19.新時代
6月に入り、最初の雨が降った。
梓ら1-A女子トリオは2つの机に3つの弁当箱を並べ、
暗い空模様も気にせず談笑に勤しんでいた。
まあ実際に会話していたのはヒナと茜だけだが、
梓もその会話内容をとりあえず把握しておいた。
学園の雰囲気は緩やかに変わりつつあった。
生徒会室で偉そうにふんぞり返っている鷹宮皇帝が
取るに足らないザコであると証明されて以降、
今まで学園での冒険活動を控えていた上級生たちが
やる気を出すようになり、新入生たちもそれに倣って
積極的にダンジョンで魔物と戦い始めたのだ。
訓練場の拡張工事はもうすぐ終わりそうで、
臨時の訓練官との契約はもう済ませてあるらしい。
これからは冒険者の養成所として当然実施されるべき
まともな戦闘訓練が受けられるということだ。
全体が活気付いている。
大変よろしい傾向である。
「雰囲気が変わったといえば、
クラスの男子たちも変わったよねえ
なんか2ヶ月前はみんなモゴモゴしてたけど、
今は『茜ちゃん、茜ちゃん!』って感じだし、
ズボンからYシャツ出すようにもなったし」
「アタシ可愛いからね〜
あいつら、アタシの気を引きたくて必死なんよ
無駄なアピールだとは思ってるけど、
それで空気が浄化されてるなら良しとしましょ」
「すんごい自信
茜ならこの世界でもアイドルとしてやってけそう」
「あ〜、先週も事務所から同じこと言われたけど、
やっぱ冒険者志望なんで断っといたよ」
「『も』ってことは、度々スカウト来てたのね……
まあ、考えてみりゃ当たり前か
第1世界で大成功してた実績があるんだし、
今はそれプラス冒険者目指してるキャラだから
“冒険アイドル”路線とか狙えそうだしねえ」
「えっとぉ〜、茜ちゃんの夢はぁ〜
隼斗さんと一緒に魔王的な奴をぶっ飛ばしてぇ〜
世界中のみんなを救っちゃうことでぇす!
そして隼斗さんの子供を産みます」
「ちょ、それ、絶対ファン離れるやつ!!
冒険しすぎだよ!!」
「それでもついてくるのが本物のファンってやつよ
例えば佐原とかね」
「ああうん、例えば佐原君とかね」
「そういや前から気になってたんだけど、
ヒナって本当にアタシと同じ世界から来た人間?
不動茜の名前を知らないなんて怪しいなあ〜?」
「怪しいとか言われましても……
スポ根家庭に生まれた人間の宿命というか
基本的にテレビ禁止されてたもんで、
試合中継とかしか観させてもらえなかったから
外の世界がどうなってるのか知らなくてねえ」
「ものすんごく厳しい家庭だったのね……
あ、そうだ
アタシの代わりにヒナがアイドルやってみない?
アタシの紹介なら事務所も放っておかないはず
身長190cm超えとか希少種だし、絶対に人気出るよ
そんで番組の企画でバスケとかやらされて
プロ相手にいい勝負しちゃったりして、
その高い身体能力を買われてプロに誘われて、
気づいたら日本代表チームの一員に……」
「結局スポ根ルートかい!!
せっかく逃げてきたのに台無しだよ!!」
「じゃあ、わっしーアイドル化計画はどうかな?
ワタシハワシオアズサデス
ウィーン、ウィーン、ガシャン!」
「コアなファンしかつかなそう
例えば中村君とかね」
「あと葉加瀬とかね〜!
