物語の終わり
三話目です。
無事にわたしたち勇者パーティは王都に帰還できました。
カミルさんは王都の親戚のところでしばらく逗留しながら、馬車を売ったりポーションの原料を買い付けしたりするそうで、一旦お別れ。
「褒賞手続きや祭典などが落ち着いたら、一度顔を出してくださいね」と、どこの屋敷に滞在しているかの連絡先をくださいました。わたしもそのつもりです。幾重にもお礼をしたいですしね。
王城に着きました。
すごいです。
行く時も確かに見送りがありましたけど、そこまで大々的でもなかったんです。でも今回は、外門から花が飾られて、謁見の広間まで赤い絨毯が敷いてあります。
旅装で埃だらけの格好で、ここ通っていいのか戸惑います。
嘘です。正直ビビってます。
ずらりと騎士団が並んでいて、奥に王様と王女様、神官の皆様が並んでいます。庶民のわたし、冷や汗ダラダラですよ。
そんな中でも聖女ルシエル様は、綺麗な姿勢で堂々と進んでいます。
魔法使いのセレーネさんも、背を伸ばして歩きます。
そういえばこの人も貴族のご令嬢だったわ。
アラミスはいつも通り。礼を欠いているんだろうけど、堂々としてます。いいのかな、いいんだろうな。
なるべく目立たないように、わたしは三人について歩いて、そっと影に隠れるように立ちました。だって怖いじゃないですか、偉い人って。
「ご苦労であった。今回の討伐は大きな褒賞に値する。ついては三日後に褒賞授与式と祝賀会、凱旋パレードを行う。それまでは王宮でゆっくりと休むがよい」
わたしたちはそのようにお言葉を受けました。
王宮で……ゆっくりできるのかしら。でも入浴とか睡眠とか、うん、大事よね。休ませて貰おう。
それぞれの客室が用意されているらしく、侍女の方達が先導してくれて、お部屋に移動しました。
さすが王宮。ふかふかの寝具、猫足のバスタブ。心地のいいソファ。
魔王討伐の旅は、おおよそ一年くらいかかっていたので、本当に久しぶりのリラックス。せっかくなので堪能させてもらいましょう。
湯浴みして、たっぷり寝て、ようやく気持ちに余裕ができました。
祭典諸々終わったら、まずはカミルさんの滞在しているお屋敷に挨拶に行って、そのあとは乗合馬車で村に帰ろう。両親にも会いたい。アラミスは…おそらくだけど。王都に残ることになると思うのよね。
冷静に考えてよ?魔王を倒せる強さの勇者を自由にさせて、うっかり外国に連れて行かれたら、たまったものではないよね、国としたら。育成に時間かけて、装備や旅にお金かけたのは、国を良くするため。
一代爵位を与えるとか、もしかしたら王女様と結婚させるとか。あり得る。むしろそれ以外の選択肢はない気がするのよね。アラミス本人は何にも考えてないだろうな、多分だけど。
わたしはそんなの真っ平なのでさくっと帰ることにしよう。うん。
大体、補助要員で戦闘職じゃないですしね。
客室の横に見える庭園は自由に散策していいといわれていましたので、気分転換にお花でも見に行こうと部屋を出たら、向かいの部屋の扉が開いていて中が見えました。向かいはアラミスのお部屋です。
侍女さんたち数名に囲まれてお茶を楽しんでいるようですね。
異性と同席の場合、一対一ではなくても、お部屋の扉を開けているのがマナーです。
ああ、なんかアラミスの顔がニヤけてる。これは壮絶に勘違いしていそう。きっと本人はモテてるって思ってるな、馬鹿め。
アラミスと目が合ったので、指でこっちに来るよう合図しました。
素直に茶器を置いてそっと椅子を立って入り口から顔を出します。
「アラミス、勘違いしちゃダメよ」やや顰めた声で一応忠告しておきましょう。
「え?なに」
「あなたは勇者で強い。そして今は王宮でお客様待遇。これはわかるよね?」
「あ、うん」
「強い人間に対して思うのって、非力な側からしたら〝怖い〟なのよ」
びっくりした顔でアラミスが主張します。「俺、なにもしないけど⁉︎」
「何かするしないじゃないの。〝その気になればできる〟状態が怖いの。そして侍女さんたちはどうやったってあなたに敵わない。でもお仕事であなたの身の周りの面倒を見なけりゃならないわけ。怖いって思いながら。だから笑顔なの」
人差し指でアラミスの胸をツンと押す。「機嫌を損ねたくないから。だから、自分がモテてるとか好意を持たれてると勘違いしちゃダメよ」
アラミスがひどくショックを受けたような顔になりました。少しは理解したかしら?
