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進め!魔法学園3  作者: 木こる
殺戮機械
25/33

25.スタートライン

実装初日からの長期メンテナンス作業により

利用不可だった訓練場がようやく解禁された。

ちょうど夏休みが始まった日のことである。


臨時訓練官への指導料は学園が負担することになり、

トレーニングマシンは全て新品と交換されて

硬貨を投入しなくても稼働するタイプに変更された。

受付という名の集金係は全員契約を打ち切られ、

練習着のレンタルやシャワー室の利用に関しても

生徒が金銭を支払う必要は無くなった。


当たり前のルールが適用されたのだ。






──鷲尾梓は初日から伝説を築き上げた。


5階、射撃室にて。

銃社会の本場アメリカ出身の臨時訓練官、

ジャック・ジャクソン・ジュニア氏は

梓の叩き出したスコアを見て鳥肌が立った。


「え、何あの子……ヤバない?」


「ええ、とんでもない逸材がいたものですね」


60秒間、ランダムに出現する標的を撃ち抜く訓練。

梓はダミーに惑わされず瞬時に本物の標的を見抜き、

その全てにゴム弾を命中させる偉業を成し遂げた。

しかもヘッドショットだ。


梓は理論上最高のハイスコアを達成したのである。


「あっ……ワンダホー!!

 とても素晴らしいデ〜ス!!」


「私は褒められると嬉しくなります」


「イエス、イエ〜ス!!

 この調子で頑張りまショー!!」


ジャック訓練官は生徒の人気取りに必死であり、

片言の日本語で喋る外国人キャラを演じている。

好物は納豆巻きだ。




4階、女子プールではヒナが泳いでいた。

まあ訓練といえば訓練だが、そこまで根を詰めて

体力増強を目指しているわけではない。

彼女は10年以上のトレーニング漬け生活により、

集団球技のプレーに必要な筋肉や運動神経は

ほとんど完成していると言っても過言ではない。


この水泳は、言わばリハビリである。

彼女は中央魔法学園の一般入試に合格して以降、

全くと言っていいほど運動をしなくなった。

約10ヶ月のブランクがあるのだ。

これからも梓たちと冒険活動を共にする以上、

せめて足を引っ張らない程度には動けるようにと

全身の感覚を取り戻す作業の最中であった。


(あの子……水泳の申し子だわ

 高身長で引き締まった筋肉の持ち主、

 それでいて適度な脂肪も付いている……

 きっと中学では水泳部だったに違いない)


そして訓練官から目をつけられるヒナであった。




3階、悪路走行ゾーンでは、人工的なぬかるみの中を

数十名の男子たちが泥だらけになって走っていた。

だが彼らの大半は泥遊びに興じているだけであり、

鬼教官役と新米兵士役に分かれてふざけ合う。


「お前らは蛆虫以下だー!!」

「サー、イエッサー!!」

「お前らのナニは爪楊枝だー!!」

「サー、イエッサー!!」

「ママのおっぱいでもしゃぶってろ!!」

「…………」

「不動茜のおっぱいを吸いたいかー!!」

「サー、イエッサー!!」


男子たちが楽しそうで何よりである。


だが佐原はそんな浮かれたノリには参加せず、

足首にウェイトを装着した状態で訓練に励んだ。

下半身の強化。

それは最前線で踏ん張る役割のタンクに必須であり、

機動力の低さを克服する意味でも重要課題であった。


(まったく真面目だねえ

 今日はレクリエーションみたいなもんなんだし、

 他の連中に混じって馬鹿騒ぎすりゃいいのに……

 要領の悪い奴はどこにでもいるもんだ)


