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進め!魔法学園3  作者: 木こる
殺戮機械
30/33

30.夏の終わり

その日は暇だった。

8月中旬、梓は里帰りしており、

仲間たちは冒険活動の無い1週間に戸惑いつつも

各々の方法で自由時間を過ごしていた。


葉加瀬は工作室でキャリオンを改造中、

ヒナ、中村、織姫は魔法部屋で訓練中、

茜と佐原は基礎部屋で肉体作りに励んでいた。


「いいよいいよ茜ちゃん!!

 上腕二頭筋が喜んでるよ!!

 目指せチョモランマ!!

 ラスト10回、追い込んでいこう!!」


「チョモ……ぶはあっ!!

 佐原アンタ、チョモランマて……ぐふふふふ!!

 せめてエベレスト……うひゃひゃひゃひゃ!!」


と、楽しくダンベルカールに励んでいた2人だが、

部屋に入ってきた人物と目が合ってしまい、

一瞬で興が削がれるのであった。


「おっ、こんな所にいやがったのか不動茜〜

 わざわざお前の部屋まで探しに行ったんだぜ?

 あんま手間取らせんじゃねえよなあ」


(うわ、諸星司だ……)

(関わりたくない同期生No.1……)


「まあいいや、お前ちょっと俺と来い

 どうせ暇なんだろ?」


「はあ!?

 行くわけないでしょ!?

 それにアタシ暇じゃないし!!

 体鍛えてんの、見てわかんない!?」


「筋肉ムキムキの女とかやめといた方がいいぜ?

 そうゆうのが好きなマニアもいんだろうけど、

 基本モテないのは確実だ」


「余計なお世話!!」


「つか、べつに俺が用あるわけじゃねえんだわ

 ダチがお前に告りてえみたいでな

 でも面と向かって呼び出すのは恥ずかしいから、

 代わりに呼んできてくれって頼まれたわけよ

 シャイな奴なんだ、勘弁してやってくれ」


「はああ!?

 そんな度胸の無い男、絶対にお断りだし!!

 ってか、アンタに友達なんているわけない!!

 絶対に怪しいからパス!!」


「おいおい、心外だな

 俺にだってわかりあえる友の1人や2人いるさ

 とにかく一緒に来てくれよ〜、頼むよ〜

 実はそいつ、人目を避けるために

 俺が止めるのも聞かずダンジョンに潜っちまってさ

 優しい俺としてはすごく心配なんだよ〜」


全く信用できない。

諸星は困り笑い……というか完全に笑っており、

何か悪巧みをしていることは明白である。


「あ、あの、諸星君

 僕も一緒についていってもいいかな?

 僕は茜ちゃんのファン第一号なんだ

 その、君の友達が茜ちゃんと釣り合うかどうか、

 どうしても見届けたくてね……」


それが佐原のハッタリであると、

茜はすぐに見抜くことができた。

ここで諸星が返答に迷ったり拒否したならば、

佐原の存在が計画の邪魔になるということだ。


だが、諸星は即答したのである。


「いいぜ、お前もついてこいよ

 ファン同士、あいつとは話が合うかもな

 アイドルオタクじゃねえ俺にはわかんねえけど」


茜と佐原は視線を交わし、

お互いに判定が微妙であると判断。


諸星司には殺人未遂の前歴があり、

自分たちと出会った際には背後から不意打ちしたり、

待ち伏せしたり、しかもその理由が八つ当たりという

印象最悪な要注意人物である。

しかし印象こそ良くないものの、娑婆に出てからは

一切犯罪に手を染めていないのも事実だ。


もしかしたら彼は更生しようとしているのだろうか?

もしかしたら彼には本当に友達がいるのではないか?


そんな思考に囚われてしまったのだ。






──諸星は鬼のように強かった。

中央魔法学園ダンジョン第5層にて、諸星は軽々と

大剣を振り回してリザードマンの群れを薙ぎ払い、

得意のファイヤーアンドアイスでゴーレムを屠り、

素早く飛行する難敵フライングデビルに対しては

射速に優れるヘビーメタルサンダーをぶっ放し……

と、茜たちにとっては初見の魔物たちを

諸星はたった1人で蹂躙していったのである。


1つ歳上といえど彼も新入生の1人であり、

4ヶ月前に魔法を使い始めたばかりの新米なのだ。

それがもう、この強さは確実に卒業生を超えている。


諸星司は成長の天才であった。


「さて、そろそろ休憩すっか

 お前ら歩き疲れただろ?」


「いや結構、さっさとイベント済ませて帰りたいし」

「うん、僕たちなら全然疲れてないよ」


「いやいや、遠慮すんなって

 つか、お前らの意見なんて聞いてねえよ

 べつに本心で気遣ったわけじゃねえんだ

 お前は目障りだからついてくんなって意味だよ」


と、諸星は佐原の肩にポンと手を置き、

零距離にて電撃を浴びせるのだった。


「うがあっ……!!」


「佐原ぁ!!

