その後のわたし
この章で完結です。
ありがたく褒賞をいただいたわたしは、ホクホクしながらカミルさんの滞在しているお屋敷に向かいます。
いつもさりげなく支えてくれたから、ちゃんと挨拶して、村に帰るつもりです。
どうやらそこそこの商家らしく、他のお屋敷と比べれば小ぢんまりしているけれど、田舎の村の家からすると充分大きい。
訪問すると、奉公人らしき人がカミルさんを呼んでくれました。
「やぁ、何かとお疲れだったでしょう」
相変わらずにこにこして優しいお顔で迎えてくださいました。
「はい。やっとひと段落しましたので、これから村に帰ろうと思います。それでお礼とご挨拶に伺いました」
応接間に通されて、お茶とお菓子が出されましたが、お茶に手をつける前に、まずお礼を、と。わたしはゆっくりと頭を下げて感謝を伝えました。「帰りの旅路、本当に助かりました。おかげで気持ちにも余裕が持てましたし、いろいろと考えることもできました。全部カミルさんのおかげです」
心からの気持ちです。「あと、これは些少ですが」
お礼の金貨を入れた袋をそっとテーブルに置きました。
「これは頂けません」
思ったより強い口調で、カミルさんが袋を押し返しました。
「もともと、馬車を処分したお金で王都で薬の材料を調達する予定でしたし、あの馬車は、実はわたしが叔父から譲り受けたものですから」
え、そうなの?そんなこと聞いてませんでしたけど。
「それから」
ふう、と息をついて居住まいを正したカミルさんが、真正面からわたしを見つめてきました。
「エリシアさんはリーデン村のご出身でしたよね」
「ええ。そうです」
「ご一緒させてもらっていいでしょうか」
「へ?」
間抜けな声が出てしまいました。
「エリシアさんさえ良ければ、その後もずっと」
こ、こ、これって、求婚でしょうか?球根?いや求婚⁉︎
「あの、うちは農家で、畑仕事が主ですけど」「知ってます」
ですよねー。そうお話しましたものねー。
「薬草畑も併設できますよね」にっこり。
カミルさんの、このにっこりに弱いんですよね。
帰りの旅の最中も、ちょっとみんなが疲れてきたらさりげなく休息を促したり、会話の雰囲気が悪くなりそうな時にも明るく話題転換してくれたり。
どれもほんのちょっとした気遣い。けれど、それはとても大切なことでした。
ええと……いや、待ってわたし。
なにか言わなくては。
「そういえば村には薬師が居ないんです。薬師のお店、開けますね」
あら、なに言ってんでしょう。
カミルさんの笑みが深くなりました。
「実は、最初からそのつもりで叔父にも許可をとって、帰還の旅に同行したんです」
なんですって⁉︎最初から?思ってたより計算高い?
「あの、もしわたしがお断りしたら…?」
「その時は傷心を抱えながら帰るつもりでした」
清々しいくらい潔いわ。
カミルさんもなんだか街を出る時点で覚悟していたってことね。
「では、この屋敷に二、三日滞在していただいて、村までご一緒するための旅の準備や、婚姻の準備をしながら向かいましょう」
さらっと仰ってますが、さすが気配りと先読みがお上手。
というかなんだかよくわからないまま、流されるように、人生の先が決まっていきそうです。
けれど。
断る言葉を考えようとしなかった。
それがわたしの本心なのでしょう、きっと。
ゆっくり息を吸い込んで、ちゃんと正面からカミルさんを見つめて。
「はい。わかりました。二日ほどお世話になりますね」
わたしもにっこり微笑んで答えました。
⭐︎⭐︎⭐︎
その後、魔王討伐から帰ってくるかと心配していた両親の元に、薬師の婿を連れて凱旋した村娘のわたしを。
父も母も、呆れるやら叱るやら、心配したと泣き崩れるやらで大騒ぎになったことは、後々まで村で語り継がれることになりました。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
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