08-05.妖精女王
「それでぇ~? お悩み相談~? アニタちゃんにぃ~?」
相手を間違えたな。
踵を返した。
「あっちょっ!? 行っちゃやぁ~あ~♪」
後ろから抱きつかれた。
「勘違いするな。お悩み相談なんかじゃない」
「わかってる♪ 晩酌に付き合えってんしょ♪ 喜んで♪」
シルクは不在か。残念だな。
「む~ぅ~」
バレたか。相変わらず察しが良い。
「ほれ。部屋に入れておくれ」
「ねえ。もっと他に言う事ないの?」
「何がだ」
「ほ~ら~♪ 当たってるでしょ~♪」
「なんだ。そういう気分なのか。いいぞ。相手してやろう」
「……えぇ」
引かれてしまった。
「つま~んないの~」
ご期待に添えなかったようだ。
「ほれ。ここお座り」
かと思えばベッドの上に招き寄せられた。
私が枕元に腰掛けると、アニタは寄り添うようにもたれ掛かってきた。
「顔を見て話さないか?」
「なに? 忘れちゃったの?」
「……まさか」
「なに今の間。流石のアニタちゃんでも傷付くゾイ」
とか言いつつ、私から離れて、ベッド脇の椅子に座り直してくれた。
「お前は美しいな。アニタ」
「妖精女王様だもん♪」
「昔からその顔なのか?」
「もう。変なことばっかり言う。調子狂っちゃう」
「すまんな。何せ十年ぶりなのだ」
「だからってなんで今その質問するの?」
「まるでいずれ聞かれるとわかっていたようだな」
「すっとぼけちゃって」
「アニムスさんとはどういう関係なんだ?」
「カマかけようったってそうはいかないよ」
流石だな。私が何一つ根拠を持っていないと気付いたか。
「その答えこそが肯定のようなものではないか」
「雑すぎ。出直してきて」
強引だなぁ。アニタらしくない。よっぽど触れられたくない話なのかもしれない。
「なあ、アニタ」
「なに? やっぱり抱きたくなった?」
「うむ」
「え? ちょっと!?」
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「びぇぇぇえええん!」
「わざとらしいな」
「だってだってぇ~!」
何がだってだ。
「シクシク……私のエリクがぁ~……経験豊富にぃ~……」
以前からわかっていたことだろうに。年上として翻弄したかったのか? いや、当のアニタ自身が完全に初心な生娘だったぞ? 長く生きている割に経験なかったっぽいぞ? 最初から無茶な展望だったんじゃないか?
「可愛いな。アニタは」
「くっ! 余裕ぶりおってからに!!」
実際余裕だし。ふふん♪ 十年の研鑽の成果はまだまだこんなものではないわ♪
「ちょっ!? また!? あっ!? そんな!?」
本当に可愛いな、こいつ。
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「鬼ぃ……悪魔ぁ……人誑しぃ……」
まだまだ余裕がありそうだな。
「それでだな、アーちゃん」
「くっ! 今更そんな呼び方したって! 嬉しくなんてないんだからね♪」
「それはよかった。シュテルの件なんだがな」
「強引~。まさか本気でお悩み相談するつもり? この流れで?」
「お悩み相談じゃない」
「じゃあなんだって言うのかしら」
「夫婦の寝室会議だ」
「む~。そういうこと言えば簡単に流されると思って~」
「仕方ない。そんなに嫌なら他の」
「待って待って!? それは無しでしょ!?」
「他の話でもと思ったが。そうか。そんなにか」
「あっ! ズルい! 今日のエリチー意地悪すぎ!!」
「アーちゃんがあまりにも可愛くてついな」
「もうもうもう! わかった! 聞いてあげるわ! だから話し進めてよ! もう!」
ふふ♪ 牛さんになってしまったな♪
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「夕食の時もぎこちなかったもんね」
「そうなのだ。アニタから見てどうだ? 私は変わってしまったか?」
「さっき何をしたのか忘れてしまったのかしら?」
「今はそういう話はしとらんのだ」
「ぶーぶー!」
「明日デートしよう。それで機嫌を直しておくれ」
「も~♪ しょ~がないな~♪」
よしよし。チョロい。
「けど感心しないわね。娘との問題をダシに使うなんて」
「ごもっとも」
「シュテルちゃんも一緒に行きましょ♪」
「良いのか?」
「もっちろん♪ アニタちゃんに任せておいて♪ 明日は家族デートよ♪」
アニタって案外と面倒見が良いよなぁ。
いや。仮にも長き時を生きる妖精女王だからな。当然っちゃあ当然か。
「ありがとう。アーちゃん」
「うふふ♪ いいのよ♪ あなた♪」