 諸星……この、アンタぁ!!

 よくも騙したわね!!」


「ああ、騙したけどそれが何か?

 俺みてえな奴を信じる方が馬鹿なんだよ」


清々しいまでの裏切りである。

やはりこの男を信用してはならなかったのだ。


「おっと、抵抗しない方がいいぞ?

 俺の強さはもう充分理解しただろう

 ウィーン、ウィーン、ケイコクシマス

 オレヲコウゲキシタラ、ハンゲキシマス

 フドウアカネニハカルクイッパツブチコンデ、

 オタクヤロウハコロシマス、ブッコロシマス」


「茜ちゃん、逃げて!!」

「佐原……!?」


佐原は力を振り絞って立ち上がり、

茜の正面で仁王立ちした。

大きな背中が震えている。

恐怖ではない。痛みに耐えているのだ。


「おや、図体だけでかい根性無しかと思いきや、

 ちったあ漢気見せるようになったじゃねえか

 そんな根性あるオタク君には、

 この俺様が特別にプレゼントを進呈してやろう」


と、今度は炎と氷の複合攻撃が佐原を襲う。

だが諸星の目的はダメージを与えることではなく、

追加効果の凍結で身動きを封じることであった。



諸星は氷漬けになった佐原をニヤニヤと眺めながら、

片手で大剣を振りかぶった状態で茜を脅迫する。


「さて、そんじゃあ不動

 おとなしくついてきてもらおうか

 この先で人が待ってんのは本当でな

 そいつがお前とヤリてえんだとよ

 なあに、どうせすぐに終わるから安心しろよ

 あいつ確実に童貞だろうし、1分持たねえから」


「アンタ、ふざけんのも大概に──」


「こいつが死んでもいいのか?

 言っとくが、俺は平気で人を殺せる男だぜ?

 昔、俺に舐めた口聞く教師がいてな

 3階の窓から突き落としてやったよ

 普通の人間なら罪悪感とか抱くらしいが、

 俺はただひたすら晴れやかな気分だったね

 まあ、そいつは死に損なったわけだけど、

 脊椎やられて下半身麻痺に……くはははは!!

 まだ若かったのに、ご愁傷様だね!!」


こいつは人間ではない。

人の皮を被った魔物だ。


茜は自身の貞操と佐原の命を天秤に掛け、

おとなしく諸星に従う道を選んだ。


「……1つだけ、アタシの願いを聞いてよ

 佐原をこのままにはしておけない

 凍結を解除してから向かいたい

 それくらいはいいでしょ?」


「ああ、ほれ」


諸星は極小の火の玉を投げつけ、

佐原の凍結を解除した。

全身を纏う氷が割れた佐原はその場に崩れ落ち、

ゲホゲホと咳き込みながら諸星を睨みつけた。


「わかってるとは思うが、ついてくんなよオタク君

 どうせお前にできることなんて何もねえんだし、

 この女がヤラれてる姿なんて見たくねえだろ?

 せっかく命拾いしたんだ、おとなしく家に帰って

 自分の無力さに嘆きながら人生を全うしろよな」


「くっ…………茜ちゃん!!」


佐原は固く握った拳を地面に突き立て、

己の無力さに打ちひしがれるのであった。


諸星からはそう見えていた。






第6層で茜を待ち受けていたのは……


……誰もいない?

とりあえず玄室の中央にはマットが敷かれており、

そこで行為を致せということなのだろう。


「おお〜い、連れてきてやったぞ〜!

 隠れてないで出てこいよ〜!」


諸星が呼び掛けると隅っこで何かがモゾモゾと動き、

それはダンジョンの壁と似た模様のシートを被った

上級生の男子であることが判明した。

諸星が到着するまで怯えながら待っていたのだろう。


奇妙な全身タイツを着た変態──鷹宮皇帝(きんぐ)である。


「いや……

 いやいやいや、無理!!

