15.不正疑惑
梓ら6名の新入生は正当な報酬を得るため、
鷹宮皇帝のアジトである生徒会室までやってきた。
相手は同じ学園に通うただの上級生であり、
緊張する必要などないのだが、つい体が硬くなる。
まるで職員室に入る時の気分……というよりかは、
不良の溜まり場に突入するような覚悟であった。
梓は仲間全員が頷いたのを目視で確認し、
これは心の準備が出来たという合図なのだと判断して
生徒会室の扉をノックしようとした。
……のだが、部屋の中から2人の男性が近づいてくる
足音が聞こえたので、ひとまず後退して様子を見る。
ガチャリ、と内鍵が解錠された次の瞬間、
まるで蹴破ったかのような勢いで扉が開く。
そこには顔を真っ赤にしてフウフウと息を荒げる
生徒会長、鷹宮皇帝の姿があった。
彼はどう見ても不機嫌であり、
冷静に話し合える状態ではなさそうだ。
これは日を改めるべきか?という
仲間たちの思いをよそに梓が口を開く。
「生徒会長、私たちはあなたに話があります」
「なっ……はああ!?
いきなりなんだ君は!?
僕は今、忙しいんだ!!
見てわからないのか!?」
「私は技術者クラス1-A所属、鷲尾梓です
あなたは忙しそうに見えません
客人との対談は終わりました
あなたは私たちの話を聞くことができます」
「いや、本当になんなんだ!?
生徒会長はいつだって忙しいんだよ!!
1年の相手なんかしてる暇は無い!!
いいからさっさとどけよ邪魔だ!!
あと、その変な喋り方やめろ気持ち悪い!!」
梓は反論しようとしたが、
部屋の中にいる長身の男がこちらに掌を見せたので、
これは制止の合図なのだと察して押し黙った。
「邪魔なのはお前だ、鷹宮
そこに突っ立っていられると俺が通れないだろう
さっさと帰ってもらいたかったんじゃないのか?
お前が何をしたいのかさっぱりわからない
それと、ドアの開け方が乱暴すぎる
廊下に誰かがいるかもしれないとは思わないのか?
幼稚園児だって想像できることだぞ?
まったく、こんな奴が生徒会長だったなんてな
どうりでこの学園の評判がよろしくないわけだ」
どうやらこの客人も鷹宮を嫌っているようだ。
まあ当然だろう。鷹宮に好かれる要素は無い。
と、客人の姿を見て仲間たちがざわめき出す。
彼はただ長身というだけでなく、髪まで長いのだ。
その長髪の先端は膝裏にまで達しており、
日常生活に不便であろうことは容易に想像がつく。
が、彼はそれを承知で髪を伸ばしているのだ。
カッコいいと思って髪を伸ばしているのだ。
そして事実、彼はカッコいい男であった。
「あの人テレビで観たことある……!」
「あ〜うん、すんごい有名だよね」
「まさかこんな所で会えるなんて……」
「ほ、本物……本物だよね?」
「何しに来たんでしょうねえ?」
新米たちの反応に気を良くしたのか、
長髪の彼は左手で顔の右半分を覆い隠し、
肩に羽織っていたスーツの上着を
バッ!と大袈裟に投げ捨てながら自己紹介した。
「我が名はグリム!!
深淵の魔剣士グリムだ!!
そして、ギルドマスターの称号を与えられし者!!
さあ、冒険者たちよ!!
俺の背中についてこい!!」
日本国内の冒険者事業を統括する組織──“ギルド”。
その代表である栗林努氏がここにいる。
独特な言動やファッションセンスばかり目立つが、
地道な努力を積み重ねて成り上がった人物なので
多くの人間から尊敬され、愛されている存在である。
「おお〜〜〜やっぱり本物だ!!」
「鷹宮が邪魔で半分しか見えなかった!!」
「空気読めよ伊達眼鏡野郎!!」
「も、もう1回やってくれたらいいけど……」
「写真撮ってもいいですかね?」
しばらく撮影タイムに入った。
梓は『背中についてこい』と言われたのを真に受け、
撮影中ずっと栗林氏の背中に張り付いていたため
全ての写真が心霊写真のような仕上がりになった。
5分ほどで撮影を切り上げ、別れの時が来る。
「さて、もう少し君たちと遊んでいたいが、
そろそろ行かないとな
西に用があって、ついでに立ち寄っただけなんだ
どうもあの鷹宮って奴は不正受給してるっぽくてな
その件について後日調査を行うと宣言しておいた」
「あ、実は僕たちもその件で
鷹宮と話をするつもりだったんですよ
でもギルドの調査員が動いてくれるのであれば、
僕たちは余計な手出しをしない方がいいですね」
「ほう、被害者だったのか
それならば君たちにも調査に協力してもらおう
詳細は今日中にメールで伝える
では……さらばだ、諸君!!」
栗林氏はフハハハと高笑いしながら去っていった。
「わっしー、戻っておいで!」
「背中にピッタリ張り付いとる……」
「上の人間から命令されたと思ったんだろうなあ」
「国内冒険者の頂点には逆らえないよね……」
「どこまでついていけるのか、見ものです」
翌日、梓たちは市内北部にあるダンジョンに集合し、
ギルドから派遣された調査員より説明を受けた。
本来ならば仮免冒険者である梓たち1年生は
学園ダンジョン以外での活動を制限されているが、
今回は調査協力者として入場を許可されたのだ。
そのダンジョンでは、イカ人間を始めとする
新種の魔物が何種類か出没するそうで、
本当に鷹宮が1人で対処できたのかどうかを
見極めるには都合の良い場所であった。
集められたのは梓ら6名と鷹宮だけではない。
その場にはざっと50人以上の冒険者がおり、
7割程度は同学園の上級生たちであった。
彼らも発見ボーナスを奪われた被害者なのだろう。
調査員は鷹宮に向かって指示を出した。
「鷹宮君、その奇妙な全身タイツを脱ぎなさい
当時と同じ装備で調査を行うと伝えたでしょう
君は全ての戦闘で制服を着用していました
報告書にはそう書いてありますよ?」
「え、いや、それは……書き忘れただけですよ
僕はいつもこのスーツ──“メビウス”を装備して
魔物との戦闘を行なってるんです
あまりにも僕の体に馴染む物だから、
ついうっかり書き間違えちゃったんです」
メビウス──奇妙な全身タイツだ。
アメコミに出てくるヒーローが着ていそうな服だが、
寸胴短足体型の鷹宮が着ると絵にならない。
そのふざけた見た目からは想像できないほど高性能で
斬打突の物理属性無効、炎氷雷無の魔法属性無効、
全状態異常無効というとんでもない防御力を誇る。
ちなみに鷹宮テクノロジーの最高傑作らしく、
とても庶民が手を出せる値段をしていない。
「メビウスが完成したのは今年の3月でしょう?
