26.秘めたる想い
「俺、こないだ学園長に呼び出されたじゃん?
学園長はだいぶお歳を召した方なんだけど、
どことなく組長というか……まあ、怖かったんだよ
で、つい口数が少なくなっちまってさあ
その時、気づいたんだよ
鷲尾の喋り方って、すげえ合理的だなと」
「ありがとうございます」
「あ、中村君がわっしーを褒めたよ!」
「とうとう恋愛フラグ立ったか!?」
「運命ってあるんですねえ」
「中村君、頑張れ……!」
「いや待て、お前ら
すぐそういう方向に持ってくのやめろ
俺はただ、要点を絞って簡潔に伝える話術が
いかに効率的かって話をだな……」
「──なんて会話があったわけよ
織姫、アンタ一歩リードされちゃったけど、
そろそろ本気出さないとヤバいんじゃないの?」
女子寮、天川織姫の自室にて、
茜は中村の近況を報告していた。
それを受けた織姫はワナワナと震え上がり、
己の不甲斐無さを嘆くのであった。
「くぅ……!!
鷲尾梓ぁぁぁ!!
なんであいつなのよぉぉぉ!!」
訂正、恋敵への敵対心を募らせるのであった。
「いや、おかしいって
怒りの矛先を内側に向けなきゃだめでしょ
なんで出遅れちゃったんだろう、ってさ
……いやホント、なんで出遅れてんの?
中村と同じ中学出身って大きなアドバンテージを
全く活かせてないじゃないのよ
付き合いの長さという武器はいずこへ……?
ってか、アンタたち普段どんな会話してんの?」
「…………したことない」
「は?」
「誠君とあたしは!!
会話をしたことがない!!」
茜は口を半開きにしたまま固まった。
そんな彼女に対して、織姫は更なる燃料を投下する。
「一緒だったのは中学だけじゃない!!
小学校の頃からずっと一緒だった!!
でも同じクラスになったことがなくて!!
誠君が1組で、あたしが5組とか、いっつもそう!!
隣の教室になったのは今回が初めてなの!!」
茜は口を全開にするしかなかった。
これはいかんと思った茜は援軍を要請。
駆けつけたヒナは事情を聞き、本質を突くのだった。
「中村君にとって天川さんは、知らない人なんだね」
容赦のない現実を突きつける。
それもまた優しさの表れである。
負け戦を続けてもつらいだけなのだ。
反論の余地が無い織姫は膝から崩れ落ち、
四つん這いの体勢で何かブツブツ言い始める。
茜は笑っているのか困っているのか、
なんとも言えない表情でヒナをたしなめた。
「ちょっとヒナ〜!
言い過ぎぃ〜!
織姫が可哀想〜!」
「いや、それを言わせたかったんでしょ?
第三者の口から……
茜の腹黒さはなんとなく理解してるよ
こんなスパイ紛いのムーブしてる時点でね」
「二重スパイと呼んでちょうだいな
そのうちわっしーにも情報流すつもりだから」
「当事者の前で正体明かすんかい
……真面目な話、引っ掻き回すのやめた方がいいよ
天川さんはだいぶエキセントリックな子っぽいし、
ひとたび敵認定されたら何されるかわからないよ
これ以上、首突っ込むのはやめるべきだと思う」
「え〜、面白いじゃん
この一生片想いしてそうな恋する乙女はね、
誰かが背中押してくれんのを待ってたのよ
こうして知り合ったのも何かの縁だし、
力になってあげたいと思うじゃない
そんでもって、わっしーとバトってほしい
中村に『俺のために争わないで』とか言わせたい」
「何この勇者……」
結局、ヒナも恋する乙女の背中押しを手伝わされる。
流され体質は未だに健在だ。
「中村君とは知り合い未満だと判明したわけだけど、
わっしーとはどういう関係だったの?
まさか初対面で首絞め合ったんじゃないよね?」
「まさかその通りよ
今にして思えばあたしにも少しだけ悪い部分が
あったかもしれないけど、とにかく悔しかったのよ
あなたも同じ女なら理解できるでしょ?」
「ごめん、全然わかんない
100%天川さんが悪いと思う
まずその自覚を持たない限りは永遠に平行線だよ
それどころか、中村君から嫌われるだけでしょ
自分勝手な理屈でいきなり首絞めてくる女とか、
彼が好きになると思う? ならないよ、絶対に」
すると織姫はドンと両手を床につけて、
四つん這いの体勢でブツブツ言い始めた。
本日2回目である。
(この体勢が落ち着くのかな……?)
「とりあえず、現状をはっきりさせとこう?
