22.組み合わせ
中央魔法学園に再びギルドマスターがやってきた。
てっきり前回と同じ調査員が来るものと思われたが、
よもや代表自らご登場とは恐れ入った。
中村が編み出した召喚術の調査が主な目的であり、
それ以外にも魔法のルールが変わってしまった件を
改めて生徒たちに徹底周知させたいとのことだった。
「いや〜、だってなぁ
実物を見てみたいじゃん
俺の、この目で…………ポケモンをさあ!」
「その発言はまずいですよ栗林さん!
ちょっとは伏せる努力をしましょうよ!」
「おっと、誠少年……
俺を呼ぶ時は『グリム』でいいぜ
我が名はグリム──
深淵の魔剣士グリムだ」
「はあ、では……
グリムさん、今日はよろしくお願いします」
「ああ、よろしくな!
それじゃあ早速ダンジョンへGOだ!」
(危ないなあ……)
自律行動で状況に応じた戦い方をする2匹を、
栗林氏は少年のような眼差しで観察していた。
まあ、サラマンダーとシルフィードの性能について
詳細を語る必要は無いだろう。
大雑把に、サラマンダーは炎属性の近接物理タイプ、
シルフィードは風属性のサポート魔法タイプとだけ
思い出してくれればそれでよい。
「あ、せっかく魔法に詳しい人がいるんだし、
気になってたこと質問させてもらいますよ」
「おお、なんでも聞いてくれ!
俺が知ってる範囲内で答えるぞ!」
「実は先日、サラマンダーがやられたんですが、
それが炎と氷の複合属性攻撃だったんですよ
サラマンダーは炎属性を吸収するから
弱点の氷属性を相殺できるはずなのに、
どうしてやられちゃったのかなあ……と」
「ふむ、複合属性か……
まあ単純に考えれば、出力を調整したんだろうな
2つの攻撃魔法を同時に放つ際は50:50の割合で
出力されるもんなんだが、中には存在するんだ
70:30とか10:90とか比率を調整できる天才がな
凡人の俺が練習してみた結果、60:40くらいまで
調整できるようにはなったけど、すごく疲れる割に
見返りが合わないから実戦では使わなかったな」
「天才……
やっぱそんな気がしてたぜ、あの野郎」
「ほほう、君のライバルも天才キャラなのか
熱い展開で好きだぞ、そういうのは」
「いや、ライバル通り越してただの敵ですよ
態度悪いし、背後から襲い掛かってきたし、
待ち伏せするような奴はライバルと呼べません」
「なるほど、そりゃ確かに敵だ
だが冒険者としては優秀だろうから、
ギルドマスターという立場上、俺はその卑怯者を
高く評価せねばならんのがつらいところだ」
「まあ、そうなりますよね」
「ところで君のポケ……
使い魔について考えてみたんだが、
実は俺の同期にも自律行動型の魔法を
使える奴が1人だけいたんだ
そいつは火の鳥を千匹ほど同時に出せたんだが、
もしかしたら君にも似たような芸当が
可能なんじゃないかと思っている」
「あ、いえ
サラマンダーもシルフィードも
1匹ずつしか出せませんでした」
「そうじゃない
俺の見立てでは“召喚”そのものが1つの魔法で、
呼び出せる種類をまだ増やせるんじゃないかと」
「召喚が1つの魔法……あっ
ってことは、俺の習得枠余ってるじゃん!」
「まあ、俺の推測だがな
3匹目を呼び出せるようになるか、
他の魔法を使えるようになったら教えてくれ」
「はい、もちろんです!!」
「目指せ、151匹!!」
(やっぱり危ないなあ……)
栗林氏は全校集会で魔法のルール変更を説明した後、
名残惜しそうにしながら帰っていった。
まだ使い魔たちの戦いを眺めていたかったのだろう。
ちなみに栗林氏が使用できる魔法は