「俺、聖女様にも魔法使いちゃんにも好かれてるって思ってた。でも違った」
「そうね」
「幼馴染のお前も、こ、恋人候補かなって、ちょっと思ってた」
「そんなわけないでしょ。家族みたいな情はあるよ、もちろん。でもそれは恋じゃない」
「うん」
「お話ではそういうのがあるよね。でもあれは夢。ただのおとぎ話。第一に、あんただってわたしに恋なんかしてないじゃない」
ハッと気がついた顔になった。そういうとこだよ、ほんと。
「自分からしっかり気持ちを持って努力しないと、うまく行かないんだよ。あっちから来てくれるなんてそんな都合のいい話なんかないんだから」
「ごめん、そうだよな」
「落ち着いたらよく考えてみればいいと思うよ」
背中を優しく叩いて促すと、しょんぼりしながら部屋へ帰っていきました。
村にいた頃と同じ。本当は素直で優しい。でもそろそろちゃんと自分を見つめるべき時だと思う。
まぁそんな時間があるかどうかは怪しいけどね。
ため息をつきながらわたしは、今度こそ気分を変えるために庭園へ向かいました。
⭐︎⭐︎⭐︎
凱旋パレードと褒賞授与式の日です。
パレードは圧巻の一言でした。花飾りでいっぱいの豪華な馬車でゆっくりと王都の大通りを移動します。
「勇者様!」
「聖女様!」
「魔法使い様!」
あちこちから声がかかります。
わたしはなるべく目立たないように、アラミスたちとは別の馬車で、ひっそりと座ってます。目立ちたくないですからね。村娘ですし。
しばらく進んだところで「エリシアさん!」と声が聞こえました。見ると、カミルさんです。手を振ってくれています。
わたしはちょっと嬉しくなって手を振り返ししました。にこにこしてくれています。なんだかそれだけで、ああ、わたしも頑張ったんだなぁ。ちゃんと見てくれている人がいるんだな、と、胸が温かくなりました。よかった。本当に。平和になって。
パレードが終わり、王城へ帰ってきました。これから褒賞授与式と祝賀会ですね。
聖女ルシエル様の横には、ルシエル様にも負けないくらいキラキラした美形の騎士様がエスコートしています。きっとあれが聖騎士さんなのでしょう。
魔法使いのセレーネさんの横にも、スラリとした美丈夫な方がエスコートしています。
そうか、あの方が、セレーネさんが言っていた魔法研究所の同期の方。
わたしには横に誰もいませんけど、それは別に気になりません。当たり前ですからね。
そしてもうひとり、アラミスですが。
きちんとした礼装ですけれど、なんだか顔色が良くないようです。そっとそばに行って声をかけました。
「どうしたの?なんだか珍しく疲れてるみたい」
「それがさ」
小声でアラミスが答えます。
「昨日までの二日間、マナーとダンスをみっちり仕込まれてさ、慣れない動きでめちゃくちゃ疲れた」
あらまあ。
なるほど?
