12.招かれざる客
「鷹宮皇帝──
中央魔法学園の生徒会長
鷹宮テクノロジー社長の息子
そして昔、飲酒運転で亀山を轢いたゲス野郎だ」
「2回言った!!」
「そんな噂が流れてはいたけども!!」
「やっぱりそうなんだ!!」
「モモ様が2回言うのならば間違いない!!」
現場が騒然とする。
この事態を受け、鷹宮皇帝は……
「ちょ、ちょっと待て安土君!!
今その話を持ち出すのはフェアじゃないぞ!!
フェアプレーの精神に反する!!
違う!! 違うんだ!!
みんな聞いてくれ!!
安土君は病的な嘘つきなんだ!!
僕は亀山とかいう女を轢き逃げなんてしてない!!
車が轢いたんだ!!
それにほら、僕は自由だ!!
逮捕されてない!!
裁判では無罪だったんだ!!
僕は悪くないという何よりの証拠だ!!」
自らボロを出すというムーブをかましたのである。
「被害者は亀山さんって女なんだ!!」
「車で轢いたんだ!!」
「裁判したんだ!!」
「身の保身しか考えてないゲス野郎!!」
「違う!! 違うんだ!!
僕はゲス野郎なんかじゃない!!
ほら、僕は生徒会長だぞ!?
みんなからの信頼が厚いんだ!!
民主主義に則り、選ばれた存在なんだ!!
清廉潔白な身だからこそ選ばれたんだ!!
詐欺師の甘言に騙されてんじゃねえよクソ共!!」
「有権者をクソ扱い!!」
「早速本性現してんじゃねえかクソ野郎!!」
「何が選ばれた存在だよ選挙してねえよ!!」
「モモ様を詐欺師呼ばわりしてんじゃねえよ!!」
鷹宮皇帝を擁護する者はいない。
まあ、当然だ。
安土桃太郎は100%真実を語ったのだ。
鷹宮皇帝は中央魔法学園の生徒会長であり、
鷹宮テクノロジー社長の息子であり、
中学時代に飲酒運転で亀山千歳を轢き逃げした、
正真正銘のゲス野郎なのである。
「帰れよ安土君!!
今すぐ帰ってくれ!!
君のせいで僕の信用はガタ落ちだ!!
大体、ここは関係者以外立ち入り禁止なんだ!!
みんなが迷惑しているのがわからないのか!?
いいからさっさと帰れよ詐欺師野郎!!」
「お前が信用されてないのは日頃の行いのせいだし、
俺は誰にも迷惑なんて掛けちゃいない
むしろ大歓迎されているのがわからないのか?
それと先週、関東の生徒がこの学園に訪れたが、
その件について文句がある奴は1人もいない
そうだよなあ……みんな!!」
「モモ様の仰る通りでございます!!」
「魔法学園の生徒は紛れもなく関係者です!!」
「我々はモモ様を心より歓迎しております!!」
「鷹宮は正真正銘のゲス野郎でございます!!」
安土桃太郎は『みんな』を味方につけた。
口喧嘩において反則的なまでに効果を発揮する、
圧倒的な数の暴力を手中に収めたのだ。
「くぅ〜〜〜っ!!
不愉快だ!! 帰らせてもらう!!」
捨て台詞を吐き、鷹宮皇帝は去っていった。
安土桃太郎の完全勝利である。
「うおおおおモモ様ああああ!!!」
「お見事!!!」
「切れ味抜群でした!!!」
「もう一生ついていきます!!!」
歓喜。興奮。熱狂。
ギャラリーの高揚が共鳴し、場に一体感を生み出す。
その日の気温は15度であったが、自然と汗が出る。
彼女たちの吐き出す二酸化炭素のせいもあるだろう。
暑い。
そして熱い。
そんなホットな空気に包み込まれながらも、
安土は相変わらずクールな表情を崩さない。
完全にモブと化していた鳩中は、
熱に当てられながらもどこか冷静であった。
(安土がこの学園に来た理由って、
あの鷹宮って奴を破滅させるためか……?)
勘が働く男である。
そして、招かれざる客に弄ばれた鷹宮皇帝は
生徒会室の備品に八つ当たりしながら、
天敵への恨み節を唱えるのであった。
「くっそおおおお!!!
安土桃太郎おおお!!!
なんであの野郎がここにいんだよおおお!!!
みんなの前で俺をコケにしやがってえええ!!!
しかも事故のことバラしやがってよおおお!!!
もう済んだ話を持ち出すんじゃねえよクソが!!!
俺のイメージが悪くなっちまっただろうが!!!
今まで築き上げてきたものが台無しだ!!!
どうしてくれんだよおおおおお!!!」
とまあ、こんな自分勝手な性格なので
鷹宮皇帝の評判は元から最悪なのだが、
本人は『みんなから頼られるリーダー』であると
思い込んでおり、プライドが傷付いてしまった。
なんとも面倒臭い男である。
──訓練場でゴタゴタしている頃、
梓ら6名はダンジョン前で隼斗と合流を果たし、
仲間が増えた経緯やそれぞれの目指す道などの
情報共有を行なっていた。
梓、茜、中村、佐原は冒険者志望、
葉加瀬は技術者志望、そしてヒナは……
「うぅ、やっぱり自分も安土さん見に行きたかった!
せっかく来てくれたのにもったいないことした!」
「何よヒナ、アンタあいつのファンだったの?
だったら先に教えときなさいよね
言葉にしなきゃ伝わらないことなんだからさ」
「べつにファンってほどじゃないけど、
みんなが夢中になってるイケメンを
生で拝めるチャンスだったし……
ってか、茜は安土さんに興味無さそうだね?」
「そりゃあ中学の先輩だからね
見飽きてるし、アタシああゆうタイプ嫌いなんよ
なんかこう、『俺様がモテるのは当然』って感じで
他人を操ってそうな男
あいつ絶対に性格悪いでしょ」
「モモ様と同じ中学だったんだ!?
