


「んっ……え?

 今、なんで撃ったんだ?

 実弾じゃないとはいえ銃なんだろ?

 扱いには気をつけてくれ」


「目標の位置を捕捉するために撃ちました

 はい、これは実弾ではありませんが銃です

 取り扱いには充分注意しています

 目標を発見しました、こっちです」


そう言うと梓は方向転換し、スタスタと歩き出した。

放心しかけていた隼斗はすぐに梓を追い抜き、

護衛より先に進まないよう彼女に注意する。

この新人に対して恐怖に似た好奇心を抱きながら。


(まさか反響定位……?

 音の跳ね返りを利用して物体を探知する技術だ

 だがレーダーのような装置を使っていないし、

 この子は自分の耳でそれをやったのか……?)




隼斗の読みは的中した。

フロア内に1匹しか出現しないモノリスの位置を、

梓は空撃ち1発で正確に捕捉していたのだ。

でなければ発砲から3分以内に会えなかっただろう。

ハッタリが偶然当たったという可能性もあるが、

彼女が嘘をつける人間ではないことはわかるし、

そのようなハッタリをかます理由も思いつかない。


鷲尾梓は地獄耳。

そう考えるのが妥当である。


それはさておき、モノリスは石板のような魔物だ。

縦2m、横80cm、厚さ15cm程度の直方体であり、

他の石造りの魔物と同じく刃物による攻撃は

全くといって通じない、硬い相手である。

ハンマーなどの打撃武器で叩き割ることはできるが、

魔法で仕留めた方が労力が少なくて済む。

防御力だけでなく攻撃力も高いが、動きが遅い上に

攻撃の射程距離が短いのであまり恐れる必要は無い。


梓はその魔物を発見するなり即座に発砲した。

パシュン!と、まずはど真ん中に1発。

続いてまっすぐ50cm上にもう1発。

そこからまっすぐ1m下に最後の1発。


しかし、モノリスは倒れない。

音波銃はこの分厚い石板を貫くことができなかった。

少し残念な結果ではあるが仕方ない。

斬撃と刺突に対して高い耐性を持つ相手なのだ。

刺突に分類される武器が通用しないのは当然である。


それよりも、梓の射撃能力の高さに驚かされる。

攻撃が当たった部分は少しだけ削れており、

きっちり等間隔の点が3つ出来上がっているのだ。

おそらく聴覚だけでなく視力もすさまじいのだろう。

そして、標的に対して正確に狙いを定めるには

完璧な姿勢を維持しなければならない。

火薬を使用する銃器と仕組みは違えど

発砲時の反動は少なからず存在するはずで、

彼女はその制御技術が非常に高いということだ。


(まるで精密機械だな……)


それを本人が聞いたら喜ぶのだが。



とりあえず音波銃が有効ではない魔物もいる。

それがわかったので隼斗は引き上げようとしたが、

梓はシャチ型燃料タンクの胸ビレと尾ビレをいじり、

再びモノリスに向かって発砲したのだ。


ブォォン……と、先程までとは全く違う音がする。

重く、低く、長く、そしてブレが大きい。


「ああ、逆でした

 私はリバース設定でないと操作を誤るのです」


と、梓はシャチの尾ビレを上げてから再度発砲。

すると今度は何も聞こえない。

だが、梓は標的に向かってトリガーを引き続ける。


(事前に練習しなかったのか?

 いや、これ自体が試し撃ちなんだろうな

 それよりもこれは……超音波か?

 だとすると、彼女の狙いは……)


突如、バゴン!と大きな音を立てて

強固な守りのモノリスがあっけなく砕け散る。

もはやその残骸に石板の面影は残されておらず、

不揃いな石片へと変わり果てたのである。


(共振……!!

 固有振動数と外部から加えられた振動の周波数が

 一致することで、振動が増幅される現象だ!!

 オペラ歌手が声だけでワイングラスを割るという

 パフォーマンスと同じ原理だ!!

 それを利用して魔物を倒すだなんて……!!)


その解説は声に出さずともよいだろう。

実行した本人は原理を理解しているのだし、

今は周りに誰もいない。

ただ、梓には伝えるべき言葉がある。


「素晴らしい!!」


「私は褒められると嬉しくなります」


音波銃……可愛らしい見た目をしているが、

高い殺傷能力と汎用性を秘めた恐ろしい音響兵器だ。

この武器を使いこなせるのは梓だけだろう。

同じ種類の魔物でも微妙な個体差があるので、

個体毎に固有振動数が変わってくるのは必然である。

それを瞬時に計測して周波数の設定を行い、

標的を正確に狙い撃つという技術が求められるのだ。

そんな戦い方が可能な人材は他に存在しない。






本日の活動を終えた2人は学園に帰還し、

食堂の自販機コーナーへ立ち寄る。


「本当に報酬がジュース1本でよろしいのですか?

 私は現金1万円を支払うつもりでした

 せめてガソリン代だけでも……」


「ああ、ジュース1本で構わない

 念のため忠告しておくけど、

 他人を現金で釣ろうとしない方がいい

 一気に君のお金が搾り取られるぞ

 悪いことを考える奴はどこにでもいるもんだ」


「だめだったのですか?

 依頼をしたら報酬を支払うのが道理なのでは?」


「それはそうなんだが……

 この程度の仕事内容で1万円は高すぎる

 俺たちは魔法学園の生徒同士なんだ

 協力者にはジュース1本奢るくらいでちょうどいい」


「そうだったのですね

 では、これからはそうします」


「それから、俺は結構忙しい身なんだ

 毎日ここまで来るのは難しい

 とりあえず明日は無理だな……あさっても、だ

 行けそうな日があればこちらから連絡する」


「明日とあさっては来られないのですね

 わかりました」


(言っといてよかった……)

「それと、君は何を飲みたい?

 これは先輩からの奢りだ」


こうして隼斗は収支0円で引き上げた。

だが、収穫はあった。

鷲尾梓という脅威の新人と出会えたのだ。

それだけで充分である。

生徒情報


氏名:鷲尾梓 <ワシオアズサ>

所属:中央魔法学園技術者クラス1-A

役割:遠隔物理アタッカー


武装①:音波銃

武装②:中央魔法学園女子制服


魔法:未登録


宿星:ポラリス

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