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進め!魔法学園3  作者: 木こる
殺戮機械
17/33

17.アイドル

「ねえねえ、茜ちゃん!

 もう1つの世界でアイドルだった茜ちゃんだよね!?

 俺は君のファンだったんだ!

 もしよかったら、サインくれるかな!?」


「いつも応援してくれてありがとうございました!」


鷹宮の不正受給に関する調査が行われて以降、

中央魔法学園に不動茜が入学した件が広く知れ渡り、

最近はサインを貰いに来る輩が急増した。

おかげで休み時間にはいつも技術者クラスの廊下に

大群が押し寄せ、落ち着かない日々が続いている。


「ところでアンタさあ、

 どのレベルのファンだったわけ?

 ライブには毎回来てくれた?」


「えっ、いやあ……

 毎回は行ってないかな

 あ、でも七夕ライブには行ったよ!」


「そう……

 それってピンクミサイル目当てじゃなくて、

 千年童話目当てだったんじゃないの?」


「ん……

 いや、ははは!

 実はそうなんだよね〜

 でも会場には行ったんだし、ファンだよ!

 “恋する核弾頭”、いい曲だと思うよ!」


「ふーん、そう……」


こんな奴らばかりである。

茜は別の世界では確かにアイドルをやっていて、

ピンクミサイルというユニットのメンバーだったが、

寄ってくる自称ファンの連中はどいつもこいつも

ピンクミサイル時代の話題ばかり持ち出すのだ。


そして、どいつもこいつもファン『だった』奴らで、

なんというか、熱狂を感じないに(・)わ(・)か(・)しかいない。

これからもファンであり続けると宣言してくれたのは

佐原太陽、ただ1人だけであった。




「ねえ佐原、永遠のファン宣言してくれた時に

 小悪魔カルテットの名前出してたけど、

 アンタっていつからアタシのファンだったの?」


「永遠のファンってのはどうかな……

 茜ちゃんの幻滅するような場面見たら、

 ファン辞めるかもしれないし……」


「妙に現実的な意見……!!

 アンタってそうゆうとこ正直よね

 世渡りは下手そうだけど評価はできる」


「あ、ありがとう……ふふっ

 それで、えっと、僕は7歳の頃からファンだよ」


「7歳!?

 ちょ、それって小悪魔カルテット結成時!!

 最初からリアルタイムで追ってたの!?

 後から知ったわけじゃなかったんだ!!

 想像してた以上に筋金入りじゃん!!」


「あ、うん

 だけど、その、もっと言うと結成前からかな……

 ほら、茜ちゃんはドラマにエキストラ出演して、

 自分のことを主演女優かなんかと勘違いして

 『どうせスターになるなら太陽になりたい!』って

 自信満々に宣言してたじゃない

 その時、僕は思ったんだ……

 なんて身の程知らずな子なんだろう、ってね」


「やっ、それは…………黒歴史!!

 なんでアンタがそれ知ってんの!?

 もしかしてアンタも撮影現場にいた!?

 ってか、最後の一言が全然ファンっぽくない!!」


「えっと……うん

 僕も“逃げ惑う子供役”で参加してたんだ……

 でも『顔が濃すぎる』って理由で、

 僕が映ってるシーンは使用されなかったけどね」


「ああ〜、アンタまつ毛長いもんね

 なんとなくフランス人っぽい印象あるし、

 完全に主役より目立っちゃう顔立ちだわ」


「小学生の頃から『ラクダ』と呼ばれていたよ……」


「ラクダ……ププッ

 言われてみればたしかに……ふへへへ

 子供って残酷……うひゃひゃひゃひゃひゃ!!」


「うん……

 これぞ茜ちゃんって感じだ!」


「幻滅しないの!?」




放課後、いつも通りダンジョンへ入場する前に

これまたいつも通り監視員のおじさんと会ったので、

茜は気になっていたことを尋ねてみた。


「ねえ、おじさんさあ

 鷹宮が不正してること知ってた?

 発見ボーナス横取りの件だけじゃなくて、

 ダンジョン入場料をせしめてた件も含めて……

 ところでおじさん何年目?」


「ん、うん……

 おじさんは今年で10年目になるよ

 ボーナス横取りについては全く知らなかった

 入場料については……なんとも言えないね

 関所の職員がやらかしてるって噂はあったんだ

 監視員の中にも『俺たちもやろうか』なんて

 冗談か本気かわからない発言する人が出てきて、

 居心地の良い環境とは言えなかったね」


「おじさんは関わってない……よね?

 こうして処分されてないとこ見ると」


「うん、決して関わっていないよ

 もし悪いことしてる職員を見かけたら、

 クビ覚悟で止めようとは思ってる」


「え……んんん?

 なんで悪人止めた人間がクビになんの?

