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面接の少女

ギルド支部。


二階の会議室。


部屋の中には三人の姿があった。


ウェルト。


ゾイ。


そしてセレナ。


テーブルを挟んで座っている。


机の上には何枚もの書類。


加入希望者の申請書だった。


「まさかこんな日が来るとはな」


ウェルトが書類をめくる。


少し前までなら考えられなかった。


人手不足。


いつも三人。


加入希望者なんて一人もいなかった。


それが今では違う。


クイーン討伐。


中級昇格。


そしてシルバーラビットフット。


少しずつ名前が広まり始めていた。


「嬉しい悲鳴ってやつかな」


ゾイが苦笑する。


ウェルトも肩を竦めた。


「まぁ人数は欲しいからな」


三人でも戦える。


だが。


楽ではない。


特に前衛を務めるセレナへの負担は大きい。


だからこそ。


今日は面接の日だった。


希望者に日時を指定し。


順番に話を聞く。


そのために部屋を借りている。


会議室の外。


待機スペースには何人もの応募者が座っていた。


緊張した顔。


履歴書を見直している者。


腕を組んで目を閉じている者。


自信満々な者。


様々だ。


「結構いるね」


セレナが言う。


「そうだな」


ウェルトも頷く。


「一人くらいは当たりがいてほしいもんだ」


その言葉に。


ゾイは笑う。


「そんな都合よくいくかなぁ」


コンコン。


その時。


扉がノックされた。


「失礼します」


ギルド職員が顔を出す。


「準備できました」


「一人目をお呼びしますね」


ウェルトは背もたれに寄りかかる。


「よし」


「じゃあ始めるか」


こうして。


シルバーラビットフット初の面接が始まった。


「それでは一人目の方どうぞ」


職員が扉を開く。


入ってきたのは若い青年だった。


ウェルトは履歴書を見る。


「ふむ」


年齢は若い。


チーム経験なし。


経歴も特に目立ったものはない。


だが。


備考欄を見た瞬間。


ウェルトの眉が跳ね上がった。


「おいおいおい」


「マジか?」


ゾイも覗き込む。


「え?」


「なになに?」


ウェルトが履歴書を持ち上げる。


「クイーン討伐経験ありだと!?」


部屋の空気が少し変わる。


チーム経験なし。


それなのにクイーン討伐。


もし本当なら大物だ。


ウェルトは身を乗り出した。


「お前」


「チーム経験ないのにクイーン倒したのか?」


青年は自信満々に頷いた。


「はい!」


ウェルトとゾイが期待する。


次の瞬間。


青年は胸を張った。


「夢の中で!」


「帰れ!」


ウェルトのツッコミが炸裂した。


「夢じゃねぇか!」


「討伐してねぇだろ!」


青年は連行されていった。


---


「次の方どうぞ」


職員が呼ぶ。


ちなみに。


その横ではセレナがお菓子を食べていた。


どういうわけか。


受付職員から定期的に補給されている。


「これもどうぞ」


「ありがとう」


「いえ!」


受付嬢が嬉しそうである。


面接どころではない。


---


二人目が入ってきた。


普通の青年だった。


履歴書も普通。


経歴も普通。


チーム経験はなし。


ウェルトは首を傾げる。


「まぁ普通だな」


「うん」


ゾイも頷く。


ただ。


何かがおかしい。


説明できない。


妙な圧がある。


そして。


妙なオーラが出ている。


「じゃあ聞こうか」


ウェルトが腕を組む。


「うちのチームに入ったら何ができる?」


青年は即答した。


「セレナさんの椅子になれます」


沈黙。


「……え?」


ウェルトが聞き返す。


「椅子?」


青年は力強く頷いた。


「はい」


「セレナさんの椅子になれます」


「ディフフフフフ……」


気持ち悪い笑い声が漏れる。


青年の視線は真っ直ぐだった。


セレナへ。


ひたすら。


セレナへ。


どんどん息が荒くなっていく。


「ディフフフフフ……」


「ディフフフフフフフ……」


怖い。


ゾイが少し引いている。


その時。


セレナが気付いた。


「?」


視線を向ける。


青年と目が合う。


さらに。


首をこてんと傾げた。


「なに?」


その瞬間だった。


青年の顔が真っ赤になる。


「っ!!」