黒炎を操る“ブラックファイア”と、
解析と追跡を行える“サードアイ”だそうだ。
黒炎はただ敵にダメージを与えるだけでなく
武器や防具に付与することが可能であり、
サードアイは“スーパーノヴァ”という魔法防御無視の
炎属性攻撃魔法へと繋げることができるらしい。
彼はデスクワーク中心の生活になっても
毎日欠かさず魔法の練習をこなしてはいたのだが、
ブラックファイアとサードアイ以外は使う機会が
無かったのでルール変更に気づけなかったようだ。
栗林氏は『攻撃+付与』と『追跡+攻撃』で、
魔法習得枠と追加適性枠を使い切ってしまっている。
彼自身はそのことに後悔していないと言っていたが、
枠の使い方はくれぐれも慎重に検討するようにと
強く念を押していたのが印象的であった。
後日、葉加瀬が諸星司の情報を入手したと言うので、
梓たちは空き教室に集まって話し合った。
「結論から言いますと、諸星司は極悪人です
中学時代に殺人未遂事件を起こしてまして、
約1年休学した後に同じ学年からやり直してます
僕らより1つ歳上ということなので、
同期生として扱わない方が賢明ですね」
「殺人未遂って……」
「そんな奴に武器持たせていいの?」
「少年院上がりの野良冒険者も多いらしいぜ」
「絶対に関わりたくない人だ……」
「非常に高い魔力と戦闘センスの持ち主なので、
天才教育に力を注いでいる関東魔法学園から
オファーを受けていた逸材だったのですが、
『実家が近いから』という理由で中央を選び、
入学後1週間以内に2つの魔法を完成させたそうです
その頃はまだおとなしい性格だったらしいですが、
それ以上新しい魔法を習得できない苛立ちから
徐々に攻撃的な態度を取るようになったそうです」
「つまり……八つ当たり!」
「ものすんごい身勝手な奴」
「1つ目の魔法は“ファイヤーアンドアイス”で、
先日使った炎と氷の複合属性攻撃ですね
どうやら彼は炎と氷の比率を調整できるようで、
炎に強いサラマンダーがやられてしまった原因は
おそらく氷ダメージの比率が高かったからでしょう
この比率調整はかなりの高等技術らしいですね」
「ああ、グリムさんも同じこと言ってた」
「才能だけで高等技術を……すごいけど、性格が……」
「ちなみに、ただ複合ダメージを与えるだけでなく
凍結の追加効果を乗せられるそうです
『(炎攻撃+氷攻撃)+凍結』の図式ですね
もし喰らえば5時間は身動きが取れなくなるので、
念のためキャリオンに凍結解除プログラムを
仕込んでおきました
凍った味方を軽く叩いて氷を割るという、
シンプルな方法なので安心してください」
「用意周到だねえ」
「備えあれば憂いなし!」
「葉加瀬も何気にすげえよな……」
「こんなパーティー、他にある?」
「もう1つの魔法は“ヘビーメタルサンダー”で、
雷属性の攻撃に弱体の追加効果が付いてきます
『雷攻撃+(攻撃弱体+防御弱体)』ですね
脅威度は前述の凍結には及びませんが、
こちらも厄介な攻撃魔法であることは確かです
……とまあ、とにかく危険な相手なので
近づかないのが一番ですね
幸い僕たちのパーティーには鷲尾さんがいるので、
諸星を回避しながら冒険活動することは可能です
それ以外の場面では…………自衛してください」
「自衛するしかないか……」
「絶対に顔合わせたくないねえ」
「俺たち目つけられてそうだけどな」
「隣の教室に……うぅ、近いなあ」
一同は敵に関する話題を切り上げ、
味方の情報を整理することにした。
「鷲尾さん
友達1号を六足に改造してもいいですか?
