14.発見ボーナス
本日の冒険を終えた一行は解散宣言したものの、
新種の魔物を発見したボーナスを得るために
関所で報告書をまとめていた。
「大上先輩、本当にいいんですかね?
今回はあなたが身を張ってくれたおかげで
ここまで詳細なデータを収集できたというのに、
手柄を僕たちに譲ってくれるだなんて……」
「ああ、構わないよ
仕留めたのは君たちのパーティーだし、
後輩に花を持たせるのも悪くない
……というのは建前かもな
べつに悪巧みなんてしてないけど、
俺なりに考えあっての選択だから
手柄云々は気にしなくていい」
「どのような考えをお持ちなんですかね?」
「んー……
俺の考えすぎだとは思うんだが、
もしかしたら音波銃が規制されるかもしれない
あれはあまりにも強すぎる武器だ
火薬を使用していないから今は許されているが、
いずれ銃器使用について議論が交わされてゆく中、
音波銃の存在は必ず槍玉に挙げられるだろう
遠隔武器の使用が解禁されたとはいえ、
未だに納得していない者は数多くいるんだ
反対派から批難の対象になるのは目に見えている」
「ああ、それで点数稼ぎをしたいわけですね
鷲尾さんが確かな実績のある優秀な冒険者であり、
音波銃ありきの強さであることをアピールすれば
世間の見方も少しは変わってくるかもしれないと」
「まあそんなところだ
変に聞こえるかもしれないが、
俺は音波銃の規制には賛成なんだ
量産されてはいけない代物だと思っている
素人が遊び半分で使えば事故が起きるからな
だが、鷲尾梓が取り扱うぶんには何も問題は無い
むしろ彼女だけ特例で使用を認めてほしい
我ながらわがままな意見だとは思うが、
どう転ぶにせよ下地を作っておいて損は無い」
「随分と高く買ってますねえ、鷲尾さんを
まあ、その気持ちはよく理解できますよ
僕も彼女に魅了された人間の1人ですからね
……おっと、誤解を招く発言でした
今のは恋愛感情云々の発言ではありませんよ
あくまで精密動作性に惚れたという意味ですので、
どうかご安心ください」
葉加瀬の視線の先には中村が立っている。
仲間たちも釣られて中村に注目し、
発言の意味を理解した女子2名が内緒話を始めた。
「やっ、こっち見んな!!
共有しなくてもいい情報がバレる!!」
「な、中村君はね……
もう1つの世界で鷲尾さんに振られたらしいんだ」
「佐原ーーー!!」
「やっぱりそうなんだ!」
「アンタ、わっしー狙いだったのね!」
中村は顔を真っ赤にしながら走って逃げていった。
これで身に覚えがない失恋というほろ苦い情報を
パーティーメンバー全員が知ることとなったのだ。
ドンマイ、中村。
楽しげに笑い合う後輩たちを背に、
提出前の報告書をじっくりと見直していた隼斗は
ある項目の記載内容が気になっていた。
「なあ、葉加瀬君
この『状態異常付与:なし』の箇所なんだが、
『未確認』に訂正しておいてくれないか?」
「え、どうしてですか?
大上先輩はほぼ全ての攻撃を回避してましたが、
パリィを成功させた際、敵の触手に触れてます
しかし何も影響が出ていなかったのを鑑みるに、
『イカ人間の攻撃に状態異常の追加効果はない』
とするのが妥当だと思いますが……」
「まあ、そう考えるのが当然だよな
だが、俺には魔力を感じ取る器官が存在しないんだ
恐怖、混乱、睡眠、暗闇などの凶悪な状態異常を
無効化できるのは大きな強みではあるけれど、
それらの攻撃を喰らっても気づけないゆえに
誤った情報を流してしまう危険性を孕んでいる
だから、ここはひとつ慎重にならせてくれ」
「わかりました、訂正しておきます」
名倉事変以降、魔物は強くなった。
攻撃力が高くなったり行動パターンが増えたりという
ケースがほとんどだが、それよりも厄介なのが
『物理攻撃に状態異常の追加効果を乗せる』という
RPGでは定番の戦闘システムが搭載された件だ。
今回のイカ人間で例えると、長い触手による刺突には
しばらく魔法能力者の視界を奪うという効果がある。
昨今猛威を振るっている新種の状態異常、“暗闇”だ。
視界を封印された状態で戦闘を行うということが、
いかに危険な行為であるかは想像に難くない。
隼斗の判断は正しかったのだ。
──それから2週間が経つが、
イカ人間発見ボーナスはまだ振り込まれていない。
大抵3日以内には支給されると聞いていたのだが、
これはあまりにも待たせすぎるではないか。
梓パーティーの面々は空き教室に集まり、
この事態をどう解決すべきか話し合った。
まずは葉加瀬がノートPCを開きながら一言。
「ギルドをハッキングしましょう」
「いや、だめでしょ」
「なんでそんなことすんのよ?」
「報告書がちゃんと届いたか確認するためだろ」
「は、葉加瀬君なら突破できそう……」
「なぜギルドをハッキングするのか……
はい中村君、正解です
ギルドは信用できる組織なので、第一発見者に
