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配送の少女

荒野を走る一台のトラック。


荷台には木箱やコンテナが積み上げられている。


その数はいつもよりずっと多い。


今日の任務は討伐ではない。


輸送任務。


隣町まで荷物を届ける仕事だった。


――数時間前。


ギルド支部の駐車場。


ウェルトとゾイが荷台へ次々と荷物を積み込んでいた。


セレナはその様子を少し離れた場所から眺めている。


「今日は何の任務?」


木箱を抱えるウェルトへ質問する。


「今回は輸送任務だよ」


答えたのはゾイだった。


荷物を固定しながら説明する。


「輸送?」


「討伐じゃないんだ」


セレナは少し不思議そうな顔をする。


探索者の仕事といえばオートマタ討伐。


そんな認識だった。


「任務にも色々あるからね」


ゾイは笑う。


「こういう仕事も大事なんだよ」


「街で売られてる物も、工場で使う部品も、誰かが運ばないと届かないからね」


「そうなんだ」


セレナは素直に頷く。


新しい知識だった。


ゾイは最後の荷物を荷台へ載せる。


「今回は荷物を無事に隣町まで届けるのが目的」


「だから討伐は優先じゃない」


「戦わなくていいなら無視する」


「もちろん危険なら倒すけどね」


「ただし」


指を一本立てる。


「見つけたオートマタはギルドに報告しなきゃいけない」


「場所とか数とか?」


「そうそう」


ゾイが頷く。


「後で討伐部隊が向かうこともあるからね」


セレナは真面目な顔で覚える。


「荷物が紛失したり」


「壊れたりすると減額」


「そこが一番の注意点かな」


輸送任務は戦うだけではない。


荷物を守ることも仕事だ。


セレナは荷台を見る。


積み上げられた大量の荷物。


少し考え。


「荷物を全部無事に届ければいいんだね」


確認するように聞く。


「ああ」


ウェルトが答えた。


荷台の扉を閉める。


「今日の稼ぎが良いかどうかはそれで決まる」


「なるほど」


セレナは頷いた。


そして。


小さく拳を握る。


「がんばる」


ウェルトは笑う。


「期待してるぞ」


その言葉に。


セレナは真面目な顔で頷いた。


「任せて」


荷物を積み終える。


ウェルトがいつものように荷台に登ろうとする。


「私が荷台に行く」


セレナが言った。


「荷物を見てる」


荷台に積まれた大量の荷物を見る。


ウェルトは少し考えた後。


「ああ」


頷いた。


「じゃあ頼む」


「うん」


セレナは荷台へ乗り込む。


ウェルトは助手席へ。


ゾイがエンジンを掛けた。


トラックがゆっくりと走り出す。


――


荒野。


しばらく進んだところで。


「前方」


荷台から声がした。


セレナが指を差す。


ウェルトが双眼鏡を向ける。


「小型か」


六体ほど。


こちらに気付いたらしい。


進路を変えながら近付いてくる。


ゾイが速度を落とす。


「避けられそう?」


「無理だな」


ウェルトが肩を竦める。


「仕方ねぇ」


「さっさと片付けるぞ」


トラックが停止する。


オートマタ達が駆け寄ってくる。


だが。


数分後。


最後の一体が地面へ崩れ落ちた。


「終わり」


セレナが剣を払う。


「余裕だな」


ウェルトが手を差し出した。


それを見たセレナは。


少しだけ走り。


ぴょんっと飛び上がる。


パンッ。


ウェルトの手とハイタッチ。


「完璧」


あいからずなドヤ顔。


「おう」


ウェルトも笑った。


――


ギルドへ討伐報告。


位置座標も送信する。


だが。


今回は輸送任務優先。


回収班を待たずに出発することになった。


トラックが再び走り出す。


その時だった。


ガタンッ!


大きな衝撃。


「やばっ」


ゾイが思わず声を上げる。


破壊したオートマタの破片。


それをタイヤが踏み付けた。


車体が大きく揺れる。


荷台。


木箱が跳ねる。


そして。


小さな荷物が一つ。


荷台から外へ飛び出した。


落ちる。


セレナの視線が動く。


荷物。


輸送任務。


荷物を全部無事に届ける。


期待してるぞ。


脳裏にウェルトの言葉が浮かぶ。


次の瞬間。


迷わなかった。


荷台から飛び降りる。


落下する荷物を空中で抱きかかえる。


だが。


時速五十キロ。


勢いは消えない。


いつもの彼女ならアーティファクトの靴で勢いを殺していただろう。


だが荷物を優先する余りその事が頭から抜けていた。


地面へ叩き付けられる。


ごろごろごろごろごろっ!


