31.鷹宮帝国の崩壊
鷹宮皇帝は退学になった。
その突然の決定事項に本人は納得がいかず、
無慈悲な宣告をした冷血漢に不服を申し立てるべく、
鷹宮テクノロジー本社へと足を運んだのだった。
だが、受付係がその歩みを止める。
「お待ちください
本日はどのようなご用件で?」
「なんだお前は!!
僕が誰だか知らないのか!?」
「はあ、存じ上げません
身分証の提示をお願いします」
「身分証だと!?
ふざけるな!!
そんな物が無くてもわかれよ!!
お前、僕が社長になったら真っ先にクビだぞ!!」
「身元不明の方を通すわけには参りません
速やかにお引き取り願います
この先は関係者以外立入禁止ですよ」
「僕は社長の息子だ!!
関係者に決まってるだろう!?
そんなこともわからないのか!?」
「はあ、社長の息子ですか……
それならば尚更、身分証の提示をお願いします
社長の親族を騙る詐欺の可能性がありますので」
「詐欺だと!?
ふざけるな!!
この僕が詐欺師なわけがないだろう!!
お前はクビ決定だ!! この無能!! カス!!」
すると速やかに屈強な警備員が駆け付け、
部外者を敷地外に放り出すのであった。
仕方なく自宅で待機していると、1本の電話が入る。
発信者は鷹宮雷同──鷹宮テクノロジー社長、
そして鷹宮皇帝の父親である。
「パパ!!
何してんだよ!!
どうしてこの僕が退学なんだよ!!
こんなのおかしいよ!!
どうしちゃったんだよ、パパ!!」
『おい、やめろ……
まずその気持ち悪い呼び方をやめろ……
儂は貴様を息子だと思ったことはない
養護施設の職員から聞かされたんだろう?
貴様は、顔も知らない女が勝手に作った子供なんだ
精子バンクに提供した儂の遺伝子を使ってな……
その女が貴様を置いて姿を眩ませたせいで、
国から無理矢理押しつけられた負の遺産が貴様だ
儂に面倒な子育ての義務が発生しないようにと、
入念に契約書を交わしたにもかかわらず、だ……』
「そんなこと言わないでよパパ!!
僕はパパのことを愛してるんだ!!
パパだって本当は僕を愛してるはずだ!!
今からでも間に合う!!
僕を退学にするだなんて間違ってるよ!!
今すぐ学園に連絡して、取り消してよ!!」
『取り消すわけがなかろう
満場一致で決定したんだ
貴様にあの学園に残る資格は無い』
「満場一致って……いや、おかしいよ!!
こんなことがあっていいはずがない!!
あと半年で卒業なんだ!!
このままじゃ僕、中卒になっちゃうよ!!
自慢の息子が中卒だなんて、恥ずかしいよねえ!?
僕を退学にして困るのはパパの方だよ!!」
『儂は何も困らん
なあ、皇帝よ……
自分が何をしたのか、今まで何をしてきたのか、
まずそこに目を向けようとは思わんのか?
この結果は自業自得であろうが……』
「違う!! 違うんだ!!
僕は何も悪いことなんてしてない!!
諸星って奴が悪いんだ!!
あいつが純粋な僕を嵌めたんだ!!
全ての責任は諸星にある!!」
『話にならん
とにかく今日中に儂の家から出ていけ
たとえ別邸だろうが儂の私有地だからな
これ以上、赤の他人に居座らせるつもりはない
貴様は18歳、もう大人だ
これからは自分1人の力で生きてゆくがよい』
「そんな、僕を追い出す気!?
大事な息子を見捨てるだなんて、おかしいよ!!
跡取りがいなくなったら困るのはパパでしょ!?」
『跡取り……?
何を言っとるんだ貴様は?
まさかこの儂が小学校レベルの理科さえわからない
貴様なんぞに会社を継がせると思っていたのか?
鷹宮テクノロジーは、魔道工学は、儂の魂なんだ
魔道工学の理解者に継がせるに決まっておるだろう
そんなこともわからないのか?』
「くっ……クソ親父ぃぃぃ!!!
俺を追い出したら絶対に後悔するぞ!!!
絶対に後悔させてやるからなぁぁぁ!!!
殺す!!! ぶっ殺してやる!!!
つうか死ねよ!!! 今すぐ自殺しろ!!!
お前なんか生きてる価値がねえんだよ!!!」
『ふん、ようやく本性を現しおったか……
そこまでこの儂を憎んでいるのならば話は早い
もうクソ親父の世話にはなりたくなかろう
さっさと荷物をまとめて出てゆくことを勧めるぞ
そして、二度と儂にその面を見せるな
儂もクソ息子が憎くてたまらないのでな』
「死ねボケ!!!
