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加入の少女

荒野を車が走る。


来た時と同じ景色を走るウェルト達。


砕けた道路。


崩れた建物。


遠くには戦争で放棄された戦車の残骸。


だが行きと違うのは荷台に少女が座っている。


荷台で風を感じながら移りゆく景色。


もしもあのまま歩いていたらきっと見ることはなかった景色。


「どうだ?」


助手席のウェルトが振り返る。


「車」


セレナは答える。


「速い」


「まあ歩くよりはな」


「すごい」


少しだけ感心したように呟く。


ウェルトは笑った。


三日も荒野を歩いていた少女とは思えない発言だった。


街が見えてきた。


高い外壁。


見張り台。


戦争が終わって一年。


まだ完全な復興には程遠い。


それでも人々は生きていた。


車は速度を落とし、ゆっくりと門をくぐる。


セレナは荷台から顔を上げた。


人がいる。


たくさんいる。


出入りする旅人。


荷車を押す男。


客引きをする商人。


走り回る子供達。


聞いたことのないほど多くの声。


見たことのないほど多くの人。


「……」


セレナは目で追う。


次から次へと現れる景色。


村にはなかったものばかりだった。


「賑やか」


ぽつりと呟く。


「ここが俺達の街だ」


ウェルトが振り返る。


「名前はグランドル」


「グランドル」


セレナは小さく復唱した。


「とりあえずギルド支部に向かうよ」


ゾイが言う。


「セレナの登録と報酬の受け取りだね」


「報酬?」


セレナが首を傾げる。


「仕事したらお金が貰えるんだよ」


「お金」


「そのお金でうまい物が買える」


「!!」


荷台のセレナが勢いよく顔を上げた。


ウェルトとゾイは顔を見合わせる。


「やっぱり食べ物なんだな」


「食べ物だね」


セレナは真剣な顔で頷いた。


そうこうしてるうちに車は駐車スペースに停まる。


「ついたぞ、ここがギルド支部だ」


ギルド支部は街の中心近くにあった。


石造りの大きな建物。


中へ入った瞬間。


ざわめきが耳に飛び込んだ。


依頼書を眺める人。


受付で報告をするチーム。


セレナは立ち止まった。


「人がいっぱい」


「そりゃギルドだからな」


ウェルトは慣れた様子で言う。


「ここにいる奴は全員、同業者だ」


「同業者」


「ギルドで飯食ってる連中って意味だ」


セレナは周囲を見回した。


強そうな人。


怖そうな人。


いろいろいた。


「とりあえずは受付だな」


ウェルトはセレナの顔を見ながら語る。


「こっちだよ」


ゾイはセレナを見ながら手で招いた。


そうして受付の前にいく3人。


「こんにちわ、今日はどういったご要件でしょうか?」


受付をしている女性がウェルト達に向かって笑顔で語る。


「あー、討伐達成の報告とこいつのギルド登録を頼む」


そういうとウェルトは胸ポケットからカードのようなものを受付に渡す。


「あのカードはギルドに所属してるっていう証明書みたいなものだよ」


不思議そうに見ているセレナに対してゾイは説明する。


カードを手に取る受付職員はそのまま手元にある機械へとカードを通す。


そして横にあるモニターを見る受付職員。


「ウェルト=シャーリーさんですね。オートマタの討伐依頼達成の報告が来ていますね」


「報酬の方は銀行振込でいいですか?」


「いや、現金で頼む。」


「かしこまりました。ご用意してきますのでお待ちください」


そういうと受付職員は引き出しから書類を取り出す。


「その間にこちらの登録書類のほうにご記入をお願いします」


そして受付職員は席を離れる。


「ほらセレナ、この用紙に記入するんだ」


そういうとセレナの前に用紙を置く。


セレナは用紙を見つめる。


「書き方わかる?教えようか?」


セレナは首を横に振る。


そしてペンを持つ。


さらさらと用紙を埋めていく。


「お、おぉ」


ゾイが少し驚く。


名前。


年齢。


誕生日。


綺麗な文字だった。


ウェルトも思わず覗き込む。


「普通に書けるじゃねぇか」


「文字はマーサに教わった」


「地図は読めないのに?」


「見方がわからなかっただけ」


「なんでだよ」


ふとペンの動きが止まるセレナ。


「どうした?」


不思議がるウェルト。


「出身って生まれた場所?」


セレナはウェルトに質問する。


「そうだな」


「場所わからない」


ふむっと腕を組み考えるウェルト


「たしかオルカ村に住んでてそこから旅に出たんだよな」


「うん」


「ならオルカ村でいいんじゃないか?」


「いいの?」


「まぁ、村や街が滅んでる今の時代そこまで重要じゃないさ」


「わかった」


そういうとまたペンを走らせる。


ウェルトはその用紙を覗き込む。


(十三歳か)