 アレとやれとか絶対に無理……!!」


まあ当然の反応だ。

相手はあの鷹宮皇帝なのだ。

顔も体も生理的に受け付けないが、

何よりも性格が気に食わない。


自分では何もできない癖に、金と権力に物を言わせて

他人を思い通りに動かそうとする人間。

そして不都合があれば取り巻きに罪を擦りつけ、

自分だけのうのうと生きていられるような卑怯者。


絶対に無理である。


「ヘッヘッヘッ、いい反応すんじゃねえか不動

 お前が心から嫌がってる相手だからいいんだろうが

 俺はなァ、国民的美少女とか呼ばれてるお前が

 最低のドブ野郎に犯されてるとこが見てえんだよ

 だからあいつに手ぇ貸してやってんだ

 精一杯抵抗して、この俺を楽しませてくれよな」


「なんて奴……

 アンタは絶対に殺す……!!

 必ずこの手でぶちのめす……!!」


「おいおい、実現不可能なことを

 軽々しく口走らない方がいいぜ?

 つか、今は俺に構ってる場合じゃねえだろ

 簡単に捕まってもらっちゃあ面白くねえからな」


「……っ!!」



「ショータァァァイム!!」



鷹宮の音声に反応し、奇妙な全身タイツに描かれた

∞の模様が黄緑色の蛍光を放つ。

どうやら彼が着用している“メビウス”も、

電磁加速グローブと同様にスイッチを入れることで

真価を発揮するタイプの装備品だったらしい。


「ON !!」


キュイィィン、パリパリッと茜の拳武器が唸る。

電磁加速グローブLV5……最大出力の半分だが、

人間をぶち殺すには充分な破壊力を実現可能だ。


そして……



「フルブーストぉぉぉ!!!」



茜は魔法効果を増幅。

それ単体では意味の無い魔法だが、

さっき佐原が悔しがるふりをしながらかけてくれた

攻撃&防御強化を最大限に高めることができた。


諸星はこのバフコンボに気づいていないはず。

彼の魔法習得枠と追加効果枠は完全に埋まっており、

解析魔法(アナライズ)や探知魔法(サーチ)を扱えないのだ。

茜が言い放った「ON」からの「フルブースト」は、

グローブの音声入力だと勘違いしたことだろう。


問題は鷹宮だが……まあ、考えても仕方ない。

とにかく捕まらないように立ち回るだけだ。




先手、鷹宮。

なんの策も無しに正面から抱きつこうとしてくる。

気持ち悪いったらありゃしない。


「オラァ!!」


茜は相手の接近スピードを見切り、

適切な距離、適切なタイミング、適切なフォームで

渾身の右ストレートを鷹宮の顔面に放り込んだ。


ボゥン!という衝撃と共に鷹宮が吹き飛ぶ。

「ぐへえええ!!」と情けない声を上げながら。


しかし……


(手応えが…………無い……!?)


茜の拳には、本来あるはずの反動が伝わらなかった。

骨折覚悟で全力の攻撃を当てたにもかかわらず、だ。

まるでインパクトの瞬間、鷹宮がわざと吹き飛んだか

のような、不気味な感覚だけが残っている。


唖然とする茜の表情を確認できた鷹宮は、

クフクフと笑いながらゆっくりと立ち上がる。


「いやあ……いいパンチを持ってるねえ

 もし喰らったのが僕じゃなかったら、

 きっと死んじゃってただろうねえ……

 でもね、茜ちゃん

 僕のメビウスは無敵なんだ

 いくら殴ったところで僕にはノーダメージだよ」


「オラァ!!」


と、勝者の笑みを浮かべる鷹宮にすかさず追撃。

すると再びボゥン!と鷹宮が後方へと吹き飛び、

またしても茜は手応えを感じることができなかった。


「ククク……

 まったく学習能力の無い子だ

 でも、頭の悪い女の子は嫌いじゃないよ

 僕にとっては都合の良い存在だからねえ」


「オラァ!!」


茜はその憎たらしい顔面へと拳を放り込む。

そして鷹宮がゴロゴロと転がり、再び起き上がり、

嫌味を口にしてはまた茜にぶっ飛ばされる……

という作業が幾度も繰り返された。



30分後、状況に変化が生じた。


懲りずに茜を挑発してぶっ飛ばされた鷹宮が、

巨大なタコのような魔物の触手に捕まったのだ。

そのタコは鷹宮に対して墨を吐き続けており、

どうやら暗闇の状態異常が通用するまで

その行動をやめない習性であると予想される。

そして鷹宮のメビウスは全状態異常無効……


詰みである。


「ちょっ、なんなんだよこいつ!?

