21.焼き焦がす者
学園ダンジョン第3層。
そこはストーンナイトを始めとした石造りの魔物、
いわゆる石人形シリーズが頻出するフロアである。
その圧倒的な物理防御力の高さから武器による攻撃は
明らかに不利であり、攻撃魔法や弱体魔法の使い手が
パーティーにいないと探索難度が跳ね上がる。
武器で攻める場合は打属性が有効とされているが、
現在の茜の強さでは自身の拳を壊しかねないので
今回はおとなしく荷物持ちに徹するのだった。
中村の剣も通用しないが、彼の召喚するマスコットが
魔法アタッカーとして大活躍してくれるので
荷物持ちの役割を回避できたのだ。
佐原はメインタンク兼バッファーとしてよく働き、
葉加瀬は味方に各種データを提供しながらも
六足歩行ロボのキャリオンをブーメラン軌道で
運用することにより、密集している魔物たちの
注意を引いて分散させるという活躍を見せた。
梓はまあ、いつも通りの梓であった。
音波銃の通常モードでは一撃で倒せないものの、
寸分違わず同じ箇所に射撃を命中させ続ければ
割と少ない手数で石人形を破壊可能である。
かつてモノリスに使用した共振モードも有効なのだ。
このフロアの魔物も梓の敵ではなかった。
そして、パーティー加入が早かった割に
デビュー戦が遅かったヒナは──
「よっ、ほっ、せいっ!」
と俊敏な足捌きで石人形からの攻撃を巧みにかわし、
立ち位置を調整することで敵の同士討ちを狙うという
テクニカルな戦術を展開するのだった。
彼女自身は1回も直接攻撃を行なっていないが、
この同士討ち戦術で10匹の石人形が石片と化した。
強靭且つ柔軟な足腰と、高い空間認識能力。
乱戦の最中でも敵の動きを見逃さない洞察力。
瞬時の作戦力、それを迷わず実行に移せる決断力。
風間雛菊の持ち味を最大限に活かせた戦いであった。
実際にヒナがデビューしたのは3日前ではあるが、
魔物との戦闘よりも、ダンジョン内でも加速状態で
安全に動けるかどうかの確認ばかりしていたので、
まともに戦った今回がデビュー戦扱いでよいだろう。
リザルト
鷲尾梓:177匹
サラマンダー:47匹
シルフィード:45匹
風間雛菊:10匹
不動茜:0匹
中村誠:0匹
佐原太陽:0匹
葉加瀬文明:0匹
「ヒナはよくやったのです」
「イェ〜イ、ハイタ〜ッチ!!」
「回避型タンクとして優秀すぎますよ」
「すっげえカッコよかったぜ!!」
「ぼ、僕には真似できないよ……」
「体動かして、こんなに嬉しいと思ったのは
これが初めてだよ……」
もちろんヒナ1人の力ではない。
仲間たちが万全にお膳立てをした上での、
守られながらの戦いであった。
それでもチームワークの勝利だ。
この瞬間の喜びを忘れることはないだろう。
と、本日の目的を無事達成した一行は
帰還に向けて準備を整えていた。
まあ、クーラーボックスから飲み物を出して
一息つくというだけの作業ではあったが、
ちょっとした気分転換も重要なのだ。
緊張感とリラックス。
現場実習で学んだ安全確保の秘訣である。
「……あれ? 誰か来るよ」
「なんかでっかい剣持ってるねえ」
「どうやら1人のようですね」
「上級生……じゃないぞ、あいつ」
「だ、第4層をソロで……!?」
なんと、梓たちと同じ1年生の男子がたった1人で、
第4層方面から余裕綽々たる態度でやってきたのだ。
それはつまり、彼が梓たちよりも早くに入場し、
より難易度の高い階層で戦っていたということだ。
しかも無傷……彼が只者ではないという証である。
とりあえず技術者クラスの生徒ではない。
シャイな理系男子特有のオーラは感じられない。
冒険者クラスの生徒でまず間違いないだろう。
そして、中村が名前を思い出そうとしていることから
1-Bの生徒でもないのは明らかだった。
「よう!