それ以前の戦闘では装備していなかったはずです
鷹宮君は8月から3月までの間に
23種類の新種と遭遇し、勝利した実力者です
そんな防具が無くても充分に戦えるでしょう
……報告書が正しければ、の話ですが」
「いや、それはなんというか、ほら、
冒険者たる者どんな時でも油断は禁物というか、
備えあれば憂いなしとも言うじゃないですか
優れた冒険者ほど優れた防具を身につけるのは、
ある意味当然のことだと思いますよ?」
「なんの反論にもなっていませんよ
今すぐ指示に従わないのであれば、
『鷹宮君は不正受給の事実を認めた』と、
我々はそう判断します」
「ええっ!?
いや、それは違う!!
僕は不正なんてしてない!!
絶対にやってない!!
もし不正した奴がいるとしたら、別の誰かだ!!」
「それを証明する機会です
で、脱ぐんですか?
脱がないんですか?
さっさと決めてください」
「くっ……!!
ああ、わかったよ脱げばいいんだろ脱げば!!
おい誰か、僕に制服貸してくれ!!
下に何も着てないんだ!!
僕を裸で戦わせる気か!?」
しかし、鷹宮に制服を貸そうとする者はいない。
まあ当然だ。鷹宮は皆から嫌われているのだし、
彼に服を貸せば自分が裸になってしまうのだから。
「……早く制服に着替えてきなさい
もし30分以内に戻ってこなかった場合、
鷹宮君は調査協力を拒否したと見做します
その後は……まあ、言うまでもないですね」
「え、30分って……いや、片道15分だと
歩いて間に合う距離じゃないですよ?
そんなこともわからないんですか?」
「タクシー使えばいいんじゃないですか?」
「え、いや、タクシーはお金かかるし……
もちろんギルドが出してくれるんですよね?」
「出しませんよ
甘えないでください
……もう時間をカウントしています
急いだ方がいいですよ、鷹宮君」
「があっ……!!
くっそおおおお!!!」
調査員、強い。
鷹宮が戻ってくるまでに上級生と交流したところ、
彼らは学園ダンジョンにほとんど入ったことがない
という事実が発覚した。
他ならぬダンジョン入場料のせいである。
つまり、鷹宮のせいである。
「入学する前は結構やる気あったんだけどねぇ
鷹宮のせいですっかりモチベ下がっちゃったよ
月に1回は学園外で活動してた俺たちはまだマシさ
隣のクラスには活動経験0回の奴もいるんだぜ」
「発見ボーナス振り込まれるの待ってたのに、
全部横取りされてただなんて……
学園の外なら大丈夫だと思ってたけど、
管理者の中に鷹宮の手の者が紛れてたなんて……」
「鷹宮あいつ、本当に……
生きてて恥ずかしくないのかしら?
まあ、恥ずかしくないんでしょうね
あんな変態スーツ着てるような奴だし」
とまあ、誰もが鷹宮に対して否定的だった。
ここまで人望の薄い人物を見たことがない。
当然といえば当然だが、1つ疑問が浮かぶ。
葉加瀬は小学生の頃、鷹宮の取り巻きから
リンチを受けたと言っていた。
鷹宮は中学時代に轢き逃げ事件を起こしたが、
その罪を取り巻きに押しつけて難を逃れたそうだ。
現在、鷹宮の取り巻きらしき人物は見当たらない。
それがどうにも釈然としない。
まあ、クズの数が少ないのは良いことではあるが。
「ああ、鷹宮の野郎は猫被ってるつもりだったんだろ
全然本性隠し切れてなかったけどな
“品行方正な僕ちゃん”を演じるために、
表向きは悪い連中との付き合いを断っていたのさ
あいつ、そろそろ演技やめるんじゃないかな
悪いことしてないと死んじゃうような性格だし、
また金ばら撒いて取り巻きを作ると思うぜ」
まったくどうしようもない奴である。
生徒情報
氏名:鷲尾梓 <ワシオアズサ>
所属:中央魔法学園技術者クラス1-A
役割:遠隔物理アタッカー
武装①:音波銃
武装②:中央魔法学園女子制服
魔法:未登録
宿星:ポラリス