 俺の邪魔をするな!! くそっ、放せ!!

 汚いもんをぶっかけんじゃねえええ!!」


茜は賭けに勝ったのだ。


鷹宮に対してダメージを与えることは諦め、

何かしら足止めの手段を持つ魔物と遭遇するまで

鷹宮を吹き飛ばし続ける作戦に出たのである。

未知の領域だったので上手くいく保証はなかったが、

何もしないよりは遥かにマシであった。


「ぶはははははは!!

 みっともねえなあ会長さんよお!!

 不動のことを散々煽っといて、そのザマかよ!!

 こんな単純な作戦に気づかなかったとはねえ!!」


諸星は大爆笑している。

面白いものが見れて満足したということだ。

この雰囲気ならば、もしかして……


「ねえ、アタシ帰っていい?

 これ以上付き合ってらんないんだけど」


「おう、いいぜいいぜ!!

 俺はもうちょい撮影しとくわ!!」


よし、帰れる。

諸星の注意が鷹宮に向いているうちに、

速やかに帰還するのが最善手だ。

こいつをぶっ飛ばすのは今日じゃない。

隙だらけのようにも見えるが、

1対1で勝てる相手ではないのは確かなのだ。


それよりも佐原が心配だ。

早く合流してあげないと──


「笑ってんじゃねぇぇぇ!!!

 初心を思い出せ諸星ぃぃぃ!!!

 お前は何を見たかったんだぁぁぁ!!!

 不動茜が俺に汚される姿だろぉぉぉ!!!

 今ならもっと汚せるぞぉぉぉ!!!

 この液体、ヌチャヌチャしてんだよぉぉぉ!!!」


(がっ……!!

 あのクソ野郎……!!)


鷹宮の呼び掛けで諸星からスッと笑顔が消え失せ、

どうやら彼は初心を思い出してしまったようだ。


「ああ、そういやそうだったなァ」


すると諸星は鷹宮を捕獲中の触手を一太刀で切断し、

続け様に本体へ電撃を浴びせて魔物を絶命させた。

それは一瞬の出来事であった。

その圧倒的な攻撃力は梓に匹敵……

いや、もしかしたらそれ以上かもしれない。




不毛な攻防が再開した。

闇雲に接近を試みる鷹宮に対して茜が迎撃。

その繰り返しだ。

魔物に協力してもらう作戦はもう通じない。

進路上に魔物を発見しても、諸星が先回りをして

一瞬で撃破してしまうのである。


ならば、と茜は立ち位置を調整して、

鷹宮を諸星にぶつける作戦を実行。

諸星は制服以外の防具を身につけていないので、

上手くいけばダメージを与えられるかもしれない。


が、失敗。

ゴロゴロと転がってきた鷹宮を、諸星が蹴り返す。


「くそっ、諸星ぃ!!

 俺を蹴るな!!

 痛くはないが腹が立つ!!

 てゆうか見てないでお前も手伝えよぉ!!」


「はあ? 何言ってんのお前?

 昨日は『僕1人にやらせろ』とか言ってたじゃん

 俺は要望に応えてやってんだからさ、

 お前もさっさと俺の見たいもん見せろや」


この2人は利害の一致で手を組んでいるだけであり、

仲間と呼べるような間柄ではないのだ。

いわゆるビジネスライクな関係というやつだ。


それにしても、何かがおかしい。


諸星は時折あくびをしながら様子見に徹しており、

とっくに鷹宮サッカーに飽きているのは明白だ。

彼は自分勝手な理由で他人に八つ当たりするあたり、

辛抱強い性格ではないことも明らかである。

それなのに全く手を出してこないのはおかしい。


諸星が少し加勢すれば、彼の望みはすぐに叶うのだ。


そんな疑問を抱えながら10分、20分……と経過し、

茜が第6層に到着してから2時間が過ぎた頃、

均衡が崩れる出来事が起きてしまった。


バチッ、バチッ、とグローブから火花が上がる。


(あっ、やば……!!)


更にキュルキュルとモーターの回転が急激に弱まり、

電磁加速グローブは煙を立たせながら機能停止した。

限界を超えて長時間の連続稼働したことにより、

オーバーヒートを起こしてしまったのである。


諸星はこの瞬間を待っていたのだ。


「ほれ、ついでにプレゼントをやるよ」


と、諸星は茜に静電気ほどの微弱な電撃を浴びせた。

ダメージを与えるのが目的ではない。

追加効果の攻撃&防御弱体を狙った行動である。

これにより、茜の腕力は著しく低下してしまった。


「クックックッ……

 フゥーッハッハッハッハッハアァッ!!

