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進め!魔法学園3  作者: 木こる
殺戮機械
23/33

23.女子会

「げえっ、鷲尾梓!!」


「はい、私が鷲尾梓です」


突然の出来事であった。

それは普段利用しない食堂へと向かう途中、

渡り廊下ですれ違った女子が眉間にシワを寄せながら

梓を睨みつけるというイベントが発生したのだ。


「え、何? わっしーの知り合い?」

「少なくとも仲良くはなさそうな印象」


「はい、仲良くはありません

 この世界の彼女とは初めて会ったので、

 今はまだ赤の他人同士という関係です」


すると赤の他人の彼女はより一層険しい表情になり、

梓に対する憎悪を口にするのだった。


「その女、あたしが首を絞めたら

 いきなり絞め返してきたのよ!?

 とんでもなく凶暴な奴なのよ!!

 なんであんたがここにいんのよお!?」


「ああ、なんかこの子からもポンコツ臭が……」

「開幕から盛大に自爆とは恐れ入ったわ」


「私は技術者クラスの受験に合格して、

 今年の4月からこの学園に通っています

 あなたは冒険者クラスに所属しているようですね

 3ヶ月間お互いの存在に気づかなかったとは、

 なんだかとても不思議な感じがします

 ちなみに私は凶暴ではありません」


「凶暴でしょうが!!

 普通、首絞められたら振り解くために

 腕を掴んだりするもんでしょ!?

 なのに、あんたときたら首を絞め返してきた!!

 なんの迷いもなく!!

 どんな神経してたらそうなんのよお!!」


「殺らなければ殺られる、と判断したのです

 私があなたの腕を掴んだところで、

 あなたが攻撃を中止するとは思えませんでした

 あの時の私は武器を持っていなかったのに加え、

 手の届く範囲で反撃を実行するとなると

 首を絞め返す以外に思いつかなかったのです」


「なんかバイオレンスな会話してるねえ……」

「聞く限り、わっしーの正当防衛なんだけど」


「正当防衛だとしても!!

 プロセスがおかしい!!

 ちょっとそこの背ぇ高いあんた、

 あたしの首絞めてみなさいよ!!」


「えっ、何言ってんのこの子」

「まあいいじゃないの、絞めておやり」


ヒナは言われた通り、しぶしぶ彼女の首を絞めた。

とはいえ絞めるふりであり、力は込めていない。


「そうきたら、こう!!」


と、初対面の彼女はヒナの腕をパンパンとタップし、

正しい首の絞められ方を実践してみせた。

通り過ぎる生徒たちの視線が痛い。

いっそ本当に絞めたろかとの思いに駆られながらも、

ギリギリのところで踏み止まるヒナであった。


「はい、終わり

 ……周りから変な誤解されなきゃいいけど」

「お疲れヒナ!

 今度はアタシの番ね〜!」


「えっ」


茜はスッと手を伸ばし、初対面の女の首を絞めた。

それも割と本気の握力で頸動脈を押さえており、

脳への血流を遮断しようという意図が垣間見える。


慌てた女は茜の腕を掴んで振り解こうとしたが、

拳で戦うアイドルの腕力には力及ばず。

このままではまずい。反撃せねば。

しかし、何か武器になるような物は持っていない。

ならば素手でどうにかするしかない。

この窮地から脱出するにはどうすれば……


女は顔を紫色に染めながら、茜の首に手を伸ばした。


「2人とも、やめるのです

 茜は初対面の相手に対して失礼です

 彼女からの要求に応えただけのヒナとは違い、

 茜は相手の了承を得ずに首を絞めました

 それは大変失礼な行為です

 そして天川さん

 首を絞めてきた相手の首を絞め返すという行為は、

 先に首を絞められている方が確実に不利なので

 護身術としては不正解だそうです

 あの時の私はそれを知りませんでした

 あなたの言う通り、相手の腕を振り解くなりして

 その場から逃げるのが正しい選択です」


天川と呼ばれた女はゲホゲホと咳き込みながら

四つん這いになり、再び梓をキッと睨みつける。

茜は反省するふりをしつつも勝者の笑みを浮かべ、

床に這いつくばる天川に対してマウントを取った。

天川は茜の尊大な態度にはまるで気づいていない。

ヒナはただオロオロとするばかりであり、

梓は全く表情筋を動かさない。

遠巻きに見物する生徒たち。


現場は混迷を極めた。




4人は食堂のテーブルに着いて仕切り直した。

梓の正面にはヒナ、右隣に茜、

茜の正面に天川という並びである。


「私の正面に天川さんを置く方が安全なのですが、

 対角の位置にいる相手への緊張感を緩和して

 敵対心を低下させようという狙いがあります

 もし再び茜があなたに襲い掛かろうとしても、

 テーブルが邪魔になるのですぐには接近できません

 私はどの位置からでも攻撃することが可能ですが、

 敵対行動を取られない限りは反撃しませんので

 どうかご安心ください

 ヒナは無害な存在なので気にしなくても結構です」


と、特に誰も気にしていなかった状況説明が終わり、

とりあえず自己紹介する流れになった。

そして梓ら技術1-Aトリオの紹介が済むと、

相変わらず不機嫌そうな天川がスッと立ち上がる。


「あたしは冒険者クラス1-Aの天川織姫(あまかわおりひめ)

