料理の少女
家に帰り着いた頃には、全員限界だった。
まず風呂。
そして休息。
それが全員の共通認識だった。
ウェルトは一番最初に風呂へ入り。
上がった瞬間。
そのまま寝室へ消えた。
数秒後。
寝息が聞こえ始める。
ゾイが苦笑した。
「今日は流石に限界だろうね」
クイーン討伐。
大量のキマイラ。
応援部隊とのやり取り。
帰路。
疲れない方がおかしい。
ゾイは冷蔵庫を開けた。
「よし」
「体力つくやつ作るか」
肉。
野菜。
卵。
次々と取り出していく。
すると。
視線を感じた。
振り返る。
お風呂から上がったセレナがいた。
「何してるの?」
「料理だよ。今日は外に出る気力もなさそうだし」
そう言って準備に戻るゾイ。
じー。
セレナは料理を見ている。
興味津々である。
ゾイは少し笑った。
「手伝う?」
セレナは即答した。
「うん」
――
数分後。
セレナはエプロンを着ていた。
花柄のエプロン。
新品。
以前アディが大量購入した服の中に入っていたものだ。
誰も使うことはないと思っていた。
だが。
まさかこんなに早く役立つとは。
「流石アディだなぁ」
ゾイは感心した。
そして。
包丁を見つめる。
「料理できるの?」
そう聞くと。
セレナは胸を張った。
「できる」
「マーサが教えてくれた」
そして。
左手を前へ出した。
指を丸める。
「猫の手」
どや顔。
完全などや顔だった。
数秒。
沈黙。
そして。
ゾイは吹き出した。
「あはははは!」
「完璧だね」
「まずは玉ねぎ切ってみようか」
「うん」
セレナが包丁を握る。
構えは悪くない。
むしろ妙に様になっている。
だが。
問題はそこからだった。
とん。
止まる。
とん。
止まる。
とん。
止まる。
遅い。
ものすごく遅い。
ゾイは思わず笑った。
「慎重だね」
「危ないから」
真顔だった。
戦闘ではあれだけ大胆なのに。
包丁相手だとやたら警戒している。
不揃いに切られた玉ねぎ。
「おかしい」
セレナは野菜を見つめながら。
失敗したことに少し落ち込んでるようだ。
ゾイはすぐにフォローする。
「力じゃなくて刃を滑らせる感じ」
「滑らせる」
「そうそう」
ゾイが実演する。
すっ。
すっ。
すっ。
綺麗に切れていく。
セレナがじっと見る。
真剣な顔。
戦闘訓練でもしているようだった。
数分後。
とん。
とん。
とん。
最初よりはマシになった。
まだ少し不揃いだが、さっきよりずっと綺麗だった。
「できた」
少し誇らしげ。
「できたね」
ゾイも笑う。
肉の味付けも同じだった。
「塩はこれくらい?」
「うん、それくらい」
調味料を恐る恐る図りながら何度も聞き直す。
ゾイは思う。
クイーンを斬った時より。
今の方がずっと年相応だと。
――
しばらくして。
家中にいい匂いが広がり始めた。
肉を焼く音。
スープの香り。
野菜の甘い匂い。
その頃。
寝室の扉が開く。
「……」
ウェルトだった。
寝癖全開。
半分寝ている。
そして。
匂いにつられて現れた。
完全に獣だった。
「起きた」
ゾイが笑う。
「飯できたよ」
ウェルトは席へ座る。
テーブルに並べられる料理。
「うまそうだな」
そして迷わず一口。
もぐもぐと咀嚼するウェルト。
それを無言で見つめるセレナ。
数秒後。
「……うまいな」
素直な感想だった。
その言葉に目を輝かせるセレナ。
「流石だなゾイ」
そう言いながらもう一口食べる。
すると。
向かい側に座っていたゾイがニヤリと笑った。
「実はね」
「ん?」
「今日の料理、セレナも手伝ったんだよ」
ウェルトの手が止まる。
「へぇ」
視線がセレナへ向く。
「うん」
小さく頷く。
そこでゾイがさらに追撃した。
「しかもその肉の味付け」
「セレナ担当」
「おぉ」
ウェルトが思わず料理を見る。
もう一口食べる。
確かめるように。
そして頷いた。
「普通にうまいぞ」
「初めてにしては上出来じゃねぇか」
セレナが少しだけ俯く。
何も言わない。
ただ。
椅子の下で足が揺れた。
ふりふり。
ふりふり。
分かりやすかった。
ゾイは笑いを堪える。
「包丁は危なかったけどね」
「猫の手は完璧だった」
そうして。
セレナは自分の手を猫の手にして見せつける。
ウェルトが吹き出した。
「すごいじゃないか」
セレナが真顔で言う。
「すごいでしょ」
ウェルトは笑った。
久しぶりに肩の力が抜ける。
「さぁ、僕らも食べよう」
「うん」
クイーン討伐。
大量のキマイラ。
命懸けの戦い。
そんな一日だった。
だが今は違う。
温かい料理があり。
仲間がいて。
笑い声がある。
ウェルトは改めて料理を口へ運ぶ。
「うん」
「やっぱり美味いな」
その言葉に。
セレナの足が少しだけ速く揺れた。