 でかしたぞ諸星ぃ!!

 これでもう不動茜はろくに抵抗できまい!!

 言っておくが、このメビウスには防御力だけでなく

 着用者の攻撃力を高める効果もあるのだよ!!

 今の僕は通常時の3倍の腕力となっている!!

 捕まったら一巻の終わりだなあ!!

 せいぜい必死こいて逃げ回りたまえよ、

 ア・カ・ネ・ちゃん!!」


絶体絶命のピンチが到来してしまった。

茜は奥歯をギリリと鳴らして身構えた。






──諸星は口を半開きにしながら、

目の前の現実を受け止めようとしていた。

しかし……


「いや、信じらんねえよ……

 おい鷹宮、お前の腕力3倍になってんだよな?

 なんでパワー半減してる女に力負けしてんだよ……

 どんだけ醜態を晒せば気が済むんだお前……」


諸星は、鷹宮のあまりの弱さに愕然としていた。

鷹宮は茜を強引に押し倒そうとしたのだが、

両腕を掴まれたまま、それ以上近づけなかったのだ。

顔をくっつけようとしても上半身を足で押し返され、

何もできない状態がかれこれ10分以上は続いている。


この奇妙な膠着状態は、それはそれで笑えるし、

茜のパンモロをバッチリ撮影できてお得なのだが、

もう本気で飽きていた諸星はいい加減ウンザリして

重い腰を上げることにした。


……が。



ブォン、ブォンという、どこかで聞き覚えのある音。

公共の道路でならばしょっちゅう耳にする音だ。

だが、ダンジョンの中でそれを聞いた覚えはない。

その聞き慣れた排気音が徐々に近づいてくる。


続いて、光。

通路の奥を照らしていた光が諸星たちを照らし、

直撃を受けた一同は思わず目を細めた。

ハイビームなのだから仕方ない。


ただ1人、不動茜はいち早く状況を把握し、

自身が行うべき最善手を実行したのだった。

それまで掴んでいた鷹宮の両腕を解放し、

両脚に全力を注いで目の前の男を突き飛ばす。



ブォン、ブォォォン!!

ドドドドドドドッ!!

バアァァァン!!



その機械は心地良い重低音を鳴り響かせながら、

進路上に飛び出した悪漢を跳ね飛ばした。


「ぎょへえおあぁぁぁ!?!?!?」


今まで聞いたことのない叫び声を上げながら、

鷹宮皇帝はダンジョンの壁に激突するのであった。



大上隼斗、自動二輪車(オートバイ)にて参上……!!



「なっ、なんだよお前えええ!!!

 バイクで人を撥ねていいと思ってんのかあ!!!

 俺は全然痛くないけど、犯罪だぞ犯罪!!!

 俺の親父は社長だぞおおお!!!

 お前の人生これで終わりだかんなあああ!!!」


隼斗はそんな戯言には耳を貸さず、

バイクを降りて鷹宮皇帝へと歩み寄る。


「うわあああああ!!!

 なんなんだよお前えええ!!!

 俺に近づくんじゃねえええええ!!!

 撃つぞ、撃つぞおおおおお!!!」


取り乱した鷹宮はホルスターから銃を引き抜き、

隼斗目掛けて一心不乱に乱射しまくった。


が、全弾回避。

鷹宮の攻撃など恐るるに足らず。

死線を潜り抜けた経験のある男には通用しない。


隼斗は鷹宮の腕を押さえながらスルリと背後に回り、

ボギャッ!と鈍い音楽を奏でた。

斬打突の物理攻撃を無効化する無敵のメビウスにも、

関節技は通用するのだ……!


「ああああああああああっ!!!

 折れたあああああああっ!!!