胸を押さえる。


呼吸が止まる。


「ぐふぅ……」


そのまま椅子から転げ落ちた。


バタン。


幸せそうな顔だった。


完全に昇天している。


ウェルトは即座に指をさした。


「帰れ!」


「むしろ運べ!」


職員が慣れた様子で回収していった。


「次の方どうぞ」


扉が開く。


入ってきたのは若い男だった。


「お」


ようやく普通そうな人が来た。


ウェルトが少し期待する。


だが。


その直後。


もう一人入ってきた。


「ん?」


中年の女性だった。


ウェルトが首を傾げる。


「二人で加入希望か?」


すると。


青年が元気よく答えた。


「違います!」


「ママです!」


「……はい?」


ウェルトが固まる。


ゾイも固まる。


セレナはお菓子を食べている。


「ママです!」


青年はもう一度言った。


「いや」


「ママなのはわかった」


「なんで来たんだ?」


青年が胸を張る。


「僕が加入していいチームかどうか」


「ママが見極めに来ました!」


ウェルトは頭を抱えた。


嫌な予感しかしない。


母親が腕を組む。


「この子一人では心配なので」


「私も来ました」


そして。


どこからともなく資料を取り出した。


「まず確認ですが」


「収入は安定していますか?」


「休日は?」


「福利厚生は?」


「チーム内トラブルは?」


「残業は?」


「有給は?」


「ここ就職面接じゃねぇんだぞ!?」


ウェルトのツッコミが飛ぶ。


母親は無視した。


そして。


セレナを見る。


固まる。


数秒。


固まる。


「なるほど」


母親が頷いた。


嫌な予感がした。


「お断りします」


「なんでだよ!」


母親がセレナを指差す。


「こんな可愛い子がいるじゃないですか!」


「うちの子を魅了しようとしてる!」


「してねぇよ!」


「危険です!」


「何がだ!」


「このチームは危険です!」


母親は息子の肩を掴んだ。


「帰るわよ」


「ママー!」


引きずられていく。


扉が閉まる。


静寂。


ウェルトは顔を覆った。


「なんなんだよ……」


---


「次の方どうぞ」


もう期待はしていない。


入ってきたのは若い女性だった。


美人だ。


そして。


露出が多い。


嫌な予感しかしない。


女性は席にも座らない。


そのまま。


ウェルトの隣へ。


「へぇ~」


肩に手を置く。


「あなたがリーダー?」


ウェルトが固まる。


「近い近い近い」


今度はゾイへ。


「こっちは優しそうね~」


腕を絡ませる。


ゾイが引きつった笑顔になる。


「いやいやいや」


「面接だからね?」


女性は笑う。


「そんな固いこと言わないで」


そして。


視線がセレナへ向いた。


「可愛いわねぇ」


立ち上がる。


近づく。


「大丈夫よ」


「女性でも」


「私は気持ちよく――」


「教育に悪いわ!」


バン!


ウェルトが机を叩いた。


立ち上がる。


「帰れ!」


「えぇ~?」


「帰れ!」


女性は最後まで不満そうだった。


職員に連行されていった。


扉が閉まる。


沈黙。


ウェルトが天井を見上げる。


「なぁ」


「本当に加入希望者か?」


ゾイも頷く。


「僕も分からなくなってきた」


セレナは窓の外を見ながら。


「面接って大変」


「そうだな……」


ウェルトは遠い目をした。


「次の方どうぞ」


扉が開く。


入ってきた男を見た瞬間。


ウェルトは眉をひそめた。


白いスーツ。


やたら決まった髪型。


胸には薔薇。


嫌な予感しかしない。


「……とりあえず座れ」


ウェルトが言う。


しかし。


男は座らなかった。


真っ直ぐセレナの前へ向かう。


「?」


セレナが首を傾げる。


男はその場で片膝をついた。


そして。


内ポケットから小さな青い箱を取り出す。


パカッ。


箱が開く。


中には宝石をあしらった指輪。


キラリと光った。


男は真剣な表情で言う。


「僕と」


「結婚を前提にお付き合いしてください」


沈黙。


ウェルトは頭を抱えた。


ゾイは顔を覆った。


セレナは――


指輪を見ていた。


じーっと。


「綺麗」


興味は完全にそっちだった。


男ではない。


指輪である。


すると。


その瞬間。


バァン!


