08-11.美しき姫君
「まあ聞きなさいな♪」
パティには考えがあるようだ。
無きゃ困るけど。
「つまりね♪ こういうわけよ♪」
どういうわけよ。
「私たちは挑戦状を叩きつけるの♪ かの有名なカルモナドの美姫に♪」
それはもう聞いた。
「そろそろお祭りでしょ♪ 戦勝記念の♪ カナレス商会に依頼しましょう♪ 私たち主催の催し物よ♪ 私たちはパトロンになりましょう♪ お父様やお祖母様にも頼んで出資を募りましょう♪」
いくら掛かると思っているんだ。
そもそもお祖母様は主役だろうが。余計な金まで出させてどうする。ただでさえ戦争直後に自領の祭りに、新王の戴冠式まであったのに。
やるにしてもせめてうちの財布だけにしろ。
「たっぷり還元してあげるの♪ うちは姫を三人も引き抜いたんですもの♪ 更に三人も引き抜こうとしているんですもの♪ 民の血税への補填が必要だと思うの♪」
余計なお世話だ。国王一派の望みはこれ以上の干渉を控えることだ。王都を出歩いていただけで咎められたくらいだ。どんな催しを開いたって頭痛の種にしかなり得んだろうさ。
「これは名案よ♪」
自分で言うな。
「オーディションも兼ねているの♪」
まさか他の姫たちも引き取るつもりか。行き場のない姫たちを見繕うつもりか。
「何も姫に限る必要はないわ♪」
王国中から引き抜くつもりか。
「何故その提案が通ると思うのだ」
「魔王国にも国民が必要でしょ♪」
「その必要はない。いずれフィリアスを増やしていく」
「それもいいわね♪」
「よし。ならばこの話は終いだ」
私は魔王だからな。真に魔族の王となろうではないか。
『流石は御主人様ですぅ~♪』
そうだろう♪ そうだろう♪
『エリク』
無論私の中に住まうのはお前たちだけだ。お前たちは特別だ。
『う~ん~』
コルピスは不安か? ならやめておこう。フィリアスはもう二度と生み出さんと誓おう。
『えへへ~……ごめんね~……』
いいのだ。気に病むな。
「まあ聞きなさいよ♪」
もう聞いただろうが。
「魔王の名前は出さないと約束するわ♪ もちろん私もパトリシアの名前は出さないわ♪ 旅の美女としてエントリーさせてもらうのよ♪」
「なんだ旅の美女って」
「パティ。美魔女姉妹にしましょう」
「ふふ♪ レティとコンビで出るのもいいわね♪」
美魔女って……意味違うぞ?
『それはギンカの世界だけでは?』
それもそっか。この世界には普通に魔女がいるんだし。
「エリクに手間は掛けさせないわ♪」
「そういう問題ではない。だいたいそれでどうやって姫を引きずり出すと言うのだ。あくまで平民の催しだと言うなら、わざわざ王家が首を突っ込む必要は無いだろう」
「違うのよ♪ リーゼ姉様が参加するのは偶然なの♪ お忍びでお祭りに参加していたリーゼ姉様が偶然紛れ込むの♪ 私はリーゼ姉様を見つけてステージに引っ張り上げるわ♪ そこで正体を暴いて挑戦状を叩きつけるの♪」
「民衆を盾にとって騎士団長を翻弄するつもりか?」
「サクラも必要ね♪ 盛り上げて逃げられないようにしちゃいましょう♪」
「求めているのは中止を阻止するための人質であろう」
「そういう面もあるわね♪」
まったく。
「ねえお願い♪ ちょっとしたレクリエーションよ♪ 本気で事を構えるわけじゃないの♪ 必要以上の騒ぎも起こさないって約束するわ♪」
「……最終的な目的をハッキリさせろ」
「私の目的はリーゼ姉様よ♪」
「それはパティが勝利した場合の話であろう」
「察しが良いわね♪ リーゼ姉様が勝利した場合は姉様に任せるわ♪」
「結局私が代償を支払うことになるのだろうが」
「絶対負けないから♪」
「……だそうだが。リーゼシア殿は自らを賭けてまで手にしたいものがあるのか?」
「……ならば魔王陛下。私が勝利した暁には、御身が全てを捨てて騎士団長に嫁入りしていただけるかしら?」
「釣り合っておらんだろうが。折角パティが用意してくれた機会を無駄にするつもりか」
「ならばパティを頂きましょう。パティには私の代わりに騎士団長へ嫁いでいただきますわ」
ドア・イン・ザ・フェイスか。小癪な真似を。