前の世界で何があったにせよ、今の世界の中村君は
わっしーに対してまだ何もアプローチしてないよ
彼が内心どう思ってるのかは不明だけど、
わっしーには恋心を抱いていないものと仮定するね
そうすると、中村君から伸びる矢印が消えるんだ
同時に、天川さんがわっしーを憎む理由も無くなる
これで残る矢印は1本だけになりました
……それが現在の状況なんだよ?
わっしーはあなたの敵じゃないと理解してほしい」
「鷲尾梓は……敵じゃなかった…………?」
「うん、そこが一番重要
天川さんが中村君に片想いしてるってだけの話に、
無関係な人間を巻き込んじゃだめよ
特にわっしーは対人スキルが独特だから、
ドロドロの恋愛ドラマとか耐えられないと思う
そっとしといてあげて」
「…………」
織姫は理解したのかしていないのか、
四つん這いの体勢を維持したまま黙りこくった。
翌日、梓パーティーは午前9時からの冒険活動を
予定しており、10分前には梓と男子3名が合流した。
それから3分ほどしてヒナと茜がやってきたのだが、
彼女たちはもう1名の女子を連れてきたのである。
「みんな、急な話で悪いんだけど、
今日はこの子を同行させてもいいかな?」
「一応、魔物と戦った経験はあるそうだけど、
パーティー組んだことはないんだって!」
と、そこには天川織姫の姿が。
昨日の話し合いの末、中村との仲を進展させるために
物理的な距離を縮めようという作戦が決定したのだ。
これにより、織姫の存在は苦節10年目にしてようやく
中村から認識される結果となったのである。
「おう、俺は全然構わないぜ!
初めまして……って言うのもなんか変な感じだな」
(えっ、もしかして天川さんのこと知ってた!?)
(話が違うじゃないのよ……!!)
そう焦るヒナと茜だったが……
「魔法部屋に毎日来てる子だろ?
何度か目が合ったことはあるけど、
こうして面と向かって喋るのは初めてだよな!
俺は冒険1-Bの中村誠だ、よろしくな!」
「あっ、あ、よ……
よ、ろっ、しく…………」
緊張のあまり上手く声が出せない織姫。
この場面だけ切り取れば、しおらしい女に見える。
とりあえず彼女の加入に反対する者はなく、
リーダー梓もすんなりと了承したのであった。
だが……
「ちなみに、私と彼女は面識があります」
梓の宣言に凍りつく女子3名。
これはまずい。
梓は度を越した正直者なのだ。
常人ならば打ち明けるのを躊躇うような過去話でも、
ベラベラと喋ってしまう可能性が高い。
織姫が梓と首を絞め合った仲だと暴露されれば、
中村との距離は縮まるどころか遠ざかってしまう。
もしそうなれば作戦は失敗である。
「……なので、私の自己紹介は省きます
ですが、天川さんは自己紹介してください
葉加瀬君と佐原君は初対面の可能性が高いです」
(あっぶな〜〜〜……
そういう宣言だったのか……)
(ものすんごいヒヤヒヤした……
わっしーの性格を考慮してなかったわ……)
その後、たどたどしい自己紹介を済ませた織姫は、
梓パーティーの一員として迎え入れられた。
午前中、織姫は見学に徹するよう指示された。
これからチームプレーを行う上で、誰がどのような
役割を担っているのか学習させるためだ。
まずは召喚士の中村が使い魔を呼び出す。
あとはもうほとんどこの2匹を見守る会になるが、
彼らだけでは対処できない敵には主人も動く。
サラマンダーもシルフィードも、中村の相棒なのだ。
主従関係はあれど、共に戦う対等な仲間たちである。
佐原は耐久型タンク兼バッファーとして、
地味ながらも重要な役割を果たしている。
機動力の低さが弱点ではあるものの、
定点に留まって狩りを行うスタイルであれば
これほど優秀な前衛はそういないだろう。
ヒナは敵の撹乱に長けた回避型タンクという、
かなり珍しい戦い方を得意とする人材である。
RPGで例えるならば、盗賊や忍者といった
スピードを売りにした職業が当て嵌まるだろう。
最近になってからナイフを使い始めたようで、
手数で勝負する姿がとても様になっている。
茜は爆発力の高い近接物理アタッカーだ。
技術面はまだまだ未熟ではあるが、
強敵相手でも物怖じしない豪胆な性格により
高い攻撃力を満遍なく発揮することができる。
又、パーティーのムードメーカーとしても、
他パーティーとの外交役としても非常に優秀である。
葉加瀬は非戦闘員ではあるものの、
各種データの管理や書類作成、味方の装備品の改造、
六足歩行ロボのキャリオンを利用した特殊工作などで
裏方として多大な貢献をしているらしい。
博士キャラを通り越して、参謀と呼べる存在だ。
そして、リーダーの梓は……
「目標を殲滅します」
と、他メンバーがどうにもできなかった相手を
一瞬で片付けるという、チートキャラであった。
今回遭遇した魔物はクリスタルゴーレムという、
物理も魔法もほぼ無効化する強敵だったのだ。
それを彼女は、あのオモチャのような銃で、
共振現象を引き起こして撃破したのである。
それは武器が強いだけでは?という疑問を浮かべた
織姫だったが、すぐさま行われた葉加瀬の解説により
戦闘中に敵の固有振動数を正確に把握することが
いかに至難の業であるかを理解するのであった。
超人めいた五感と、精密機械のような射撃能力。
鷲尾梓が最強の遠隔物理アタッカーである理由だ。
昼休憩を終えた一行は、新入りの実力を把握するため
第2層で手頃な魔物を探し歩いた。
そしてすぐにコボルトの群れを発見。
相手は5匹だが、織姫は1人で倒せると宣言した。
「そ、それじゃあ、や、やりますね……!
