13.新種との接し方
第2層にて、梓パーティーは新種の魔物と遭遇する。
それはどう分類すればよいのか……獣人種?
2本の足で直立してはいるが、水棲種の印象が強い。
ウネウネと動く吸盤付きの触手が何本も生えており、
仮の名を付けるならば『イカ人間』だろうか。
「おい葉加瀬、なんだありゃ……」
「僕のデータにはありません
大上先輩はご存じですか?」
「いや、俺も知らない
もしあれが完全に未知の新種だった場合、
君たちには発見ボーナスが支給されるぞ
とりあえず解析を頼む」
ここで佐原が動く。
現在このパーティーが唯一使用可能な解析魔法だ。
習得が容易で価値の低い魔法とされていたが、
毎日のように新種が発見されるようになってからは
重要度が跳ね上がった補助魔法である。
「え、えっとですね……
HP80、物攻35、物防5、魔攻10、魔防20
雷弱点、炎半減、氷無効、無属性は等倍です」
「早速データを入力しておきますね」
「数値化制が導入されてから日が浅いってのに、
佐原君はもう使いこなしてる感じだな
現状、対応できているのはよほどの勉強家だけだ」
「おおっ、佐原!
やるじゃんお前!」
「あ、えっと、いやあ……
ちゃ、ちゃんと合ってるかどうかわかりませんよ!
基準値とひ、比較してるだけで!
今言った数字は大体なんです、大体!
ごっ、5の倍数で揃えちゃってるし!」
「それで充分だよ、大体の目安でいいんだ
きっちり計測しようとすると時間がかかるし、
どうせ同じ種類の魔物でも個体差がある
とりあえず今の情報から察するに、
物理攻撃主体の敵である可能性が高い
それを事前に知ることができたのは大きい」
「いや、へへへ……」
隼斗が接近を試みる。
するとイカ人間はシュルルと触手を伸ばし、
それを隼斗はギリギリのヘッドスリップでかわす。
間髪入れずに2発目、3発目の触手攻撃が放たれるが、
隼斗は同じように最小限の回避でいなし続ける。
10発目の攻撃を回避した隼斗は少しだけ後退し、
イカ人間を見つめたままその場に立ち尽くす。
すると、イカ人間もその場で立ち尽くすという
若干シュールな光景が繰り広げられた。
「この様子だと、非移動タイプだろうな
7m20cmの射程圏内に標的が侵入した場合、
一番長い触手による刺突攻撃を行なってくるんだ
おそらく距離に応じて使用する触手が変わると思う
次は中距離まで接近して少し様子を見た後、
最後に至近距離で観察してみるぞ」
なんと落ち着いた態度だろうか。
避けるのに精一杯というわけではなかったのだ。
むしろ余裕の回避。観察目的の回避行動であった。
あの弾丸のような速さの触手攻撃を見てから回避、
更に冷静に距離を測りながら分析まで行うとは……。
これが先輩の実力。上級者の貫禄。
大上隼斗の独壇場であった。
「隼斗先輩、すごっ!!」
「鮮やかなディフェンスだぁ……」
「初見の相手だというのに、お見事ですねえ」
「超かっけえ!!」
「ぼ、僕には真似できない……」
隼斗は後輩たちに向かって親指を立てた後、
宣言通り3mの射程まで移動して観察に移った。
ブン、ブンと太い触手が左右交互に振り回される。
刺突よりも緩やかなスピードだが、威力は高そうだ。
これが単なる打撃であればそれほど脅威ではないが、
なんとなく標的を掴もうとしているように思える。
実際に攻撃を受けてみればはっきりとするが、
今はやめておいた方がよいだろう。
こんなスローな攻撃に捕まったら恥ずかしい。
先輩としてのプライドである。
「隼斗先輩、大縄跳びしてるみたい!!」
「ジャンプ力も高い……」
「大縄跳びって苦手なんですよねえ」
「連帯責任を押しつけられる競技だもんな」
「ぼ、僕はいつも回す役だった……」
隼斗は至近距離での観察フェーズに移る。
イカ人間は短い触手をヒュンヒュンと振り回し、
それがノコギリ状のギザギザな形状であることから
斬撃を放っているのは明らかだった。
この魔物は、斬打突の物理攻撃属性を
標的との距離によって使い分けてくるのだ。
低層の魔物にしてはかなり器用な奴である。
幸い攻撃力は35しかないので、直撃したところで
大したダメージにはならないのが救いだ。
だが、攻撃速度が尋常ではない。
小さなダメージでも積み重なると危険である。
隼斗のように全弾回避できる人間はそういないので、
接近する際は硬い防具を装備してゴリ押すのが
セオリーとなるのだろう。
きっちり5分間の観察を終えた隼斗は戦線離脱し、
後輩たちに次の作戦を伝達しておく。
「敵の物理耐性はアナライズで解析できない情報だ
だから拳で打耐性、ナイフで斬突耐性を探ってみる
佐原君、俺がダメージを与える度に
アナライズで敵の残りHPを計測してくれ
HPの残量によって行動パターンが変化するのは、
なにもラスボスだけの特権ってわけじゃないんだ
もしあれが形態変化する魔物だとしたら、
そのラインを把握しておかないといけない」
「は、はい!」
そして隼斗は再び高速の触手攻撃を掻い潜り、
なんの危なげもなく敵の懐へと辿り着く。
もう完全にリズムを理解したという証である。
「隼斗先輩、ものすんごっ!!」
「よく飛び込めるなぁ……」
「さすがは国内最強の無能力者だけありますねえ」
「えっ、あの人もしかして魔法使えないのか?」
「ああうん、大上先輩の魔力はゼロだよ」
「ちょ……え、待って?