これは予想通りかも。
ファンファーレが鳴って、王族の方々が入場されました。
重々しい声で開会宣言がされた後、宰相様から褒賞の発表があります。
わたしたちは揃って王座の前、一列に並びました。
もちろんわたしは端っこです。
「勇者アラミス一行、随行員。エリシア」
あら、最初に呼ばれました。
並んだ位置のまま、わたしは頭を下げます。
「随行し、勇者一行を支えた功労にて、報奨金を授与する」
深くお辞儀をして宰相様から目録を受け取ります。
わたしは平民ですし、ちゃんと評価されただけでも大変ありがたいことです。それにこれだけの報奨金があれば、畑の拡張も、人を雇うことも、両親を安心させることもできますね。良かった。わたしは満足しました。
「子爵令嬢セレーネ・ラティエル」セレーネさんの名前が呼ばれました。
「褒賞として、以前から要望があった魔法学園内の研究所設立。それと共に研究所の名称をセレーネ研究所とする」
ああ、良かった。
セレーネさんも嬉しそうです。
最初からそういった話、されてましたものね。
横にいらっしゃる男性も、目を見開いていますけれど、やっぱり嬉しそうです。
「伯爵令嬢、聖女ルシエル・カリオネ」
呼ばれて、聖女様が綺麗にカーテシーをします。
「こちらも、以前から要望があった、王都及び地方都市での神殿に併設する孤児院の設立。これを王家は援助する」
さすがです、ルシエル様。
ちゃんと国のこと、行政のことを考えた上での決断ですし、魔王軍のせいで孤児になってしまった子供たちのこと、心を痛めていらっしゃいましたものね。慈悲深いです。
「そして勇者アラミス」
とうとう勇者の番です。わたしはごくりと唾を飲み込みました。予想通りならば。
「褒賞として一代限りではあるが、男爵位を授ける。なお、第二王女が降嫁し、婚約者となる」
やっぱり。
そうなると思ってました。
アラミスに目をやると、驚きつつも少し耳が赤くなっています。
この期に及んでまだ期待と勘違いしている?
あり得る。
だってあの子、人間関係の経験値が低い上に、恋愛耐性ないわ!
第二王女のカサンドラ様が微笑んでいます。
わたしはわかります。
いえ、女性ならわかると思います。
あれは社交上の微笑み。
好きとか嫌いとか、そういう事とは別で、きちんと覚悟を持った微笑みです。
なんで男の人ってこういうの、わからないのかな。
ちらっと前世の感覚が物申してきましたが、前世どうこうではなく。女はわかるんだよ。まじで。
でもアラミスは、見えてるところだけ見てますね。だって耳が赤くなってるし。
授与式が終わりました。
このまま祝賀会の会場、お城の大広間へ移動です。
今のうちに、とわたしはそっとアラミスに近づいて囁きます。
「王女様、お美しいですね」
「金の髪に海の色の瞳。小さいお顔に白い肌。本当に可愛いし綺麗だ」
うん。そりゃそうでしょ。王族は選別して婚姻するからね。
「好きになれそう?」
「もちろん!」
はい。わかった。それはそれでいいよ。
でもほんとこいつチョロいな。今更だけど。
「多分これが最後の助言になると思うからしっかり伝えとくね」
アラミスときちんと目を合わせます。
「王女様は王命であなたに嫁ぐの」
「……うん」
「そこに好きも嫌いもないのよ。でもちゃんと覚悟されているお顔だったわ」
「えっ?」
「これからあなたは、一応とはいえ、貴族になる。社交もマナーもわからないまま」
アラミスの顔色が悪くなってきてますね。
「だから」
噛んで含めるように。気持ちが伝わりますように。
「幼馴染としての忠告よ。王女様を大事になさい。王女様を最優先して、なんでも相談して、きちんと言われた通りできるようになさい」
ごくり、とアラミスの喉がなりました。
「女性が全て弱いと思っちゃだめ。王女様を悲しませたり裏切ったりは絶対にだめ。王族の覚悟を舐めてはいけない」
ふっと息を吐いてわたしは畳み込むように続けました。「物語だと〝勇者と王女様は結婚して、幸せに暮らしました。めでたしめでたし〟で終わるけど。でもね、わたしたちはその先も生きていくのよ。わかってる?」
王女様が近づいてきます。綺麗な微笑みを浮かべながら。
「あんたがいくら強くても、毒耐性はないでしょ?」
「え……」
わたしは自分にできる精一杯の〝礼儀正しい所作と微笑み〟で王女様を迎えます。
「アラミス。婚約者様をエスコートして」
一歩引いて。
アラミスから、不自然に見えないように離れます。
「勇者様、ごきげんよう。よろしくて?」
王女様がすっと手を差し出されました。
ぎこちないながらもアラミスがその手をうやうやしく取り、エスコートします。
頑張ってねー。心の中で応援して、わたしも大広間へ向かいました。