あた、あたし……頑張ります!」
と、初期の佐原を思い出させる口ぶりで
織姫は攻撃を開始した。
すると彼女の掌から激しい猛吹雪が巻き起こり、
目標のコボルト5匹だけでなく、通路の奥にいた
他の魔物たちも巻き込んで全滅させたのだった。
「おおっ、強化無しでこの威力……!」
「織姫、アンタやるじゃん!!」
「範囲も凄まじいですねえ」
「し、しかも追加効果もあるみたいだね!」
アイスストーム。
氷属性の広範囲攻撃魔法である。
彼女はそれに凍結の追加効果を乗せており、
敵にダメージを与えつつ足止めも可能という
非常に便利な性能に仕上げていたのだ。
「うおぉ……
こりゃあ、想像以上だな!!
是非これからもご一緒したいところだぜ!
使い魔たちも魔法で攻撃できるとはいえ、
どっちも単体対象だから集団相手にはきついんだ!
それに属性が被ってないから選択肢が増えるし、
凍結の使い手がいると心強い!
……っと、グイグイ迫っちゃだめだよな
天川にも都合とかあるだろうし」
(迫っていいんだよ、中村君……!!)
(織姫も退くな……これはチャンス!!)
「あの、あた、あた……っ!!
あたしは、み、みんながよければ!!
こっ…………
これからもよろしくお願いします……!!」
(言ったーーー!!)
(大きく前進……!!)
こうして新たな仲間が増えたのであった。
──解散後、ヒナと茜は梓に引き止められた。
何やら確認したいことがあるらしい。
「天川さんを勧誘した理由は、
私への気遣いですか?」
「へ? 気遣い……?」
「わっしー、どゆこと?」
「『友は近くに置け、敵はもっと近くに置け』
という言葉があります
勘違いしないでほしいのですが、
私は彼女と敵対するつもりはありません
できれば友好的でありたいものです
ひょっとすると、彼女は勧誘されたのではなく
自らの意思で私に近づいてきたのですか?
それならば今後、私は気をつけねばなりませんね」
「ああ、えっと……
仲間になりたいって言い出したのは天川さんだよ」
「でも、わっしーが敵じゃないってことは伝えたし、
織姫もその点は充分に理解してた…………はず」
「並行世界の私は普通の女の子になるために
よく恋愛ドラマを鑑賞して学習しており、
彼女のような登場人物を何度か見かけました
廃墟に恋敵を呼び出して包丁で腹部を刺したり、
ハンマーで頭部を叩き割ったりするタイプです」
「それって恋愛ドラマかなあ……?」
「そういや首絞めた前科が……」
「迎え入れた以上、天川さんは仲間として扱います
ですが、手放しに信用することはできません
私はあなたたちを信用しています
もし彼女が不穏な動きを見せた場合、
私に報告してくれると助かります
仲間を疑いたくはないのですが、
私は他人の心を読み取るのが苦手なので
あなたたちに頼るしかありません
巻き込んでしまって申し訳ないと思っています
これだから恋愛関係のトラブルは嫌なのです」
「ああうん、注意しておくよ……」
「なんかごめん、わっしー……」
軽率な行動をしてしまった、
と反省するヒナと茜であった。
生徒情報
氏名:天川織姫 <アマカワオリヒメ>
所属:中央魔法学園冒険者クラス1-A
役割:魔法アタッカー
武装①:森羅万象
武装②:星読みのローブ
魔法:アイスストーム(氷属性攻撃+凍結)
宿星:ベガ