勢いよく扉が開いた。


「ちょっと待ったぁぁぁぁ!」


全員が振り返る。


知らない男だった。


男は一直線に走る。


そして。


先ほどの男の横に並ぶ。


同じように片膝をつく。


「一目見た時から好きでした!」


こちらも箱を取り出す。


パカッ。


指輪。


「僕と付き合ってください!」


「おい」


ウェルトが言う。


誰も聞いていない。


さらに。


バァン!


また扉が開く。


「僕の方が幸せにできます!」


三人目。


片膝。


指輪。


求婚。


もう意味が分からない。


そして。


四人目。


五人目。


気付けば。


セレナの周囲を男たちがぐるりと囲んでいた。


全員片膝。


全員指輪。


全員必死。


セレナだけが困惑している。


「えっと?」


当然である。


そして。


また扉が開いた。


ウェルトは叫ぶ。


「まだ増えるのか!?」


入ってきたのは――


アディだった。


「私の目の黒いうちは!」


「セレナちゃんをあげません!」


なぜか母親みたいなことを言いながら突撃してくる。


その瞬間。


後ろから手が伸びた。


ドルスだった。


無言。


首根っこを掴む。


「あっ」


アディが固まる。


「ドルス待って!」


「まだ戦える!」


「セレナちゃぁぁぁん!」


そのまま引きずられていく。


ドアが閉まる。


静寂。


数秒。


沈黙。


男たちが再びセレナを見る。


その時だった。


ゴゴゴゴゴ……


部屋の空気が変わる。


ウェルトだった。


椅子に座ったまま。


額に青筋。


背後に見えない圧力。


ゾイが少し席をずらす。


危険信号である。


ウェルトがゆっくり口を開いた。


「お前ら」


低い声。


男たちが固まる。


「ここがどこか分かるか?」


誰も答えない。


ウェルトは立ち上がる。


そして。


指を扉へ向けた。


「帰れ」


全員一斉に逃げ出した。


---


その後も面接は続いた。


続いたのだが。


まともな人間は来なかった。


本当に来なかった。


面接が終わる頃には。


ウェルトとゾイは燃え尽きていた。


真っ白だった。


「どうなってんだよ……」


ウェルトが机に突っ伏す。


ゾイも同じだった。


「僕も聞きたい……」


セレナだけがお菓子を食べている。


元気だった。


そして。


職員が最後の書類を持って入ってくる。


「お待たせしました」


「最後の一名です」


ウェルトとゾイが顔を上げる。


頼む。


今度こそまともであってくれ。


二人の願いを乗せながら。


最後の面接者が呼ばれた。


「最後の方どうぞ」


扉が開く。


入ってきたのは若い男だった。


その瞬間。


ウェルトとゾイは履歴書を見る。


そして。


二人とも思わず顔を見合わせた。


「お?」


ウェルトが声を漏らす。


有名チーム所属経験あり。


討伐実績も優秀。


さらに。


連合国製アーティファクトを二つ同時運用可能。


間違いなく実力者だった。


ウェルトは心の中でガッツポーズをする。


ゾイも同じだった。


(まともな人が来た……!)


今日初めてである。


男は席に座る。


受け答えもしっかりしている。


経歴も申し分ない。


「一つ聞いていいか」


「なんでしょう」


「前のチーム」


「なんで辞めた?」


男は少しだけ表情を変えた。


だがすぐに答える。


「リーダーと意見が合わなかったんです」


「意見?」


「ええ」


ウェルトはふむと頷く。


その時は特に気にしなかった。


実力者同士ならそういうこともある。


そう思った。


男は続ける。


「だから脱退しました」


「なるほどな」


ウェルトは内心で頷いた。


(こいつならセレナにも付いて来れる)


(戦力としても十分だ)


