緊迫の少女
面接騒動から数日後。
ウェルト達はいつものようにギルド支部を訪れていた。
新しい依頼を受けるためだ。
ゾイが依頼票を眺め。
ウェルトが腕を組みながら内容を確認する。
その横でセレナは静かに掲示板を見ていた。
その時だった。
突然。
館内に警報音が鳴り響いた。
ピィィィィィィッ――!
空気が一変する。
職員達が慌ただしく動き始めた。
探索者達もざわめき始める。
「緊急通信です!」
「北部渓谷にてクイーン討伐隊より救援要請!」
「討伐失敗!」
「負傷者多数!」
「緊急救出および討伐部隊を編成します!」
ギルド支部全体が騒然となる。
ウェルトも思わず顔を上げた。
クイーン討伐失敗。
それだけでも異常事態だ。
職員達が慌ただしく情報を整理している。
「参加チームは!?」
「現在確認中です!」
「混成部隊の名簿を!」
飛び交う声。
その中で。
一人の職員が叫んだ。
「ワイルドローズの参加を確認!」
その言葉を聞いた瞬間だった。
ウェルトの表情が変わる。
心臓が跳ねた。
ワイルドローズ。
アディとドルスのチームだ。
つい数日前まで顔を合わせていた仲間達。
無事なのか。
怪我は。
間に合うのか。
嫌な想像ばかりが頭をよぎる。
その時だった。
服の裾が引っ張られる感触がした。
振り向く。
セレナだった。
ぎゅっと。
ウェルトの服を握っている。
かなり強い力だった。
表情はいつも通り。
だが。
分かった。
セレナも不安なのだ。
アディのことが心配で仕方ないのだ。
その姿を見た瞬間。
ウェルトはハッとした。
自分まで不安そうな顔をしてどうする。
セレナは今。
自分を見ている。
ウェルトは深く息を吐いた。
そして。
セレナの頭を優しく撫でる。
「大丈夫だ」
自分に言い聞かせるように言った。
「俺達が行けば解決だろ?」
いつものように。
強気に。
自信満々に。
セレナはウェルトを見上げる。
そして。
力強く頷いた。
「うん」
その返事には迷いがなかった。
ウェルトは受付へ向かう。
「まだ募集してるな?」
職員が顔を上げる。
ウェルトは真っ直ぐ言った。
「俺達も参加する!」
セレナも隣で頷く。
「アディを助ける」
こうしてシルバーラビットフットも緊急救援任務へ参加することになった。
救援部隊の編成は驚くほど早かった。
緊急任務。
それだけ事態が切迫している証拠でもある。
準備を終えたウェルト達はギルドが用意した大型車両へ乗り込んでいた。
窓の外には何台もの車両が並んでいる。
探索者。
救護班。
回収班。
荒野を埋める車列はまるで軍隊の行軍のようだった。
エンジン音が響く。
やがて先頭車両が動き出す。
それに続くように車列全体が動き始めた。
荒野を一直線に駆けていく。
車内。
重い空気だった。
誰も無駄口を叩かない。
今回同乗しているのはゼウレンだった。
普段の軽い雰囲気はない。
真剣な表情で端末を確認している。
「詳しい状況は?」
ウェルトが尋ねた。
ゼウレンは視線を上げる。
「現在判明している情報だけになります」
そう前置きしてから話し始めた。
「今回のクイーン討伐にはおよそ四十名が参加しています」
ウェルトの眉が動く。
かなり大規模だ。
複数チームによる混成部隊。
普通なら失敗する戦力ではない。
ゼウレンも同じことを考えているのだろう。
表情は険しかった。
「現地は渓谷地帯です」
「地形の影響で通信状況が非常に悪い」
「そのため報告も途切れ途切れでした」
端末を操作する。
表示されたログ。
どれも断片的だった。
『作戦失敗』
『部隊崩壊』
『負傷者多数』
『救援要請』
それだけだった。
詳細は分からない。
だが。
それだけでも十分だった。
「分かっているのは」
ゼウレンが続ける。
「討伐が失敗したこと」
「被害が大きいこと」
「そして緊急を要する状況であることです」
車内が静かになる。
誰も言葉を発しない。
「最後の通信は?」
ゾイが聞いた。
ゼウレンは首を横に振った。
「救援要請の直後です」
「それ以降は完全に途絶えています」
その言葉に。
車内の空気がさらに重くなる。
現在も連絡は取れていない。
生存者がいるのか。
どれだけ残っているのか。
それすら分からない。
ウェルトは窓の外を見る。
荒野が流れていく。
無意識に拳を握っていた。
アディ。
ドルス。
無事でいてくれ。
そう願わずにはいられない。
その時。
隣を見る。
セレナもまた窓の外を見ていた。
先ほどより落ち着いている。
だが。
アディを心配していることは変わらない。
ウェルトは小さく息を吐いた。
大丈夫だ。
必ず助ける。
そう心の中で繰り返す。
車列は速度を上げる。
目指す先は北部渓谷。
救援が間に合うかどうか。
それはまだ誰にも分からなかった。