ボーナスを出し渋っているとは考えにくいです
可能性が高いのは、学園の職員が仕事をサボって
ギルドに報告書を提出していないという線です
学園のデータベースに侵入して確認する方が
リスクは少ないんですが、なんと、中央魔法学園は
未だに紙だけで情報を管理してるんですよね
究極のサイバー攻撃対策──アナログです」
「学園の職員に報告書提出したか聞いてみたら?」
「そんなの、しらばっくれるに決まってるでしょ」
「ギルドに電話して確認すればリスク無くね?」
「は、ハッキングは犯罪だよ……」
「あ、それもそうですね
ではギルドに問い合わせてみましょう」
((( なぜ最初に思いつかない? )))
葉加瀬はギルドの情報管理室に連絡を取り、
自分たちがイカ人間の第一発見者であることを伝えて
現在の状況を教えてもらった。
「ええ、はい、はい、そうですか
なるほど、はい……わかりました
ありがとうございました、それでは失礼します」
通話終了。
「発見ボーナス、支払われてました」
「えっ」
「はあ!?」
「いやいや、それがないから集まったんだろ?」
「入金記録は……うん、やっぱり支給されてないよ」
困惑する一同。
梓は無表情なので困惑しているかどうかわからない。
とにかく、こちらは金を受け取っていないのに
向こうは支払ったと言っている。
そして葉加瀬のハッキングによりギルドの送金記録を
確認してみたが、確かに彼らは金を支払っていた。
「振込先は…………これ、鷹宮皇帝の口座です」
「え、なんで?」
「わっしーの口座じゃなくて?」
「おいおい、横取りされたのかよ……」
「こ、こんなの許せないよ……!」
「ええ、許せないことです
おそらく学園職員がギルドに報告書を提出する際、
振込先の情報を書き換えたんでしょうね
他ならぬ鷹宮からの命令で」
「たしか生徒会長の人だよね……」
「鷹宮ん家って貧乏なの?」
「いや、あの会社は儲かってるはずだぜ」
「業界二番手の装備品メーカーだしね」
「この学園……というか町全体が
鷹宮テクノロジーの支配下にあるので、
社長の息子に逆らえない大人が多いんですよ
去年はダンジョン入場料の存在が発覚して
不正に関わった職員3名が処分されましたが、
その金を受け取っていた鷹宮はお咎め無しです」
「ダンジョン入場料って……」
「そりゃまたセコい商売してたのねえ」
「2年分のデータが無いのはそのせいか……」
「そ、それで葉加瀬君、これからどうするの?」
「当然やり返します
鷹宮の口座から鷲尾さんの口座に金を移すだけです
僕なら痕跡を残さず、10分以内に完了できますよ」
「なんか葉加瀬君が怖い……!!」
「だけど頼もしくもある……!!」
「俺は鷹宮を締め上げる方がいいと思うけどな」
「もっと穏便な解決方法は無いのかなぁ……」
「安土先輩をぶつけてみるというのも
面白いかもしれませんね
あの人は昔、鷹宮に大損させた実績があります
同級生を轢き逃げされた怒りからなのか、
被害者の家族に多額の資金援助をして
優秀な弁護士を付けてあげたそうです
どうしても前科者にはなりたくなかった鷹宮は
父の会社の金を無断で使い込んで弁護団を結成し、
かろうじて無罪を勝ち取りました
その代わり鷹宮は父親からこっぴどく叱られ、
実家を追い出される結果となりました
鷹宮は今でもその件で安土先輩を逆恨みしています
まあ、あの2人にはそういう因縁があるんですよ」
「モモ様……クールな顔して義理に厚い!!」
「あいつ、そんなことしてたんだ……知らなかった」
「ん……あれ?
鷹宮って父親から嫌われてんの?
てっきり親子揃ってクズなのかと思ってたけど……
親の方は意外と常識ある人だったりするのか?」
「さあ、それについてはなんとも言えませんね
鷹宮テクノロジー社長の鷹宮雷同氏は
不破開発社長の不破夏男氏に対して
一方的にライバル心を燃やしているそうです
そのため魔道工学の技術開発に魂を捧げており、
駄目息子を放任するという大罪を犯してます
技術者としては尊敬できる人物なんですが、
人の親としては失格という感じですね」
「ふむふむ……
なあ葉加瀬、犯罪めいた仕返しはやめとこうぜ
それに他校の先輩を巻き込むのもカッコ悪いと思う
とりあえず俺たちで鷹宮本人に直談判してみて、
話がもつれるようなら鷹宮の父親に報告しよう
もしかしたら味方になってくれるかもしれないだろ
……ってのが俺の考えなんだけど、どうかな?」
「僕はそれで構いませんよ
皆さんはどうですか?」
「自分もそれがいいと思う」
「アタシも賛成〜」
「ぼ、僕も賛成だよ」
「私も賛成です」
((( やっと喋った……! )))
生徒情報
氏名:葉加瀬文明 <ハカセフミアキ>
所属:中央魔法学園技術者クラス1-A
役割:未登録
武装:中央魔法学園男子制服
魔法:未登録
宿星:アルコル




