08-09.お姫様の就職相談会
「パティ。早まるな。落ち着いて考えてみろ」
「何をよ!? こんなの直談判するしかないでしょ!!」
「やめて。パティ」
「姉様まで!?」
「違うの。本当に私は」
「二兄様が好きなんでしょ! リーゼ姉様!!」
「パティ! いい加減にしろ!!」
「「「「っ!?」」」」
あかん。全員驚かせてしまった。
「パティ。いったいどうしてしまったんだ。お前は相手の事情を慮れん者ではないだろう」
「……ごめんなさい」
「落ち着け。お前は特別だ。幸運に恵まれていただけだ。誰もが全ての望みを叶えられるわけじゃない。王族は特にそうであろう。お前もよく知っている通りにな」
「……そうね」
「大丈夫だ。強引なことをせずとも姉君の幸せに寄与する道はある。冷静に考えてみろ。お前に何が出来るのかを」
「……うん。ありがとう、エリク」
よしよし。
「失礼。姫様方。驚かせてしまった」
「……」
なんだ? バレンシア殿がやけに見つめてくるな。
「メアリ。お茶を淹れ直しておくれ」
「はい。魔王様」
ありがとう。メアリ。
さて。一度仕切り直そうか。
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「フェリシア殿は普段どのようなお役目を?」
世間話をしようと思い、取り敢えずフェリシア殿に話題を振ってみた。リーゼシア殿は先程の件もあるし、バレンシア殿はやたら見つめてくるから話しかけづらかったのだ。
「私はレティシアの部下でした」
「ふむ。王宮魔術師か」
レティに部下なんていたんだ。一匹狼してたのかと思ってた。
いや、実際それに近いことはしていたのだろうな。フェリシア殿はさぞかし苦労されたことだろうな。
「はい。既に職は辞しておりますが」
「……迷惑をかけたな」
色々と。
「いえ。むしろ感謝しております。私は元々旅立つことに憧れておりましたので」
「その準備か」
「まだ足りぬのです。ですから魔王陛下。どうか私もその配下に加えては頂けませんでしょうか」
「うん? 何故そのような話になる? 政変によって王族の立場からは解放されたのではなかったのか?」
「いいえ。私どもの身に流れる血が許さぬのです」
……ああ。そうか。カルモナド王家は代々魔力持ちを取り込んできた家系だ。長い時を掛けて練り上げられた、それそのものに価値のある至高の血統なのだ。
たとえ魔力が発現せずとも、そうそう外には出せぬのか。なんなら国内においてもそれは同様だ。もっと言えば婚姻自体も制限されているのだろう。これは盲点だった。
「しかし我が魔王国は敵国だ。流出は本意ではあるまい」
「そんなの内密に決まってるじゃない。魔王らしく姫の一人や二人や三人くらい攫って頂戴な♪」
パティが口を挟んできた。どうやら復活したようだ。
あとしれっとリーゼシア姫の件も諦めていないと主張してきたな。まったく。仕方のない奴だ。
「ふむ。記憶違いか? 我が城には既に三人の姫がおる筈だが。それとも何か? パティがその席を譲るとでも?」
「意地悪言わないで。お願いよ、エリク。わかっているでしょう? 姉様たちは一生独り身を強要されるの。リーゼ姉様だって特別よ。二兄様の派閥に与すると宣言したから充てがわれたの。そんな扱いに納得しろだなんて言わないで」
お前たちは姫だろうが。これまで民の血税で生きてきたのだろうが。……なんて言うのは流石に血が通っていないか。私はカルモナドの王族どころか民ですらないんだし。先の政変にも積極的に関わってしまったのだし。
「……本当にディアナは許可を出したんだな?」
「ええ♪ 当然じゃない♪」
「……よかろう。フェリシア殿とバレンシア殿は受け入れよう」
「ありがとう♪ エリク♪」
「ただし。あくまで従業員としてだ」
「それでいいわ♪ ね♪ 姉様♪」
「不服」
だそうだけど。
「私としては好都合です。感謝致します。魔王陛下」
フェリシア殿はバレンシア殿の発言をスルーした。
「バシィ姉様は側室希望ね♪」
「うん」
うんじゃないが。
「扱いは大して変わらんぞ?」
最初っから好意を持てるわけもなし。それに皆それぞれに仕事をしてくれているのだ。ユーシャは最近怪しいけど。昔は勤勉だったのに。思えば一時的だったな。あの真面目ユーシャ。シクシク。
「構わない。好きに使って」
「……ちなみに特技は?」
「記憶と記録」
なんじゃそりゃ。
「バシィ姉様は記録官なの♪」
「元。だけど。仕事失った。責任とって」
えぇ……。
「ちなみにバシィ姉様は全ての経緯を知っているわ」
「……どういうことだ?」
「どうもこうもよ。公的な記録を編纂したのはバシィ姉様だもの。裏の事情まで完璧に把握してなきゃ辻褄が合わなくなるでしょ」
前王や第三王子の件も? 本当に全てを知っているのか?
「……いやおかしいだろ。そんな重要人物クビにせんだろ」
「始末も秒読み。助けて」
嘘だ。絶対。冗談めかしてるし。リーゼシア殿の手前だからか? わざとか?
「正直に話せ」
「……忘れた」
「おい。供述に疑義があるぞ」
特技記憶力はどうした。
「話せないのよ♪ 察してあげなさい♪」
「ならば受け入れ拒否だ。察しておくれ」
「もう! 酷いわ! エリク!」
リーゼシア殿の前で話せんというのもわかるがな。
「当然だろうが。敵対国だからと何でもしていいと思っているのか?」
これでパティが無理矢理引き抜こうとしているだけだったらどうするつもりだ。
どうもしないか。望み通りか。
「真面目に話す気がないならここまでだ」
「バシィ姉様は本当のことしか言ってないわ!」
それだと忘れたってことまで真実になっちゃうんだけど。
「だとしてもだ。側室に加わる理由が無かろう」
「なら雇ってはくれるのね♪」
「不服」
「御縁がなかったということで」
バレンシア様の今後ますますのご健勝とご活躍を心よりお祈り申し上げます。
「もう! バシィ姉様も今はそれで納得しておいて! リシア姉様共々すぐ側室に加えてあげるから!」
「ならいい」
よくないが。
「私は望んでないんだけど」
こっちもこっちでハッキリ言うものだな。
「最後のチャンスだ。何故話せない。それだけでも教えろ」
「そんなの答えを言うようなものじゃない!」
「問題ない。話せない理由なら」
そすか。
「耳貸して」
側に寄ってきた。
「リーゼを失望させたくない」
バレンシア殿はそう囁いた。
……つまり、本当に始末されそうになっていると。それも現国王、ニコライの意思によって。
奴は徹底していたものな。わからん話でもない。
しかし猶予を与えたことだけはどうしても腑に落ちん。
……最初から私が関与することを想定していた?
ただ逃がすわけにはいかずとも、私に押し付けることを前提としていたなら話は別か。
だとすればパティのためか。パティがこの三人を連れ出せたことも奴らの思惑通りか? 流石に考えすぎか?
……厄介なものだ。
もしやすると第一王子……今は元か。ともかく、奴の策略やもしれんな。あの男の考えそうなことだ。
何にせよ、意思決定を下したのはニコライだ。元第一王子は入れ知恵したにすぎん。奴の関与は推測だけど。
「よかろう。バレンシア殿も受け入れる」
「側室?」
「その件はまた改めて協議する。所謂家族会議だ。その議題に上げることは約束しよう」
「感謝♪」
流れるように頬に口付けてから席に戻っていった。




