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緊迫の少女 アディ視点前篇

ギルドの受付前で、ドルスは腕を組んだままアディを見下ろしていた。


「まったく、今日は依頼を受けに来たのに、面接を邪魔しちゃだめでしょう」


「だってセレナちゃんがいるって聞いたから」


アディはふてくされたように頬を膨らませる。


「聞いたからって、勝手に面接室に入って何してるんですか」


「だってあの男共がセレナちゃんを!」


ドルスは深いため息をついた。


「だとしても、あの言葉はないでしょう」


アディはむっとしながらも、しぶしぶ視線を逸らす。


そんなやり取りのあと、アディはようやく依頼書を手に取った。


内容を確認する。


北部渓谷。


クイーン討伐任務。


推奨参加人数三十五名以上。


未探索区域。


危険度高。


参加条件はポイント五以上のチーム。


アディは少しだけ考え込むように依頼書を見つめ、それからドルスへ視線を向けた。


「……これはどうかしら」


ドルスも依頼書を覗き込む。


「クイーン討伐ですか」


少しだけ目を細め、それから頷いた。


「いいですね」


その返答に、アディは満足そうに笑う。


「じゃあ、これで決まりね」


受付職員が確認する。


「了解しました」


「出発日は三日後です」


「混成部隊になります」


「分かってる」


そうしてワイルドローズは参加を決めた。


――――――――――


三日後。


出発当日。


渓谷付近の集合地点には、すでに多くの探索者が集まっていた。


最終参加人数は四十名。


七チーム。


かなり大規模な討伐隊だ。


ワイルドローズからは。


アディ。


ドルス。


コール。


ポルドロ。


ライラ。


クラウス。


六名が参加。


ドルスが周囲を見回す。


「思ったより多いですね」


「クイーンだからね」


アディも頷く。


油断していい相手ではない。


その時だった。


「へぇ」


嫌味な声が聞こえた。


振り向く。


そこには一人の男が立っていた。


大柄な体。


短く刈った髪。


チーム・オニキスのリーダー。


バルディオだった。


ポイント数では少し前までワイルドローズと並んでいた男。


だが現在は二ポイント差。


ワイルドローズが上にいる。


「何かしら?」


アディが聞く。


バルディオは鼻で笑った。


「いやなに」


「最近随分有名になったなと思ってな」


周囲の探索者達も少し視線を向ける。


バルディオは続けた。


「前のクイーン討伐」


「銀髪の嬢ちゃんに全部やらせたおかげだろ?」


「ずいぶん楽してポイント稼げたじゃねぇか」


空気が少しだけ張り詰める。


その瞬間。


「てめぇ!」


クラウスが一歩前へ出た。


「何も知らねぇくせに!」


今にも掴みかかりそうな勢い。


しかし。


アディが肩に手を置く。


「クラウス」


静かな声だった。


「でもアディさん!」


「いいの」


ディルコスが振り返る。


アディは首を横に振った。


「私達は同じ任務を受ける仲間よ」


「こんなところで揉めても仕方ないわ」


「それに言ってることは間違ってないわ」


「セレナちゃんのすごさを間近で見たんだから!」


誇らしげなその言葉に。


クラウスは引き下がった。


バルディオはつまらなそうに舌打ちする。


「ふん」


「相変わらずだな」


アディは何も返さない。


完全に相手にしていない。


その態度が逆に気に入らなかったのか。


バルディオは肩を竦めた。


「まぁいい」


「せいぜい足引っ張るなよ」


そう言い残して去っていく。


オニキスのメンバー達も後を追った。


姿が見えなくなる。


すると。


「すみません」


クラウスが頭を下げた。


「俺」


「余計なことを」


アディは一瞬きょとんとした。


そして笑う。


「どうして謝るの?」


「いや」


「その」


クラウスが言葉に詰まる。


アディは優しく笑った。


「ありがとう」


「え?」


「私のことで怒ってくれたんでしょう?」


クラウスの顔が一気に赤くなる。


「そ、それは!」


「違います!」


「別にそういうんじゃ!」


慌てる姿。


それを見ていたライラがニヤニヤし始めた。


「へぇー」


「そうなんだ」


「な、何がだよ!」


「いや別に?」


「顔真っ赤だけど?」


「うるせぇ!」


周囲から笑い声が漏れる。


そのあと、五十代くらいの白髪の男がゆっくりと近づいてきた。


落ち着いた足取り。


年季の入った装備。


無駄のない所作だった。


男はアディの前で立ち止まると、丁寧に頭を下げた。


「アディさん、今日はよろしくお願いします」


年上らしい落ち着いた声だったが、差し出された手は驚くほど礼儀正しい。


アディは少し目を瞬かせる。


自分の方が年下なのに、ここまで丁寧にされるとは思っていなかったのだ。


それでもすぐに笑みを浮かべる。


「こちらこそ」


男は穏やかに微笑んだ。


「チーム・ブルーファングのリーダー、マイヤーと申します」


「噂はかねがね」


「あなたがいてくれて心強いです」


アディはその手をしっかり握り返した。


「今日はがんばりましょう」


マイヤーは静かに頷く。


そのやり取りを見ていた周囲の空気も、少しだけ和らいだ。


アディも小さく笑った。


「それじゃ行くわよ」


そうして討伐隊は移動を開始する。


大規模討伐。


緊急任務。


そういった任務では必ずギルド職員が同行する。


情報管理。


任務記録。


緊急対応。


そして何より。


有事の際の指揮系統維持。


そのためだった。


当然ながら選ばれるのは一般職員ではない。


最低限の戦闘能力。


アーティファクトの使用経験。


自衛能力を持った人間が派遣される。


今回同行するのはダストン。


四十代前半の男性職員だった。


「よろしく頼む」


「こちらこそ」


簡単な挨拶を交わす。


そして。


車列は荒野を進み始めた。


目指すは北部渓谷。


まだ誰も知らない。


そこが地獄の入り口だったことを。


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