訓練官から少し心配される佐原であった。




2階、武器格闘訓練エリア。

本来そこは剣や槍などの扱い方を学ぶ場なのだが、

茜は自腹で購入したボクシング用グローブを装備して

サンドバッグ代わりの訓練用カカシを叩いていた。

まずはジャブ。基本のパンチだ。

先日、隼斗から手取り足取り教えてもらった通りに

フォームを意識しながら打つべし。打つべし。


拳武器の使い手は少ない。

最も直感的に戦えるというメリットはあるのだが、

リーチの短い打撃武器であるという点や、

硬い敵を叩いた際に反動がモロに伝わるなどの

デメリットが大きいので、人気が低いのである。


それでも絶滅しない理由……

拳武器にはロマンがあるからだ。


この扱いの難しい武器種で戦い抜き、

勝利した瞬間の喜びは筆舌に尽くし難い。

茜はもう何度もその快楽を味わっている。

一度やったらやめられないのだ。


真剣に訓練に取り組む茜を見学していた男子たちは、

ある種の嗜好に目覚めつつあった。


(もし生まれ変わったら、サンドバッグになりたい)




同じく2階、魔法技術訓練エリア。

中村は他の生徒の邪魔にならないよう壁際に座り、

訓練の様子を眺めることに徹していた。

サボっているのではない。

中村の召喚術はかなり異質な魔法体系なので、

普通の魔法との違いを見極めることにより

真価を発揮できるのでは、と考えたのだ。


「ほら、サボってないで君もやりなさい」


と、訓練官からハンディ掃除機を押しつけられる。

吸い込み口を掌に当て、体内の魔力を放出するという

イメージを身につけさせるための訓練である。


「え、あの、俺はサボってるわけじゃ……

 というか、これって攻撃魔法の訓練ですよね?

 俺はもう魔法による攻撃手段は持ってるので、

 習得枠を無駄にしないためにもやめておきます」


「つべこべ言ってないで、やりなさい

 みんなもやってるんだからさ」


(うわ、話が通じねえ……)

「あのですね、俺の場合は召喚した使い魔が

 状況に応じて魔法攻撃とかしてくれるんで、

 俺自身が攻撃魔法を習得する必要は無いんですよ」


「つまり、君自身は攻撃魔法を使えないんだな?

 君も属性攻撃の適性を持ってるんだろ?

 それなのに攻撃魔法を習得しないなんて、

 サボり以外の何物でもないだろう

 魔物の中には物理攻撃が通用しない奴もいるんだ

 攻撃魔法が無いと、この先やっていけないぞ?」


(話が通じねえええ…………)

「2つまでしか魔法を習得できないというルールを

 もちろんご存じですよね?

 俺は既に魔法で攻撃する手段を持ってます

 残りの枠は攻撃以外の魔法で埋めたいので、

 攻撃魔法を習得するわけにはいきません」


「そんなにサボりたいのか……

 まったく反抗的な生徒だな

 やる気が無いのなら出ていきなさい

 真面目に訓練している者たちの邪魔になる」


(この訓練官は大ハズレだな……)

「はいはい、出ていきますよ

 これ以上無駄な時間を過ごしたくないんでね」


「大人に向かって、なんだその口の聞き方は……

 出ていけと言われて本当に出ていく奴があるか

 そこは私に頭を下げて反省する場面だろう

 君には常識というものがない

 よっぽど親の躾がなってなかったんだろうな」


中村は渾身の一撃を訓練官の顔面に放り込んだ。






中村は学園長室に呼び出された。

その場には中村と年老いた学園長、

そして鼻にティッシュを詰めた西野訓練官。

もちろん中村にぶん殴られた男である。


「ええと、君……中村君ね

 西野訓練官を殴ったというのは本当かい?」


「はい、俺は西野訓練官を殴りました」


「そう、認めるんだね……

 あ、一応、西野君

 君は中村君に殴られた、間違いないね?」


「そうなんですよ学園長!!

 私はただ職務をこなしていただけなのに!!

 この中村ときたら、いきなり殴ってきたんです!!

 私は彼がサボってるのを注意したんですが、

 それに腹を立てて暴力を振るってきたんです!!

 まったくとんでもない奴ですよ!!