 そんなの絶対におかしいでしょ」


「おかしいよねえ

 でも、ここは中央魔法学園だからね……」


「その一言で納得できてしまうのがなんとも……」


「ただね、そういう覚悟ができたのはつい最近なんだ

 名倉事変以前のおじさんはとにかく怠惰でね、

 周りの人間が何をしていようが無関心だった

 もし向こうの世界の記憶を知らないままだったら、

 不正をする側の人間になっていたかもしれない」


「へえ、おじさんにとってはいい影響だったんだ

 別の世界ではどんな人生送ってたの?」


「一般の高校で警備員をしていたよ

 しかも妻と娘がいたんだ

 まさしく別世界ってやつさ

 ああ、人生はこんなにも楽しかったんだってね」


「へえ、そうなん──」


茜は気づいてしまった。

今目の前にいるおじさんは結婚指輪をしていない。

彼が話したのは、あくまで並行世界の記憶なのだ。

この世界では結婚していないか、離婚したのだろう。

そして、おそらくこの世界に娘は…………。


なんて残酷な質問をしてしまったのだろう。

茜は後悔し、下を向いて黙るしかなかった。


「まあ、気にしなくていいよ

 ……なんて言われても難しい話だろうけど、

 おじさんは前を向いて生きようと決めたんだ

 もちろん完全に吹っ切るのは無理だけど、

 別世界の記憶は『そうなる可能性があった』

 と思うことでなんとか誤魔化している

 もし君も別世界の記憶に悩まされているのなら、

 この方法が効くか試してみるといい

 気分が楽になるという保証はできないけどね」


「おじさん……」


彼と同じような思いをしている人間はきっと……

いや、確実に大勢存在しているはずだ。

ある日突然、別の人生を送っていたもう1人の自分が

今の自分よりも幸せだったと知ってしまったら……。

その幸せな人生を二度と取り戻せないとしたら……。


気が狂いそうになる。




ダンジョンで活動中、茜は拳に違和感を覚えていた。

べつに怪我をしたというわけではない。

そして、その感覚は今に始まったことではない。

なんというか、物足りなさを拭えないのである。

これまで茜が相手にしてきた魔物は

全て一撃で屠ってきたが、何かが足りないのだ。


電磁加速グローブの不調ではない。

鷲尾父からの指導を経た葉加瀬に改造してもらい

軽量化に成功しているし、梓から許可を得て

出力レベルを1段階上げてもらっている。

以前よりも確実に強化されているのだ。

それなのに、なぜ……?


「なんかこう、拳だけの問題じゃないのよね

 上手く言えないけど、もっと根本的なものというか

 全身にみなぎるパワーが足りないというか……

 とにかく、デビュー戦で味わった高揚感が

 今のアタシには欠けてる感じなんよ」


「初めての勝利だから特別嬉しかった、とか?」


「それもあるんだろうけど、

 それだけじゃない気がすんのよねえ」


「相手がデスクラゲだったからじゃないか?

 そういや、あれ以来1匹も見かけてないよな」


「デスクラゲ……

 データ見た限りではスライムと防御力同じだから、

 手応えに違いは出ないはずなんだけどねえ」


「たしか、攻撃する前に佐原君が応援してましたよ

 もしかしたら無意識に強化(バフ)を使用して、

 攻撃力が底上げされたんじゃないですかね?」


「ああ〜、なんか当たりっぽい!

 なによ佐原、アンタやるじゃない!

 まさしくファンの鑑だわ!

 これから一生アタシを応援し続けなさい!」


「ふへっ、へへへ……

 僕は最初からそのつもりだよ……」


佐原が嬉しそうで何よりだ。

茜の疑問も解消され、これでスッキリした。

一行は心置きなく冒険を再開するのだった。



10秒後、冒険が中断される。


「ちょっと待って

 たしか、バフって魔法能力者にしか効かないはず

 アタシ無能力者だし、バフ乗らないじゃん」


「え、何を言ってるの茜ちゃん?

 君は間違いなく魔法能力者だよ

 かなり低いけど、確かに魔力を持ってるよ」


「えっ……

 魔力診断の結果、『見込みなし』だったよ!?

 それって魔力持ってないってことじゃないの!?」


「ぼ、僕に言われても……」


茜に詰め寄られて嬉しそうにする佐原を見兼ね、

葉加瀬は助け舟を出すことにした。


「『見込みなし』というのはですね、

 『基準値未満』をボカした言い方なんですよ

 具体的には、基礎魔力が0〜50の人が対象です

 まあ基準値未満でも、魔力以外の要素が絡んで

 見込みありと診断されるケースもありますけどね

 実は全人口の約半数は魔法能力者なんですが、

 その事実が明るみに出ると混乱が起きかねないので

 言葉を濁しているというわけです」


驚愕の事実を知り、茜は呆然とした。

今まで自分は無能力者であると思い込んでいた。

そう勘違いするようにまんまと誘導され、

魔法を使えない冒険者としてどう立ち回ろうかと

真剣に悩んでいたのである。

それが、実は魔法を使うことが可能だったのだ。

魔力は低いそうだが、確かに魔法能力者なのだ。


悔しくもあり、嬉しくもある。

複雑な心境であった。


「え、え、じゃあさ!

 アタシってどんな魔法使えんの!?

 魔力低いとなると攻撃系には向かないだろうから、

 補助系を駆使して戦う感じになるよねえ!?」


「落ち着いてください、不動さん

 あなたがどんな適性を持っているのかは、

 今この場で確かめることはできません

 適性診断を受けて結果を待つしかありませんよ」


「受ける受ける、超受ける!!

 それってどこでやってんの!?

 24時間受け付けてるかなあ!?

 とりあえず今日の冒険は終わりでいいよね!?

 早くアタシの隠された能力を知りたい!!」


リーダー梓の判断は……


「はい、本日の冒険活動を終了します

 現在の茜は極度の興奮状態にあり、

 何をしでかすかわかりません

 味方の安全を確保するため帰還を優先します」



リザルト


鷲尾梓:244匹

中村誠:57匹

不動茜:35匹

佐原太陽:18匹

風間雛菊:0匹

葉加瀬文明:0匹



「あ、ちなみに……

 本人が気づいてなさそうだから言っとくけど、

 風間さんも魔法能力者だよ

 茜ちゃんと一緒に適性診断受けたらどうかな?」


「バラされた……!!」

生徒情報


氏名:不動茜 <フドウアカネ>

所属:中央魔法学園技術者クラス1-A

役割:近接物理アタッカー


武装①:電磁加速グローブ

武装②:戦士の鎧


魔法:未登録


宿星:ベテルギウス

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