あ、でもあいつはロボット人間じゃなくて、
人間ロボットじゃないと受け入れなさそう!」
「わかるわ〜!」
楽しい午後が過ぎてゆく。
放課後、いつものように関所で合流した梓たちは
いつもの流れでダンジョンへ向かおうとしたが、
男子陣から重大発表があると聞かされて足を止めた。
「良いニュースと悪いニュース、
どちらから聞きたいですか?」
「私は悪いニュースを聞きたいです」
「自分は良いニュースかなあ」
「アタシも良いニュースで」
「ではリーダーの意思を尊重して、
悪いニュースからいきましょう」
「多数決じゃなかった……!」
「もしかしてさっきの会話が気に障ったとか!?」
「さて、なんのことやら……
それで悪いニュースというのはですね、
名倉事変以降に魔法を使用した人たちは
最大で2つまでしか魔法を習得できないそうで、
1回でも発動したらその時点で習得済みとなります
おそらく“第2世界”に存在していたとされる
魔法のルールが適用された結果と考えられてます
あれから10ヶ月が経ちますが、この驚愕の事実に
気づくことができた人はほとんどいませんでした
お気に入りの魔法以外は滅多に使わない冒険者や
面倒臭がって報告を怠っていたケースも多いので、
ギルドは状況の把握が遅れてしまったようですね」
「え、2つまでって……少ないねえ」
「適性が3つ以上ある人は取捨選択しなきゃね」
「ああ、それなんですが、
『攻撃魔法に弱体の効果を乗せる』などの方法で
魔法習得数を節約することが可能だそうです
これからは複数の効果を兼ねる魔法の時代なので、
1人1人の魔法性能をしっかり把握しておかないと
戦術に大きな影響が出てしまうでしょうね」
「つまり戦闘の難易度が上がってしまった、と……」
「アタシは適性1つだけでよかった〜
考えること少ないし、味方的にも助かるでしょ」
楽天的な茜とは対照的に、佐原は暗い顔をしている。
まあ、消極的な彼はいつもそんな感じではあるが、
この時は特に申し訳なさそうな態度であった。
「その、僕……
もう既に2種類の魔法を使っちゃってるんだ
解析魔法と、無意識に使った強化で……」
「あ、習得枠使い切ってる」
「他にはどんな適性持ってんの?」
「回復、攻撃、弱体、凍結、感電、拘束、解除、
付与、防壁、献身、探知、変換、保存──」
「適性のバーゲンセール……!!」
「どうりで後衛志望だったわけだ……!!」
「ギルドが発表した情報では、1つの魔法につき
乗せられる効果は1つだけっていうルールだけど、
『(攻撃強化+防御強化)+回復』みたいな感じで
同じ適性を被せて他の適性を追加できるそうだよ」
「新時代の魔法使いは大変だねえ……」
「アタシは適性1つだけでよかった〜!!」
なかなか厄介なニュースを聞き終えたので、
お次は良いニュースとやらを聞いてみよう。
発表者は中村だ。
彼は親指を立てながら白い歯をキラリと輝かせた。
「俺が魔法を使えるようになったぜ!!
しかも、2つだ!!」
「ああうん、おめでとう……」
「聞く順番間違えた感じ」
「多数決に従うべきでしたね」
「中村君、ドンマイ!」
散々である。
というわけで、本日の冒険活動の目的は
いつも通り魔物の討伐としていたものの、
中村の魔法をお披露目するのがメインとなった。
ついでに茜の適性も判明したらしいので、
早速試してみようという流れになったのだ。
「じゃあ佐原、アタシにバフかけてみて!」
「え、上手くできるか自信ないよ……
あの時は無意識だったし、感覚を思い出せないんだ
やっぱりデビュー戦限定のノリというか──」
「いいからアタシを応援しなさい!!
いつもやってることでしょ!?
『茜ちゃん頑張れ』って気持ちを
思いっきりぶつけりゃいいの!!」
「う、うん……
とりあえずやってみるよ……」
佐原は深呼吸した後、
拳を固く握り締めながら叫んだ。
「茜ちゃん、頑張れえええええっ!!!!!」
すると茜の全身に力がみなぎり、
忘れかけていた高揚感を思い出したのだ。
「そう……
そうそう、これよこれ!!
やっぱりアンタの仕業じゃない!!
アタシはこれを求めていた……!!」
成功だ。
佐原は注文通りに仕事をこなせた達成感と、
茜が喜んでいる事実に幸福感を味わっていた。
そして味方を強化する術を身につけたことにより、
大きな自信を持つことができるようになった。
「そして、ここからがアタシの魔法……
ファンからの声援に応えて
更なる高みへと駆け上がるための、
まさにアタシにうってつけのアイドル魔法!!」
「アイドル魔法……?」
「聞いたことありませんねえ」
「増幅魔法っぽいな」
「茜ちゃん、いっけえええええ!!!」
「フルブーストおおおおお!!!!!」
叫ぶと同時に茜のパワーは更に跳ね上がり、
アドレナリン全開の戦闘モードへと突入する。
それは魔法効果を増幅させる魔法──リフレクトだ。
「うっしゃオラァ!!!