 即刻退学にすべきです!!」


訓練場でのクールな態度はどこへやら、

西野は充血した目をカッと見開き、

鼻息荒くしながら中村の所業を訴えかける。

その際、鼻血付きのティッシュがポンと吹っ飛び、

西野の滑稽さを際立たせる。


学園長は眉間にシワを寄せてはいるが、

どうも怒りを抱えているのではなく、

西野の大声を嫌がっているようだった。


「あの、西野君ね

 聞かれたことにだけ答えてください

 それから、もう少し静かにお願いします

 そのね、僕、補聴器付けてるの

 急に大声出されるとビックリするので、ね」


「あ、はあ

 すみません……」


「それで、中村君

 どうして君は西野訓練官を殴ったのかな?」


「親を馬鹿にされたからです」


「いや、違うんですよ学園長!!

 私はただ、こいつの常識の無さを指摘しただけで、

 こいつの親を馬鹿にしたわけじゃありません!!

 そんなこともわからない奴なんですよ!!

 これこそ彼が非常識であるという証拠です!!

 他の生徒たちにとって迷惑以外の何物でもないので

 即刻退学にすべきです!!」


すると学園長は再び顔を歪め、

耳を押さえながら西野を睨みつける。

西野は自らの愚行に気づいたが、もう遅い。


「あのね、西野君

 僕、順番に聞いてるの

 まだ君の番じゃないのに割り込まないで、ね

 それから僕、補聴器してるんだ

 言ったばかりだよ、わかんない?

 それとも、わざとやってる?

 僕からすれば、君こそ非常識に思えるよ」


「その、気をつけます……」


「それで、西野君

 君、避けなかったの?

 経験豊富な訓練官なんだよね?

 新入生の攻撃、避けられなかったの?

 訓練官としての力量を疑っちゃうねえ」


「え、やっ、それは……」


しどろもどろになる西野。

ヤクザの親分のような目つきで待ち構える学園長。

内心、生きた心地がしない中村。

蛇に睨まれた蛙の心境である。

睨まれているのは隣に立つ間抜けだが。


「その、私は中村の実力を試すために、

 敢えて避けずにパンチをもらいました

 まあ、全然大したことなかったですね

 とんでもないへなちょこパンチでしたよ

 まるで将来性を感じない生徒なので、

 即刻退学にすべきだと思います」


その返答を聞き、学園長は首を傾げたまま

しばらく考え事をするのだった。

カチコチ、と時計の秒針が進む音がやけにうるさい。

西野も中村も、ただ黙って学園長の言葉を待った。


「ん〜……?

 なんか聞いてた話と違うね?

 僕は、西野君が生徒から暴力を振るわれたと、

 そう聞いたから事実確認をしてるんだ

 なのに、西野君は生徒の実力を試すために

 わざとパンチを喰らったと言うじゃないか

 サボりがどうとか、常識がどうとか、

 なんにも関係無いじゃないの

 というかね、へなちょこを一人前に育てるのが

 訓練官の仕事でしょ、違う?

 仕事をサボりたいのは君の方じゃないの?

 なんなの、この無駄な時間」


学園長は大変お怒りの様子だ。

怒鳴ったりはしていないのだが、確実に切れている。

こうやって静かに爆発する人間こそ恐ろしい。


「そもそもね、冒険者同士の暴力行為は全部、

 訓練の一環ってルールは変わってないよね?

 訓練官の君が知らないはずないよね?

 それでも何か悪質な行為があったかもしれないと、

 そう思ったから君たちをここへ呼んだの

 なのに、『顔にパンチされちゃいました』って、

 何それふざけてんの?

 その程度のことで騒いでる奴、君が初めてだよ

 西野君、本当に免許持ってんの?

 なんかもう訓練官に向いてないよ、君

 今までよくやってこれたね?」


「あ、あ、いや、その……」


「中村君、もう帰っていいよ

 君はなんの問題も起こしてないからね」


「はい、それでは失礼します」


中村は解放された。


「お前は残れ西野」




翌朝のHR(ホームルーム)にて、間抜けな訓練官が1人

自主退職したという知らせが生徒たちに行き届いた。


幸先の良いスタートである。

生徒情報


氏名:中村誠 <ナカムラマコト>

所属:中央魔法学園冒険者クラス1-B

役割:召喚士


武装①:レプリカリバー

武装②:戦士の鎧


魔法:審査中


召喚①:サラマンダー

召喚②:シルフィード


宿星:アルタイル

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