08-10.それぞれの思惑
「正直な。カルモナドの政治問題に関わるのは御免なのだ」
今更だ。既に我らの役目は終わったのだ。一通りのケジメはつけた。これ以上関わる理由も正当性も無い筈だ。
「その辺どう思う。ニア」
元第一王子の件は娘であるジェセニアに聞くのが一番だ。ということで呼び出してみた。
「あなたの言う通りよ。フェリシア様とバレンシア様の件はともかくとして、リーゼシア様の件にはこれ以上関わるべきではないわね」
「ジェシーちゃん薄情です」
条件次第でレティも大概だと思う。というかいつ来た。何で来た。私はニアしか呼んどらんぞ。
「やあ♪ リーゼ姉♪ バレンシア姉様も♪ ご無沙汰♪ フェリシア姉様は初めましてだね♪」
「ルシア!? 何故ここに!?」
ほんとにね。まだ仕事中だろうに。エフィは置いてきたのか。
「あれ? 知らなかったの? 私も魔王様の伴侶に加わったんだよ♪」
「あなた隣国に嫁いだんじゃ!?」
「うん。その後にね。エフィも一緒さ♪」
「……」
そんな目で見んでおくれ。
けどそうか。リーゼシア殿とルシアは親しいのか。ルシアはバレンシア殿の事も知ってはいるようだけど、こっちはそこまで親しいわけでもなさそうだ。あくまで顔見知り程度だろう。
「リーゼ姉もエリクさんが?」
「違うぞ」
話聞いてなかったのか? 今来たのか。別にニアと一緒に来てたわけじゃないのか。私がニアと話している隙にパティが呼んだのかな? 票数稼ぎか。ニアは絶対反対するから。小賢しい真似を……。
「おおかた元第一王子の策略ではないかと睨んでおってな」
奴ならばリーゼシア殿の想いを理解した上で利用しておっても不思議もないし。
「……流石に無いんじゃない?」
ルシアは意外と甘いのだな。
「だって考えてみなよ。リーゼ姉様は王国一の美姫とまで謳われしお方だ。その利用価値は計り知れない。ましてや今は魔王なんて存在まで現れたんだ。カルモナドの血統は価値があるからこそリスクにもリターンにもなりえるんだよ」
話聞いてないんじゃなかったんかい。パティが念話で捕捉したのか? いいけどさ。
「扱いが雑すぎると?」
「魔王国にこれ以上流出させる方がよっぽどリスクは高いって話」
ごもっとも。
「貸しを作るつもりではないか?」
敵対関係なんてぶっちゃけポーズでしかないんだし。
「あり得るとしても借りを返すだけでしょうね」
パティも混ざってきた。ルシアが味方についてくれたと判断したのだろうか。二人の目的はどこだ? この流れで引き取ろうってなるか?
「レティはどう思う?」
味方に加わっておくれ。信じておるぞ。
「う~ん……敵情視察じゃないでしょうか?」
さてはやる気ないな? それっぽいこと言いおって。
「魔王陛下」
今度はリーゼシア殿だ。ここまであまり積極的ではなかった彼女だが、いったいどんな考えを持っているのだろうか。
「一芝居お付き合い頂けませんでしょうか」
「芝居? お聞きしよう」
「魔王陛下に私を攫っていただきたいのです」
「……それで出方を伺うのだな」
「はい。近衛の騎士団長が動けばそこには必ず王の意思が伴います」
なるほどな。どう動くにせよ、ニコライたちの思惑は計れるというものだ。
「すまない。その作戦には付き合えない」
「エリク!」
「これ以上カルモナドと直接事を構えるのは難しい。我々は悪意も無くあの国を振り回してしまった。同じ失敗は繰り返せない」
「失礼致しました」
「いや。こちらこそ力になれず申し訳ない。もう少しだけ違った形であれば是非とも力にならせて頂こう。貴殿は我が伴侶が慕う姉君だ。我はそのように認識しておるのでな」
「感謝致します」
確かに至高の美姫だなどと大層な呼ばれ方をするだけのことはあるな。外見云々だけでなく、その物腰が違うのだ。
「でしたら魔王陛下」
うん?
「私を娶っては頂けませんか?」
……どうしてそうなる。
何を考えている?
これは何かの策だ。そういう目をしている。
「演技でなければ良いというものではない」
「バレンシアとフェリシアは受け入れて頂けるとのお話でしたわね?」
話し方をコロコロ変える奴は信用せんと決めておるのだがな。
『『『『……』』』』
なんだ? 何か言いたいことでも?
『『『『……別に』』』』
なんなんさ。
「お二人とは事情が違うであろう」
「王家の者を引き抜くという大枠は変わりありませんわ」
「目的を話せ」
「変わりありませんわ」
「結果が変わるであろう。演技でないなら我は貴殿を返すわけにはいかなくなる」
「力足らず攫われるならばその程度。そういうことですわ」
結局ベルトランとニコライを試すのか。
「事を構えることは出来ぬと言ったはず」
「ならばバレンシアとフェリシアについても諦める事です」
「ダメよそんなの!」
……そうか。パティを誘導するつもりか。
「ねえエリク。リーゼ姉様も」
「ならん」
お前は見抜けんのか?
リタなら気付いただろうに。パティは親しい者相手となると途端にポンコツ化するからな。仕方ないのだろうか。
「レティお姉ちゃん。助けてくれ」
「は~い♪ エリクちゃん♪」
「ズルいわ! レティは私が呼び出したのに!」
おい。こいつゲロったぞ。聞いてもないのに。
「お姉ちゃんはまるっとお見通しです♪」
マジっぽい。やる気無かったのに。だからか。
「今回のレティは姉でもなんでもないでしょ」
あ、ニア。そういえばいたんだった。
「パティも追い抜いてしまったものな。下から数えた方が早いのか」
今この場にいるレティの年下ってルシアだけだし。
「それだわ♪」
何を思ったのか変身を解くパティ。
「「「えぇ!?」」」
三姫は驚いて目を見開いた。
「ふふ~ん♪ どうよ♪」
なんでこの子こんなテンション高いんだろう。
「まあびっくり。綺麗になった」
一番最初に飲み込んだのはバレンシア殿だった。
「パティ……なのよね?」
意外にも次はフェリシア殿。
「……」
リーゼシア殿は驚きすぎて固まっている。
「ふふ♪ 皆釘付けね♪」
「おい。何を企んでいる」
「私が名乗り出るわ♪ カルモナド王国一の美姫として♪」
……リーゼシア殿の価値を落とすつもりか?
お前は魔王国の王妃だろうが。
「凄い自信ね」
ニアは冷静だ。そうでもないか。
パティの素っ頓狂な提案に真意を計りかねているな。
「え~。リーゼ姉の方が綺麗だと思うな~」
ルシアはルシアで何かズレてる気がする。
「お姉ちゃんの見せ場を取らないでください!」
レティは折角やる気を出したのに妨害されて憤慨してる。
「やめておけ。パティ」
「なによ!? 私じゃ勝てないって言うの!?」
「そんなわけないだろ」
あかん。素で突っ込んでしまった。
「勝って何の意味がある。思い出せ。お前は魔王の妃だ」
「そうじゃないわ! 攫うまでもなく相手の様子が見れるって言ってるのよ!」
……やつらがブランドを重視するかが重要なのか?
「まるで意味がわからんぞ」
ともかく事を構えるつもりが無いという話は散々してきただろうが。
「これは代理戦争よ♪ 勝った方が全てを手に入れるの♪」
頭痛くなってきた。




