銀兎の少女
荒野。
砂煙を巻き上げながら一台のピックアップトラックが走る。
エンジンの唸り。
タイヤが土煙を巻き上げる。
その後方。
巨大な影が迫っていた。
「まだ来てる!?」
ゾイが荷台のウェルトへ叫ぶ。
スコープを覗く。
そして顔をしかめた。
「来てるどころじゃねぇ!」
「むしろ近付いてきてる!」
六メートル級。
中型オートマタ。
サソリ型。
シルバーラビットフットになって初の任務。
金属の脚が地面を叩くたび。
轟音が響く。
巨大なハサミ。
鋼鉄の装甲。
そして。
尻尾の先端で青白い光が集まり始める。
「ゾイ!左だ!」
「わかった!」
運転席のゾイがハンドルを切る。
次の瞬間。
轟音。
ビームが発射された。
光線がトラックの横を通り過ぎる。
地面が吹き飛ぶ。
土砂が舞い上がる。
「うおっ!?」
荷台が大きく跳ねた。
「運転荒ぇぞ!」
振り落とされないように荷台に掴まるウェルト。
「誘導地点まであとちょっと」
「フルスロットルで行くよ!」
ゾイが叫ぶ。
荒野の先。
巨大な鉄骨が見えてくる。
通信塔。
正確にはその残骸だった。
大戦時代。
この地域の通信を担っていた中継塔。
オートマタの襲撃によって倒壊。
今では巨大な鉄骨が斜めに傾いたまま荒野へ突き刺さっている。
「見えてきたな」
「百!」
「五十!」
「三十!」
ゾイの声。
ウェルトが起爆スイッチを握る。
サソリがさらに距離を詰める。
巨大なハサミが振り上がる。
「今だ!」
スイッチを押す。
轟音。
地面が吹き飛ぶ。
埋設していた爆薬が一斉起爆。
サソリの足元が崩壊する。
砂と岩が空へ舞った。
サソリが大きく傾く。
足が数本吹き飛ぶ。
その場に崩れ落ちる。
だが。
強引に立て直そうとする。
その瞬間。
尻尾が持ち上がった。
砲撃体勢。
ウェルトが笑う。
「待ってたぜ」
アンカーショット発射。
金属杭が尻尾へ巻き付く。
鎖が伸びる。
固定。
「ゾイ!」
「了解!」
トラック急旋回。
オートマタの背後へ。
鎖が引き伸ばされる。
尻尾が後方へ引っ張られる。
金属音。
サソリが力任せに尻尾を戻そうとする。
アンカーが悲鳴を上げる。
トラックのエンジンも唸る。
ウェルトが口元を吊り上げた。
「お膳立てはしたぜ」
廃棄通信塔。
その頂上。
風に銀髪が揺れる。
少女が一人。
静かに立っていた。
セレナだった。
一歩踏み出す。
落下。
重力。
加速。
セレナは空中で剣を構えた。
一閃。
ズガァァァン!!
尻尾の付け根。
装甲と装甲の薄い部分。
そこが切断される。
巨大な尻尾が地面へ落ちた。
だが。
サソリ型は倒れない。
のこった脚と二本の爪を地面に突き刺す。
セレナは止まらない。
切断した尻尾を踏み台に跳躍。
背中へ向かう。
セレナは武器を変形させた。
剣。
から。
銃。
着地するより先に引き金を引く。
爆発。
背部装甲が砕けた。
内部機構が露出する。
その瞬間。
セレナが着地した。
背中の上。
迷いなく剣を突き立てる。
根元まで。
深々と。
サソリ型が暴れる。
巨大なハサミが地面を砕く。
残った脚が暴走する。
それでも。
もう遅い。
セレナが静かに呟く。
「バースト」
剣が発光した。
銀色の光。
エーテルが刃を伝う。
内部へ。
制御核へ。
そして。
一瞬の静寂。
ドォォォォォォォン!!!
サソリ型オートマタが内部から爆散した。
巨体が崩れ落ちる。
砂煙。
沈黙。
セレナは爆発する直前に飛び降りて着地。
サソリ型オートマタが崩れ落ちる。
砂煙が舞った。
しばらく待つ。
反応なし。
完全停止。
討伐完了だった。
「よっしゃぁぁぁ!!」
ウェルトが拳を突き上げる。
「余裕だったな!」
「途中でアンカー千切れそうだったけどね!」
ゾイも笑う。
二人は顔を見合わせた。
そして。
パンッ!
勢いよくハイタッチ。
「ナイス誘導!」
「ナイス罠!」
「ナイス運転!」
「ナイス射撃!」
いつものやり取りだった。
その時。
ゾイがふと顔を上げる。
向こうからセレナが歩いてきていた。
武器をしまい。
いつもの無表情。
だが。
銀色の瞳だけがこちらを見ている。
ウェルトとゾイは目を合わせた。
にやり。
そして。
二人同時に手を上げる。
「セレナ!」
「こっち!」
セレナが足を止める。
二人を見る。
そして。
少しだけ歩く速度が速くなる。
そして。
最後は小走り。
ウェルトとゾイが両手を出したまま待つ。
セレナは地面を蹴った。
ぴょん。
小さく跳ぶ。
そして。
パンッ!!
右手でウェルト。
パンッ!!
左手でゾイ。
両手同時のハイタッチ。
綺麗に決まった。
着地。
「おつかれ!」
「やったな!」
労いの言葉。
セレナは二人を見る。
数秒。
そして。
胸を張った。
「勝った」
完全にドヤ顔だった。
「まずはギルドに討伐確認だな」