ゴミ老人!!!
社会の屑!!!」
鷹宮皇帝はスマホを壁に投げつけ、
自ら通信手段を1つ失った。
まあどうせ翌日には強制解約されるのだが……。
とりあえず午後11時。
家の中には屈強な黒服の男が3名立っており、
彼らは日付が変わると同時に居候を追い出すようにと
社長から命令を受けている。
残り1時間。
だというのに鷹宮皇帝は全く荷物をまとめておらず、
どうにかして家を追い出されないように足掻いた。
スマホは壊れてしまったので、1階の固定電話にて
心強い味方と連絡を取ってみる。
「赤坂!!
おい赤坂、この状況をなんとかしろ!!
お前、俺の弁護士だろ!?
いつものように上手くやってくれよ!!」
『いつものように、ですか……
さすがに今回は無理なんで諦めてください
今回は坊ちゃんが直接手を下しただけでなく、
その映像を撮らせるという愚行を犯したため、
どう足掻こうが挽回の余地はありません
毎度のことですが、証拠を残しすぎなんですよ
フォローするにも限界があります
……というかですね、坊ちゃん
私は鷹宮テクノロジーの顧問弁護士であって、
坊ちゃん専属のトラブルバスターではないのです
そこを勘違いしてもらっては困ります
あくまで会社の利益を守る存在であるということを
忘れてはなりませんよ』
「この、赤坂、お前……役立たず!!
俺は次期社長なんだぞ、わかってんのか!?
お前みたいな無能は速攻でクビにしてやるよ!!」
『ははは、できるものならやってごらんなさい
ですが今は、さっさと荷物をまとめるべきですね
社長は大変懐の深い御方でして、
今現在、別邸に置いてある物ならば
なんでも持っていってよいとのことです
もう夏が終わりますが、まだまだ暑い日が続くので
最低限、飲料水は確保しておくべきでしょうね』
「くそっ、余計なお世話だ!!
この無能弁護士!! 悪徳弁護士!!」
鷹宮皇帝は固定電話を壁に投げつけて破壊した。
残り40分。
2階の固定電話にて、別の味方に助けを求める。
「おい熊田!!
俺だよ俺、鷹宮皇帝!!
俺たち友達だよな!? 手を貸してくれ!!
実は今、ちょっと困ったことになっててさ!!」
『はあ? 鷹宮……だと…………?
おいおい、ふざけんなよ……
なに電話してんだよ……こんな時間に……
しかも、あの鷹宮が、この俺に……
お前なんかに手を貸すわけねえだろ……
勝手に困ってろよ……』
「そんなこと言うなよ!!
中学の時、よく一緒に遊んだ仲じゃないか!!
実はクソ親父とちょっとだけ喧嘩しちゃってさ、
数日の間だけでいいから泊めてくれないか!?」
『だから、ふざけんなって……
俺とお前が友達なわけねえだろ……
ハンダゴテで焼かれた痕、一生消えねえよ』
「やっ、それは俺がやったんじゃない!!
佐藤だか鈴木だか忘れたけど、そいつだ!!」
『お前が沢村に命令したんだろうが
お前も現場にいて、ゲラゲラ笑ってたじゃねえか
そんな奴の頼みを俺が聞くわけねえだろうが……
何があったか知らんけど、寝床に困ってるなら
公園でも橋の下でも好きな所で寝りゃあいいだろ』
「そんな、冷たいこと言うなって!!
実は俺も被害者だったんだ!!
あれはそいつから命令するよう命令されてて、
ゲラゲラ笑わないと殺すと脅されてたんだ!!
だから仕方のないことだったんだよ!!
その件は水に流して、前を向いて生きようぜ!!」
『なんなんだお前……本当になんなんだ…………?
俺がハンダゴテの件だけでお前を恨んでいると、
本気でそう思っているのか……?
うちから盗んだ車で事故起こしやがってよ……
その罪を俺の親に擦り付けようとしやがって……』
「違う!! 違うんだ!!
あの時は酒のせいで気が大きくなってただけだし、
事故を起こすような車が悪いんだ!!
裁判とかは弁護士が勝手にやったことだし、
結局俺は無罪だったんだから、何も悪くない!!」
『なあ、鷹宮
二度と電話掛けてくんな
とりあえず、この録音は警察に聞かせておく
今後うちが何かしらの嫌がらせを受けた場合、
真っ先にお前が疑われることは覚えておけよ』
「なっ……録音してたのか!?