多少スピードは落ちてしまいますが、
安定感がグンと増しますよ」
「お断りします
四足だから可愛いのです」
可愛いは正義。
「不動さんはリフレクトで魔法効果を増幅可能で、
他に適性が無いのでひとまず魔法は完成ですね
あとは訓練で身体能力とMPを伸ばすだけです」
「やること少なくて助かるわ〜」
茜は格闘家タイプの戦士として成長しつつある。
「中村君は呼び出せる使い魔の種類を増やしましょう
それが可能か否か定かではありませんが、
試す価値は大いにあります」
「ああ、そのつもりだぜ
もし読みが当たってた場合、もう1つの習得枠は
使い魔にはできない芸当で補う形が理想的だな
つっても、そんなに適性持ってないから
上手く噛み合うかは使い魔の性能次第だけどよ」
中村は呼び出した使い魔と共に戦うという、
オンリーワンの戦術が可能である。
まあそのうち他にも召喚士は現れるのだろうが、
現在ギルドが存在を把握している人材は彼だけだ。
「佐原君は習得枠を使い切っていて、
まだどちらの魔法にも追加効果は無い状態ですね
どの適性を乗せるかは悩ましいところですが、
とりあえず攻撃と防御を同時に強化できるように
しておくのが現状ではベストだと思います」
「うん、そうだね
それなら適性の無駄遣いを避けられるし、
確実にパーティーの安全度が上がるもんね」
タンク兼バッファーの佐原。
気は弱いが、縁の下の力持ちだ。
「さて、最後に風間さんですが……
適性診断の結果をまだ聞いてません
判断材料が無いとどうしようもないので、
この機会に発表してもらえると助かります」
「ああうん、そうだった
べつに隠してたわけじゃないけど、
なんかタイミングが合わなくてね……
えっと、自分の適性は解析、解除、付与、
変換、障壁、献身……だったかな
……うん、6個言った」
「おお、ヒナ多才じゃん!」
「解析は佐原と被るから優先度低いな」
「ん……あれ?
属性攻撃の適性は無いのに付与はあるの?
その場合ってどうなるんだろう?」
「えっ、どうなるんだろう……?
自分にもわかんないや、教えて葉加瀬君!」
「なんかいいですねえ、
その『教えて博士君』的なフレーズ……
ちょっと気に入りましたよ
それはさておき、付与の適性だけがある場合は
『属性なし』を武器や防具に付与できるそうです
無属性ではなく、何も無い状態を付与します
まあ、つまりゼロを足すことになるので
戦況に全く影響を与えないどころか、
無駄にMPを消費するだけですね」
「ゴミ適性だった……!!」
「それと、献身についても説明しますね
“ディヴォーション”という魔法の適性なんですが、
実はこれ、役に立ちません
使用対象と感覚を共有するという性能なんですが、
共有できる感覚は『痛み』だけです
他の感覚と共有できないか長年研究されてますが、
今のところ何も成果が無い状態ですね」
「こっちもゴミ適性だった……!!」
「残るは解除、変換、障壁でしたね
障壁はご存じマジックシールド用の適性ですが、
シルフィードが完全上位互換を使えるので、
このパーティーにおける習得価値は低いです
全く役に立たないという意味ではないですよ」
「う〜ん、微妙……」
「解除は魔法効果を打ち消す“ディスペル”、
変換はMPを受け渡す“ソウルゲイン”、
この2つはどちらも価値の高い魔法ですよ
たしか安土先輩が京都での戦いで多用したとか、
そんな記事を読んだことがあります
まあ、現在も使えるかどうかは知りませんが……」
「モモ様の得意魔法……!!
よし、頑張って習得しよう!!」
「追加効果の組み合わせは、ほぼ必然的に
『解除+解析』と『変換+障壁』で決まりですが、
べつにこの通りにしなくても構いませんよ
ご自身でよく考えて、最適の組み合わせだと
思えるものを習得するのが大事ですから」
こうして魔法習得の方針は概ね固まった。
冒険者情報
氏名:栗林努 <クリバヤシツトム>
所属:ギルド
役割:魔法剣士兼ギルドマスター
武装①:デーモンベイン
武装②:ヘルレイザー
武装③:スワンプロード
魔法①:ブラックファイア(炎属性攻撃)
→ レーヴァテイン(炎属性付与)
魔法②:サードアイ(強解析&追跡)
→ スーパーノヴァ(炎属性攻撃)
宿星:アンタレス