 もう大体わかってんだろうけど、

 そこの鷲尾梓とは相容れない関係ってやつね

 こっちの世界では中学が別だったから

 平和に過ごせていたのに、まさかこんな所で

 あんたと再会するだなんて思ってもみなかったわ

 しかも、元アイドルから首絞められるとか……

 何よもう、前より状況が悪化してんじゃないの」


発言を終えた織姫は席に着き、

手元の紙パックジュースにストローを刺す。

梓はその動作を待ってましたと言わんばかりに、

織姫と同時にストローを自身の紙パックに刺した。


ミラーリングと呼ばれる行為である。

人間は自分と似たような行動をしている人物に対して

無意識に親近感を覚える、という心理効果狙いだ。


「名前に『姫』を含んでる女って、

 大体ろくな奴がいないのよねえ〜

 物心ついた頃から姫姫呼ばれて育ってきたせいか、

 自分をお姫様かなんかだと思い込んでんのよ

 自分に甘く、他人に厳しい

 アタシが今まで会ってきた姫はそんなんばっか」


梓の努力を無駄にするかのように、

茜は独自の観点からの持論を展開して

織姫への精神攻撃を試みる。


図星を突かれた織姫はプルプルと震えながらも、

発言をスルーすることで効いてないアピールを敢行。

織姫の視界には、プルプルと震える鷲尾梓の姿が。


(こいつ、馬鹿にしてんのか……!?)


梓の努力は無駄であった。



と、ここでヒナが動く。

この面子で一番空気を読める女である。

彼女はただの置き物ではないのだ。


「そういえば、わっしーの昔話を聞いたことないね

 ここに入学する以前ってどんな感じだったの?

 できれば並行世界との違いも教えて」


その質問には織姫も興味があったのか、

何か言おうとしていたのをやめて姿勢を正す。


「どんな感じ、というのは曖昧な聞き方ですが、

 ニュアンスはなんとか理解できます

 並行世界の私は他者との考え方が違うことに悩み、

 普通の女の子になろうと努力していました

 なので、私に常識的なコミュニケーション能力を

 身につけさせようとした母は、平凡な人間が通う

 公立の小中学校へと私を進ませたのです

 現行世界の私は他者との相違に悩むことなく、

 高い才能を伸ばしてあげたいという父の願い通りに

 特別な教育を施している私立校へと進みました

 今まで私と天川さんが出会わなかった理由です」


平凡な人間扱いされた織姫は少し苛ついたが、

それはまあ、事実なので反論できなかった。

彼女も梓の才能を認めているのだ。


数学や理科などの理系科目のテストでは

毎回100点を取り、体育の授業においても

シュート成功率100%という結果を出してきた。

これが才女でなければなんだというのか。


「ああ、なるほど

 それで凡人のアンタは天才であるわっしーに対して

 一方的にジェラシー燃やしちゃってるわけね

 最初から勝ち目が無いってのに、よーやるわ」


「なっ……違うってば!!

 いや、そりゃちょっとは才能に嫉妬してるけども、

 そうゆうアレで妬んでるわけじゃない!!」


「妬んでることには変わりないんだ」

「じゃあ、どうゆうアレで妬んでんのよ?」


「うっ、それは……」


目を泳がせる織姫の態度から察し、

梓は助け舟を出してやるべきだと判断した。

刑事ドラマでよくある場面だ。

犯人はなかなか動機を自白しないものである。

悪意の理由を打ち明けるには勇気が要るのだ。


「天川さんは中村君を好いてましたが、

 中村君は私を好いてました

 つまり、中村君は天川さんを好いてませんでした

 天川さんが私に嫉妬する理由はそれです」


「ちょっ……黙れ鷲尾梓あああ!!!」


「はい、黙ります」


「え、あっ、そうなんだ!?」

「なるほど、そうゆうアレね!!」


核心に触れた!




席替えが行われた。

梓の正面には、真っ赤な顔を両手で覆い隠す織姫。

その両隣をヒナと茜で逃がさないようにブロック。

茜を接近させてしまっているが、まあ大丈夫だろう。

現在の彼女は織姫に対して肩組みをしており、

それは友好的なスキンシップであると判断できる。


「で、中村に告ったの?

 結果はどうだった?

 実は今、付き合ってるとか?」


友好的な質問に対し、織姫は首を横に振って答えた。

どうやら彼女は想いを打ち明けていないらしい。


「なんでなんで?

 この世界ではわっしーと別の中学だったんでしょ?

 アンタにとってチャンスだったんじゃないの?

 それともあいつ、他の女を好きだったとか?」


その質問に対しても織姫は首を横に振る。

どれだ?


①天川織姫と鷲尾梓は別の中学校に通っていた。

②天川織姫には中村誠と付き合うチャンスがあった。

③中村誠は鷲尾梓以外の女性を好いていた。


この場合、②か③だろう。あるいはその両方だ。

①は前提条件を確認しただけである。


「いいこと教えてあげよっか?

 あいつは全く別の世界から来たみたいでさ、

 わっしーに告ったってゆう記憶が無いのよね

 2人が出会ってからまだ3ヶ月しか経ってないから、

 中学が一緒だったぶんアンタのがリードしてるよ」


その助言に対して、織姫は体をビクンと震わせた。

どういう意味の反応なのか定かではないが、

彼女にとって有益な情報がもたらされたのは確かだ。


やはり茜は友好関係を求めていると見て間違いない。

無断で首を絞めた時はどうなることかと思ったが、

今後あの2人は仲良くやっていけるだろう。

茜に新しい友人が出来て何よりである。


ひとまず安心する梓であった。

生徒情報


氏名:天川織姫 <アマカワオリヒメ>

所属:中央魔法学園冒険者クラス1-A

役割:魔法アタッカー


武装①:森羅万象

武装②:星読みのローブ


魔法:アイスストーム(氷属性攻撃)


宿星:ベガ

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