何度も転がる。


砂埃が舞った。


そして。


動かなくなる。


――


助手席。


ウェルトの目が見開かれる。


サイドミラー越し。


その光景が。


まるでスローモーションのように見えた。


「――っ!!」


声にならない。


理解が追いつかない。


今。


何が起きた?


セレナが。


飛び降りた?


荷物のために?


動かない。


起き上がらない。


嫌な想像が頭をよぎる。


血の気が引く。


ゾイが急ブレーキを踏む。


タイヤが悲鳴を上げる。


トラックが停止するより早く。


ウェルトはドアを開けていた。


地面へ飛び降りる。


全力で走る。


倒れたままのセレナへ。


「セレナ!!」


叫ぶ。


返事はない。


さらに走る。


胸が苦しい。


嫌な汗が止まらない。


「セレナ!!」


ウェルトの叫びが荒野に響く。


その声に反応するように。


倒れていたセレナがゆっくりと動いた。


手を地面につく。


そして。


ゆっくりと身体を起こした。


「っ……!」


ウェルトは一気に駆け寄る。


「大丈夫か!?」


肩を掴みそうになる。


セレナが顔を上げた。


土埃で汚れている。


髪にも砂が付いている。


だが。


表情はいつも通りだった。


「大丈夫」


その言葉を聞いた瞬間。


ウェルトは全身の力が抜けそうになった。


よかった。


本当によかった。


そう思った。


だが。


次の瞬間だった。


セレナが両手を持ち上げる。


抱えていた荷物を見せた。


「荷物」


「無事だよ」


ウェルトの思考が止まる。


「……は?」


荷物。


今。


荷物と言ったのか。


よく見る。


セレナの腕。


肘。


膝。


頬。


あちこち擦りむいている。


当然だ。


走る車から飛び降りたのだから。


なのに。


本人は荷物を見せている。


まるで褒めてもらえると思っているように。


胸の奥から何かが込み上げる。


恐怖。


安堵。


そして怒り。


全部が混ざる。


「ふざけるな」


低い声だった。


「え?」


セレナは首を傾げる。


意味が分からない。


ウェルトの拳が震える。


「何やってんだ馬鹿野郎!!」


セレナが目を瞬く。


「少しは考えろ!!」


「……?」


「荷物壊れてないよ?」


ウェルトの顔が引きつる。


「そんなこと聞いてねぇ!!」


声が荒野に響く。


「ふざけんじゃねぇぞ!!」


セレナは黙る。


何が悪かったのか。


本当に分からない。


その時だった。


「ストーップ」


ゾイが間に入る。


ウェルトの肩を掴む。


「任務中だよ」


「落ち着いて」


ウェルトは奥歯を噛み締める。


拳を握る。


何か言い返そうとして。


やめた。


「……クソ」


吐き捨てるように言う。


そのまま背を向けた。


ゾイは小さくため息を吐く。


そして。


セレナの前にしゃがみ込んだ。


「大丈夫?」


少し間を置く。


「……じゃないよね」


苦笑する。


「どこか痛いところある?」


「歩けそう?」


セレナは自分の腕を見る。


擦り傷。


服の破れ。


少し考える。


「大丈夫」


「平気」


そう言って立ち上がる。


服を軽く叩く。


ぱん。


ぱん。


砂が落ちる。


歩いてみる。


問題ない。


骨折もなさそうだった。


ゾイも少し安心する。


「とりあえず街まで行こう」


「治療はそこでだね」


セレナは頷いた。


――


トラックへ戻る。


今度は助手席にセレナ。


荷台にはウェルト。


ゾイが運転席へ座る。


エンジンが掛かる。


トラックが再び走り始めた。


だが。


行きとは違う。


誰も喋らない。


風の音だけが聞こえる。


助手席。


セレナは窓の外を見ていた。


頭の中で考える。


どうして怒られたのか。


荷物は守った。


壊れていない。


期待してるぞ。


そう言われた。


だから守った。


なのに。


ウェルトは怒った。


考える。


でも。


答えは出なかった。


荷台では。


ウェルトが一人座っている。


握り締めた拳は。


まだ震えていた。