あらためて少女を見るウェルト。


銀色で腰まであるサラサラの髪。


綺麗に整っている顔。


今でも十分だがあと2~3年すれば道行く男共の視線を一気に集めるだろう。


少なくとも、三体のオートマタを単独で破壊する化け物には見えない。


そして、職員の女性がお金を持ってこちらへやってきた。


「お待たせしました。こちらが報酬金になります」


「ありがとう」


そういうとそれを手に取るウェルト。


「それでは用紙をお預かりしますね」


セレナの書いた登録用紙を回収する職員。


「カードを作成いたしますので、こちらの番号を持って奥の席の方でお待ちください」


そういうと番号札をウェルトに渡し、また奥へと歩いていった。


「とりあえず座るか」


そういうとウェルトは受付の反対側の窓際にある席へ歩いていった。


ゾイとセレナもそれに続く。


3人は席に座るとゾイが喋りだす。


「そういえばその腰に付けてるのってアーティファクトだよね?」


「うん」


「ちょっと見せてもらっても良い?」


「いいよ」


そういうとセレナは腰に付けていたアーティファクトを外してゾイに渡す。


「すげー、これ帝国製だよね。しかも末期に作られたやつじゃん」


「ゾイはこういうのに目がないんだ」


ウェルトは目を光らせているゾイを見ながらセレナに話す。


「アーティファクトってそんなにすごいの?」


「お前、知らないで使ってたのか?」


「名前は知ってる」


「......はぁ」


ウェルトは大きくため息を吐いた。


「アーティファクトってのはな――」


ゾイが持っているアーティファクトを見ながら語りだす。


「帝国が戦争初期に作った特殊兵装だ」


「特殊兵装」


「ああ。当時はまだ人と人が戦うのが当たり前だったからな。兵士一人の戦闘力を底上げするために開発された」


ウェルトはそう言いながら、アーティファクトの刀身を眺めた。


「使うには特殊な施術が必要なんだ。武器と使用者を繋ぐためのな」


「つなぐ?」


「簡単に言えば、使い手の力をそのまま武器の力に変える」


「だから使う人によって強さが変わるんだよ」


横からゾイが補足する。


「それに扱いも難しい。眼の前の戦いに集中しながら手に持っている武器そのものの力を制御しないといけないから。普通の人ならまともに使えない」


「へぇ」


セレナは特に驚いた様子もなく頷いた。


その反応にウェルトは苦笑する。


この少女にとっては当たり前のことなのだろう。


だが、だからこそ気になる。


アーティファクトを扱えるということは、その施術を受けているということだ。


(こいつ……一体どこでこんなものを)


(誰にやられたんだ?)


そんなことを考えていると。


「ウェルトのその義手もアーティファクトなんだよ」


ゾイが説明する。


「ん、まぁ俺のは体に直接取り付けてるから扱いやすいんだ」


ウェルトはそう言うと義手を軽く握ったり開いたりしてみせた。


金属でできているとは思えないほど自然な動きだった。


「普通に腕が付いてる感覚で動かせるからな」


「あとは俺のは帝国製のを真似て作った連合国製だから威力もそれほどでないんだ」


セレナは興味深そうに義手を見つめる。


すると館内放送が響いた。


『二十三番でお待ちのお客様。準備が整いましたので三番窓口へお願いします』


「あ、呼ばれたな」


ウェルトが立ち上がる。


「ついにカードが出来たか」


三人は席を立ち、受付窓口へ向かった。


「お待たせしました。こちらがギルドカードになります」


受付職員が一枚のカードを差し出す。


「ほら、お前のだ」


ウェルトに言われ、セレナはカードを受け取った。


表を見る。


裏を見る。


もう一度表を見る。


まるで珍しい玩具でも眺めるように、じっと観察していた。


その様子に受付職員が思わず笑う。


「紛失が心配でしたら、首から下げるタイプのカード入れもありますよ」


「もらいます」


即答したのはゾイだった。


隣ではウェルトも大きく頷いている。


セレナだけが何故なのかわからず二人を見比べた。


「あ、それと……」


職員が登録用紙に目を落とした。


「緊急連絡先が空白ですが、大丈夫でしょうか?」


セレナは首を傾げる。


「何を書けばいいの?」


「ご家族やご兄弟などですね」


「親は生まれた時から知らない」


職員の手が止まる。


少し気まずい空気が流れた。


「あ、そうだ。マーサさんは?」


ゾイが思い出したように尋ねる。


「死んだ人に連絡しても意味ないよ?」


空気が凍った。


ウェルト自体はなんとなく察していた。


十三歳で荒野を一人で旅させるような人間にはセレナの口ぶりからは思えない。


つまりセレナは十三歳にして天涯孤独なのだ。


とはいえ、この時代そんな子供はそこら中にいる。


戦争という爪痕がそんな子供達を作ったのだ。


この街にもスラム街に行けば物乞いをする子供なんてあっちこっちにいる。


だから同情や哀れみをしても意味がない。


でもそれは、まったく知らない赤の他人だからだ。


もうウェルトは少女を知ってしまっている。


そして頭を掻き出すウェルト。


「あー、ったく」


そう言いながらカウンターに置かれた登録用紙を手に取り


緊急連絡先に自分の名前と番号を書く。


それを不思議そうに見るセレナ。


「チームってのは一蓮托生だ。つまり家族みたいなもんだろ」


そう言って書き終えた瞬間、ゾイがその用紙を自分の方へ持ってくる。


「だったら僕も!」


そう言って自分の名前と番号を書き出した。


書き終えるとその用紙を職員へ渡す。


セレナは不思議そうに用紙を見つめた。


自分の名前の下に増えた二つの名前。


その意味がよく分からない。


だが、二人はどこか照れ臭そうに視線を逸らしている。


「うふふ」


職員はとうとう笑いを堪えきれなかった。


「わかりました。こちらで登録しておきますね」


「それとこちらがカード入れになります」


職員から受け取ったウェルトは、セレナを手招きした。


「ほら、ちょっと来い」


セレナが近付く。


ウェルトは彼女の手からカードを取り上げると、首掛け式のケースへ入れた。


そのまま首に掛ける。


「よし。これで失くさねぇな」


胸元で揺れるカードを見下ろすセレナ。


そして何故か少しだけ胸を張った。


どこか誇らしげだった。


「さて次はどうするの?」


ゾイがウェルトに質問する。


「次はこいつの部屋を作らないとな」


そう言うとウェルトは、ぽんっとセレナの頭に手を置いた。

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