出てきやがれ魔物ども!!!
死にたい奴からかかってこい!!!
速攻でミンチにしてやんよ!!!」
かつてない高揚感に満たされた茜は我を忘れ、
目についた魔物を片っ端から殴り飛ばしては
次なる獲物を求めてダンジョンを駆け回った。
梓は音響兵器を使用して茜を止めるべきか迷ったが、
現在の彼女ならば魔物にやられる可能性は低く、
何より楽しそうにしているのでやめておいた。
「アイドル魔法……」
「あれじゃあ狂戦士ですよ」
「今日は俺の出番無さそうだな」
「これぞ茜ちゃんって感じだ!!」
リザルト
不動茜:105匹
鷲尾梓:0匹
風間雛菊:0匹
中村誠:0匹
佐原太陽:0匹
葉加瀬文明:0匹
中村の魔法はまた後日ということで。
「──というわけで、後日だぜ」
前回は茜の暴れっぷりを見学しているだけだったが、
今回こそは中村の魔法を見せてもらおうと話し合い、
彼の邪魔をしないよう取り決めておいた。
「ま、どうせファイヤーボールとかの
単純な攻撃魔法でしょ?
アンタべつに天才って感じじゃないし、
あんま期待しない方がいいわね」
「あ、茜ちゃん!
単純な攻撃魔法が使えるメンバーも必要だよ!
中には物理攻撃が通らない魔物もいるんだし、
適性の組み合わせ次第ではダメージを与えながら
敵の能力を下げたり足止めしたりできるんだ!
それは、僕たちにはできないことだよ!」
「むむむ……
そうゆう魔物もいんのね
見下して悪かったわよ、陳謝陳謝」
だが中村は少しも気分を害されていないかのように、
ニッと笑って茜を許すのだった。
そして一行は第1層をしばらく進み、
コボルト4匹の群れと遭遇したので立ち止まる。
本日の主役である中村にどうするか尋ねると、
彼は自信満々に答えた。
「これでやっとお披露目できるぜ!」
仲間たちはいつでもフォローできるように
臨戦態勢を取りつつ、中村を見守った。
「行くぜ…………サラマンダー!!」
中村の右手からボッと火の玉が発生する。
なんだ、結局ファイヤーボールか……。
と、仲間たちは少し残念そうにした。
が、違ったのだ。
それは火の粉を撒き散らしながら変形し、
羽の生えたアルマジロのような外見をした
可愛らしい魔法生命体が登場したではないか。
「え、何あれ……!?」
「可愛いじゃないの!!」
「なんですかその魔法は……」
「中村君……すごい!」
仲間たちの反応に気を良くしたのか、
中村は続けてもう1つの魔法を使用した。
「出でよ、シルフィード……!!」
すると今度は中村の左手に風が集まり、
周囲のマナと混ざり合って形成してゆき、
今度は可愛らしいモモンガが誕生したのであった。
「紹介するぜ……
炎使いのサラマンダーと、
風使いのシルフィードだ!」
その2匹が手を振って挨拶してきたので、
仲間たちも手を振って応えてみた。
「え、本当に何あれ……なんなの?」
「アタシに聞かれてもわからんて」
「僕のデータにはありませんよ」
「中村君は召喚士だった……?」
仲間たちは困惑している!
リザルト
サラマンダー:12匹
シルフィード:11匹
鷲尾梓:3匹
風間雛菊:0匹
不動茜:0匹
中村誠:0匹
佐原太陽:0匹
葉加瀬文明:0匹
本日は自律行動するマスコットを見守る会となった。
中村曰く『学習すればするほど強くなる』らしく、
なぜそう言い切れるのかは本人もわかっておらず、
ただ本能で確信しているとのことだった。
生徒情報
氏名:中村誠 <ナカムラマコト>
所属:中央魔法学園冒険者クラス1-B
役割:審査中
武装①:ホークブレード
武装②:戦士の鎧
魔法:審査中
宿星:アルタイル