配達先の街へ到着した。


まずは荷物の受け渡し。


ゾイが担当者と確認を行う。


ウェルトも荷下ろしを手伝うため荷物置き場へ向かった。


その間。


セレナはギルド併設の診療室へ連れて行かれていた。


「うーん」


治療師が傷を見る。


腕。


膝。


頬。


擦り傷だらけだ。


だが。


検査の結果は良好だった。


「骨折なし」


「内臓損傷もなし」


「打撲と擦り傷だけですね」


治療師が笑う。


「運が良かったですよ」


セレナは頷く。


「うん」


包帯を巻かれる。


消毒される。


少ししみた。


「痛い?」


「大丈夫」


「我慢してね」


そして。


全ての処置が終わる。


診療室の外で待っていたゾイは報告を聞いて胸を撫で下ろした。


「よかった……」


本当にそう思った。


少し遅れて。


荷下ろしを終えたウェルトも戻ってくる。


結果を聞く。


「そうか」


それだけだった。


安心した顔はしている。


だが。


それ以上は何も言わない。


セレナも何も言わなかった。


――


帰り。


今度はグランドルの街への荷物を積み込む。


セレナも近付く。


箱へ手を伸ばした。


「手伝う」


だが。


「いいから座ってろ!」


ウェルトの声が飛ぶ。


セレナの手が止まる。


「……」


「でも」


「いいって言ってんだろ!」


再び怒鳴られる。


セレナは黙った。


ゾイは慌てて間へ入る。


「ほらほら」


「怪我人なんだから」


「無理しなくていいよ」


「座ってて」


そう言って荷台の端へ座らせた。


セレナは小さく頷く。


「うん」


――


帰り道。


何事も起きなかった。


オートマタも出ない。


事故もない。


ただ。


静かだった。


誰も喋らない。


トラックのエンジン音だけが響いている。


――


グランドルへ到着。


ギルド支部。


配送完了の報告をするゾイ。


ウェルトは荷物の搬入を手伝う。


セレナは職員達に囲まれていた。


「大丈夫なんですか?」


「痛くないですか?」


「無理しちゃ駄目ですよ?」


心配そうな声。


セレナはその度に答える。


「大丈夫」


「平気」


そう返す。


だが。


何となく。


気持ちは晴れなかった。


――


夕方。


アパートへ戻る。


駐車場。


トラックから降りる。


すると。


ウェルトはそのままアパートとは反対方向へ歩き出した。


「どこ行くの?」


ゾイが聞く。


ウェルトは振り返らない。


「飲んでくる」


短く答える。


そのまま歩いて行った。


夕暮れの中へ。


どんどん遠ざかる背中。


セレナはその姿を見つめる。


ずっと。


見えなくなるまで。


――


任務は成功した。


荷物も届けた。


報酬も出る。


なのに。


怒られた。


今までで一番。


理由は分からない。


でも。


自分が何かを間違えたのだろう。


それだけは分かる。


セレナは俯く。


そして。


隣のゾイを見る。


「ゾイ」


「ん?」


少し間が空く。


「私」


「失敗した?」


ゾイは答えようとして。


言葉を止めた。


失敗した。


そうじゃない。


でも。


上手く説明も出来ない。


何より。


ここで自分が説明しても意味がない。


ウェルト自身が伝えなければ。


きっと駄目だ。


ゾイは小さく息を吐いた。


そして。


優しく笑う。


「大丈夫」


そう言ってから。


少しだけ考える。


「ただ……そうだね」


言葉を選ぶ。


そして。


ぽんっとセレナの頭を撫でた。


「アディに相談してごらん」


「アディ?」


「うん」


ゾイは頷く。


「こういう時は」


「僕より適任だと思う」


セレナは少し考えた。


そして。


自分の部屋に戻ったセレナ。


ポケットから通信端末を取り出す。


画面を開く。


連絡先。


一番上。


そこにある名前を押した。


アディ。


しばらく悩んで。


短い文章を打つ。


送信。


数秒後。


既読が付いた。


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