えっとお前、たしか…………諸星!
そうだ、A組の諸星司だよな!
俺はB組の中村誠だ!
お前、まさか第4層でソロプレイしてたのか!?
すっげえな! どんな魔物と戦ってたんだ!?」
中村が紹介してくれたので所属と氏名は判明した。
問題は、彼がどんな人物であるかという点だが……
「お前お前って、うるせえな……
馴れ馴れしいんだよ、お前
一体なんのつもりだよ、お前
俺と友達のつもりなのかよ、お前
鬱陶しいから視界から失せろよ、お前」
……どうやら社交的な性格ではないらしい。
「ああ、気に障ったのなら謝るよ
たしかに初対面なのに馴れ馴れしかったかもな」
「『かも』じゃねえんだよ、お前
馴れ馴れしいっつってんだろうが、お前
つうか早く謝れよ、お前
俺は気に障ったんだから謝れよ、お前」
社交的な性格ではないどころか、排他的だ。
なんかこう……すごく嫌な奴であることは確かだ。
「うーん……
俺は謝らない!!
なんか、お前には絶対に謝りたくない!!
なんだよその態度ふざけんな!!
すっげえ嫌な奴!!
むしろお前が俺に謝れよ!!
フレンドリーに接して損したぜ!!」
「は? 死ねよお前
俺が謝る理由なんてねえだろ、お前
とりあえず、お前が損したってんなら
俺の“勝ち”だな」
((( なんだこいつ……!? )))
話にならない。
とにかく好戦的なのだ。
他人が嫌いならば適当に話を合わせてやり過ごすか
無視すればよいものを、いちいち挑発的な口ぶりで
こちらの敵対意思を引き出そうとしてくる。
おそらく彼に友人はいないだろうし、
友人を作る気も無いのだろう。
「もういい、こんな奴は放っといて
さっさと帰ろうぜ!」
中村はこれ以上会話を続けても不毛と判断し、
賢い選択をしたのだった。
相手にしない。それに尽きる。
仲間たちも無駄な精神疲労を避けるべく、
諸星に背を向けて無事に帰ることだけに集中した。
が。
「死ね!!」
背後からの攻撃。
炎属性の……否、炎と氷の複合属性の攻撃魔法が
梓パーティー目掛けて放たれたのである。
諸星司による明確な敵対行動。
その暴力行為の矛先は中村にではなく、
中村に付き従っていたサラマンダーへと向けられた。
「ピィ!!」と短い鳴き声を放ち、
サラマンダーは大気を漂う魔力残滓へと成り果てた。
「なっ……サラマンダー!!
諸星、てめえ、この……っ!!
いきなり何しやがる!!
俺の仲間だぞ!!」
あいにくサラマンダーは蒸発してしまったが、
再召喚すれば完全に復活するので心配は無い。
だが、そういう問題ではない。
中村が召喚術を習得した件は割と有名であり、
近々ギルドの調査員が真偽を確かめにやってくる
という話が全校生徒に通達されているのだ。
諸星が知らないはずがない。
入学してからまだ間もないこの時期に、
複合属性の攻撃魔法なんて高等技術を扱える奴だ。
いくら他人が嫌いであろうと、魔法には関心がある。
中村の召喚術を知らないはずがないのだ。
諸星司は、サラマンダーが中村の使い魔であると
承知していながら攻撃を仕掛けてきたのである。
「あん? なんだよその目は?
俺はただ魔物をぶっ殺してやっただけだぜ?
危ないところだったなあ〜?
お前の隣に凶暴そうな新種の魔物がいたからよお、
優しい俺はつい体が動いて助けちまったんだぜ?
