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正統な血筋 ②

「高延王が正統な王の血筋とは、どういうことですか?」


 高延は先王の従弟で血筋が劣る、と咲耶は言っていたが。


 でも常磐はそもそも高延のことだけでなく、先王のことだってろくに知らない。知っていることは、先々代の王が崩御したのが昨春で、その後、息子である先王が王位を継いだということくらいだ。


「常磐様はどのように聞いておられましたか?」


「高延様は先王の従弟だと聞いています。先王は父王からの王位継承だとも」


「ええ、確かに先王は父の代からの王位継承です」


「なら先王に正統性があるのではないのですか?」


 父から子へと受け継がれたのなら、先王は正統な継承といえる。


「いいえ、先々代の王がそもそも正統な王位継承者ではありません。先々代の王は、高延様がまだ幼かったために王位を預かっただけの、弟王ですから」


「……つまり、高延様の父君が兄、先王の父君が弟ということですか?」


「そのとおりです。先々代の王は、兄王ご逝去の際、時がきたら高延様に王位を返す約束で王となられました。高延様がまだ幼かったからです。でも昨年ご自身がご逝去された際に王位を託したのは、ご自身の息子でした」


 そういうことか、と常磐は納得する。


 常磐は高延のことを知っている気になっていたが、思い返すとその情報の多くは咲耶を通じて得たものだ。婚姻をいやがる咲耶から知った高延の情報は、否定的なものが多かった。


 父は高延について正確なことを知っていたはずだが、常磐はずっと国境沿いを慰問して回っていて、高延のことも婚姻の経緯も詳しく知らずにいた。


 約束を反故にして息子に王位を譲ったという先々代、いくら兄の子に王位を渡す約束でも、いざその時がくると自分の得た権力を我が子に、と思うのは人の性なのかもしれない。似た状況を常磐も知っているから、なんとなくわかる。


「先王の即位の際には揉めなかったのですか?」


 誰の目にも明らかな不当な王位継承であれば、臣下からも異論が出そうだ。それとも揉めたあげくの、一月前の政変だったのだろうか。


「政のことは私にはよくわからないのですが、臣下の間では高延様を推す声は多かったと聞いています。ただ高延様ご自身は、当時は異議を唱えませんでした」


「……そうですか」


 それなのに、結局一年後となるこの春、高延は先王を廃して自分が王になった。それはなぜだろうか。高延の心境を変えるなにかがあったはずだ。


 実のところ、暁津島にも同じような後継者問題が潜んでいる。


 父王の健康状態は悪く、いつどうなってもおかしくない。本来であれば次の王をはっきりとさせるべきだ。


 まわりからは第三子であり末子長男である弟が後継ぎだと思われているが、本来、暁津島の王位継承は長子と決まっている。


 つまり、常磐だ。


 しかし暁津島の王家は偶然にもこの十代ほど、ずっと長子は男だった。期間にしておよそ二百年。それだけの年月、男子で王を継いでいるため、女子も王になり得るという長子継承は有名無実どころか、その事実を知らない者もいる。


 そして長子継承ではなく男子継承だとしておきたい派閥もある。その筆頭が弟の母である王妃と、芳原一族だ。


 常磐は父王を支えたいと思う一方で、自分が正統な王位継承者だと名乗るつもりはない。王妃や弟と揉めたくないし、それだけの重責を担う覚悟もない。


 父王も弟を王にと思っているようだし、そのこと自体に異議を唱えるつもりはなかった。


 常磐には弟のように王になることを後押ししてくれる縁戚がいない。わざわざ長子継承について触れて、火種を大火へと燃え上がらせたくないのだ。


 高延も常磐と同じ思いだったのだろうか。


 自分の血筋の正統性を主張して、国を二分するようなことをしたくないと、昨春は思ったのだろうか。


 だけど高延には推してくれる多くの臣下がいたという。


 実際、一月前の政変はあっけないものだったようだ。たった一日で王都を制圧し、先王を幽閉したのだから。それは多くの臣下が高延についた証拠だろう。


「高延様のことはご本人に聞かれるのがいいですよ。常磐様にならきっとお話しくださるでしょう」


 式部の言うとおり、高延のことは高延本人に聞いたほうがいい。


 本心を話してくれるとは限らないが、高延から話を聞いて、自分の目で見極めるべきだ。高延が本当はどういう人なのか。


「明日にはお体も回復しそうですね。朝より血色がよくなられましたもの、常磐様」


 式部はそう喜び、食事の用意をしてくると下がっていった。確かに朝よりも調子はよくなっていた。


 一人になって、常磐はもう一度、高延の言ったことを考えてみる。


 高延は『あなたは自分自身の価値にもっと目を向けるべきだ』とも言っていた。それは、常磐が長子だからだろうか。


 常磐がその気になれば、暁津島の女王としての正統性を主張することができる。高延はそれを知っていて言うのだろうか。


 もしもそうだとして、それは常磐のため? それとも、常磐を妻として従わせることで、戦わずして暁津島を手に入れるためだろうか。


 わからない。高延が考えていることも、目指すものも。そして高延を信じていいのかどうかも。


 高延にきちんと向き合う必要がある。それは常磐にとって苦しいことだ。


 でも八雲に取り残された以上、避けて通れない。苦しくても、それが暁津島の王女の務めだ。




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