面接は順調だった。


その時だった。


男の視線がゾイへ向く。


「そういえば」


「あなた」


「アーティファクト使えないんですよね?」


部屋の空気が少し変わる。


ゾイは苦笑した。


「そうだよ」


慣れた様子だった。


男は肩を竦める。


「正直言いますけど」


「僕には理解できませんね」


「そんな人をチームに置いておく理由が」


ウェルトの拳が机の下で握られる。


男は続ける。


「僕なら戦闘もできます」


「探索もできます」


「アーティファクトも扱えます」


「その人より遥かにチームへ貢献できます」


熱弁だった。


実際。


能力だけ見れば事実かもしれない。


ゾイは作り笑いを浮かべる。


「まぁ」


「そうかもね」


その返答が。


余計にウェルトを苛立たせた。


殴りたい。


今すぐ殴りたい。


だが。


同時に迷いもあった。


実力は本物だ。


セレナの負担も減る。


チームの将来を考えれば――


そう考えた時だった。


「いらない」


静かな声。


全員がセレナを見る。


男も眉をひそめた。


「え?」


「何ですか?」


セレナは男を見る。


真っ直ぐ。


迷いなく。


「いらない」


もう一度言った。


男が笑う。


「感情論ですか?」


「僕の方が役に立ちますよ」


「いらない」


即答だった。


「ゾイを悪く言う人はいらない」


静かな言葉。


だが。


一切揺るがない。


ゾイが目を見開く。


セレナは男から視線を逸らさない。


真っ直ぐだった。


その姿を見て。


ゾイは思わず俯く。


胸が熱くなる。


そして。


ウェルトも立ち上がった。


迷いは消えていた。


今なら分かる。


こいつが前のチームを辞めた理由も。


いや。


追い出されたのかもしれない。


ゆっくり男の方へ歩く。


「うちの姫さんがいらねぇってよ」


男が立ち上がる。


「ちょっと待ってください」


「感情で判断するんですか?」


ウェルトは鼻で笑った。


「感情じゃねぇよ」


そして。


男を見る。


真っ直ぐに。


「俺のチームメンバーを悪く言う奴は」


「こっちから願い下げなんだよ」


沈黙。


男は何か言い返そうとした。


だが。


ウェルトの目を見て諦めた。


舌打ちを一つ。


そして部屋を出て行く。


扉が閉まった。


面接終了だった。


---


しばらく沈黙。


最初に口を開いたのはゾイだった。


「もったいなかったね」


苦笑する。


「あれだけの実力者だったのに」


ウェルトは即答した。


「あんな奴いらねぇよ」


そして。


セレナを見る。


「そうだろ?」


「うん」


セレナは頷いた。


当然のことのように。


ゾイが肩を竦める。


「でも実際」


「僕より役に立ったとは思うけどね」


すると。


セレナが即座に反応した。


「ゾイは優秀」


「いやいや」


「優秀」


セレナは指を立てる。


「アーティファクト直せる」


一本目。


「料理おいしい」


二本目。


「運転うまい」


三本目。


「怪我したら心配してくれる」


四本目。


「話聞いてくれる」


五本目。


「優しい」


六本目。


「買物上手」


七本目。


「夜遅くまで準備してくれる」


八本目。


止まらない。


ゾイの顔がどんどん赤くなる。


「もういいよ!」


「まだある」


「ないよ!」


「ある」


ウェルトは腹を抱えて笑っていた。


結局。


ゾイが必死に止めて。


ようやく終わった。


---


帰り道。


夕暮れ。


ウェルトが歩きながら言う。


「悪かったな」


セレナを見る。


「結局誰も入らなかった」


「お前の負担も増えるかもしれねぇ」


セレナは首を振った。


「いい」


「三人でいい」


ウェルトが少し驚く。


「そうか?」


セレナは頷く。


そして。


当然のように言った。


「困ったらアディがいる」


ウェルトが吹き出した。


「他のチームなんだがな」


「でも来る」


「まぁ来るな」


それは否定できなかった。


ウェルトは笑う。


そして。


ぽんっとセレナの頭を撫でた。


「じゃあ」


「三人でもう少し頑張るか」


「うん」


セレナも頷く。


その時。


ゾイが聞いた。


「今日はどこで食べる?」


ウェルトが考える。


「たまには外食――」


そこで。


セレナが言った。


「ゾイの料理がいい」


二人が止まる。


そして。


顔を見合わせた。


自然と笑みが零れる。


ゾイが胸に手を当てる。


「仰せのままに」


大げさに頭を下げた。


「お姫様」


セレナが少しだけ嬉しそうにする。


そんな三人を。


夕日が照らしていた。


今日もまた。


三人で帰る。


シルバーラビットフットは。


結局一人も増えなかった。


けれど。


誰もそれを残念だとは思わなかった。


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