いいなあ!!」
「やっぱりファンじゃない……」
隼斗は「本当に性格悪いぞ」と言いかけたが、
ファンの幻想を壊してはならないと思い、やめた。
そして茜が一際明るい笑顔で語りかけてくる。
「ところで隼斗先輩!
アタシとお揃いのグローブですね!
やっぱり拳で戦うファイターなんですか!?
アタシもそんな感じの冒険者目指してます!」
「この子、甲斐晃のファンなんですよ」
「ヒナは黙ってて!!」
「ええぇ……」
「ああ、基本的には拳で戦ってるよ
ただし俺のモットーは『使える物はなんでも使う』
だから、状況に合わせて槍とか投石とか使うし、
最近は鉤縄を利用した戦法を練習しているところだ
やっぱり近接武器だけじゃ戦いの幅が狭いからね
ちなみに鉤縄とは、フック付きロープのことだよ」
「へえ、なんか忍者みたい!」
「忍者、か……
アキラさんの動きはまるで忍者だったな
本物の忍者を見たことはないけれど、
あの超人的な速さと身のこなしは本物だった
その上パワーまで人間離れしてるんだから、
甲斐晃は『人の形をした獣』と言わざるを得ない」
「やっぱりあの武勇伝は本当だったんだ!!
実はアタシ、大ファンなんですよ!!」
「うん、そうみたいだね」
(さっき聞こえたし)
(さっき言ったのに)
「ところで隼斗先輩!
一緒に来た人は彼女ですか!?
バイクの後ろに乗ってた女!」
「ちょ、何聞いてんの茜!?」
「いや、彼女ではないよ
ただの同級生で、向かう方向が同じだったから
途中まで乗せてあげたってだけの話だ」
「そうでしたか!
じゃああの人は彼女じゃないとして、
現在付き合ってる女性はいるんですか!?
ついでに、どんな女性が好みですか!?」
「目的わかりやすいなこの子!!」
「いや、付き合ってる人はいないよ
尻のデカい女性が好みだ」
「参考にします!!」
「欲望丸出しだなオイ!!」
先輩との会話に入りそびれた中村は、
佐原の態度に違和感を覚えていた。
特に変化が無いのだ。
佐原は茜の熱烈なファンであるというのに、
茜が他の男に対して尻尾を振っている場面を見ても
嫉妬する気配がまるでないのは引っ掛かる。
「なあ佐原、いいのか?
あれ完全にメスの顔だぞ
その、悔しくなったりしないのか……?」
「えっ、悔しく?
いやあ、べつにならないよ
僕は茜ちゃんのファンではあるけども、
恋愛対象として見てるわけじゃないんだ
ぼ、僕はまともな女の子と付き合いたい……
いや、そんなの無理だとわかってるけど……」
(こいつ案外、毒舌なとこがあるな)
本日の冒険活動の目的は第2層の見学である。
まだ入学から2週間しか経っていない梓たちには
危険な領域ではあるが、隼斗が同行してくれるので
多少の無茶はしてもよいという判断に基づくものだ。
「このフロアについての情報だが……
正直よくわからない
というのも、地図は10年以上前の物しかないし、
ちゃんとした報告書を仕上げる生徒が少ないせいで
第2層以降の正確な情報が集まってないんだ
特にここ2年間のデータは0件という酷い有様で、
名倉事変以降に登場した新種の魔物についての
情報が一切無いという状況だ」
「はい、隼斗先輩!
地図が古いと何かまずいんですか?
人が作った建物ってわけじゃないし、
そこまで影響ありますかね?」
「ダンジョンは毎日少しずつ変化してるんだ
まあ、地面の突起物が1mm伸びたとか
その程度の微妙な変化だが、それが積み重なれば
通路が狭くなったり天井が低くなったりと、
進行に支障をきたすようになる
だから2〜3年に1回は地図を更新すべきなんだ」
「はえ〜、影響大ありなんですねぇ
しっかし2年分のデータ無しって……
薄々気づいてたけど、学園側だけじゃなくて
生徒側もやる気無い奴多すぎでしょ」
葉加瀬が挙手したので、発言を許す。
「生徒にやる気が無い理由なんですが、
おそらく生徒会長の鷹宮皇帝が原因でしょう
そいつは鷹宮テクノロジー社長の息子でして、
3年連続で生徒会長を務めてるんですよね
小学生の頃からいじめ行為を繰り返してまして、
中学時代には轢き逃げ事件を起こしてます
十中八九、ここでも何かをやらかしたはずです
周りの士気が下がるのも当然ですよ」
「葉加瀬君、それは君の憶測なんだろう?
まあ聞いた限りではそいつがクロっぽいけど、
確証が無いのに決めつけるべきじゃない
データキャラの君らしくないぞ」
「たしかにその通りですね
僕としたことが、つい先走ってしまいました
まあ少し……いえ、かなり私怨混じりの憶測でした
正直言うと、あいつ嫌いなんですよねえ
昔あいつの取り巻きにリンチされたせいで、
失明寸前のところまでいったんですよ
おかげで一生眼鏡が手放せません」
「ああ、認識を改めるよ
鷹宮皇帝は真っ黒に違いない」
生徒情報
氏名:安土桃太郎 <アヅチモモタロウ>
所属:関東魔法学園3年1組
役割:遠近両用物理アタッカー兼戦術サポート
武装①:黒薔薇
武装②:雅
魔法:非公開
宿星:プルート




