感謝の少女
家へ戻ると、すでに日が傾き始めていた。
玄関を開ける。
すると真っ先にゾイが出迎えた。
「おかえり」
「ただいまー」
アディが元気よく手を振る。
ウェルトは無言で大量の荷物を抱えたまま死んだ目をしていた。
「えっと、お疲れ様?」
ゾイはなんとなく察した。
3人は家の中へ入る。
セレナは自分の部屋の前で足を止めた。
家具が並んでいた。
今日買ったばかりの家具たちが、すでに部屋の中へ配置されている。
ベッド。
机。
本棚。
化粧台。
タンス。
鏡。
まるで最初からそこにあったかのように綺麗に並んでいた。
「おぉ」
アディが感心したように声を漏らす。
「悪くないじゃない」
「だろ?」
ゾイは少し得意げだった。
さすがに家具を運ぶのは大変だろうと考えたウェルトが、当日配送を頼んでいたのである。
その後、到着した配達員へゾイが配置場所を指示して設置してもらったらしい。
アディは腕を組みながら部屋を見回した。
そして。
「合格」
一言。
ゾイは小さくガッツポーズした。
どうやら褒められたらしい。
その最中ウェルトはリビングのソファへ沈んだ。
「もう動きたくねぇ……」
「休むにはまだ早いわよ!」
アディの目が輝いた。
「さぁ開封よ!」
元気だった。
異常なほど元気だった。
推し活パワーである。
ウェルトがいろんな店を回って買ったであろう荷物たちが次々と開けられる。
リビングの机いっぱいに出されていく日用雑貨の数々。
アディが置き場を指示して
男たちは物を配置していく。
しばらくして。
インターホンが鳴る。
荷物の到着だった。
洋服店から届いた箱。
化粧品店から届いた箱。
次々と運び込まれる。
それらはアディとセレナが2人でタンスやクローゼットにしまう。
ようやく整理が終わる。
セレナの部屋は見違えるようになっていた。
新品の家具。
綺麗に並んだ洋服。
生活用品。
自分のために用意された物。
それらを眺めていると。
「セレナ」
ウェルトが呼んだ。
振り返る。
ウェルトは小さな箱を差し出した。
「これ」
受け取る。
開ける。
中に入っていたのは写真立てだった。
ウェルトは頭を掻く。
「買い物してる途中で思い出してな」
少し照れくさそうだった。
「大事な物なんだろ?」
「この中に入れとけば劣化もしないし」
「いつでも見れる」
そう言ってウェルトは笑った。
セレナの目が少しだけ輝く。
「うん」
そう言ってすぐに写真を鞄から取り出し写真立ての中に入れて飾った。
その様子を見ていたアディが頬を膨らませる。
「先にやられたわね……」
「でも安心なさい!」
「私だって用意してるんだから!」
両手を後ろへ回す。
「じゃーん!」
現れたのは少し大きなうさぎのぬいぐるみだった。
白くてふわふわしている。
セレナは固まった。
見覚えがあった。
モールで見ていた物だった。
「女の子なんだから、ぬいぐるみくらい持ってないとね」
アディは笑う。
セレナはそっと受け取った。
柔らかい。
温かい。
両腕で抱きしめる。
顔を埋める。
ふわふわだった。
しばらくそのまま動かなかった。
そしてゆっくり顔を上げる。
ウェルト。
ゾイ。
アディ。
家具を用意してくれた。
部屋を整えてくれた。
写真立てをくれた。
ぬいぐるみをくれた。
色々な物をくれた。
だけど。
一番嬉しかったのは。
その気持ちだった。
胸の奥がぽかぽかする。
不思議な感覚だった。
セレナは三人を見る。
そして。
小さく。
本当に小さく。
笑った。
「みんな、ありがとう」
一瞬だった。
けれど確かに。
笑った。
アディの目が見開かれる。
数秒後。
爆発した。
「見た!?」
アディが叫ぶ。
「見たよね!?」
ウェルトへ掴みかかる。
「セレナちゃん笑った!!」
「見た見た」
ウェルトも驚いていた。
「確かに初めて見たな」
ゾイも静かに頷く。
セレナは何を騒いでいるのか分からない。
自分が笑ったことに気付いていないらしい。
こうして。
素敵な買い物は終わった。
そう思った時だった。
「今日はこれで終わり?」
セレナが尋ねる。
ウェルトはニヤリと笑う。
「いや」
「まだ最後の大イベントが残ってる」
「?」
セレナは首を傾げる。
「お前の歓迎会だ」
その瞬間。
セレナの目は大きく開いた。
「私の.....」
アディが飛び上がった。
「待ってました!」
「僕もお腹ペコペコだよ~」
ゾイも苦笑しながらお腹を擦る。
彼らの1日はまだ終わらない。