 骨が折れたあああああっ!!!」


鷹宮の骨は折れていない。

ただ肩を脱臼しただけである。


余談だが、鷹宮の倒し方なら他にもある。

首を絞めて落とす。

口と鼻を押さえて窒息させる。

ゆっくりと押し潰す。

水に沈める。

煙で燻す。

氷点下の環境に放り出す……等々、

対魔物戦において鉄壁の防御力を誇るメビウスでも、

こと対人戦となると穴だらけの装備品なのだ。



続いて隼斗は諸星に対して拳を向ける。

しかし諸星はニタニタと憎たらしい笑みを浮かべ、

この状況を楽しんでいるのは明らかであった。


「おっ、なんだよ正義のヒーロー様

 この俺とやり合おうってのかァ……?」


隼斗は答えなかった。


その代わり拳武器に仕込んだスタンガンを発射し、

相手の自由を奪うことに成功。


「おまっ、ふざけ……っ!!」


諸星は抵抗する術なくロープで拘束され、

突起物だらけの地面を引きずられてゆく。



ヒーロー到着からわずか1分以内の制圧劇であった。

そのあまりにも手際の良すぎる作業に茜は感激し、

何よりも絶体絶命の窮地に駆けつけてくれた人物が

他ならぬ大上隼斗であることに胸をときめかせた。


「さあ、帰ろう」


「はい……♡」


茜の好感度が1000000上がった!




第5層にて、隼斗以外の援軍と合流を果たす。

そこには安土桃太郎や鳩中剣を始めとした

関東魔法学園の最強メンバーが集結しており、

彼らは皆、よその学園の生徒を1人助けるためだけに

ヘリコプターを飛ばしてきたのだという。

ちなみに隼斗の新バイクは現地調達した物だそうだ。


「俺はこの子を学園まで送り届けるから、

 みんなは諸星司(こいつ)を運んでくれ

 鷹宮は……

 どうでもいいな、自力で帰らせよう

 無敵のスーツが魔物から守ってくれるだろうし」


異議なし。




第4層、リーダー不在の梓パーティーと合流。

茜は生傷だらけの佐原の姿を確認し、

思わず涙が込み上げる。


「あ、茜ちゃん!?

 どうしたの大丈夫!?

 まっ、まさかあいつに酷いことをされて……

 僕は間に合わなかったのか…………」


「馬鹿ぁ!! 違うってば!!

 間に合った!! アンタは間に合った!!

 アンタあの後、急いで引き返したんでしょ!?

 そんでもって関東に救援要請出してくれた!!

 諸星をどうにかできる人に助けを求めてくれた!!

 きっと必死にお願いしてくれたんだよね!?

 だから関東の人たちが動いてくれた!!

 そのおかげでアタシは無事でいられた!!

 アンタのおかげでアタシは助かった!!

 佐原、アンタはアタシのヒーローだよ!!」


「僕が……

 茜ちゃんのヒーロー…………」


その言葉に佐原は身震いし、グスグスと泣き出す。

2人が心のままに泣き合う光景に当てられて、

他のメンバーも貰い泣きを始めたではないか。


そんな感動を分かち合う彼らに対し、

隼斗は申し訳なさそうに提案する。


「あ〜、君たち

 水を差して悪いんだが、ここはダンジョンの中だ

 まずは無事に学園へ帰還することに集中しよう」


後輩たちの青春イベントを邪魔したくはないが、

いかんせんロケーションが悪い。

ここはひとつ冒険者の先輩として冷静に状況判断し、

的確な指示を出さなければならない。

上級生のつらいところである。






──8月31日。夏休み最終日。

始業式は明日だというのに、全校集会が開かれた。

せっかくの休日を台無しにされた生徒たちは皆、

かったるそうな態度で教師の言葉を待っていた。

だが、演説台に現れたのは学園の教師ではなかった。


鷹宮雷同。

鷹宮テクノロジーの社長である。


「諸君、せっかくの連休最終日に呼び出してすまない

 しかし、どうしてもこの儂の口から諸君らに

 直接伝えておくべきだと思ってな……」


(ああ、先日の件か)(先日の件だろうな)

(鷹宮が茜ちゃんを襲った件だろうな)

(なんだろう、息子の不祥事を揉み消したいのか?)

(俺は絶対に許さないぞ)(俺だってそうさ)


と、生徒たちはヒソヒソ話をしながら

鷹宮社長に敵意を込めた視線を送りまくる。


……が。



「冒険者クラス3-A、鷹宮皇帝

 冒険者クラス1-A、諸星司

 以上2名を退学処分とする」



数秒間の沈黙の後、


「うおおおおおおおっ!!!」

「マジかあああああっ!!!」

「ぃよっしゃあああっ!!!」

「最高のニュースだぜ!!!」


生徒たちは大歓喜するのであった。

生徒情報


氏名:佐原太陽 <サハラタイヨウ>

所属:中央魔法学園冒険者クラス1-B

役割:耐久型タンク兼バッファー


武装①:ホークスピア

武装②:守護神伝

武装③:戦士の鎧


魔法①:アナライズ(解析)

魔法②:ライジングフォース(攻撃&防御強化)


宿星:マタル

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