そんなのズルい!! 卑怯だぞ!!
そんな性格だからいじめられるんだよ!!
今度は顔じゃなくて、家を焼いてやろうか!?」
『鷹宮、お前……
本当にどうしようもない馬鹿だな
録音してるんだぞ……?
警察に聞かせると言ったそばから、
放火の予告をするだなんて……』
「がっ……!!
消せ!! 今すぐ録音を消せえええ!!!」
鷹宮皇帝は固定電話を壁に投げつけて破壊した。
残り15分。
この期に及んで鷹宮皇帝はただ爪を齧るだけであり、
一切荷物をまとめていない。
まだこの豪邸に居座れる方法があるはずだと、
0%の可能性に賭けているのだ。
(そうだ、あいつなら……!!)
そう思い立った鷹宮皇帝は3階へと移動し、
固定電話の受話器を取った。
「諸星!!
おい諸星、助けてくれ!!
お前のせいでうちを追い出されそうなんだ!!
責任を感じるだろ!? 感じるよなあ!?
だったら責任を取って、この俺を助けろ!!」
『あ? 何言ってんのお前?
不動茜をレイプしようとしたのはアンタでしょ?
俺はあの女を現場までエスコートしただけだし、
アンタがどうしてもってしつこく頼むから
撮影に協力してやっただけっスよ
だからやめとけって言ったのに……』
「責任逃れする気か!? ふざけんな!!
お前も共犯だろうが!! 責任から逃げるな!!
つうか、あのクソアマは結局無事だったんだ!!
未遂に終わったのに罰を受けるなんておかしい!!
お前もそう思うだろ、なあ!?
だったら一緒に戦おうぜ!!
学園の職員たちを丸め込んで抗議するんだ!!
お前だって強制退学処分だなんて嫌だろう!?
前途ある若者の未来を奪われちゃいけない!!」
『未遂犯も処罰の対象だって知らねえの?
まあ、今回は冒険者同士の揉め事ってことで
法律上はセーフだったわけだが、相手が悪かった
退学程度で済んでラッキーだと思えねえかな?
俺はあの学園で学ぶことなんてもう無かったし、
追い出されたところで痛くも痒くもねえんですわ
そっちの困り事はそっちで解決してくださいね〜』
「諸星、お前このままじゃ中卒だぞ!?
経歴に一生消えない傷が付くんだよ!!
この先の人生どうにかなると思ってんのか!?」
『はあ、中卒ぅ?
いやホント何言ってんのお前?
中卒でもしっかり生きてる人間なんて、
世の中にはごまんといんでしょうが
クソくだらねえこと宣ってんじゃねえよ
そもそも冒険者は学歴で戦う職業じゃねえだろ
俺は今月だけで30万稼いでるぞ
適当に魔物ぶっ殺してるだけでこの稼ぎだし、
少し本気出しゃあ50は手堅いな
ま、そんなわけで俺はもう天職見つけてあるんで、
アンタもせいぜい頑張って生きてくださいよ』
「なっ……
おい待て諸星、月給50万ってお前……
年収600万にしかならないじゃないか
そんな低所得で生きていけるわけないだろう
よく考えろ、年収1000万以下なんだぞ……?」
『おいおい……おいおいおい…………
なんだこいつ、金銭感覚がバグってやがる
このままじゃ年収0円コースを辿っている人間が、
年収600万を低所得呼ばわりするとは恐れ入ったぜ
教育ってホント大事だよなあ……』
そこで諸星は通話を終了し、ツー、ツー、という
無機質な電子音だけが鷹宮皇帝の耳に虚しく残る。
「くっそがあああああ!!!」
鷹宮皇帝は固定電話を壁に投げつけて破壊した。
午後11時57分──残り3分。
黒服3名の威圧感に屈した鷹宮皇帝は、
ここに来てようやく荷物をまとめ始めた。
だが、完全に諦めたわけではない。
これは、いわゆる戦略的撤退というやつである。
一時的にこの豪邸から離れてしまうものの、
いつか何か逆転の一手を閃いて必ず戻ってくる。
そして自分をコケにしたクソ親父に一泡吹かせ、
鷹宮テクノロジー次期社長の座に返り咲いてやる。
鷹宮皇帝はそう心に誓い、黒服に連行されていった。
元生徒情報
氏名:鷹宮皇帝 <タカミヤキング>
所属:無所属
役割:KING
武装:未登録
魔法:非公開
宿星:バテンカイトス