隼斗先輩って身体強化無しであの動きなの!?
てっきり魔法でブーストしてんのかと思った!!」
「おや、知らなかったんですか?
彼も京都の無間ダンジョンの制覇に貢献した、
最終決戦メンバーの1人ですよ
まあ、メディアへの露出を避けてる人なので、
どんな活躍をしたのかは知りませんが」
「隼斗先輩…………素敵♡」
茜の好感度が10000上がった!
隼斗は後輩たちから羨望の眼差しを向けられつつ、
イカ人間への攻撃を開始した。
標的の物理防御力は5しかないので、
相当手加減しなければ一撃で倒してしまうだろう。
とりあえず軽くジャブを入れて様子見だ。
「佐原君、残りは?」
「ご、50です!」
(削りすぎた……)
とりあえず打撃は普通に通るとみていいだろう。
隼斗はナイフを逆手に持ち、触手攻撃をかわしながら
敵の表面に浅い切り傷を負わせた。
「佐原君、残りは?」
「えっと、よん……45強です!」
どうやら斬撃にも耐性が無いらしい。
このぶんだと刺突も普通に通る可能性が高い。
隼斗は敵の肩にナイフを突き立てた。
二足直立タイプの魔物の場合、頭部や胴体中央は
特にダメージを与えられるパターンが多いので、
生き残らせるために敢えて急所を避けたのだ。
「さは──」
と、ここでイカ人間の行動が変化する。
今まで攻撃時には触手を1本しか使わなかったのだが、
突然2本同時に触手を振るうようになったのだ。
残りHPに応じた行動パターンの変化。
主にラスボスが搭載している“形態変化”だ。
(変化のラインはHP50%……
ラスボスと同じだな)
「の、残り30強です!」
「隼斗先輩、大丈夫ですか!?」
「聞くだけ野暮じゃない?」
「急に攻撃が激化しても対応してますねえ」
「あれを全部避けてる……すげえ!!」
第二形態に切り替わってからきっちり5分後、
隼斗は軽くファンサービスを行うことにした。
パリィ!!
敵からの攻撃を華麗に受け流し、
こちらの攻撃チャンスを生み出す防御技術である。
しかも隼斗は高難易度の拳パリィを成功させたのだ。
これは芸術点が高い。
茜の好感度が10000上がるのも頷ける。
どうやらイカ人間は触手が10本もあるにもかかわらず
1本でもパリィを取られると体勢を崩し、
数秒間無防備になるというチョロい相手のようだ。
そして、絶好の攻撃チャンスだが隼斗は後退した。
まだ倒す気は無い。
第二形態になっても非移動タイプのままなのかを
確認しておくべきだと思ったからだ。
……イカ人間は追ってこない。
非移動タイプの魔物で確定である。
なかなかに攻撃の激しい難敵ではあるが、
射程圏内に入らなければ安全ということだ。
「つまり、遠距離での攻撃手段があれば楽勝だな
幸い、このパーティーにはスペシャリストがいる
せっかくだから君がトドメを刺してくれ」
「はい、目標を殲滅します」
梓は音波銃の引き金を引いた。
すると、パシュン!といい音がしたのとほぼ同時に、
イカ人間の頭部が木っ端微塵に吹き飛んだ。
「あれ、前より威力上がってる?」
「はい、葉加瀬君が改良してくれたおかげです」
「そうなんだ
あ、リバース設定に調整してもらった?」
「はい、私はもう操作を誤ることはありません」
弱点は克服済みのようだ。
その後も新種の魔物とは2回遭遇したものの
既に情報が出回っている相手だったので、
イカ人間の時ほど詳しい調査は行わなかった。
3時間ほど探索してみた結果、第2層の難易度は
予想していたよりも低いことが判明した。
コボルトやゴブリンなどの数だけ多い魔物ばかりで、
強い個体が存在しないのだ。
通路は広く、入り組んでいるわけではない。
とても戦いやすい練習用ステージだというのに、
他にパーティーが見当たらないのが不自然であった。
「さて、今日はこのへんで切り上げようか
グローブの電池も残り少ないみたいだしね」
「ううっ、もっと隼斗様と一緒にいたいのに!!
アタシが張り切りすぎたせいで……不覚!!」
((( 『様』!? )))
「いや、様付けはちょっと……
まあ明日の昼過ぎまではこの学園にいるし、
何か用があったら声を掛けてくれ」
「はい、隼斗さん!!
ものすんごい声掛けまくります!!」
(これはどうしたものか……)
「お手柔らかに頼むよ
それじゃあ、解散!」
リザルト
鷲尾梓:137匹
中村誠:33匹
不動茜:16匹
佐原太陽:5匹
風間雛菊:0匹
葉加瀬文明:0匹
1位がぶっちぎりすぎるが、まあ妥当な結果である。
生徒情報
氏名:大上隼斗 <オオガミハヤト>
所属:関東魔法学園3年1組
役割:近接物理アタッカー兼回避型タンク
武装①:ウルフファング
武装②:ブラックシープ
魔法:未登録
宿星:サターン