「心配要らないわ♪ 私絶対勝つもの♪」
「おい……」
どうしてそこで口を挟む……。
「決まりですわね」
「ならん」
「ダメよエリク♪ これこそ等価値というものでしょ♪」
「バカを言うな。ここは魔王城だ。そんなリスクを冒すくらいならこのまま……」
……それじゃダメなのか。彼女を誘拐するプランも私は否定したのだから。
「……パティの計画を認めはせん」
「酷いわ! 今のは認めてくれる流れだったじゃない!」
「お前が余計な口を挟まなければな」
「盛り上がっているとこ悪いけど。そもそも成立しないわよね、その賭けって」
ニアの言う通りだ。ベルトランが、というかカルモナド王国が今更パティの帰還を認めるわけがあるまい。
「だから旅の魔女なのよ♪」
「無理があるだろ。どう考えても」
「無理無理言わないで!」
なんなのさもう……。
「魔王陛下も聞いていた程ではありませんのね」
今度は挑発か。
「なあパティ。今回ばかりは無理だと思うぞ」
私とリーゼシア殿は馬が合わんと思うのだ。
彼女は男性らしい男性が好みだし、私も彼女のようなタイプはあまり好かんのでな。
「なによ。ジェシー姉様と比べれば可愛いもんじゃない」
「おいこら」
「あなたねぇ」
「ニアと違ってこやつには実力が伴っておらんだろう。至宝だかなんだか知らんが、経験値が少なすぎる。そう簡単に人は動かせん。ニアも無茶は言うが結果は出してきたのだ。私たちだってニアの策には翻弄されておったろう」
対してリーゼシア殿のやり方はなんだ。まるで教科書通りだ。何でも理屈通りに物事が進むなら誰も苦労はせんのだ。
「そんな言い方!!」
「パティ。いいの。……正直わかっていました」
今度は泣き落としか? また話し方を変えおって。
「私には大した武力も事務能力もありません。あるのはこの容姿とそれを生かす術だけ」
確かに所作だけは立派なものだ。言うだけのことはある。
交渉術は不慣れな様子が滲み出ているが、身体の動かし方はまるで機械のように精緻で美しい。さぞかし努力を重ねてきたのだろう。それは認めよう。
皆が魔術や武術を学ぶ間、魅せる為の身体の扱い方を徹底して自らに叩き込んできたのだろう。やはりこの人もカルモナド王家の人間だ。他の誰にも譲れぬものがあるのだろう。
しかし私はその美しさを好まない。私が好きなのはパティのような野生すらも取り入れた美しさだ。幼き頃から一人で強大な魔物たちに立ち向かい続けてきたパティの努力は全く方向性の異なるものだ。
だから私はパティをより美しいと感じるし、ルシアはリーゼシア殿の方をより美しいと感じるのだろう。
「だからこそ、この勝負にだけは負けるわけにはいかぬのです。私は何も望みません。ですからどうか。魔王様。パティの提案をお認めください」
……そうきたかぁ。
「……勝って何を得るつもりだ」
「証明を。王の隣に立つ者として相応しき証明を」
「……ならばパティは名を名乗れ。魔王国一の美しさを証明してみせよ。これは代理戦争だ。お前の言った通りにな。故に決して敗北は許さんぞ」
「エリク! ええ! ええ! ありがとう! エリク!」
結局最後にはしてやられたなぁ……。
『少々甘く見すぎましたね。もしやすると、この者の不慣れな様子もわざとそう見せていたのかもしれません』
なるほどなぁ……そういうのも得意なのかぁ……。
『だとするとこの戦いは相当厳しいものになるやもしれませんね』
早まったかなぁ……。
『ああ言うしか無かったのでは? 彼女が覚悟を見せたのですから』
そうだな。これは私の落ち度だな。口は災いの元だな。
『上手く誘導されましたね』
ほぼほぼパティのせいだ。責任は取らせよう。
『皆で考えましょう♪』
頼むぞ。姉さんも。
『はい♪ 知恵のネルケ♪ 本領発揮です♪』
どうせならさっき発揮してほしかった。
『口出しなんてしませんよ♪ ギンカは私の操り人形じゃないんですから♪』
さては楽しんでおったな?
『ふふ♪ それがお姉ちゃんの生き甲斐ですから♪』
お楽しみ頂けたのなら何よりだ。
『まだまだ楽しみましょう♪ ギンカも一緒に♪』




