報告の少女 後編
「まずは前回の探索チームの事です」
青年が資料を開く。
ウェルトは腕を組んだ。
「ちゃんと説明してくれるんだろうな」
「もちろんです」
青年は真剣な表情で頷く。
「調査の結果、前回の探索チームによる虚偽報告が確認されました」
「実際には十分な探索を行っていなかったにも関わらず、安全確認済みとして報告していたことが判明しています」
ドルスが眉をひそめる。
「やはりそうでしたか」
青年は続ける。
「さらに過去の報告書も調査した結果、複数回に渡って同様の行為が確認されました」
コールが顔をしかめた。
「常習犯だったってことっすか」
「その認識で間違いありません」
そこでウェルトが口を開く。
「だが妙だな」
「探索者だけでそんな長期間隠し通せるもんか?」
ウェルトは机を指で叩いた。
「クイーンが巣を作るまで放置されたんだぞ」
「途中で誰か気付くはずだ」
部屋が静かになる。
青年は数秒だけ黙った。
そして。
「その通りです」
資料を一枚取り出す。
「調査の結果、担当していたギルド職員も不正に加担していたことが判明しました」
アディの表情が険しくなる。
「やっぱりね」
青年は頷く。
「金銭の授受が確認されています」
「探索記録の改ざん」
「危険報告の隠蔽」
「監査資料の偽装」
「全て担当職員が協力していました」
コールが思わず声を上げる。
「うわ……」
ドルスも呆れたように息を吐く。
「そこまでやっていたとは」
ウェルトは椅子へ背を預ける。
「そんなことだろうと思った」
「探索者だけでクイーンを何ヶ月も隠せる訳がねぇ」
「職員と繋がってなきゃ無理だ」
青年は頷いた。
否定できなかった。
「今回の件はギルド内だけで処理できる内容ではないと判断されました」
「探索チーム及び担当職員は全員拘束済みです」
「現在は国の憲兵へ身柄を引き渡しています」
アディが腕を組む。
「当然ね」
「人が死んでてもおかしくなかったもの」
青年も静かに頷いた。
「はい」
「実際、皆様が発見しなければ被害はさらに拡大していた可能性があります」
ウェルトは鼻を鳴らした。
「まぁ、終わった話だ」
そう言いながらも。
表情は少しだけ険しいままだった。
もしセレナがいなかったら。
もし発見が遅れていたら。
そう考えると笑えない話だった。
「今回の件はギルド内部で処理できる範囲を超えていると判断されました」
「探索チーム全員及び担当職員は憲兵へ身柄を引き渡しています」
ウェルトは短く頷いた。
「当然だな」
アディも同意する。
「むしろそれ以外ないわね」
青年は資料を閉じる。
するとアディが口を開いた。
「それで」
「巣は見つかったの?」
青年は別の資料を取り出す。
「はい」
「引き継いだ探索チームによってクイーンの巣を発見しています」
「内部には卵が三十七個」
「幼体が十二体確認されました」
「現在は全て処分済みです」
ドルスが安堵したように息を吐く。
「なら一安心ですね」
青年も頷く。
「周辺区域の再調査も行っております」
「ただし死体処理はまだ継続中です」
「あの数ですので」
ウェルトが苦笑する。
「まぁそうだろうな」
あのキマイラの山を思い出す。
焼却だけでもかなりの時間が掛かるだろう。
「完全な後処理完了まではもう数日ほどかかる見込みです」
「なるほど」
話は一段落した。
青年は次の資料へ手を伸ばす。
そして。
ふと視線が横へ向いた。
セレナ。
アディの膝の上。
数秒。
沈黙。
青年は空いている席を見る。
セレナを見る。
もう一度空いている席を見る。
「その……」
「はい?」
「席は空いておりますが……」
アディは真顔だった。
「大丈夫です」
「そうですか」
即答だった。
青年は何とも言えない顔になる。
ウェルトはコーヒーを飲んでいる。
ドルスは無反応。
コールは資料を眺めている。
誰も何も言わない。
青年は少しだけ思った。
(あれ……?)
(もしかして私がおかしいんでしょうか……?)