ここは土下座しながら俺に感謝する場面だろうが
礼儀のなってない奴はこれだから困るぜ」
中村は頭の血管をビキビキと浮き上がらせている。
彼だけではない。仲間たちも同じ気持ちだ。
茜に至っては咳をするふりして「ON」と囁き、
いつでも敵をぶっ飛ばせるように準備を整えていた。
「皆さん、落ち着いてください」
と、リーダー梓が先頭に躍り出る。
ああ、彼女は人間同士の争いを嫌う子だ。
挑発に乗って喧嘩に発展しようものなら、
きっと悲しい気分にさせてしまうだろう。
サラマンダーの仇討ちをしてやりたいところだが、
べつに死んだというわけではないので水に流そう。
仲間たちはそう納得して矛を収めた。
梓は諸星に銃口を向けながら言った。
「警告します
もしまた私の仲間に危害を加えるようであれば、
私はあなたを撃ちます」
(あ、なんか見たことある光景)
(あれ本気で怖いのよねえ)
「あん? なんだよそのオモチャは?
そんなんで脅してるつもりなのか?
火薬使ってない時点で脅威じゃねえんだよ
どうせ鷹宮の持ってるやつと同じだろ?
それじゃあこの俺は殺せねえよ」
(おや、あの人は鷲尾さんを知らないようですね)
(もう警告はいいから撃っちゃえよ)
(早く帰りたい……)
「警告はしました
念のため、あなたが先を歩いてください
また背後から攻撃されたくはありませんので」
心なしか、梓が怒っているように見える。
いや、確実に激怒している。
相変わらず無表情な彼女ではあるが、
諸星の問い掛けに答えないところが怪しい。
敵に手の内を明かしたくないのだ。
すると諸星はフンと鼻で笑い、
頭をボリボリ掻いてから気だるそうに歩き出した。
「ハアァ……
なんなんだ、お前ら?
男が3人もいて情けねえ連中だな
まさか、この女が仕切ってんのか?
そこはせめて不動茜だろうがよ……
ああ、ついでだから不動に聞いとくけど、
俺の女になる気はあるか?」
「ないっ!!!」
「だよなあ〜、ヘッヘッヘッ」
諸星は特にショックを受けた様子もなく、
ヘラヘラと笑いながら出口へと向かった。
本当に、ついでに聞いただけだったのだろう。
シャイな理系男子には不可能な芸当である。
「不愉快な人……」
「同じクラスじゃなくてよかった〜!」
「あとで情報集めときますね」
「みんなごめんな、俺のせいで……」
「中村君は悪くないよ」
つい数分前までは勝利を祝うムードだったのに、
諸星の登場でケチがついてしまった。
あわや一触即発の空気だったが、梓の警告により……
否、諸星の気まぐれにより喧嘩には発展しなかった。
一行は苦い感情を抱えたまま帰路に就く。
しばらくすると諸星の背中が見えなくなった。
どこかに身を潜めて奇襲するつもりなのだろう。
そこで梓はリュックサックから友達1号を取り出し、
目的地を監視小屋に設定して発進させた。
先行する友達1号が定期的に発信する超音波を頼りに、
反響定位で諸星の位置を捕捉するという作戦だ。
「目標を捕捉しました」
梓の話によれば、やはり諸星は通路に身を潜めており
ニヤニヤ笑いながら待機しているとのことだった。
なので梓たちは不要な戦闘を回避するため、
迂回して別ルートからゴールを目指すことにした。
「英断だね
あ、でも友達1号は大丈夫かな?
前みたいに悪戯されなきゃいいけど……」
「その点は心配無用です
改造後の友達1号にはキャリオンと同じく、
回避行動プログラムを仕込んでいます
そして意外に思うかもしれませんが、
諸星君は友達1号に攻撃を仕掛けませんでした
目的地で合流できる可能性は非常に高いです」
「へえ、本当に意外
もしかして、こっちの作戦バレてるとか?」
「その可能性は低いです
諸星君は潜伏先から動いていません
私たちが迂回している事実に気づけば、
後を追ってきたはずです」
まあ何はともあれ、その後は何事も無く帰還し、
監視員のおじさんから友達1号を受け取って
本日の冒険活動を終了したのであった。
生徒情報
氏名:諸星司 <モロボシツカサ>
所属:中央魔法学園冒険者クラス1-A
役割:魔法剣士
武装①:スターゲイザー
武装②:中央魔法学園男子制服
魔法:非公開
宿星:シリウス