だが。
深く考えるのはやめた。
青年はゆっくり資料へ視線を戻した。
「……失礼しました」
何も見なかったことにした。
そして咳払いを一つ。
「さて」
「少々重い話が続きましたね」
資料を入れ替える。
今度は表情も少し明るい。
「ここからは良い話です」
ウェルトが眉を上げた。
「ほう?」
青年は笑みを浮かべた。
「今回の討伐報酬についてご説明します」
新しい資料を取り出した。
ウェルトが少し身を乗り出す。
青年は資料を一枚差し出した。
「今回の討伐報酬はこちらになります」
ウェルトは受け取る。
視線を落とす。
数秒。
固まる。
もう一度見る。
桁を確認する。
さらにもう一度見る。
「……は?」
青年は淡々と説明を続ける。
「クイーン討伐報酬」
「キマイラ多数」
「緊急依頼達成報酬」
「特別危険区域制圧報酬」
「以上を元の報酬から合算した金額になります」
ウェルトは資料と青年を交互に見た。
「ちょっと待て」
「桁間違ってねぇか?」
「間違っておりません」
即答だった。
ウェルトが再び資料を見る。
人生で一度も見たことがない額。
「マジかよ……」
隣からアディが覗き込む。
「まぁ、そんなものね」
反応が軽い。
「そんなもの!?」
思わず声が出るウェルト。
アディは肩をすくめた。
「クイーン討伐だもの」
「むしろ妥当じゃない?」
ドルスも頷く。
「相場通りですね」
コールも笑った。
「まぁ姉御達なら何回か経験ありますし」
ウェルトだけが置いていかれていた。
「そうなのか……」
青年は少し笑った後、次の資料を取り出した。
「続いて貢献ポイントです」
ウェルトの表情が引き締まる。
こちらの方が重要かもしれない。
「通常、貢献ポイントは達成状況に応じて一点ずつ加算されます」
青年は説明を続ける。
「ですが今回は特例となります」
「クイーン討伐の功績」
「そして皆様の実力を考慮した結果――」
資料をめくる。
「ウェルト様のチームへ三ポイントを付与します」
ウェルトが聞き返した。
「三ポイント?」
「三ポイントです」
「マジか!?」
思わず立ち上がる。
青年も頷いた。
「現在二ポイントでしたので」
「合計五ポイントになります」
ウェルトの顔が一気に明るくなる。
「五ポイント!」
「やったね」
ゾイも笑う。
青年は説明を続ける。
「五ポイント以上のチームは中級チームへ昇格します」
「そして」
「チーム名を登録する権利が与えられます」
ウェルトが固まった。
「チーム名?」
「はい」
「今後は正式名称で登録されることになります」
少し沈黙。
そして。
アディが真っ先に口を開いた。
「セレナちゃんと愉快な仲間たち」
「却下」
ウェルト即答。
「セレナちゃんを愛でる会」
「却下」
「セレナ親衛隊」
「帰れ」
アディが不満そうな顔をする。
ドルスが苦笑した。
「今決める必要はないそうですよ」
青年も頷く。
「本日中でなくても問題ありません」
「後日申請していただければ結構です」
ウェルトは安堵した。
「助かった……」
今決めろと言われても困る。
チーム名など考えたこともなかった。
「持ち帰って考えるか」
「そうしよう」
ゾイも賛成する。
青年は最後の資料へ手を伸ばした。
「そしてアディ様のチームですが」
アディが顔を上げる。
「こちらも今回の功績を評価し」
「貢献ポイントを一点付与します」
「現在七ポイントでしたので」
「合計八ポイントとなります」
アディは笑った。
「ありがとう」
青年も微笑む。
「皆様の働きに対する正当な評価です」
クイーン討伐。
大量のキマイラ。
そして数々の危機。
その全てが認められた瞬間だった。
ウェルトは改めて資料を見る。
莫大な報酬。
五ポイント。
中級チーム昇格。
少し前まで考えもしなかった未来。
そして。
向かいではアディの膝の上に座るセレナ。
その少女がいなければ。
ここにいる全員が死んでいたかもしれない。
ウェルトは小さく笑った。
「まぁ」
「悪くねぇ結果だな」
青年は資料をまとめる。
「以上となります」
「他にご質問はありますか?」
全員首を横に振った。
「特にねぇな」
ウェルトが立ち上がる。
他の面々も席を立った。
「それでは失礼します」
ドルスが頭を下げる。
青年も立ち上がった。
そして。
何かを思い出したように目を瞬かせる。
「あ」
全員が振り返る。
青年は少しだけ苦笑した。
「そういえば」
「まだ名乗っておりませんでしたね」
ウェルト達も一瞬固まる。
言われてみればそうだった。
何度も顔を合わせている。
それなのに名前を聞いていない。
青年は胸に手を当てた。
「ゼウレン=ラムゼスです」
丁寧な一礼。
「今後ともよろしくお願いします」
そうして報告会は終わった。
ギルド支部を出る。
昼前。
街は相変わらず賑やかだった。
「いやぁ」
「まさか五ポイントまで行くとはな」
ウェルトは機嫌が良い。
中級チーム。
少し前なら考えられなかった。
アディも笑う。
「ようやく追いついてきたじゃない」
「まだポイント差あるだろ」
「細かいことはいいのよ」
そんなやり取りをしながら歩いていると。
ピリリ。
ウェルトの端末が鳴った。
「あ?」
画面を見る。
登録されていない番号だった。
通話を取る。
数十秒。
話を聞く。
そして。
「分かった」
通話終了。
アディが首を傾げる。
「何だったの?」
ウェルトは端末をしまった。
そして。
セレナを見る。
「これからモール行くぞ」
「?」
セレナが首を傾げる。
ウェルトは少し笑った。
「お前の通信端末が届いたらしい」
セレナの目が少しだけ大きくなる。
「受け取りに行くぞ」




